16 危険人物は二人居た
朽木勝也視点
「勝也君には前世の記憶があるの?」
三条が何か言いながら近寄ってくる。目の焦点が合っていなくて怖い。後ずさりながら誰か来てくれないかなと周りを見ているけれど、時間帯が悪いのかまったく人の気配が無い。
「ああ、もしかして前世の記憶があるのは君じゃなくて西園寺くんの方なのかな? 勝也君は見た目もゲームとは随分かわっちゃったし、幼馴染の子が勝也君が道を外さ無いように子供の頃から教育してたとか……ね。学校も本来とは違う所に行くなんて。もう、それしかないよね」
三条はゲームの記憶がある俺にも理解しにくい薄気味悪い事を言っていて、本当にやばい感じがしている。腕を伸ばしてきたので怖くて顔を伏せて目をつぶっていたら急に肩を掴まれて引っ張られたので、あまりの怖さに声が出なくて体が震えた。
「大丈夫か」
耳元で田中のやさしい声がしてきて、抱き寄せられているのはわかったけれど、怖くて動けなくて下を向いたままで、三条と田中の言い合う声だけを聞いていた。二人はしばらくもめていたけれど、
「まあ、良いよ。その子は何にも分からないようだし、もう一人の子に聞いてみるから」
と三条は走って行ってしまった。
「なんだ、あいつ……勝也大丈夫?」
「大丈夫じゃ無い」
「警察に行く?」
「そこまでじゃあない」
そっかと田中は少し考えていたけど落ち着いて来た俺の様子を確認して、大丈夫と判断したようで、
「家まで送っていくよ」
「颯斗……」 ありがとう。と言おうとしたら、
「ーーん? どうしたの? お腹すいたの?」
「え?」
「この辺の店ってもうしまっているよね? うちに帰れば何かあるかも」
田中の様子が急に変わったので何?何?ってなって、おいでって手を引かれるままに、田中の家に連れてこられてご飯を食べさせられている。
「美味しい?」
「うん」
何で急にご飯を食べる事になったの? 三条の事は良いの? と疑問に思ったけれど、まあご飯は美味しいし良いか。ともくもくと食べていた。
「今日はこのまま、泊まっていった方が良いね」
「……うん」
田中の家に泊まるのと、帰る途中で三条にまた会うかもしれない危険と、どっちを取るか考えて泊まる事を選んだのだけど、朝起きた時にものすごく後悔した。遅くまで田中に付き合わされたので眠いし、体はものすごくだるいしで、何でいつもこうなっちゃうのかと。朝から超ご機嫌な田中の顔を見ていて腹が立って来る。
用意してくれた朝ご飯を食べながら、昨日の三条の言っていた『もう一人の子に聞いてみる』と言うのを思い出して急に心配になった。あれは優馬の事を言っていたのだろうか。
寝る時のあれこれは別として、昨日の事は本当に助かったのでお礼を言って、助けてもらった時の事を思い出して田中に聞いてみる。
「そういえば、昨日は何であそこに居たの?」
「ああ、友達があの店に行っていて、勝也がまだ仕事してたって連絡くれたから」
「昨日は急に休んだ人がいて遅くなっちゃたんだ」
「遅い時間だし、危ないかなって迎えに行ったら本当に危ない場面に出くわすとは思わなかった」
田中が「遅くなった時は危ないし、迎えに行くから連絡して」と言ってくるのだけど、俺からすれば田中も相当危険人物なんだけど。俺から危ないやつと思われているとの自覚がなさそうなので困る。
朝、学校で優馬に会った時に三条の事を説明して、俺のバイト先の店に近づかないように注意した。三条は優馬の家はわからないはずだから外で俺と一緒に居なければ大丈夫なはずだ。
鈴木にも会ったので、最近気になっていた事を聞いてみようと思って、何で田中は『ハヤト』と名前で呼ぶと毎回、俺にご飯を食べさせようとしてくるのだろう? と聞いたら、
「名前がキーワードになってるとか言ってたけど、自分の方のスイッチが入るんじゃん」
と笑いながら言うので、何の事? と聞いても気にしないでそのまま名前で呼んであげてねと言っているだけだ。結局謎は解決されなかったので今後は田中の事を鈴木に相談するのはやめようと思った。




