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12 王子様のうわさ

朽木勝也視点

 今日は優馬(ゆうま)と遊ぶのはあきらめて一人であの喫茶店に行くことにした。あれから何回か店に通ったけれど、三条(さんじょう)をまったく見かけない。前の時も同じ店に現れていたし、あの店に何か目的があるのかもしれないと、ネットで他県の店舗を調べて見たら、一県に一軒くらいの割合で首都圏からちょっと外れた町にちょこちょことある感じだった。


 優馬と一緒の時は困るけれど、一人の時なら三条とは少し話してみたいとは思っている。単純に元のゲームの内容を知っているからくる好奇心で、俺と優馬が居ない学園はどうだったのかとか、イベントを大幅にスルーしてしまった今、色々と気になるところもあるからだ。店に向かって歩いていたら、後ろから来た田中に声をかけられた。


「何? 田中もどこかに行くの?」

「うん? なんかさ、女の子たちが噂してた店が気になって行くところ」

「へえ、どんなうわさ?」

「いつもお店の窓側の定位置に座っている王子様が居るとか言ってた。カッコイイらしい」


 うわーって感じ。王子様とか定位置に座るとかウザそうなイメージだ。しかし、そんなものが見たいとか田中も変わっている。


「気になるよね?」


 と聞いてくるが、王子様とか俺は別に気にならない。行く方向が一緒らしいのでしょうがなく並んで歩いているだけだ。そういえばと気になって田中に聞いてみる。


「店って案内された所にしか座っちゃいけないんじゃないの?」

「席の指定したことないの?」

「ないよ」


 いつも窓側の変な席に案内されるので、やたら皆んなに注目されて嫌なのだ。外からも何か丸見えだし。指定できるなら店の奥の目立たない所に座りたい。田中はどこまで一緒なのか? と思ってたら同じ店についた。お店の人に席に案内されて座ったら目の前に田中が座る。


「何でここに座るの?」

「まさか、ここまで一緒に来て別々の席に座る?」

「……」

「おごるから好きな物を食べていいよ」

「どうせ、あれダメこれダメ言うじゃん」

「今日は何でも良いよ」

「じゃあ、ナポリタン」

「それは今度にしようね。サンドイッチも色々種類あるじゃん」


 そう言って田中が俺にメニューを見せてくる。

「これは? クラブハウスサンドとか美味しそうだよ。どう?」

「野菜とか中身が多い奴は下から具が落ちるから食べにくいし」

「……」


 俺が一番、食べるのが苦手な物を勧めてくる。やっぱり田中は意地悪だと思う。

 田中はメニューを見て悩んでいたけれど「ローストビーフサンドが美味しそうだね」と勧めてきたので食べてみたらすごい美味しい。


 今回も食べたい物は選ばせてもらえなかった。でも、ローストビーフのサンドイッチは美味しかったので今度、優馬と来た時はこれをお勧めしようと思う。


 そういえば、と田中に王子様は見なくて良いのかと聞いたら、もう確認できたらか良いと言っている。ここに来る時の途中の店にいたのだろうか? 聞いてみても窓の外を眺めながら適当にはぐらかしてくるので、どうでも良くなってそのあとは向こうから話しかけて来ても無視をした。

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