1 幼馴染は転生者?
乙女ゲームに転生した前世持ちの主人公と、その幼馴染の話。二人の視点で進んでいきます。
西園寺優馬視点
幼馴染の朽木勝也が自分は転生者だと言い出したのは勝也の十歳の誕生日を祝ってあげる為に遊びに行った時だった。
*
その日は勝也にプレゼントを渡すために家に帰ってランドセルを置いてから勝也の家に向かった。
玄関でおばさんに挨拶して、勝也の部屋に通してもらって持って来たプレゼントを渡したり、おばさんが持ってきてくれたジュースを飲んだりケーキを食べたりしてのんびりしていたら勝也が突然「今まで秘密にしてた事を優馬だけに打ち明けるよ」と言いだしたのだけど、その内容が
「実は俺、転生者なんだ」
だったので何を言い出したのかすぐに理解出来なくて「へー」と返したら勝也は返事が気に入らなかったようでムッとしながら自分が転生を自覚してから今までの事を延々と語りだした。
「へえぇ、じゃあさ、生まれてから今までずっと、二十五歳の気持ちのままで暮らしてたの?」
「まあ、最初はね。でも最近は子供の生活にも慣れてきた」
勝也はドヤ顔でこちらを見ている。
「こどもの生活……でもさ、大人の頭脳? の割にかっつんってあんまり頭良くないよね?」
「失礼だな。俺は皆んなのレベルに合わせてちゃんと子供らしく生活してるんだ」
「じゃあさ、前世の記憶があるなら朝の新聞に載ってたセンター試験の問題とか簡単に解ける?」
「……俺の元々の学歴では、ちょっと無理かな」
どうも怪しい。大人なら簡単に出来るんじゃないの? ここは前世持ちと言っているかっつんに話を合わせるべきか? と考えていると僕の反応を待つのにじれたのか勝手に話を進めだした。
「前世で俺には嫁さんが居たんだ。今どうしているか確認したい」
そうなんだ。と話を聞きながらふと、思った事を聞いてみた。
「そういえばさ、前世ってテレビで見たやつとかだと宮殿に住んでる王子様とかさあ、歴史上のすごい偉い人とかじゃないの? かっつんの前世って普通の人?」
「……」
「逆にさ、みの虫とかさ、イルカとかさ、もっとインパクトのあるものだったら面白かったのに」
「やめて! 俺の前世を茶化さないで」
勝也がイヤイヤと首を振っている。ちょっと可哀想になって話を進めてあげる事にした。
「そのお嫁さんってどこに住んでるの?」
「……ああ、それを調べるのを手伝ってくれる?」
「別に良いよ。なんか面白そう」
それから一緒に、勝也が前世で住んでいた住所を学校の図書室や、街の図書館で調べたりしたんだけど、勝也の住んでいた街に行くには、ここから電車を何回か乗り継いで行くような距離だったので、小学生の僕たちにはそこまで行くのは無理だ。となった。
勝也はしばらく考えていたけど決意したようで、
「俺、お金貯めるよ」
「おばさんやおじさんに転生者って打ち明けて連れて行ってもらったら?」
「そんな事、言えるかよ」
「そう?」
「頭がおかしくなったと思われるだけだろ」
(確かにそうだね。と思ったけど、にらまれたので黙っていた)
それから勝也は家の手伝いや、高校生になってからはアルバイトをしたりして交通費を稼いでいた。子供の知識で調べられる範囲は限られていたけれど、勝也の実家の場所は特定は出来た。
*
「どこに泊まるの?」
「ビジネスホテルに泊まる」
俺は大学生になって初めて勝也と二人きりで旅行している。といっても勝也の前世の親と奥さん探しなんだけど。世間はゴールデンウイークなので移動時は少し混んでいたがここは観光地ではないので割と落ち着いて人探しを出来そうで良かった。
一応、手伝いとして一緒に来ているけれど、探している人の顔も何もわからないので単なる付き添いにすぎない。部屋に落ち着いてから近くにあった喫茶店で軽くお昼を食べながら今後の作戦を練っている。
「とりあえずは一人で行って様子を見てくる」
「俺もついていくよ?」
「いや、優馬もせっかくの休みなんだし少し観光してこいよ」
俺は一緒に付いて行きたかったが、勝也の親の顔がわからないので待っている間は勝也の話し相手になるくらいしか出来ない。しばらく揉めていたけれど俺が折れて勝也一人で探しに出かける事になってしまった。
外には出たけれど、ここは観光地じゃないし、行くところもないのでお昼ご飯を食べた喫茶店に戻って来て本を読んだりして時間を潰して、適当に買い物してホテルに帰った。
今日も二人でご飯を食べた後、勝也が一人で探しに行くと出てしまったので喫茶店で時間を潰していると夕方近くなって、そろそろ勝也が帰ってくるかなという時にお昼休み中? のサラリーマンに声をかけられた。
「最近、ここに良く居るね? 近所の子?」
「ううん、旅行中なんだ。友達について来たんだけど置いてかれちゃて」
「はは、それは寂しいね。ねえ、暇なら一緒に出かけない?」
どうしようかな? って迷っていると勝也が現れて
「帰るよ」
と声を掛けてきた。
「あれ? 今日は早かったね」
「飯食いに行こう」
「わかった」
立ち上がりながらサラリーマン風の男の人に頭をちょこっと下げて挨拶しながら勝也と一緒に店を出た。そのまま夕飯を早めに食べようとなって、近くのファミリー系のお店で晩御飯を食べている。
「何、あいつ?」
「え? 知らない人だよ」
「何で知らないやつに声かけられてるの」
「それは俺のせいじゃないだろう」
なぜか機嫌の悪い勝也に面倒になりながら返事をしているのだけど俺が怒られる筋合いはない。
「ついて行こうとしてた?」
「まさか、どういう風に断ろうかなって考えてたんだよ」
「ふーん」
少し気をとりなおしたのか「母親に会う事が出来た」と今日の報告してくれている。実際はちらりと見かけただけで、思っていたより老けていたらしくて声を掛けられなかったらしい。勝也が前世で見ていた時からもう、二十年も経っているのだから年を取ってしまっているのは当たり前なのだけれど相当ショックを受けたみたいだ。
勝也は悩んでいたけど結局は親に会わないで旅行を切り上げて帰ってきてしまった。