3.郁也、キレた!
結構ショッキングな表現がある回なので、この回飛ばしても読める様にはします。
しますが、郁也くんのマジギレが観たい方は是非見てください。
でも相変わらず戦闘はあっさり味ですしすぐ終わります。
勇者エルミナと魔王アズモ。
両者は突然回復した身体に一瞬戸惑ったものの、お互いの顔を見るなり即座に剣をぶつけ合った。
まだ、戦いは終わっていない。万の剣閃が飛び交い、億の魔力が渦巻いてなお続いた戦いは、突如として振り出しに戻った。
眼前にはもう、互いに互いの敵しか写っていない。
それでも、互いは互いの世界の安穏の為、剣を振り続け、魔力を渦巻かせた。
そこに、一つの影が現れ、二人の首元に、同時に剣を突き立て、こう言い放った。
「君たちの事情はある程度わかってる。それでも一度だけ聞こう。戦いをやめる気は無いかい?」
先に魔王アズモがこう答えた。
「ふざけるな!今更そんなことが出来ると思うてかーーー」
刹那、魔王アズモの腕が宙を舞った。
「一度だけ聞こう、と言ったよね。まず君は拒否した。じゃあそっちの君は?」
冷えた声で、男は続ける。
「今更何を言う!奴は人類の敵だ!それが目の前にーーー」
先程と同じように、勇者エルミナの腕が宙を舞った。
「あー君たちもういいよ。僕はちゃんと聞いたからね。
じゃあ、君たちを今から“生きてるだけのもの”にして、この争いを終わらせることにするよ。」
腕を落とされた痛みなど忘れ、只々目の前の存在に対する畏怖に、二人の心は支配されていた。
そこから行われたのは、最早戦いというには凄惨すぎるものであった。
瞬間的に両手両足を、まるで玩具を分解するように切り離され、呪文を詠唱するための口を削ぎ落とされ、声帯を念入りに潰され、魔眼は魔力を込めた瞬間にえぐり取られた。
もう、ただ息をして、生きているだけのものに、彼らは姿を変えてしまった。
そうして、二人の戦いは、「訳の分からない乱入者」に、強制的に幕を引かされた。
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二人の「ほぼ遺体」をみて我に帰った郁也は、やりすぎたな。と青ざめた。
ただ同時に、彼らは抵抗する手段が残る限り、何があろうと戦いをやめないと感覚的に思ってしまったのもまた事実だった。
そんな状況の中、郁也に遅れて、ユートがやってきた。
そしてユートは開口一番
「流石にやりすぎじゃ!アホ!ほんとに死んでねえってだけじゃねえか!」
と、郁也を叱りつけた。
「…すみません。」
流石に反省する郁也であったが、あの時は仕方がなかったのだ。
世話になった神の住処が、住人と共に業火に焼き払われそうになる事態。
果てしない恩義を感じている郁也にとって、それは耐え難く、そして許せない事であった。
「…まあ、許せなかったのは俺も同じだけどよ、多分俺だったら、あんま戦い慣れてもねえから、加減間違えて殺してただろうしな。
それに、お前の作り出したこの芋虫共を見て頭が冷えたよ。
ヤなことやらせちまった、悪い」
そう言って、ユートは瀕死の二人に向き直り、最後の仕上げとしてこう声を掛けた。
「おいまだ聞こえてるか?聞こえてたら頷け。そんぐらいは出来んだろ?」
ユートがそう言うと、二人は頷いた。
二人の心は折れてしまったのか、ユートには、彼らが随分と素直に頷いている様に見えた。
「じゃあ、俺も最後にもう一つだけ聞くな?
戦いを辞めて、俺の言う事を聞いてくれるか?
ちなみに、俺はこの怖ーいお兄さんと違って首を縦に振らなかったらどうするかをちゃーんと説明してやる。
まず、お前らの状態はそのままに、死なない程度に回復魔法をかけ続ける。
魔力切れなんか狙っても不毛なのはまず言わなくても分かるよな?
その上で実はこの空間って時間が止まってて、俺も、お前らの寿命も実質無限だ。
定期的に発狂対策で精神回復も付けてやるから狂うことも許してやらん。
俺とお前らで無限に我慢比べが出来ちまうな?
ーーさあ、どうする?」
二人は、静かに首を縦に振った。
彼らの精神を読み取り、その肯定が本意であることを確認したユートは、彼らに完全回復魔法を掛けた。
この回必要かなあって読み返しながら100回ぐらい思いましたが掲載させてもらいました。
私信ですが、ユニークアクセスが一週間で300を超えました。皆さま本当にありがとうございます