2.嵐の予感
新しい転生者の名前出し回です。
「う~む…」
ユートは、"異世界転生くんVer1.5"を眺めながら唸っていた。
淡い光を放つ画面には、こんな情報が表示されていた。
転生者情報
エルミナ・アトラージャ 人族 21歳
魔人族・ゴブリン族・オーク族 と 人族・エルフ族・ドワーフ族間で起きた緊張状態の際、人族の王から指名され、勇者として行動することとなる。
その後、少数精鋭での"魔王"討伐任務に駆り出される。
その後、魔王との戦いで死亡。
各種族同盟の消耗戦になる前の旗印の喪失・及び討伐任務期間に於ける各種族間の存続幇助の功績として、+85000のボーナスを与える。
転生ポイント:87400
アズモ・アルヴェルス 魔人族 320歳
魔人族・ゴブリン族・オーク族 と 人族・エルフ族・ドワーフ族間で起きた緊張状態の際、自ら進んで同盟の王として名乗り出る。
各種族の反発を抑え"魔王"を名乗った彼は、同盟を諌めながら、勇者の単独討伐を行うため出征する。
その後、勇者との戦いで死亡。
各種族同盟の消耗戦となる前の旗印の喪失・及び魔王出征間に於ける各種族間の存続幇助の功績として、+85000のボーナスを与える。
転生ポイント:93200
「…これ、敵同士だよな、絶対。」
はぁ…とため息を吐き出すユート。
ヨークからアナウンスが来てから早一週間
その間のユートは、ため息が絶えなかった。
「ユートさん、気持ちはわかりますけど、あんまりため息ばっかりついてると幸せが逃げちゃいますよ?」
メルはそんなことを言いながら、ユートの前にコーヒーを置いた。
「とは言ってもよぉ・・・もう今日来るんだろ?心積りはある程度できてるけど、酒場とかめちゃくちゃにされそうで・・・お客さんだから無碍にも出来んし・・・」
「その時はその時です!ユートさんには無限のパワーと知恵があるんですから!」
「・・・そうだな、励ましてくれてありがとな、メル」
アグナは相変わらず隣で飲んだくれていた。今のユートには、アグナにツッコミを入れる余裕すらなかった。
「ユートぉ~、今日くるんだからしっかりしろよぉ~」
ユートはその「明らかにしっかりしてない奴」にしっかりしろよと言われたことに若干腹を立てた。
といっても、ここでアグナを怒鳴りつけてもなんの意味もない。
「・・・そうだな、しっかりするよ。誰かさんみたいに。」
酒精の強い酒を取り出し、一気に飲み干してから、ユートは両頬を叩いた。
「よっしゃ!いつでも来い!」
すると、からんという音がしながら、酒場の扉が開いた。
「こんにちは、今日も来ちゃいました …ってあれ、なんでため息ついてるんですか?僕、何かやっちゃいました?」
「・・・いやその、すまん、気が抜けただけなんだ。」
来たのは郁也だった。
―――
暫くして、転生ゲートに反応があった。
「来るぞ、お前ら、準備しろ。」
「はぁ~い」 「はい!」
一人気の抜けた返事が返ってきたが、ツッコむ余裕がない。
「そういえば、新しい人"達"が来るのって今日でしたっけ。
僕、もう帰ったほうがいいですか?」
気を利かせた郁也がそんなことを言ってきた。
「いや、居てくれ、頼む、ほんとに。」
しっかりした人間がメルと自分しか居ないと心細くて、ユートは郁也にすがり付いた。
「・・・何か面倒事がありそうなのはわかりました。どうせ知ることですし、転生者の情報も簡単に聞いてもいいですか?そのほうが動けることもあるかもしれません。」
郁也のそんな言葉を聞いて、余裕のないユートは、これから来る二人のことについて話した。
「――成程、同世界で争っていた勇者と魔王ですか。僕もう帰っていいですか?」
「居てお願い!!!おじさん泣いちゃうよ!?年甲斐もなくびえーーーーーって言っちゃうよ!?」
そんなことを言って席を立とうとした郁也に、ユートはさらに縋り付いた。
「・・・冗談です、帰りたいのはホントですけど。ユートさんには世話になってるし。」
そんなやり取りをしていると、外からいきなり剣戟の音が響いた。
その音を聞いて、やっぱこんな感じになるのか。と、ユートは頭を抱えた。
暫くすれば収まるだろう、と音を聞いていても、むしろ激しさを増す戦闘音
そんな中、一つの魔法がこの酒場に向かって飛んできた。
「・・・まずっ!」
そう言いながら、反射的に全力で防護魔法を酒場全体に展開するユート
魔法によって引き起こされた獄炎を防ぎきったユートは、ふぅ、と息をついた。
振り向いて後ろの三人の無事を確認したと同時に、郁也が席を立った。
「・・・あの二人、止めてきます。このままじゃ何時まで経っても止めないだろうし。力づくで止めてきます。殺しはしませんけど、両手両足ぐらい消し飛ばしても、ユートさんが再生してくれますよね?」
「・・・その、出来るだけ穏便に頼む。」
本来であればユートが行うべきであるのだろうが、郁也の事を止めることが出来なかった。
平静を装うとしていたのか、郁也の顔は笑っていた。
だが目が笑っていなかった。所謂、キレている目だった。
実を言うとユートもかなり怒っていたのだが、彼の目を見て、これ止められないな。と思って冷静になってしまうほどに。
そうして、郁也はゆっくりと歩き、酒場の扉を開けた瞬間に、二人に飛び掛った。
本気で怒らせちゃったねぇ!俺のことねぇ!
というわけで、次回、またへたくそ戦闘パートが始まります。