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13.郁也、旅立ちの時

とりあえず郁也くんの転生は、今回のお話でおしまいになります。


二人が模擬戦を終え、戻ってきたその時


ユートの頭の中に、ヨークの声が響いた


(ユートさん、聞こえますか?ヨークです。

 資料確認及び世界への斡旋手続き、終了しました。

 三日後の朝には郁也さんを異世界に転送することが出来る準備が整うそうです。)


(わかりました、ヨーク様。

 彼にそのように伝えておきます。迅速な対応、感謝いたします。)


そう言って、ユートはヨークとの通信を終え、郁也にこう言った。


「出発の日が決まったよ。三日後の朝だそうだ。といっても特に準備するこたないが・・・」


「・・・そうですか。分かりました。」


少し、郁也の表情が曇った。

そんな表情に気づいたユートは、わざとらしく明るく振舞うことにした。


「よし!そうと決まれば、最終日の夜に郁也くんの送迎パーティを開くとするか!

 新たな人生の門出を全力で祝ってやるよ!」


そんなユートの心遣いに気づいてか、郁也は微笑みを浮かべながら


「・・・はは、わかりました。とびきりのパーティを期待してます。ユートさん」


郁也は、そんな言葉を言った。


――――


郁也にとってこの酒場での最後の夜は、とてもにぎやかで明るいものだった。


食べきれないほどの料理が、ユート達4人の前に広がり、メルもアグナも楽しそうにお酒を飲んでいた。


メルは所謂"ざる"で、いくら何を飲んでも酔っ払うことがない。


一度三人で"無限に酒があるし、どれだけ飲めるか飲み比べしてみよう"という馬鹿な企画を打ち立てたことがあったのだが、そのときは二人が完全につぶれても、メルは平気な顔で酒を飲み干していた。


最初にクール系お姉さんとか言った気がするが、アグナは基本的にコミュ障な上、酒好きな上に強くもなく、怒り上戸と甘え上戸と泣き上戸と笑い上戸を足して100掛けた感じの馬鹿になる。

所謂クソ残念美人であった。


ユート・メル・アグナからそれぞれ、異世界に行ってもがんばれーだとか、風邪ひくなよだとか、簡単で

はあったが、思い思いの言葉が送られた。


別れの言葉が終わってしんみりした雰囲気になった後。


死んだことだしいいだろ、年齢なんて無いようなもんだ。なんてユートとアグナの言葉に乗せられ飲んだはじめての酒は、郁也にとって思い出深いものとなった。


振舞われたのは、ユートが作った"ジプシー"というカクテル。

ウォッカベースで、ベネディクティンと呼ばれる、ブランデーをベースとした甘いリキュールと、アンゴスチュラビターズという苦味の強いアルコール飲料を混ぜ合わせたカクテルだ。


カクテルには、「カクテル言葉」と呼ばれる「花言葉」のようなものがある。


このジプシーに込められた言葉は しばしの別れ。


ユートは、カクテル言葉の薀蓄をたれながら、まあまた会えるだろ!なんて軽口を叩きつつ、郁也とグラスを突き合わせた。


このとき飲んだジプシーの味を、郁也は一生忘れる事はないだろう。


当のユートは、「なんかすげえベタなことしてしまった上にこれ慣例化しそうだな」と、心の中で頭を抱えていた。


そうして、4人の宴の夜は更けていった。


「・・・郁也さん、行っちゃうんですね。」


潰れた二人を尻目にユートとメルが片付けをしている時、メルが少し寂しそうにそう言った。


「・・・まぁ、そのための俺たちだからな。仕方ないさ。まあもうちょい期間が短きゃ、転生者にこんなに情が沸くこともないんだろうがねえ・・・

 でも、これで俺はいいと思ってる。

 だってさ、味気なーくお前さんしんだーすぐいきかえらせるわー異世界にポイーってなんか味気なくないか?その仕事だけ任されてんなら尚更にさ。

 ・・・なんか、寂しいじゃんか。」


「・・・そうですね。確かに、こうして転生者の方と一緒に、お酒を飲んだり、食事を振舞ったりしながら楽しくプランニングをしていくのは、私もとっても楽しかったです。ここに来てよかったって、そう思います。

 でもやっぱり別れがあるって言うのは・・・少しだけ、悲しいです。」


しんみりとした空気の中、二人はそんな会話をした。


片付けが終わったあと、そのまま寝てしまった二人に毛布をかけて、ユートとメルも床につき、眠った。


――――――――


「旅立ちの朝 ってやつだな。」


もう起きていた郁也に、寝室から出てきたユートはそんなことを言った。


「・・・そうですね。」


それからユートは、メルが作った朝食を食べながら、これからのことを話した。


「今から転生の儀を行う。っつっても、郁也くん自身は転移ゲートに行けば、そのまま転送されるから君はなーんもしなくていい。」


「そんなものなんですね。」


「そんなもんだ。基本的にめーんどくさい処理とかは俺とか上の神様とかの仕事。当たり前だけど。」


転生の儀、と呼んでいる作業は、以下のようなものとなる。


転生する世界へのリンクをつなげ、そこに魂を定着させる行為を行う。

そして、その際に世界を「転生者が生まれる未来」に修正し、それに対する影響への対処を行う。


これが転生における主な作業だ。


先に言った影響最小年数は600年単位なのに、なぜ3日で転生が出来てしまうのか。


それは神であるユートが異世界へのリンクを「未来に」設定しているからだ。


本当に、三級神ともなれば「なんでもあり」になってしまうのだな。と、転生の仕組みについての資料を読みながら、神界に来たばかりのユートは思っていた。


そうして設定したリンクに、魂を送り込むことで、転生は完了する。


そして、ユートはその最終段階を終わらせ、あとは郁也を転生させるだけとなった。


「…よし、終わった。いよいよ、お別れだな。」


「…ええ、これまで本当にありがとうございました。三日間だけしかいなかったのに、ここが第二の故郷みたいに感じることが出来ましたよ。」


「嬉しいこと言ってくれるね郁也くん。じゃあ最後にこいつをプレゼントだ。」


そう言って、ユートは何か「カード」のようなものを郁也に投げた。


「これは・・・名刺?」


カードを受け取った郁也は、カードに書かれている文字を読みながら、そう言った。


「そ、名刺。ただ、これ只の名刺じゃなくてな。この世界とのリンクが繋がってる状態になってんだ。

 そいつを"異世界転生くんVer1.0 転生者支援版"に読ませると、この酒場といつでも繋がるようになる。」


「・・・なんですかそれ。ちょっと悲しみ損じゃないですか。」


そういいながら、郁也の顔には、笑みがこぼれていた。


「いやいや、暫しの別れなのは本当だぞ?よく言うじゃんか、()()()()()()()()()()()()。ってな。

 酒飲める年になったらまた来い。何でも飲ませてやる。」


「―じゃあ、そのときは。」


・・・今度は別れじゃなく、再会、なんて意味のカクテルをご馳走になりにきますね。


そう言いながら、郁也は転移ゲートに消えていった。


「…まあ、そのときはオリンピックでも作ってやるか。」


もう誰も居ない転移ゲートに向かって、ユートはそう呟いた。

次回、郁也くん回エピローグになります。

所謂第一部最終回?ってやつです。

章分けするかは現在検討中です。

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