【短編:私のストレス発散】魔王様、勇者“達”が帰っていきます。(ただし、勇者は違う。)
久しぶりのストレス発散タグ。唐突に書きたくなる奴です。
我は、魔族の王。俗に言う魔王だ。そして目の前にいるのは、我を倒しに来た勇者パーティーのリーダーである勇者。名前は…。
「アレクだ。人間の国で勇者をしている。」
そうそう。アレクだ。その勇者パーティーは人間の国から、我が魔族の国の中心つまり我がいるこの玉座の間を擁する通称魔王城へと、それはもう快進撃又は怒涛の勢いで攻め入り、遂に我の前へ現れた。
我は魔王。人間の敵であり、魔を総べる王である。
それ故の力があった。
それ故の自負があった。
それ故の驕りがあった。
奴らの戦いは、奴らが魔王城の玉座の間、つまり我の所に達してから、三日三晩続いていた。そう、続いていた。戦況は、傍から見たら一進一退。
勇者が先頭で我と戦い。
魔女がそれを後方からの魔法で支援していた。
聖女が傷ついた仲間を即座に回復させる。
そして、道化師が…。こいつが一番訳分からん。どうして、勇者の剣を弾いて飛ばしたのに、奴の手の中に戻っておるのだ?!何が『手品だよ、ハハ』だ?!それは手品の域を越えておるだろ!!
一対四の戦いで、良く我は戦況を保っていた。
そう思っていた。
戦況の変化は、いや、事件は三日目の夜に起こった。始まりは恐らく、あのふざけた道化師だ。これは間違いない。
「飽きた…。」
今までの少年の様な甲高い声で笑っていた者とは、同じ人物か首を傾げたくなる程に、低くどす黒いモノが溜まったそんな声だ。正直、漏れそうになった。何がとは言わないが、怖いと思った。
「そうですね。」
それに呼応するように、聖女が…!聖女が?!え、あ、はい聖女が、これまた怒りの籠った低い声で道化師のそれに応えた。正直、漏れた。何がとは言わないが、怖いと思った。
「これだけ何度も徹夜していると、肌が荒れてしまいます。只でさえ、世間では婚期を逃した聖女だとか、世界三大がっかり聖女とか言われているのに、さらに婚期を逃してしまいます。」
溜め息と共に吐かれたそれは、なんて言うか…うん。ごめんなさい。
ゆ、勇者お前、あの聖女を責任とって娶れよ!ほんとに!!憐れ過ぎだろ!!(注:この聖女は、勇者が魔王を討伐する上で、人間の国の中から選出された聖女である。元庶民。庶民の生活を奪われ、訓練に長い時を過ごす事になった。)
「あんた達一応戦闘中よ?」
おうそうだな。魔女よ言ってやれ!所で、魔女貴様も、魔法撃って無いよね?戦ってるの勇者だけじゃないかな?かな?!
「でもでも、魔女。あれ僕ら要らなくない?」
「そうですよ、目の前でイチャつくカップルに天罰を!」
「どうしてそんなに捻くれてるのよ?一応聖女でしょ?あなた。」
「天罰!天罰!」
「はは、天罰!天罰!」
「ピエロ、悪乗りしないの…。」
「はぁーい。」
え?何であそこだけほのぼのしてんの?戦闘中ですよね?
「魔王何処を見ている!」
おお、勇者!お前はまともだったか!まともついでに、我が見ている貴様の仲間に戦うように言ったらどうだろうか?
「俺だけじゃ、魔王に勝てない。」
おお、そうだ、そうだ言ってやれ!
「だが、四人の力が合わされば、僕たちの方が強い!」
えぇ…。
「なんか言ってるよー。」
「天罰!天罰!」
「ふぁあ…。確かに飽きたわね…。」
魔女!!お前は、そっちでもまともだったろ?!毒されてるぞ!!戻ってこい魔女!!
「どうだ?!これが、僕“達”の力だ!!」
いや一人だから!勇者一人だから!!
「ほらぁ、魔女も飽きたんじゃないか~。」
「天罰!天罰!」
「そうだけど…。」
いや、魔女?おーい魔女さんや!戻ってお願い戻って!!
「帰る?」
「天罰!天罰!」
「帰ってどうするのよ?」
帰る?待て待て、君ら目の前に人類の敵居るけど?え、ちょっと待て!
「自分達で、難攻不落の城作るとか?」
「天罰!天罰!」
「ふーん。悪くないわね。」
悪いよ?!何作ろうとしてるのさ?!
「折角だし、こんな悪趣味な奴より、すごい作るの!」
「天罰!天罰!」
「へー。面白そうね。」
面白くないよ!!そ、それと、悪趣味って言った?!アタシの趣味なの!!良いじゃない!かっこいいでしょ!!
「で、悪趣味魔王を倒したら、『そいつは四天王の中でも最弱。真の魔王との戦いはこれからだ!』って言うの。楽しそうじゃない?」
「楽しそうですね。どうせ魔王を倒しに来る奴なんてリア充ですしね。」
「それは良いわね。」
おい聖女!いや、それよりも待て。最弱?我最弱なの?
「どうした!さっきより動きが鈍いぞ!!」
おお、勇者。お前は本当に良い奴だな。
「好きだぞ!」
「え?」
「「「あ」」」
「行こうか?」
「行きましょう。」
「ああ。」
待て待て。アタシは、なんて言った?!待て勇者の仲間!!この状態で放置気まずいから!!
「気持ちは嬉しいよ。でも、俺達は敵同士なんだ。」
「待て。早まるな。」
「俺もできれば、魔王とは戦いたくない。」
「勇者?!おい勇者?!」
「だから、まず自己紹介からしよう。」
「聞け勇者!!そう言う意味じゃないから!!」
「僕名前は、アレクだ。人間の国で勇者をしている。」
「貴様あれか?!ハーレム作る系勇者か?!」
「さぁ、魔王。君の名前を教えて?」
「くっ!!わ、我の名前はワルギウス。魔王じゃ。」
「ワルギウス良い名前だね。」
聞こえとるんかーい!!
「「「ふはは。」」」
そして玉座の間に響く、三人の声。
「そいつは四天王の中でも雑魚中の雑魚です。」
わー聖女さんノリノリだ。←現実逃避
「真の魔王との戦いはこれからよ!」
わー魔女さんもノリノリだ!←ヤケクソ
「さぁ、おいで?僕たちが相手してあげる?」
てめぇ、顔覚えたからな?!道化師ぶっ潰す!!
「くっ!!ワルギウスが最弱だと?!」
ああ、そうらしいですよ?いやー驚きですね?アタシが正真正銘の魔王なんですけどね…。
「あ。」
勇者が何かに気づいたようにこちらを見る。おおー、やっと気付いたかこの茶番に!
「大丈夫だよ、ワルギウス。僕“達”が付いているからね?」
何が?!え?マジで何が?!
「ね?みんな?」
そう言って、もう誰もいない後ろを振り向く。
「な!!」
え、嘘でしょ?気付いてなかったの?
「貴方の仲間は邪魔だったからね?やっちゃった。」
あのピエロ!!!
「き、貴様ぁぁああ!!!!!」
ゆ、勇者が吼えた…。
「ワルギウス。僕に力を貸してくれ。」
「は?」
「奴らは許されないことをした。」
「え?あ、うん。まぁ、そうね。」
「僕の仲間を殺したことを後悔させてやる!」
「あの、やったと言ったけど、殺したなんて言ってないと思うよ?」
「僕達で世界の平和を取り戻そう。」
「ああ、また聞こえてないのね?」
「僕は一旦、国に帰る。また会おう、ワルギウス。」
「できるなら、もう来ないでくれると、嬉しいな。」
「さらば。また会おう。」
そう言って、アレクは城から出て行った。
「魔王様!!」
部下が、飛んできた。
「勇者“達”が、帰っていきました!」
そうだね…。
ほんと、もう来ないでくれるかな?
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