表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/28

《短編》これは私だけの私のための物語

「もう耐えられない。」

 彼女の声が木霊する。俺と彼女の部屋。

 二人で住み慣れたと感じ始めていたこの部屋で、彼女に俺はそう言われた。


「あなたといると、私がダメになっていくの。」

 言っている意味が分からなかった。

「ダメ人間になってしまうの。私にはそれが耐えられないの。」

 彼女の言葉がどこか遠く聞こえた。分かっている。


 言っている意味も、その言葉の重さも。

 分かっているつもりだ。

 分かっているつもりなのだが、それが理解ができなかった。


 それがなんのために言われたのか理解はしているつもりなのだが、脳がそれを拒んだ。

 拒んだ。拒み続けた。

 それでもやはり現実は俺に突き付けてくる。変わらない現実というやつは否応なく、牙をむく。牙は鋭く貫いた。心臓が止まった気がした。それなのに心臓の音はうるさい。


 うるさすぎる。

 でもその言葉は届いた。

 ちゃんと耳に届いた。


 届いてしまった。

 届いてしまったからには、答えなければ…。

 答えなければならない。


「俺にダメだったとこがあったら、直すから…。」

 そんな言葉が出てきていた。

 そんな言葉…。


「そうだよね。キミはそう言うよね。」

 彼女のどこか悲しみを含んだそんな言葉。

「でもね。違うの。私が欲しいのは、そんな言葉じゃないの。」

 どこか遠くを見ているような、そんな突き放すような。


 響く。

「またこの夢か…。」

 頭に響くこの声は、いつから聞こえていたんだろうか?

 分かっているけれど、やはりどうしても響き続けるこの声はまとわりつくように苛む。

 苛むなんて、格好をつけた所でやっぱり心は軋み続ける。


 ほらそうやってカッコウをつける。

 カッコいいなんて言われたいから。

 もうそう言われたい人はいないのに。


 もう目の前にはいないのに。

 目が部屋を見る。意識はしてなんかいない。


 目が映したいというのだ。

 耳が聞きたいというのだ。

 口が寂しいというのだ。

 

 いや、違う。

 自分が、自分の心が求めているのだ。

 なんて醜い感情だ。

 振られた相手の事を忘れられずにいるこの心は、なんて…、なんて醜いのだろう。


 分かってる。そうやって自分を追い詰めなければ、どうにかなってしまいそうだから。

 分かってる。君がいなくなったことは。

 分かってる。君が僕の前からいなくなったのは…。


 それでも思い出さずにはいられないのだ。

 それでも生きねばならないのだ。

 それでも朝は来るのだ。

 それでも明日は来るのだ。


 気を紛らわせるために、ゲームをしてみた。

 気を紛らわせるために、カラオケにも行った。

 気を紛らわせるために、キャンプにも行った。

 気を紛らわせるために、とにかく家から出るようになった。


 でも、その悉くに君がちらつく。

 君との時間が長かったから。

 君と行ってないところを探してみた。

 それでも、キミと行けていたらなんて…、そんな考えが過る。


 ひどい人だ。

 そうやってキミを悪者にできたら楽なのに。


 ひどい人だ。

 僕の心のキミはまだ消えてくれない。


 ひどい人だ。

 僕がこんなに傷付くことを分かっていて、あんな事を言うのだから。


 なんて、なんてひどい人だ。

 もうキミじゃなきゃダメなのに。


 なんて、なんてひどい人だ。

 それが僕だ。


 一歩を踏み出せなったから?

 勇気が無かったから?

 覚悟が無かったから?


 そうだね。それが僕で…。

 それがダメだったんだね。


 分かってる。

 君は悪くなんてない。


 分かってる。

 悪いのは僕だ。意気地なしの僕だ。


 分かってる。

 だから君は僕の前からいなくなったんだ。


 さぁ、今日も頑張って生きよう。

 さぁ、今日も生きよう。

 さぁ、今日も生きよう。


 もう君の心に僕が現れないように。

 もう君の前に僕が現れないように。

 もう君が僕を思い出さないように。


 今日も笑って生きよう。

 今日も前を見て生きよう。

 今日も朝が来る。

誤字脱字、感想などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ