《短編》ワタシと旦那様
決めたんだ。
何をしたって、戻ってこないとしても。
それでも、私にはこれしかできないから。
ごめんなさい。
ああ、結婚して色々私の旦那様には言いたいことがるけれど、大体結論は同じ。私を見て欲しい。それだった。
私と旦那様の出会いは、私が十六で、旦那様が二十歳の時である。
私のお姉ちゃんと旦那様が中学の同級生で、成人式での同窓会のお酒の席での一幕が原因らしい。
「なぁ、加奈。」
「ん?何?」
「お前さ、結婚願望が低い女子の知り合いとかいない?」
「急に、どうしたの?」
「色々と思うところがあってね…。で、いる?」
「ふーん。まぁ居ないことも無いよ。」
「へ~、流石、加奈だ。」
「流石って…。」
「だってお前、昔から交友広かったじゃん。ダメ元で聞いたんだけど、まさかいるとは…。」
「悠君…。はぁ。何?紹介すればいいの?」
「ああ、頼む。」
そんな訳で、私と旦那様は、お姉ちゃんの計らいで会う事となった。当時十六の高校生を紹介された旦那様は固まっていた。旦那様が見せたあの顔は、あれ以来見たことが無いけれど、旦那様が私を見てくれていたあの顔は今の私にとっては、宝物かもしれない。
驚いて固まっていた旦那様と自己紹介して、デートとか特にしないで、私が高校を卒業してすぐに籍を入れた。
結婚願望の薄い女の子と言う事で、お姉ちゃんが私を紹介したのは、多分お姉ちゃんから見ても、私が男女の交際とかに向いてなくて、分からなかったからだろう。
ううん。知らなかったんだと思う。
こんな苦しい事を。
こんなつらい事を。
こんな寂しい事を。
こんな嬉しい事を。
こんな悲しい事を。
こんな楽しい事を。
こんな…。
貴方の妻になれて、幸せでした。
ごめんなさい。
さよなら。
もう会えなくて。
もう何もいらない。
もう思い残すことは無いです。
貴方が去っていて部屋は、なんだか寒いです。
貴方が去っていた体は、冷たいです。
私の手から零れていった貴方は、まだ温かったです。
私の手から落ちる雫は、まだ温かったです。
頬を伝う雫は、冷たいです。
体に付いた雫は、温かったです。
手の中にある記憶は、色褪せていきます。
手の中にある刃は、鈍く光ってます。
だからね?
私ね。
決めたんだ。
やるって…。
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