【短編:私のストレス発散】妥協
始まりはなんだったか…。確か…。ああ、あれだ。
「いやぁ、見ないで。見ないで!!」
「見ないで、だと?そんなこと言いつつお前の体は違うみたいじゃないか?ほら、さっきより締りが良いぞ?」
「あぁ…。」
これは?いや、覚えている。忘れるものか。昨日?いやずっと昔だったか?いや、そんな事はどうでもいい。これは、あの日の事だ。今も夢に見る、女と男の交尾だ。“元”彼女と呼ばれる女と、“元”親友だった男の交尾だ。
あの日、久しぶりに帰宅した俺を待っていたのは、それだった。
女は見るな、と。
男はさらに激しくなる。
血の気が失せた気がした。指先は震える。体は支えを乞う様に力が入らない足に、無理を強いる。でも俺の脚は、それに応えられず体が沈んでいく。
体が、脳が、心が俺の全てがそれを認識したくないと拒絶する。
どうして?俺“達”の家だった所に男が?
どうして?男と女が交尾をしている?
どうして?女は俺が“見たことの無い”顔をしている?
どうして?俺は?ここは?あれは?それは?
過去が今を拒絶するように溢れる。それでも現実は無情にも加速する。加速していく。
「――――――」
声にならない叫びが、女の喉を震わせる。
満足げな吐息が漏れる。数瞬の沈黙。
「まだだよな?」
男が声を出す。
「俺はまだだからな!」
「ま、待って!!」
男が動き始める。女の声は、体とは違うのだろう。それを妨げようなんて考えてないように見える。寧ろその逆。
動かない俺とは違い、目の前のそれは加速を繰り返し、先程よりも早くなっていく。
「懐かしい夢だ…。…、懐かしい?ふふふ。」
隠しきれないそれが、押さえつけられないそれが、口から零れる。零れて溢れて、そして俺を満たす。俺を染める。俺を動かす。
懐かしい…か。確かに“あの日”の前にある記憶は懐かしいものだった。そう思えるまでに俺は、回復したのだろうか?
「それも過去か…。」
体が寒いな。血の気が失せていく寒さだ。あぁあの日と似た寒さだ。体の芯から冷めていく感覚。これも今ならば、懐かしいと言えるだろうか?
「あなたが悪いの!」
女がそんなことを言っていた。
「寂しかったの!!」
ああ、そんなことも言っていた。そうは言っても、残業に次ぐ残業は俺を会社に泊めるのを余儀なくさせていたのだから、仕方ない…。いや、この仕方無いで諦めてしまった結果がこれか…。
そう言えば、俺の人生って今まで諦め、妥協の繰り返しだったな…。妥協の、繰り返し繰り返しが、結局取り返しのつかないとこまで来たって所か…。成程、つまりこの結果は仕方が無いのだろう…。そうやって妥協しておこう。
俺が妥協すればいいのだから、今日は良い日になるだろう。今までの妥協だらけの人生で、最後まで妥協し続けた俺の最後の日なのだから。
最初から、活動報告じゃないって言うね…。
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