幕間二 義姉からの手紙
拝啓
山々も紅く色付き始めた今日この頃、そちらはいかがお過ごしでしょうか。
家族のみんなは息災でしょうか? あ、よくよく考えてみたらいろいろと大変なことばかり起こっているので、息災とは言い難いですね。下手な冗談でした。
最近の私は、以前と変わりなく金獅子亭で働いています。ただ、以前よりも髪や肌に気を使うように口酸っぱく言われるようになりました。少し面倒くさいです。ですが、義妹であるミスティの方がもっともっと身形に気を使わなければならない立場にいるのですから、私も甘えたことを言っていられませんね。それにお母様よりマナーの教育を受けているとのこと。その大変さ……心中お察しいたします。
まあ、ようやくお兄様からも名前を呼んでいただけたのですね。それは良かったです! お兄様も子供ではないのですし、今はもうシャルマー公爵となったのですから、もっと大人になっていただかないといけませんね。もうすぐ結婚もされるのですから、公爵家当主として寛大な心を見せてもよろしいでしょうに。
前世については、私はミスティほどはっきりとは覚えていないのです。ですが、私もかつて読んでいた物語と同じようなシチュエーションに出会ったら心躍らせることでしょう。ぼんやりと覚えていた……あれは確か漫画だったと思いますが、その漫画のやり方を真似て付加魔法をやってみたら、いろいろととんでもないことになってしまいましたから。結構いろんな人から怒られます。主にロベルトさんにですけど。
そうそう、ミスティにだけ教えてあげますね。私にも実は好きな人がいるのです。冒険者のロベルトさんです。もしかしたら、ミスティは会ったことがあるかな? 何せ、あなたのお兄さんの冒険のパートナーなのですから。もうほとんど一目惚れと言っても過言ではないくらいの衝撃を受けました。もう、なんというか……すごく……好みなんです……。身長がとても高く、大剣を扱うからか特にがっしりとした立派な腕。もちろん身体付きも並みの冒険者なんか目にならないくらい立派で、とても厚い胸板とか特に素敵だと思いませんか? ――ここからしばらく走り書きで筋肉について熱く語られている――
それではミスティ、お母様のマナー講習は大変でしょうが、終わった頃には立派な淑女になっていることと思います。大変でしょうが頑張ってくださいね。これから少しずつ冷えてきます。風邪などひかぬよう、お身体ご自愛くださいね。そして、家族のみんなにもお身体に気を付けてくださいと伝えていただければ幸いです。
敬具
あなたの義姉、エレン
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「え、ちょ、ロベルトさんのことが好きってマジ? もしかしてお義姉様の好みのタイプって筋肉増し増しのゴリゴリの戦士タイプ? これ、フリードリヒ様とは真逆のタイプじゃない……なるほど、お義姉様がフリードリヒ様に全く興味が無い理由が分かったわ……それにしても……これは、お義父様やお義母様に報告した方がいいのかしら……」
ふわっとお手紙その二。次回からは第二部に入りたいと思います。