幕間一 義妹からの手紙
拝啓
街路の木々も色付き始めた今日この頃、お義姉様はいかがお過ごしでしょうか。
最近の私は、お義母様から実にスパルタなマナー教育を受けております。乗馬鞭を構えたお義母様の凛々しいことといったら、あまりにも眩しすぎて白目を剥いてしまいそうなほどです。
そうそう、最近ようやくお義兄様に名前を呼んでいただけました! ただ、お義父様とお義母様に叱責されて渋々、といった感じでしたけれども。それでも、少しは義兄妹としての仲も縮まったように思います。早くお義姉様と同じくらいの距離感になれたら良いと思いますわ。でも、同時にそれが難しいことなのだと理解しております。だって、お義姉様を王都より追放する原因を作ってしまったのは、ミレーユ様から受けたいじめを、お義姉様の仕打ちだと思い込んでしまった私なのですから。
いくら前世で読んでいた物語と似たようなシチュエーションだったとはいえ、どうしてお義姉様が私をいじめたと思わなければならなかったのでしょうか。お義姉様はこんなにも自由を望んでいらっしゃったのに。ミレーユ様がお義姉様を犯人に仕立て上げるために画策していたとはいえ、思い込みとは恐ろしいものだと改めて感じる次第です。
どうしてそんな思い込みをすることになったのか、私なりに考えてみました。私はきっと、王子様と恋する夢を見ていたのだと思います。前世の物語で見ていたような、だいたいの女の子なら夢見るようなシチュエーション。その夢に酔っていたのだと思います。そして今でも、私は愚かにもその夢を見ているみたいです。私が恋した王子様は、お義姉様にあんなにもひどい仕打ちをしました。それなのに、私は今でも彼の夢を見るのです。私がいじめられている時に優しくしてくださった王子様は、確かに存在していたのですから。お義姉様には気分の悪いお話だと思いますが、愚かな義妹だと蔑んでくださって構いません。私にとってはご褒美――この辺りは字がひどく乱れている――
それではお義姉様、短いですが今回はこの辺りで失礼いたします。金獅子亭の看板娘として、お身体に気を付けて頑張ってくださいね!
敬具
あなたの義妹、ミスティ・シャルマー・ルクレスト
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「ふふ、恋する女の子は可愛いなぁ。そうだね……ミスティがここまで書いてくれたんだから、私も可愛い義妹にだけ、あの人のこと教えてあげようかな?」
幕間、ふわっとしたお手紙話。手紙の作法などは適当に書いています。
この義理の姉妹はどっちも前世の記憶のせいでなかなかふわっとしています。