俺がそばにいるよ
「俺がそばにいるよ」
僕はその言葉を実行するかのように、
その日から、君と二週に一回ぐらいは会って、
食事やお茶などをする時間を持つようになった。
ただ君と会って話を聞く。
それ以上なことは何も無い。
君はよく笑うかと思ったら、急に泣き出したりもした。
きっとメンタルが不安定になっているんだろう。
そんな時は僕は黙って聞いて相槌をうってあげる。
第三者から見れば、
きっとただの恋人同士にしか見えないだろう。
僕と君は体の繋がりこそなかったが、
心の繋がり具合だけでいえば、
僕は妻より君とつながっていたのかもしれない。
単純な体の関係の不倫とはまた違う次元で、
君に少しずつ本気になっていたのかもしれない。
君を不安にさせないため
帰る前には次に会う予定を決めた。
そして君と交わした約束は、
必ず守るようにした。
そんな僕と君との関係が一年ぐらい続いた時、
事件は起こった。
「あなた?こんなところで何してるの?」
君と二人で会ってた時、妻が現れた。
君は少し不安そうに僕の後ろに隠れた。
「彼女、僕の担当のおばあちゃんの娘さんで、介護の相談受けてたんだ」
後ろめたいことはなかったはずなのに、
気がついたら口がぺらぺらと動き、妻に嘘ついていた。
「あら、そうなの~こんにちは」
妻は僕の言葉に疑うこともなく、君に話しかけた。
「こんにちは。いつもお世話になっております」
君は僕の後ろから出てくると、妻にお辞儀をした。
「あなたと……同じ年ぐらいかしら?」
「あ」
僕が妻に言おうとしたとき、
「あの!旦那さんとは同中なんです。それをさっき気付いて、ちょっと話が弾んでしまって」
っと、君が横から口をはさんだ。
「あら、それはすごい偶然ね!……だったら、帰ってみんなで鍋にしない?彼女もおいでよ」
「おい、急に誘っても彼女も迷惑だよ」
僕は妻にだけ聞こえるように言った。
「あら、いいじゃない。彼女いい子そうだし、私も友達になりたいわ」
妻も僕にだけ聞こえる声で返した。
焦る僕に対し、君は動じることなく妻に言った。
「あのぉ……大丈夫かどうか、家に電話一本入れさせてください」
そして……。
何がどうしてこうなったのか、
僕の家に君と妻が並んで食事の準備をしていた。
前からの知り合いだったんじゃないかってくらい、
二人で仲良く何か話をしている。
その日、
僕と妻と君と子供達と5人で食事をしたが、
何を話したか、何を食べたかさえ、
さっぱり思い出せなかった。
ただ覚えているのは、一つだけ。
君が帰った後、妻が嬉しそうに僕に話してきた。
「あの子と気が合いそうだわ。いいお友達になれそう」
っと。
君は本当に不思議な子だ。
人の心にするりと入り込む。
そして時には、
他の人に触れられたくない部分まで、
君にはうっかり見せてしまうことさえある。
でも強引じゃないから、
不思議と自然に受け入れてしまったりするんだよな。
妻もまた、素直で純粋な君に心を奪われたんだろうか?
君との不倫関係を望んでいたわけではない。
だから、妻と君が友達になってくれてよかった。
どんな形だっていいんだ。
君が幸せな気持ちでさえいてくれたら、
僕はそれだけ嬉しいんだよ。
それだけで幸せなんだよ。