僕が決意した日
僕がもう一度、君にに出会えたのは、
卒業から三年後のことだった。
町のちいさな古本屋さんで、
君の方から僕に声をかけてきたね。
「やっぱりだ!どっかで聞いたことある声だと思った」
店長のおじさんと話をしている声を聞いていたらしい。
僕は久しぶりに君に会えて
少し照れくさくなって思うように言葉が出てこなかった。
「おお」
短く挨拶すると僕は、
本を探している振りをした。
正直文字なんて見えてなかった。
君もいつもと違って、
少しテンションがあがっているように見えた。
「元気だった?」
君にそう聞かれ、僕は思い出した。
「ああ、そそ!俺、今度テレビでるんだ」
「え!ホント?!何に出るの~?見たい~」
僕が見ていた本棚の反対側にいたはずの君が、
いつの間にか僕のすぐ隣まできていた。
僕より頭一つ分くらい背が低い君は、
丁度、僕の胸の高さに顔があった。
近い。
手を伸ばせば抱き寄せれる距離だった。
僕の顔が自然と熱くなるのがわかった。
僕は赤くなってしまった顔がばれないように、
君と反対側の本棚へ逃げた。
「素人が出る歌番組なんだけどね。
俺はその人の後ろで踊るんだ」
話を続ける僕の横を、
君はちょこちょことついてくる。
君って、こんなに人なつっこい子だったっけ?
それとも僕が変に意識しすぎてるだけなんだろうか?
「バックダンサーってこと?すごいね~」
「ああ、うん。よかったら見てみて」
僕はもうこれ以上、
君からは逃げられない気がして、
少しかがみながら、君の顔を横から覗き込んで微笑んでみせた。
突然そんなことをされたせいか、
僕の赤い顔が君に伝染でもしたのか、
今度は君が頬を赤く染めたように見えた。
「あ、うん。録画するね」
うつむいて、照れている君が可愛かった。
「じゃあ、またな」
君とまた会えたことに満足して、
僕は大切なことを忘れた。
君をデートに誘うこと。
僕は君の連絡先さえも知らなかったのに。
そして、
次に君に会えるはずだった二十歳の成人式。
間が悪い僕はインフルエンザになって、
行くことが出来なかったんだ。
演劇の世界を出来る限りやってみて、
自分の力に限界を感じていたそんな時。
僕の親友が「中学の同窓会やろうぜ」
っと言い出した。
僕らの歳は、もうすぐ三十路だった。
これが君に会えるかもしれない最後のチャンスだと思った。
僕はあれからちらほら、彼女は出来たものの、
君のことがどこか頭の片隅に、いつまでも気になって残っていた。
僕の親友は結婚して、子供も居たけど、
僕は気がついたら、彼女も居らず一人になっていた。
そして同窓会。
君は現れた。
君は僕の親友と楽しそうに話をし、
一緒に写真を撮っていた。
僕はその様子をはたから見ながら、
君はまだ僕の親友のことを好きなのだろうかと思った。
「ママ!」
小さな子供が君の事をそう呼んだ。
歩き出したばかりであろうその小さな男の子は、
君に抱き上げられ嬉しそうに笑った。
僕は一人苦笑いした。
そうか、
僕が後ろばかり振り返ってる間に、
君はちゃんと前へ歩き出していたんだね。
僕の中で何かが壊れ、ようやく新しい何かが動き出した。
『演劇はもうやめよう』
この日、僕の決意は固まった。
でも、女々しい僕はこれから先も、
辛い時に君の事を思い出し、振り返るかもしれない。
君と交わした言葉一つ一つから勇気や元気をもらうため。
なぁ~、それぐらいは許してくれよ?
後悔じゃなく、前に、未来に進むため……だからさ。




