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僕が君に恋した話  作者: 有理
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僕が君に恋した始まりの話

僕から見て彼女は、

目立たずおとなしくて静かに笑う子だった。


僕が彼女を気になりだしたのは、

中2の時。

彼女と同じクラスになって、

彼女が小説を書いていることを、

中学で知り合った僕の親友に聞いたからだ。


僕はその頃、演劇が好きで、演劇部に所属していた。

僕はいつかプロになりたくて真剣に頑張っていた。


彼女もまた作家を目指していたんだと思う。


気がつくと僕は彼女を目で追うようになっていた。


僕と目がたまに合うと、微笑み返してくれる彼女。


僕はすぐに視線を外したが、内心はすごく嬉しかった。


特に仲のいい子は作らず、

女子とも男子とも、

誰とでも分け隔てなく話をする彼女だった。


でも、僕の親友と彼女は小学校から同じはずなのに、

会話や距離はなんだかぎこちなくて、

見ているこっちが照れくさくドキドキするほどだった。


二人の間に何かある気がして、 僕は、

「お前アイツのこと好きなの?」

って僕の親友にかまかけてみた。


すると僕の親友は、

小5の頃、彼女からチョコをもらったことを僕に話してくれた。


家までチョコを届けに来てくれたらしい。

僕の親友は彼女からチョコを受け取ったが、

本命かどうかわからず、何も返事をしていないのだという。


僕の親友は、

「アイツ他に好きな奴居るって話してたから、義理だったんじゃねぇ?」

っと、軽く返されたが、


でも、僕は彼女のことをずっと見ていたからわかる。

そうじゃないと思った。

彼女はその頃から僕の親友のことが好きなんだ。

そして今も。


僕の親友は勉強もスポーツもできる優等生だったから、

彼女の気持ちを、僕の方に向けさせることなんてできないと思った。


それでもすこしでも、

彼女と僕の距離を縮めたくて、

僕は特に用事がなくても、彼女に話しかけるようにしていた。


だんだんと仲良くなり始め、

初めて彼女をあだ名で呼んだとき、


『君』はちょっと驚いた顔をして僕を見た。


「苗字、呼びにくいから」

っと、とって付けたような理由にも


「うん」

っと、

ちょっとうつむき照れくさそうにしながら、

いつものように話をしてくれた。



僕が彼女のことをますます好きになったのは、

中三の国語の授業のことだった。


『夕鶴』を朗読することになった。


隣の席の人とペアになって、

順番に前に出て劇のように読むのだ。


劇は僕の得意分野だった。

僕はその時、たまたま君と隣の席だった。


人前で何かをするのが

苦手そうな君は大丈夫なのだろうかと、

君の気持ちを考えたら、

僕の方が少し緊張した。


僕らの席は丁度教室の真ん中ぐらいで、

黒板に向かって右端のペアから

順番に読んでいくことになった。


そして丁度僕らのペアの前でチャイムがなり、


残りの人たちは、夏休み明けの授業で朗読することになった。



「練習しとけよ」

僕は冗談半分に君に言った。

君は僕の言葉に静かにうなずいた。


そして、夏休み明けの国語の授業。

いよいよ僕らの番だ。


『夕鶴』の物語はちょうど、クライマックス。

与ひょうとつうの重要なシーンだ。


好きな人を目の前にして演技するのは、恥ずかしさ極まりなかった。


でも僕は役者になるんだ。

与ひょうになりきるんだ。そう思った。


与ひょう(台詞)

『そら、かねがあればなんでもええもんを買うだ』


つう(台詞)

「かう?……「かう」ってなに?いいもんってなに?」


驚きの声で教室がざわつくのがわかった。


普段の君から想像して、

もっと小さい声で言うのだろうと、

誰もが思っていた。


なのに、

君の声が教室中に響き渡ったからだ。


君が読み出したら、

少しざわついていた教室の空気が変わった。


静まり返り、ただ立って読んでいるだけの君の演技に、

クラス中のみんなが釘付けだった。


僕も君の声だけの演技に吸い込まれた。


僕は横にいる、

『つう』である君を見つめた。


『つう』もまた、

『与ひょう』である僕をまっすぐに見つめていた。


つう(台詞)

「あたしのほかに、何がほしいの?

いや。いや。

あたしのほかにはなんにも

ほしがっちゃいや。

おかねもいや。買うのもいや。

あたしだけをかわいがって

くれなきゃいや。

そして、あんたとあたしとふたりだけで、

いつまでもいつまでも

生きていかなきゃいや」

   

僕は与ひょうではなく、

僕自身に言われた気がして、

君から目が離せないでいた。


僕は『つう』を見つめて言った。


与ひょう(台詞)

「つうと二人でいるのは好きだ。

おらほんにつうが好きだ」


僕は与ひょうの台詞を吐きながら

演技なのか、本心なのか

もうわからないくらい与ひょうの感情が

僕の中で重なった。


つう(台詞)

「そうよ。そうよ。そうよ。

……だから、だからいつまでもこうしていて。

離れないで。

あたしから離れていってしまわないで」


そういいながら

僕だけをまっすぐ見つめ返す君に、

僕は思わずその腕を掴んで

抱きしめてしまいたくなるほどだった。


そして、君から放たれる言葉には色があった。


話の情景が……

そこにあるははずのないものが、

僕にも、クラスのみんなにも、たぶん見えていた。



僕らがすべて読み終えた後、

どこからとも無く

クラス中から自然と拍手と歓声があがった。

僕も感動して、ちょっと身震いした。



「おまえスゴすぎ!」

僕は思わず君に微笑みかけた。


照れくさそうに笑って微笑み返した君も、

よく見たら少し震えていた。


朗読をしていた君は、

すごく堂々としていたように見えたけど、

本当はすごく緊張していたのだ。


君は僕にだけ聞こえる声で、ぼそっと囁いた。

「練習しとけって!言ってたでしょ?

それに、相手が演劇得意なあなたなら完璧にしなくっちゃ面白くないかなって。

……実は私、書くのも好きだけど、演技する方もちょっと好きなの」


君の意外な一面に、

僕はますます君のことが好きになった。




それから僕と君とのお話は、

まだまだたくさんあったけど、その話はまた今度。


結局僕は、君に気持ちを伝えることが出来ず

中学卒業の日となった。


「ねぇ、アルバムに寄せ書き書いて~」

クラス中の奴に声をかける君。


「俺、最後でいいよ」

僕のところに来た君に言った。


「うん、もう最後だから」

僕は君からアルバムを受け取った。


書いてる最中に、覗きこもうとする君に、

僕は見えないように書き込んだ。


「後で読んで」

っと、君に伝え、

僕はすぐにアルバムを閉じた。


「頑張れよ!」

これが僕が君にかける最後の言葉になるであろう。


口では君を応援しながら、僕自身への決意でもあった。


僕もいい役者になって、

いつか君の前に現れるから。

だから、君もいいものを書き続けて欲しい。


僕が君のアルバムに書いた言葉は……


『君の本でいつか劇がしてみたい。

いつも静かに笑ってる

その内側(心)に触れたかった。

      I Love you 

         by(僕の名前)』


これが僕が君に恋した始まりの話だ。


この話に登場する人物に名前は出てきません。

名前をあえて書かないことで、

登場人物になりきって読んでもらえないかなっと思って

チャレンジしてみました。


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