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第9話  厳しすぎないかい

 デイとラムールも帰ってしまった後の陽炎の館では、みんな何も言わずリビングにいた。

 お風呂から世尊と義軍が出てくる。


「ほーら義軍、もう寝る時間だぜ〜」


 世尊に促されて義軍は弓の頬にキスをすると自分の部屋に上がっていく。 世尊は後から部屋に入りしばらく本を読みきかせていたのだろう、少ししてから音を立てないように部屋から出てきた。


「寝たか?」


 羽織が尋ねた。


「ああ。ぐっすり」


 そう言って世尊は階段を降りてくる。

 部屋の中は静かだ。


「除籍か……ラムールさんも思い切ったことをしたね」


 きらきらと輝いている光の球を見ながら清流が呟いた。


「まぁ、遅かれ早かれこうなるとは思っていたけど」


 カーペットの上に座ってカード占いをしている来意が返事をした。

 ハラ、バラリ、とカードをめくる音が部屋に響く。

 その音に触発されたかのように世尊が口を開いた。


「仕方ないよな。 陽炎隊としてやっていく予定なのに身内に素行不良者がいたんじゃ話にならないぜ。 家出はする、女はたらす、よそでもめ事を起こす、ついでに同じ孤児院の仲間にまで訓練と称して危険をおわせ、そして――せっかく初めて遊びに来た一般人の命をも危険にさらした。 となれば、自警隊の中に悪人を置く訳がないぜ」

「世尊! そんな言い方ないだろ?」


 羽織が注意した。


「オレだってわかってるぜ。 でもそういう事だろ?」


 そこに来意がまたひとつカードをめくって呟く。


「アリドはこうなるのを望んでいたよ」 


 ところが清流が反発するような口調で言った。


「にしてもさ、除籍って厳しすぎないかい? これでアリドは天涯孤独になったっていう訳だよ。 帰る家も村も無い、何がアリドに起こってもぼくらは誰も責任を負わないし、何も出来ない。 仮にアリドが死んでも葬式だって出せない。 この孤児院の出身っていうことすら無かったことも同然になっちゃうんだよ? ラムールさんは……」

「清流、言うな」


 巳白が制したが。


「なんでだよ兄さん。 ラムールさんは除籍じゃなくて別の処分にすれば良かったじゃない。 そうだよ、勘当でも良かったんだよ。 勘当解除さえすればアリドは元に戻れるんだから。 でも除籍だよ? 除籍したらもう戻れないのに」

「そっか、勘当でも良かったんだ」

「そう考えるとラムールさんの処分は重いよな」


 羽織と世尊の同意を得た清流は続けた。


「だよね? やっぱり役職柄、アリドの事が邪魔だったのかな」

「清流!」


 声を荒げたのは巳白だった。


「馬鹿な事を言うな。 それ以上言うなら怒るぞ」

「分かったよ、兄さん。 ゴメン」


 清流は素直に引いた。

 気まずい沈黙が部屋を支配する。


「私……」


 弓が口を開いた。 


「ラムールさんの考えは分からないけど……でも、別に私達はアリドに対して何も変わらなくていいと思うの。 だって、ラムールさん、言ったもの。 私の居るときには、……って。 完全に私達とも縁を切らせる除籍なら、そんな事は言わないと思うの。 はっきりと「以後かかわってはいけません」って言うと思う。 だから除籍はきっと……形式的にでもそうする必要があったんだと思う」

「そっか。 そう考えるのが自然かな」

「また羽織は弓ちゃんの言うことなら一も二もなく賛成して」

「世尊って呼ぶよ」

「いや、世尊はやめてくれ」

「んだよ? オレの何が嫌なんだ?」


 そこでやっと、あはははは、と笑いが起きた。

 実はその時、部屋の扉の向こう側には話を聞いていたアリドがいた。 アリドは満足そうに頷くと音を立てないようにそっと玄関の扉を開けて暗闇の中へと消えていった。






 そして月曜日。 朝。

 リトが部屋で身支度をしているとドアがココン、とノックされた。


「はい?」


 珍しいノックの音だった。 でもどこかで聞いた。

 扉の向こうできゃあ、という女官の黄色い声が微かに聞こえる。

 ということは。


「開けてもよろしいですか?」


 この声は。


「ちょ、ちょっと待って下さい」


 リトはスカートを履いていなかったので慌てて身につける。

 女しかいない空間だと身なりなんてそんなものである。

 慌てて履いたのでスカートのホックの位置がずれていた。 が、あまり待たせる訳にもいかない。


「どうぞ」


 リトはとりあえず身支度を整え返事をした。

 扉が開くと案の定、そこにはラムールがいた。 手には一通の封書がある。


「今日からあなたが朝の手伝いに行くところへ出す紹介状です」


 そう言ってラムールは封書を手渡す。 薄緑色の封書に緑の蝋でラムールの封印がしてある。 表書きを見ると”オクナル家御中”と記されていた。


「なかなか良いところですよ? ハルザはそこに住んではいませんが。 あなたも場所は分かるし、目を肥やすという意味からすれば最適な所です」

「あっ、ありがとうございます」


 リトは深々と礼をした。

 リトはラムールがわざわざここまで来た理由は何だろうと考えた。

 ただ単にこの封書を渡しに来ただけなのか。

 それとも今みんなの前で一昨日と昨日の事に触れて欲しいのか。 ”先日は御馳走になりました。弓の保護者だったんですね”とか”また遊びに行ってもいいですか、陽炎の館、とても気に入ったんです。もてなして頂いてありがとうございました”とか?

 そうしたら

 そうしたらきっと、みんなの弓に対する態度ががらりと変わるだろう。

 それを見越して来たのでは?


「何をしてるのですか? 早く用意をしないと。 初日から遅刻では困りませんか?」


 ラムールの声でリトは我に返る。


「きゃ」


 時間はギリギリだった。





 

 オクナル家。 ――オクナル商人。 一代で財を築いた大富豪である。 扱う物はじつに様々。 宝石や装飾品であったり、絵画であったり、布、食料、花……、武器以外なら大抵のものは扱っている。

 リトは大きな客間にまず通された。 大きい館なので侍女の数も半端ではない。 


「私たちはこの館の使用人ですが、リトさんは社会経験を積むための修行という名目でお手伝いに来られています。 ですから皆さん、リトさんが素敵な淑女になれますように色々な知識を教えてあげて下さいね」


 髪をきれいに結った年配の侍女長が他の侍女達にそうリトの事を紹介した。 他の侍女は制服だったが、リトはエプロンをつけて掃除などを手伝うことになった。

 オクナルの家には壺やら絵やら様々なものが飾られていた。 鹿や虎の首の置物などもある。


「色んなものがあるでしょ?」


 侍女が言った。


「ここで色んな品物の手入れの仕方や扱い方を学べば、宮殿の方へも出入りできるようになるわよ」


 そういえば宮殿の方には手伝いに入れなかった。

 確かに貴重品も沢山あるだろうから、下手な人間に扱わせる訳がない。

 リトはまず壺を磨かせられた。

 一個ウン百万ゴールドという。 これは困った。 とても緊張する。

 侍女達が「私達も最初はそうだったわ」とクスクス笑う。 


「でもその金額に怯えないようにならないと、一流の品は扱えないのよ?」


 確かに丁寧に扱うのと、おそるおそる扱うのとは違う。


「あの……もし、壊しちゃったりしたら、どうなるんですか?」


 リトは尋ねてみた。


「うーん、色々パターンがあるんだけど。 まずは主人の親戚とかだったら、まぁ、可愛い親族だもの、おとがめは無しね。 私達だったらお給料カットかな。 手伝いに来ているあなたなら……」

「私なら?」

「ここを紹介してくれた仲介者がいるでしょう? きっとその人が弁償することになるわ」


 うわわわわわ。

 何だかとてもプレッシャーな所にリトは送り込まれたようだ。


「平気よ。 壊さなければいいんだもの」


 侍女はあっけらかんと言う。


「そ、そうだよね……」


 リトがそう言って振り向いた時、肘が壺の端に当たる。


「あーーー!」


 ………。


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