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第5話  自己紹介、というより登場人物設定集(笑)

 なぜテノス国の王子であるデイがここにいるのかは分からない。

 分からないがデイがいるならきっと「あの方」もいるはず。

 リトは慌てて会場内を見回す。そう、王子付教育係ラムールの姿を探した。

 ところがどこにも姿は見えない。

 デイはまた祭の時のように城を抜け出したのだろうか。 しかし今日は祭の時とは違い時間も遅くなるだろうし、城まで距離もある。 今回は秘密の部屋での祭だし、今ここにラムールがいないという事はラムールはこの部屋に入れないという事だ。 もし黙って来ているのなら大目玉なのではないか。


「それでは祭を始めようかね」


 弓のすぐ背後に座っていた司祭様が立ち上がってそう言った。

 司祭の正面に座っていたあごひげを生やした黒ぶち眼鏡の禿げたいかめしいおじさんが一緒に立ち上がる。


「村長! 早くメシ食いたいから話はさっさときりあげろよ!」


 後方から声が飛ぶ。 どうやらこの男性は村長らしい。


「わぁってるよ! ……さて、オホン。 まず村民のみんな、いつもお疲れ様。 今回も宴を催すことが出来た。 村の平和を祈る祭。 心ゆくまで飲み、食い、踊り、歌い、笑おうじゃないか。 こらアリド、食うのはまだだ。 今日は新しいお客様が一人おる。 紹介しよう。 ほら、弓」


 村長が弓にふる。 弓は予想していなかったようで「え?」と言ってリトを見る。 リトも新しい者が自分であることは容易に想像がついた。

 弓は恥ずかしそうに立ち上がる。 リトも一緒に立ち上がる。 二人でみんなの方を向く。

 弓は顔を真っ赤にしている。 リトは村人の視線が女官達のそれとは違って弓を暖かく見守っているのを感じでほっとした。


「えと、あの。 友達のリトゥア=アロワさんです。 白の館で同室なの」


 弓は耳まで赤い。 ここまで赤くなるのを見るとと逆にリトは緊張が取れてしまっていた。


「初めまして。 南の村から来ました。 リトと呼んで下さい」


 リトも一気に言って二人で礼をする。

 みんなが一斉に拍手をする。

 リトと弓は頭を起こすと目を合わせてえへへ、と笑い再び座った。


「初めまして。 リトちゃん」


 村長は言った。


「ゆっくり楽しんで行ってくれよ? みんなもリトちゃんと親しくしてあげてくれ。 あー、アリドは別だ。 リトちゃんが心配だからあまり話さないように。 リトちゃん。 アリドは隣だけどエサはあげないように。 なんなら間に柵を作ったらいい。 変なコトされたら遠慮無く平手打ちをするんだよ」

「村長ー。 オレを獣扱いするなよー」 


 アリドが返事をする。

 会場中がどっと沸く。


「さて、冗談はこの位にして、今日はみんな楽しんでくれ。 乾杯をしよう。 手元のコップに注いで」


 その声でみんながコップに酒やお茶、ジュースを注ぐ。


「リト、お前、酒飲め。 酔ったら介抱してやるから」


 アリドがそっとリトに耳打ちして手元のコップにお酒を注ぐ。


「えっ、いや、あの……」

「んー? 誰のおかげで祭に参加できたと思ってんのかなぁ?」


 アリドは意地悪な口調で言う。

 いやしかし。 ここでお酒なんて。 そう悩んでいると……


 パッコーン


 小気味良い音だった。

 すぐ側まで来て、すぱぁんと扇子でアリドの頭をはたいた者がいたのだ。


「リトはジュースです」


 その主は言った。


「とーぜんデイもジュースですよ?」


 その声でデイがしぶしぶとコップを変える。

 リトはその人を見た。


 ラムールだった。

 ラムールが腰から下だけのエプロンをつけて立っていた。

 一体どこから現れたのか。 ……まさか厨房?


「おぅ、お前も早く来い。 乾杯するぞ」 


 リトの背後でつぶれた感じの低い声がラムールを呼んだ。


「はいはい。 佐太郎。 今、行きますよ」


 ラムールはそそくさと前方を通って村長の隣の席につく。


「それでは乾杯!」


 待ちかねたように村長が乾杯の音頭を取る。


「かんぱーい!」


 部屋中に乾杯の声が響いた。

 たのしい祭の始まりだった。



 

 まず一気にコップを空けてしまう、ぷはぁ、と息をつく声があちこちでした。 続いてカチャカチャと食器を動かす音がする。 大皿に盛りつけた料理にみんなが手を伸ばしたのだ。 部屋がざわざわと賑わう。

 料理は、カルパッチョ、唐揚げ、パイのようなもの、キッシュ、煮物、魚の岩石焼き、サラダ、果物……とにかく沢山のものがある。

 リトは取り皿に取ろうかと思ったが、全体を眺めている間に分ける専用のスプーンやフォークを見失ってしまった。


「直。直」


 アリドがそう言いながら6本の手で次々に御馳走を掴み頬張る。


「んまひ」


 もはやまともに発音できない位頬張っている。

 よく周りを見回してみるとそこに参加している者みんな同じようなものだった。


「リトも早く食べなきゃ無くなっちゃうよ?」


 弓が促す。 見ると弓はしっかりと色々な種類を少しずつ更に取り分けていた。 リトはおそるおそる目の前の肉の唐揚げを手にした。 一見普段食べているものと変わらないようだが、香草の香りがふわりと鼻孔をくすぐる。 一口頬張る。 香草と肉の香りが口いっぱいに広がりうまみの凝縮された肉汁が溢れる。


「おいし!」


 リトも思わず言った。

 それは本当においしい家庭料理という感じだった。 宮廷料理のようにかしこまっておらず、食堂の食事のようにおおざっぱでもなく、作った者の一手間の心遣いが感じられる料理だった。 これなら酒も進むだろう。 みんなガブガブ飲んでいる。 味付けは家庭料理だが少し濃いめでテノス国の味付けではない。


「おりゃ。 これも旨かったぞ」


 そう言ってアリドがほうれん草のキッシュをとりわけてリトの皿に置く。 見ているとみんなどんどん自分の皿に取り分けて、大皿はどんどん無くなっていく。 慌ててリトも手当たり次第に自分の皿に移す。


「おいおい、後ろじゃすごい事になってるぞ」


 リトの背後で声がした。 振り返るとさっきラムールを呼んだ男がこちらのテーブルの状況を見て笑っていた。


「食い盛りの奴らの席は戦争だな。 こっちに座って正解だったぞ」


 その男たちのテーブルを見てみると料理は減ってはいるものの誰も焦ることなくのんびりと食べていた。


「はってはっはとはべてひまはなきゃ、なふなっひゃふもん。」


 デイが反論する。


「デーイ。 口の中のものを飲み込んでから話はしなさい。 お行儀の悪い」


 ラムールがたしなめる。


「まぁいいじゃねーか。 ラィ……ラムール。 祭だぞ、ぐたぐた言うなって。 おめぇさんは本当っに細かいんだから」


 男がラムールをたしなめる。

 リトはラムールに意見を言う大人など見るのは初めてだったので新鮮だった。 ラムールは気を悪くするでもなく肩をすくめて酒に手を伸ばす。 

 男は年の頃は30代くらいだろうか。 全体的にがっちりした山男のような感じで、ボサボサした黒髪を肩まで伸ばし、顔つきもゴツゴツしていて眉毛もボウボウに太かった。 きっとこの男も髪や眉を手入れすればもっとまともになるのに、とリトは思った。

 男はリトと目が合ったが何も言わずにこりと笑うと背を向けて酒を飲み始めた。

 会場はだんだん酒が入ってきて騒がしくなっていった。

 リトも弓と話をしながら食事をする。

 デイの隣にいる幼い義軍(ぎぐん)ちゃんが、おなかいっぱいになったのだろう。 「ねーお兄ちゃん遊ぼうよう」と横にいる兄に甘えた。 部屋のあちこちで、わはははは、と固まって笑いが起こる。


「さて、少しは落ち着きましたか?」


 リト達のテーブルにラムールがやってきた。


「はい」

「んまかったっす」

「オレまだまだだけど……」


 少年達が答える。

 その中でデイがまるで自分のことのように得意げに言う。


「りーちゃん、どう? せんせーの料理旨かったろ?」

「ラムール様が作ったの? どれ? どれを?」


 リトは驚いて料理を見回す。 周囲のみんながくすりと笑う。


「全部よ、リト」


 弓が言う。


「えええーーー?」


 リトは金魚みたいに口をぱくぱくさせて料理とラムールを見比べる。

 それならエプロンをつけていたのも納得できる。


「今回は私がまかないの番でしたからね」


 ラムールは照れながら言う。


「昔は下手だったんですけど今は何とか作れるようになりました」


 リトは感心、というかもう何も言えなかった。 何なのだろうこの人は。 同じ人間とは思えない。 何でもできちゃなんて。


「さてみんな一息ついたところなので自己紹介しましょうかね」


 ラムールがそう言って座る。


 自己紹介。

 だれのだろう。


 周囲に座っていた少年達が一度姿勢を正す。

 デイだけがあぐらをかいて姿勢を崩していた。


「まずもう弓は知っているから省くとして。 アリドから時計回り」


 アリドがぶっ、と吹き出す。 しかしきちんと正座をして姿勢を正していた。


「オレ?オレはもう言わなくても知ってるって」

「年長者一号、模範を示しなさい」


 どうやらアリドが年上らしい。


「んじゃ巳白(みはく)だっていいじゃんよ……って、分かった、分かりましたよラムールさん、んな怖いオーラ出すの反則って。 ……コホン」


 リトにはアリドが素直になっているのが面白かった。


「オレはアリド。 年はリト達より3つ上の17。 孤児院には9才の時からいる。 ってオレは今家出中な。 別に深い意味はないんだけど。 御覧の通り腕が6本。 これは生まれつきだ。 ここに来るまでは山賊と一緒に暮らしていたから山賊の仕方なら聞いてくれ。 ……ってこんなもん?」

「話しすぎじゃないか?」


 巳白がつっこむ。


「うっせぇ巳白。 次、お前な」


 アリドにふられて巳白が一瞬くちごもる。


「……えっと、俺は巳白。 年はアリドと同じ。 人間と翼族のハーフ。 隣の清流(せいりゅう)は俺の弟。 アリドより少しだけ先にここに来たから……やっぱり9才からお世話になってる。 なんか意外と難しいな、自己紹介。 次、清流」


 巳白が隣の片目の金髪の少年にふる。


「清流。 弓ちゃんと同じ14才。 ぼくも翼族と人間のハーフさ。 翼と片目は人間に切り落とされて無いけどね。 ……兄さんは言わなかったけど、兄さんの左腕も人間が切り落としたんだよ。 あと、ラムールさんほどではないけれど魔法や薬草には詳しいよ。 動物とも話が出来る。 翼族の血が濃いんだと思う。 兄さんは翼に魔力を取られたのか魔法とかは全然できないけど、ね?」

「そゆこと」


 巳白が肩をすくめる。


「では次は来意(らいい)


 そう言われて清流の正面に座っていた栗色の髪の占い師、来意が口を開く。


「リトとは一度話したよね?」


 覚えていたのか。


「あっ、あの時はありがとう。 おかげで助かりました」

「良かった。 僕の名は来意。 占いが得意。 勘が働くからね。 だから剣や魔法の腕はさっぱりだよ。 次は世尊(せそん)


 来意はそう言って隣にいた大きな義軍そっくりさんにふる。


「おいおい清流に来意? ちょっと自己紹介に何か忘れてないか? 陽炎隊かげろうたいの事いい忘れたらダメだろ。 さて、はじめまして。 オレは世尊。このかわいい義軍の兄です。 リトちゃんは義軍と遊んでくれたことがあるんだっけ。 義軍がお世話になります。 このとおり義軍は甘えん坊でやんちゃな子だけどよくしてやって下さい」

「おにいちゃんもかげろうたいのことはなしてないよ?」


 義軍が言う。


「お? 義軍はよく気づいたなぁ、お兄ちゃん助かったぜ〜」


 どうやら義軍に世尊は甘々らしい。


「オレも弓たちと同じ年。 誕生日は早いけどね。 オレと清流、来意、そしてあっちにいる

羽織の4人は”陽炎隊”という自警団を作っている。 まだ訳あって公な活動はできないんだけど、そのうち国の自警団名簿に登録されたらバンバン手柄を立てる予定だぜ! 義軍は8才。 この通り甘えん坊だけどよろしく〜」


 確かさっきも義軍をよろしくと言われたようだったが……


「えっと、ぼくは義軍です。 8さいです。 大きくなったら世尊にいちゃんみたいに強く立派になりたいです」


 すぐ後から義軍が自己紹介をする。 「よくできたなぁ、義軍〜」と世尊が褒めちぎる。

 世尊と義軍の隣はデイだった。


「俺はやんなくていい?」

「いいだろ」

「何を言うつもだよ」


 みんなからあっさりと言われる。

 そして時計回りということはこれで最後だろう。 黒髪の少年。 羽織(はおり)

 軽く一礼する。


「羽織です。 同じ年です。 弓が、いつも、お世話になってます。  陽炎隊の、隊長を、しています。 特技は、剣です」


 デイが横で笑う。


「羽織おまえ、めっちゃ練習した?」


 うるさい、デイ、と羽織が恥ずかしそうに文句を言う。


「羽織は昨日一日、ずっと練習してたぞ。 な、清流」


 巳白が口を挟んだ。


「うん。 夜中までずっと隣の部屋でブツブツ練習していたね。 怖かったよ」


 巳白の隣の清流もちゃちゃを入れた。


「マジ? 聞こえてた?」

「羽織はぼくたちの聴力を甘く見ているね」

「あんなに部屋の中うろうろして音たててりゃ聞こえるって」

「マジかよ。 羽織ぃ。 お前、力入りすぎ〜」

「りーちゃんにいい印象与えきれなかったら弓ちゃんに嫌われると思って必死なんだよ」


 デイが言う。

 かあっ、と弓の頬が染まる。


「バカ、デイ!」


 羽織も赤くなりながらデイの頭をこずく。 あははは、とデイは楽しそうに笑う。 そこにあるのは普通の友達同士の姿だった。


 そっか、弓と羽織くんはそういう仲なんだね。 とリトは二人を見比べる。


「以上、弓を加えて7人が陽炎の館という孤児院に住んでいます。 アリドは家出中」


 ラムールがまとめた。


「弓。 後で一夢(いちむ)新世(しんせ)の部屋へ連れて行ってあげなさい。 きっと二人も喜ぶでしょう」


 弓が頷く。

 ラムールがそしてつけ加える。

 リトはそこでやっとラムールが仕切った訳が分かった。


「ちなみに私は……生後13日目から10才になるまでここで育てられました。 そして今は陽炎の館の所有者兼責任者です。 つまりこの子たちの、保護者です」


 なんとまぁ、驚かされてばっかりだ。


「なぁなぁ、ついでにおれも紹介してくんねっか、ライ、ラマ、ラムール」


 リトの背後で声がする。 さっきのモサモサ山男だ。


「……佐太郎……もう酔ったのですか……私の名前くらいまともに覚えて下さい。 紹介ねぇ。 面白い。 私も聞きたい。 どうぞどうぞ」


 ラムールはあっさりと許可を出す。

 リトは背後の方に向きなおした。

 リトと目があって男はにいっと笑う。


「おれは佐太郎。 全く孤児院とはカンケーねぇ。 ついでにこの村のモンでもねぇ。 前に孤児院に住んでた一夢と新世って奴の友達だったんだ。 今はラ、ラ、ラムールの兄がわりのつもりだ。 こっから少し離れた岩場にある家で錬金術の研究をしてる。 ってかもう錬金も賢者の石作りにも飽きたから最近はもっぱらダイナマイトや機械やら科学魔法品を作ってる。 おれは魔法が使えねぇもんでな」

「魔法の杖、あれを作ったのも佐太郎です」


 ラムールが補足する。


「佐太郎さんち行くと変なモンやおもしれーモンがいっぱいあるぞ。 な、巳白」

「ん、ああ。 銃やナイフとかも作ってくれるしな。 何でも作ってくれるよ」

「作ってくんねーのメシくらいじゃね?」

「ばっかか? 甘いぞ? 巳白もアリドも。 メシ食わせたら人3倍食べるようなお前達にメシ出す訳と思うか?」


 どうやら巳白やアリドは度々行っているらしい。


「佐太郎せんせー。 年齢をききたいでーす」


 と、生徒のような口調で手をあげて質問したのは意外や意外、ラムールだった。


「ん? 年か? 年はなー、いくつだ来意?」


 来意がふられる。


「30くらい?」


 来意が思いついた数を答える。


「……なんかジジイっぽいな。 30か。 ラ……ラムール、30だと。 来意の勘だ。間違いない」

「また誤魔化した。 30だと計算が合わないんだけどなぁ……」


 ラムールは納得いかないようでブツブツ言っている。

 なんだかラムールが子供のように見える。


「まぁそういう訳だからリト。 何か作って欲しいものとかあったらいつでもこのおじさんに言いなさい。 作ってあげよう」


 そう言ってリトの頭を撫でる。 ごつごつとした炭坑夫のような指だった。


「ではリトも楽しんでいきなさい」


 ラムールはそう言って厨房へと消える。


「ラムール様、……料理、作ってるの?」


 リトは弓に耳打ちする。


「多分ね。 夕食は出したからこれからは酒のつまみだと思う」


 会場はますます騒がしくなってくる。

 歌を歌い出す者あり、踊り出す者あり、義軍と世尊は端の方で戦いごっこをして遊び、アリド達も開けたところで腕相撲をしたりカードゲームをしたりそれぞれが思い思いに遊ぶ。 リトも村のおばさま達につかまって色々な楽しい話をした。 だんだん大人達は酔いが回ってでろでろになっていく。


「くはぁ〜〜っ」


 佐太郎が気持ちよさそうに息を吐く。 足下には酒の瓶が何本も転がりかなり酔っている。


「やっぱ祭でわいわいやって飲む酒は違わぁな」


 気持ちよく語る佐太郎を見てアリドが警戒する。


「やっべ。 逃げるぜ巳白」

「まぁ待てや、アリド〜」


 佐太郎はしっかりとアリドの腕を掴んで放さない。


「まぁ〜、おれもっ、だな、おまーえのっ考えは、そりゃー、」


 天を仰いでしばし沈黙。


「分かるっ! わかるれーぇ、っど、ど、だ、ど、だぞ」


 佐太郎の目が宙をうろうろとさまよい―――


 ぐうう。


「お、おいおい? 佐太郎のおっちゃん?」


 佐太郎はアリドに倒れかかっていびきをかきだす。


「寝てっぜ」


 ぐうー、すぴー、すぴー、と気持ちよい寝息が響く。


「おやアリド。 佐太郎は寝ちゃいましたか。 部屋の隅にでも連れて行って毛布をかけてあげなさい」


 ラムールが横を通り過ぎながらそう言う。


「ったくしょうがねぇなぁ」


 アリドはそう言って佐太郎を軽々と担いで部屋の端に置く。 腕が6本あるのでとても丁寧に下ろせていた。


「ん? なんだ? リト」


 ずっとそれを目で追っていたリトとアリドの視線が絡む。

 いや別に意味があって見ていた訳ではないが。

 丁度弓はお手洗いに行って隣にいない。

 だからだったのかもしれない。


「飲んでるか? ってお前はジュースか……。 ちょっと酔い醒ますわ、オレ。 お前も外の空気吸いに行くか?」


 そうアリドは誘った。

 巳白もどういう訳か姿が見えない。

 狙った訳ではないし、本当に偶然のタイミングだった。

 アリドの一番下の右手がリトに差し出される。 リトは促されるまま手を繋ぎ一緒にそっと席を外す。 外への出口を通って教会の中に出る。 するとたちまち周囲の喧噪は夢のように消えて、しぃんと静まりかえった。


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