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第44話 うぉおぉお!!

 そしてラムールが広場へ向かうと、異常はすぐにわかった。

 広場の中央にリトが一人ぽつんと立ち、広場にいる人々が皆、地面に伏せているのである。 軍隊長達も伏せている。 そして中央のリトがおろおろとしている。


「どうしました?」


 訳が分からずラムールは、広場の中央に降り立った。

 周囲の者が、そう、リトも、みんながホッと安堵するのが分かった。


「そ、そ、そ、それを……」


 警察署長がリトを指さす。

 ラムールはリトを見た。

 リトの持っていた鞄から連なって転がり落ちている、紙の束。

 筒型になった束には国の紋章が。


「えっと……ハンカチ、出そうとしたら、転がりでちゃって……」


 リトが困ったように呟く。


「それは……」


 言わずとしれた、高性能ダイナマイト。

 簡単にこの場にいる人物すべて吹っ飛ばしてもお釣りが来る量である。 みんな腰を抜かして伏せていた。


「と、とにかく、それを渡すんだ。 そ、そーっと、そーっとだぞ」


 ボルゾン軍隊長がリトを刺激しないように優しく言う。


――ああそうか。 みんな、これが魔法の消えない火でないと、点かないとは知らないんだ……でも……


 リトはたじろぎながらダイナマイトを掴んだ。


「とりあえず、私が預かりましょう」


 ラムールだけが動ずる事無くリトに近づく。

 リトはラムールに束を渡す。

 ラムールの眉がぴくりと上がる。


 気づかれた。


 リトは思った。


「な、なぜそんな危険物を、その娘が持っているのか」


 腰を抜かしたまま、警察署長が尋ねる。


「さ、さぁ……先日、錬金術師の使いでリトが私のところにあれを持ってきたのは覚えていますが……」


 汗を拭きながらボルゾン軍隊長が言う。


「事と次第によっては処罰せねばならん」


 裁判官も言った。

 ラムールの手に渡ったことにより、裁判官達は安心して口を開く。

 リトは俯いた。 ラムールはみんなを見回すと少し唇の端で笑った。


「これはボルゾン軍隊長にお渡ししましょうかね」


 そしてその束をボルゾン軍隊長に向かって投げた。


「うぉおぉお!!」


 ボルゾン軍隊長が落とさないように大あわてで抱きとめる。

 ラムールはすかさず指先に火をおこして束に向かって投げた。

 炎は一気に束を包むとボッと輝いて燃え尽きた。


「……へ?」


 ありえないはずの状況に一同が叫ぶ間もなく呆然とする。


「偽物ですね」


 パンパンと手をはたいてラムールが言う。


「偽物っっっ???」


 一番大きな声を上げたのは、他ならぬ、気がついた山賊頭だった。


「そ、そいつが、これに火をつけられたくなければ言うことを聞けと、啖呵をきったのだぞ!」


 山賊頭の告白を聞いて、皆がざわめく。


「本当か?」


 ボルゾン軍隊長が尋ねた。

 リトは頷いた。


「だって、力じゃ敵わないから……。 どうせ本当に火が点くこともないだろうって思ったし……」


 言いにくそうに伝える。


「なんて無茶な!」


 皆が口々に言った。


「だって……」

「自分のせいで、アリドが山賊の罪を被せられたから?」


 ラムールの代弁に、リトは頷いた。

 ラムールはリトの頭をくしゃっと撫でた。


「しかし、本物を持って行くことも、きっとあなたならできたはず。 どうしてしなかったんですか?」

「だってラムール様、私に反省文書かせたじゃないですか、今度からもっと考えて行動します、って。 本物を黙って持って行ったら、きっとアリドを助けることができても、罰を受けると思ったから……」

「……どうやって、偽物を作ったのです?」

「ラムール様の事務室に、サンプルの本がありました。 それを――コピー液で」


 ラムールが目を見開いた。 


「すみません。 昨日の消灯後、事務室に勝手に入りました」


 リトは頭を下げた。


「コピー液で」


 ラムールが繰り返した。 そして、こらえきれなくなったのか、くくく、と笑い出した。


「私の事務室に、あなたは勝手に入って良い権利を与えてますからね。 ふふふ。 確かにそれなら、罰せられることはないでしょう。 よって、この件は不問でよろしいですね?

 裁判官、警察署長。 軍隊長?」

「ま、まぁ、本物でないのなら……」

「別に一般人を脅した訳でもないし……」

「とはいえ偽物を持って山賊のアジトに行くなんて、想像以上に無謀な娘ですな、ラムール殿」


 軍隊長の言葉にラムールも楽しそうに頷いた。


「本当に、予想を超える無謀な娘です。 しかし、反省文はしっかりと書かせますのでご安心を」

「ええっ? やっぱり反省文ですかぁっ??」


 リトの驚きように、皆が笑った。





 その後、陽炎隊が山賊を連れて城下町に帰ってきた。

 そして取り調べが行われた結果――


「どうなったんですか?」


 リトが顔を上げた。

 リトは延々と反省文を事務室で書かされているところだった。


「アリドは灰色、とでもいいましょうかね」


 取り調べ結果の書類を手にしてラムールが言った。


「どうしてですか?」


 同じく、反省文を書かされていた弓が顔を上げた。


「だってアリドが反論もせずに逃げちゃいましたから」


 ラムールが肩をすくめる。

 リトがおもしろくなさそうにふくれた。


「ラムール様があそこにいて捕まえて下さったら、きちんとアリドは悪いことなんて何もしてないって証明できたのに……」

「行きたくてもデイが裁きの場で騒ぎを起こしたらと思うとですね、閉じこめるしかなかったんですよね。 術のかかった縄でしっかり縛ったし、まさか縄が解かれるなんて、まさかアリドが空を飛んで逃げるなんて、ええ、考えもしませんでしたから」

「……そうですよね」


 なのに、なぜだろう、釈然としないのは。

 デイは遊びに行ったというし。

 遊びに行く余裕があるのかと、デイを問いつめたい位だった。


「それで、アリドはどうなるんですか?」


 弓が尋ねた。


「山賊の罪を犯した容疑で取調中に脱走、と登録されてますね。 取調中に脱走しているのだから、かなり良い肩書きになったというべきでしょうか。 刑が確定していないのと、証拠不十分のために全世界に手配することはできませんが、国内では重要参考人ということで手配されましたよ」

「……ラムールさん、手配されたってことは、もしアリドが…陽炎の館に寄ったら、羽織様達は……」

「自警団の逮捕行為は任意ですからね。 捕まえたければ捕まえればいいんじゃないですか?」


 からりとラムールは言う。

 弓はうれしそうに頷くと、再びペンを走らせた。


「それにしても女性というものは、無茶をしますね」


 窓から外を眺めてラムールは言った。


「ダイナマイトの偽物を持って山賊の住処に行くことも無茶ですし、科学魔法の混乱を利用して空間移動をすることも無謀です。 すり抜け手袋で窓の鍵を開けるのも想定外だし、外の壁を屋上からロープを垂らして移動するなんて、いやあ、面白かった」

「えっ?」

「気づいていたんですか?」


 リトと弓が弾かれたように顔を上げる。


「だいたいはデイからさっき、聞いたのですけどね。 また同じ事をするとは思いませんが、念のために一言注意しておきます」


 ラムールは楽しそうだった。


「このガラスはね、科学魔法がかけられているから正しくはめれば中から外は見えても外から中は見えない、それは間違いありません。 しかし、逆さまにはめたからと言って、逆になるかというと、それは無いのですよ。 壁とセットで科学魔法がかかっているので一定時間が過ぎると、簡単に言うと接続不良みたいな感じになっちゃいますから、ただのガラス窓になるのです」

「……ということは……」

「あのとき、こちらから見てるの、気づいていらっしゃったのですか?」


 ラムールは答えなかった。

 ただ、くっくっくっ、と楽しそうに外を見て笑っていた。


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