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第3話  あと一人は誰

 スイルビ村に行くにはまず城壁で囲まれた城下町を出て北に進み村落をいくつか通り抜ける。 この村がテノス国の一番北の村だ

 スイルビ村の出入り口は東側からの出入り口だけで、こじんまりとした集落の西側に教会が、南側は高く切り立った崖がそびえていた。 村の奥の小高い丘の頂上にはかなりしっかりとした白っぽい石造りの4階建ての建物があった。

 南側のとても高い崖の上に視線を向けると、その崖の上の建物の屋根がほんの少し見える。 屋根の上には国旗が掲げられており風にはためいている。


「王宮?」


 リトは思わず尋ねた。


「ん? ええ。 そうよ。 王宮の屋根ね。 ここからだとあの屋根しか見えないけど丘の上からなら半分くらいは見えるかな?」

「えっ、ちょっと待って? 王宮ってテノス国の王宮よね?」

「そうよ? 白の館の後ろにある王宮」


 リトはたまらず声が裏返った。


「えぇ? だってあそこからここまで何キロも離れているよ?」

「昔は王宮の塀の中だけがテノス国だったらしいわよ。 人間が増えすぎて塀の外にも町が出来て元々の塀の中は王族の居住区になったらしいわ。 居住区は一番奥の安全なところに作ってたらしいから一番この北側に近いのね。」


 リトは驚いた。 宮殿はまだあまり見たことはないがそれでもそれなりに大きかった。 白の館も手頃な大きさだった。 しかしその奥にはとんでもない世界が待ち受けていたとは。


「後で巳白に飛んでもらって空から見たら?」

「い、いやいい」


 リトは遠慮した。 そこまでして見たいものでもない。

 二人はゆっくりと道を下り村へと入る。


「お祭りは教会に出入り口が作られるんだけど、まだ始まるまで間があるから先にウチに荷物置こう?」


 弓は言った。 さあいよいよだ、と思ってリトはごくりと唾を飲んだ。

 さて、一体どんな輩が出てくるのか。 何人なのか。


「緊張しなくていいよ?」


 弓が言うが、やはり緊張する。

 弓は道を進んで丘の方へと向かう。 どうやら丘の上の建物がそうらしい。

 それにしても、場所が何だか「隔離された」感じがするのは否定できなかった。


「なんか、離れ小島だって思ってるでしょ」


 弓から言われてリトはうっ、と顔をしかめる。


「リトってホントわかりやすいね。 私も小さい頃はそう思っていたけどね。 でもそれは仕方なかったんだって。 最初に孤児院を作った人がそうしたの。 翼族の血を引く子供を引き取るにはその時代はそうするコトしかできなかったんだって」


 それはなんとなく分かった。 翼族は人間に翼をつけただけのような容姿だが、人食である。 それに魔力は強いし翼族に襲われたら村も国もあっという間に滅びると言われている。 異生物である翼族は、知力、魔法に長け独自の文化を築いている。 人間と同等の知能を持ち、深い森の中に人は決して入れないという彼らの国へ通じる道があるという。

 今でも他の国だったら翼族の血を引く巳白は村人達から襲われるかもしれなかった。 そう考えるとこの国では慣れもあるのか、城下町まで自由に出入りできる巳白は珍しいタイプだということになろう。


 何人も翼族とかいるのかな……


 リトは翼族がわんさかいるのを想像してブルルと震えた。


「はい。 着いたわ」


 弓が言う。 丘の上の建物は教会のような丸いアーチの門があって周囲も綺麗に手入れがされてとてもさっぱりとした暖かい感じだった。


「どうぞ」


 弓が入り口の扉を開ける。 リトは中に入り、奥の部屋へと通される。

 そこは30畳はあろうかという大広間だった。 天井はおよそ3分の2が3階の天井まで吹き抜けになっており、部屋を入ってすぐ右には木製の10人がけの長四角のテーブルがある。 テーブルのすぐ後ろには2階へ続く階段がある。 部屋の中央より少し奥側に4人がけの丸テーブル、左側には壁に沿って大きな長いソファー二つ置いてある。 床は石造りであったが部屋の左側半分は素朴な感じのするじゅうたんが敷かれていた。 ここは確かに普通の住宅というよりも合宿所というかそんな感じがした。


「えと、お茶入れるわね。 好きなところ座って?」


 弓に勧められてリトは丸テーブルの一つの椅子に腰掛けた。

 弓は部屋の右奥の方に進み左の部屋に入った。 どうやらそこは台所らしい。 カチャカチャと中でお茶を入れる音がする。


 リトはぐるりと部屋の中を見回した。

 丁寧な石造りの家である。 窓から入ってくる光でとても明るくて暖かい。 一瞬冷たそうに見える石の壁もよく見ると年月が経ってやわらかい色になっていた。 二階側を見ると登ってすぐ廊下があり、廊下に沿って部屋のドアがいくつか見えた。


「階段を上って右側の一番奥の部屋が私の部屋」


 そう言いながら弓が盆にチョコチップクッキーと一緒にハーブティーを入れて持ってきた。 リトの前にティーとお菓子を置く。


「広さは白の館の部屋と同じくらいかな。 3階までいけば空いている部屋もあるけど、どうする? どっちに寝る? 私の部屋でも他の部屋でもいいけど……」

「あっ、弓と一緒でいい」


 リトは迷わず言った。 やはり不安である。

 しかし弓は素直にとても嬉しそうだった。

 リトはハーブティーを飲む。 爽やかな香りが口いっぱいに広がった。 そしてクッキーに手を伸ばす。 ふわっとしていてサクっとしていて口の中でとろけていくとても美味しいクッキーだった。


「おいひ♪ 弓が作ったの?」

「うん。 良かった。 口にあうか心配してたんだ」 


 弓も一口頬張る。。


「弓の料理、みんな美味しいって言わないの?」

「言ってはくれるんだけどね、食べ盛りの男の子ばっかりでしょ、食べられるなら何でもいいって感じで食べちゃうからいまいち実感がわかないの」


 そんなもんなのだろうか、とリトは思った。 こんなにおいしいのに!

 こうして甘いお茶とお菓子を食べていると部屋中がふんわりと甘く柔らかくとても家庭的な雰囲気がした。

 しかし館の中には他に人の気配は無い。 確か孤児院のはずだからもっと人がわさわさいると思っていたのだけれど。


「ここ、何人で住んでいるの?」


 リトは思わず尋ねた。


「えと、アリドが家出中だから私を入れて7人かな」

「……そっか。 そうだったね。 アリドは家出中なんだ。 どうしてアリドは家出したの?」

「ん〜」


 弓も答えに困っていた。


「何か考えるところがあるみたい。 巳白は知っているみたいなんだけど……」


 巳白で思い出した。


「あっ、あのさ、弓、気を悪くしないでね?」

「ん?」

「ここに、異生物の人って何人……いるの?」


 弓はそんなことか、という表情で笑った。


「気を悪くしたりしないわよ。 ……えと、異生物って言っても翼族しかいないんだけどね。 正確には翼族と人間のハーフしかいないわ。 二人よ」

「巳白さんがハーフなの?」


 リトは当然だけどと思いながらも確認した。


「うん。 後でみんなを紹介するわね」


 弓は微笑んだ。

 7人か。弓を除いて男が6人。何とも想像がつかない生活である。


 7人?


 リトはふと考えた。

 確か木曜日、祭への参加者は弓が申請したのは8人ではなかったか。八を九に誤魔化すことはできると言っていたから間違いない。


 

 あと一人は誰だろう?

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