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第28話 アリド逮捕

 いきなり、来意が真っ青な顔をして立ち上がり、扉の向こうを見た。

 椅子が後ろにガタンと音を立てて倒れ、部屋にいたボルゾン軍隊長達全員が来意に注目する。


「どうした? まだ面接は終わっては……」


 ボルゾン軍隊長は言い終わる前に表情を厳しく変えた。 そして同じように扉の方を見る。

 微かに、何者かが急いで駆けてくる気配がした。

 来意の表情を見て緊急事態が起こったことを察した羽織達も立ち上がって扉の方を見る。


「たた、大変です!」


 扉をぶち破らんばかりの勢いで兵士が入ってきた。 


「どうした!」


 ボルゾンが大声を上げて立ち上がる。


「オ、オルゴールを持っていたアリドが、自分が山賊であると白状しました!」


 面接員達はざわ、と声にならない声を上げた。 きりり、と来意が唇を噛む。


「して、ヤツは?」


 身を乗り出してボルゾンが尋ねると兵士はあわあわと手を振りながら言った。


「だ、ただいま、一個分隊で、かく、確保しようとしておりますが、抵抗しまして、逮捕できていません、へ、兵士にも多数ふ、負傷者が……!」

「なにおっ! それでもテノス国軍兵士かっ! もう一個班応援にやらんか! 国軍の意地にかけてもかならず引っ捕らえい!!!!!! 俺も行く!」


 雷のような怒号を放たれ、兵士が慌てて部屋を出て行く。

 ボルゾンは背後に置いていた剣を身につけると陽炎隊を見て言った。


「お前達も来い! 特技試験を実践で行う」


 羽織達は部屋を飛び出していったボルゾンの後に続いた。

 そのころ、巳白は教会の屋根の上で東地区と白の館の方を交互に見比べていた。 にわかに白の館が騒がしくなると軍隊がもう一個班飛び出していき、後を追うようにボルゾンが馬で駆け、羽織達がその後ろを東地区の方へと走っていった。

 巳白は翼を大きく広げると勢いよく屋根を蹴り、大空へと舞った。 くるりと一回転をしてそのまま獲物を狙う鷹のように一直線に陽炎隊の側へと下っていった。 


「つかまれ!」


 巳白が背後から叫ぶと、待っていましたとばかり巳白の右腕を来意がつかみ、来意の腕を羽織が掴んだ。 同時に清流も片腕で世尊を掴むとふわりと飛んで巳白の首にしがみついた。

 四人をぶら下げて巳白はスピードを落とすことなく空高く舞い上がり、ものすごいスピードで風に乗って東地区へと向かった。



 

 現場は兵士と見物人で黒山の人だかりだった。

 アリドは襲いかかってくる兵士を次々に避けては相手の間接を外したり兵士同士をぶつけたりしていっこうにつかまる気配は無かった。 アリドの大立ち回りに次々に見物人が集まりふくれあがる。 中央に近づくことすら容易ではなかった。


「アリド!」


 天から、声がした。

 アリドは空を見る。 四つの影が空から振ってくる。

 羽織達だ。

 羽織達は巳白から手を離し、大騒動のまっただ中のその場所に降りたった。


「いよぅ。 お前ら。 ひっさしぶり」


 アリドは機嫌良く手を挙げた。 その手が後ろから襲いかかってきた兵士の頭に当たり、兵士は目を回して倒れる。


「こ、これは……」


 羽織達は周りを見て声を無くす。


「ええい、どけどけい!」


 そのとき、周囲の人混みをかき分けボルゾン軍隊長が馬に乗って駆けて来た。 ヒヒヒインと馬がいななきアリドと対峙してボルゾンは停まる。

 馬の上から辺りを見回す。 血こそほとんど流れていないものの、多くの兵士達が間接を外され脳しんとうをおこして倒れていた。


「……これは、おまえが、やったのだな?」


 ボルゾンが尋ねる。

 アリドはフフンと鼻を鳴らして、えらそうに腕組みをする。


「軽い運動にはなったぜ?」


 軽い、か。 兵士達は30人以上いた。 それを難なくたった一人で……とボルゾンは不謹慎だが感心した。


「これはどうしたことですか?」


 そのときボルゾンの背後から人混みをかき分けてラムールがやってきた。


「アリド!」 


 ラムールが驚いてアリドと周囲に倒れている兵隊を見る。


「いょー。 ラムール教育係サマ。 ごきげんうるわしゅう♪ 今日も相変わらずお利口そーで」


 アリドかからかうように笑う。

 それを聞いてラムールもフッと鼻で笑い冷たく言った。


「次に悪さをする時は手加減は無いと思えと言ったはずだが?」

「あぁー♪ そんなこともあったかな♪ で、どーするの?」


 ぴりぴりと周囲に緊張が走る。


「そのまえに一つ尋ねよう」

「何だよ?」

「お前が南の森で山賊となり人を襲って人様の物を奪ったのは間違いないのだな?」


 アリドはヘヘッ、と笑った。


「ま、ね♪ やっぱりオレを育ててくれた本当の親は山賊だったって訳さ」


 来意が聞きたくなさそうに目をつぶり辛そうに首を横に振った。


「ならば話が早い」


 ラムールはよく通る声で言った。


「ボルゾン。 確か陽炎隊は自警団ランク審査中だったですね? このまま、実技として審査をしていただいてもよろしいか?」


 ボルゾン軍隊長はにやりと笑った。


「それは俺としても願うところだ。 陽炎隊は強いが、知り合いの悪党に情をかけるようでは認められん」


 悪党、と聞いて羽織が反論しようとするのを来意が制した。


「さぁ陽炎隊よ、ヤツをみごととらえてみよ!」


 ボルゾン軍隊長がアリドを指さす。

 羽織達はぐっ、と詰まる。

 最初に一歩踏み出したのは来意だった。 羽織が呼び止める。


「来意!」 

「……アリド自身が認めているんだ。 捕まえない理由は……ない」


 来意は重い口調で言った。


「ほー♪ 来意かぁ。 マジでやんの? お前は勘はいいけど、その勘じゃオレは捕まえきれないって思うけどなあ」


 アリドが楽しそうに言った。 ラムールが頷き、羽織達に向かって言った。


「世尊。 羽織。 清流。 何をためらっているのですか? あなたたちは自警団、陽炎隊でしょう? 共に生活した相手かもしれませんが、だからと言って悪さをしたと認めている相手を放置するようでは一流にはなれません」


 そして一呼吸、おく。


「アリドを捕らえなさい。 これは、命令です」


 その言葉に反応して、羽織と世尊が意を決したように一歩前にでる。


「やっぱりなぁ。 名誉兵士を父親に持つ羽織と手柄立てたい世尊じゃそーなるわなー」


 ひやかすアリドを二人は辛そうに見つめる。

 清流は冷ややかな顔つきでみんなをみていた。


――ぼくは兄弟を捕まえたくもないし、ラムールさんの命令に従うつもりもない――


 言葉に出さずとも、その片目が、はっきり伝えていた。


「お? 清流は戦線離脱か?」


 アリドがひやかす。

 すると清流の横にふわりと巳白が降りたった。


「兄さん……」


 清流が巳白を心細げに見る。

 巳白は清流を厳しい表情で見ると、ゆっくり言った。


「ラムールさんの命令は、聞くんだ」

「……それは……兄さんの命令?」

「そうだ」


 はっきりと答える巳白に清流はおおきなため息をひとつつき、頷いた。

 清流が一歩前に出る。


「ヒュウ♪ さっすが清流は巳白の言うことならよく聞くなあ♪」


 アリドが口笛を吹く。 そして巳白を見る。


「巳白はオレの唯一の友達だと思ったんだけどな?」 


 巳白はアリドを見つめ返して言った。


「俺もそう思っていたけどな?」


 二人は目を合わせて、嬉しそうな、泣きそうな、複雑な表情で笑った。


「さあって陽炎隊のヒヨッコと対戦かぁ〜。 お前達がオレを捕まえきれたらオレの負け、オレが逃げ切れたらオレの勝ちって訳だ」


 アリドは四人を見回しながら腕を回して言った。


「アリドを捕まえるだけなら、あんまり難しくないんだよ」


 来意が言う。


「僕の勘なんて必要ないくらいさ」


 そう言いながら世尊の腕を掴みアリドを中心に据えたまま、羽織達と対角線の場所、つまり、アリドの背後へと回った。


「羽織と世尊が前と後ろから飛びかかればすぐ終わりだよ」


 そう言って来意は世尊の背中をポン、と押す。


「うっわー、うさんくせー」


 アリドがちらりと背後を気にしながらぼやく。

 アリドが正面を見ると、羽織も意を決したようにじっとこちらを見つめている。



「いくぞ?」


 羽織の小さな一声が合図だった。

 羽織と世尊が放たれた矢のような勢いで一直線にアリドへと向かう。

 羽織の手が伸び、アリドを掴もうとする。 だが一瞬にしてアリドの姿が消え、羽織と同じようにアリドを掴もうと手を伸ばしている世尊が現れる。 このままではぶつかると思いきや、羽織は世尊の肩に手をつき前転の要領でスパン、と空に舞った。 世尊は羽織が飛びやすいように身を丸めながら前に回った。

 世尊が回転しながら地面の影を見る。 左斜め前方に丸い小さな影がぽつんと落ちている。


「左か!」


 そう言うと世尊は回ったままの勢いを殺さずに一、二歩進むと、そこで両手をお腹の前で組んで踏み台を作って待っていた来意の手を足場に、空高く飛んだ。

 そころが空に、アリドの姿は無い。

 羽織は前転しながら空を見、アリドの姿が無いのを確認する。


「甘い!」 


 背後からアリドの声がする。

 アリドはなんということか、羽織と世尊がつかみかかろうとしたその一瞬で身をかわし羽織の背後に回ると羽織の背後という死角で羽織と同じように前転していたのである。

 羽織が地面に足をつくや、ほんの一瞬先に回転し終わっていたアリドが羽織の体を六本の腕で掴むと足場のように思い蹴り上げて宙に舞った。

 アリドの姿は宙に浮かんで無防備だった。


「いまだ清流!」


 来意が叫ぶ。

 来意の声に反応して清流が両手を地面にかざすと叫んだ。


「緑螺旋!」


 すると地面に生えている名もない雑草が細く伸びて蔓のようにからまりあいながら、獲物を襲う蛇のようにうねりながらアリドへと向かっていく。 清流の手の動きと連動して先が5本に別れ、緑の螺旋型の手がアリドを掴もうと空高く伸びた。 

 ところがアリドの表情は落ち着いていた。 こともあろうか捕まえようと襲いかかる蔦を蹴って捕まるものかと空中で二度三度高く飛ぶ。

 その時アリドの視線がちらりと空中の一点を見た。

 と同時に来意が世尊に言った。


「世尊! 左後方にナイフ!」

「は?」


 と、いいながらも素早く世尊は左後方の空の何もないところに向けてナイフを投げた。 案の定ナイフは何にかすることもなく飛んでいき街路樹につきささる。

 ところがアリドの顔色が変わった。 すると今まで襲いかかる蔓を蹴り逃げていたアリドが観念したかのように抵抗を止めた。

 蔓がアリドの体を包み体の自由を奪う。


「羽織。 切って」


 清流が羽織に言うと羽織は剣を抜き蔓を切った。

 アリドが落ちてくる。 羽織がジャンプして受け止めようとしたが、ラムールが制止した。


 ドサリ。


 鈍い音を立ててアリドが兵士達の囲む地面に落ちた。


「こ……このやろう!」

「やっちまえ!」


 兵士達が身動きの取れないアリドに、仲間がやられた仕返しだとばかりに殴る蹴るの暴行を与えた。


「やめ……」


 羽織達の顔色が変わる。 兵士を止めようと手を伸ばす。


「私がいきます」


 それを制したのもラムールだった。 


「縄を」


 ラムールはそう言って近くの兵士から縄を取るとアリドに近づく。

 アリドは無抵抗のまま殴られて、体中あざだらけになってぐったりしている。 ラムールは倒れているアリドに優しい言葉ひとつかけず、まず足に縄をかけ、緑螺旋の蔓をいとも簡単に指先で弾いて切りながら六本の腕をそれぞれ対に縛って身動きがとれないようにきつく縛り上げた。

 更にぶつぶつと呪文を詠唱すると縄が暗黒色に光り妖しげな文字を浮かび上がらせた。


「今のは?」


 ボルゾン軍隊長が尋ねた。


「力を制御する呪文を縄にかけました。 この縄で縛られている限り力は必要最低限……赤子ほどしか出すことはできません。 これならいくらこの荒くれでも逃げ出せないでしょう」


 ラムールとそう言うと縄の端をボルゾンに渡した。


「連れて行け」


 ボルゾンはそれを分隊長に渡す。 分隊長はアリドの縄を馬の鞍に結びつけると


「見せしめだ」


 と言ってぐったりしているアリドをそのまま引きずって進み出した。

 アリドが引きずられている姿を唇を噛みしめながら見送る羽織達に、ボルゾンが言った。


「合格。 ランクはDだ」


 そして彼も馬に乗って去っていく。


「あなたたちはいったん、家に戻りなさい」


 ラムールもそう言って、その場を後にする。


「最低だ」 

 清流がそう言って、地面を蹴った。

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