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第27話 捕まってやるつもりは無いぜ

 競技場で自警団ランク分け審査を受けるのは陽炎隊だけではなかった。 他に二組、審査を受けることになっていた。

 「さぁて、ここからオレたちの伝説が始まるんだぜ」と妙に気取ってるのは世尊だった。 まずは身体と体重を測定され、一番最初に提出されたものとほぼ代わりがないかチェックされる。 次に体力測定。 そして筆記試験。 筆記試験は一般問題と適正テスト、心理テストで、よほど異常が認められない限り楽にクリアできるものであった。 彼等はすべての試験を終え、残された面接が行われるまでの間、控え室でくつろいで待っていた。


「うわー、オレ、鉛筆持つのって久しぶりすぎて新鮮だったぜ〜」


 そう言って鉛筆をくるくると回して遊んでいるのはこれまた世尊だった。 羽織がそれを見ながら来意に尋ねた。


「どうかな? 来意? 平気だよな?」


 半目を開けて瞑想しながら来意が答える。


「自警団ランク外になるってことは無いと思うけどね」


 それを聞いて清流も手元の草をこよって遊びながら呟いた。


「正直、ぼくたちで心配な面があるとすれば心理テストなんだけどね」

「言えてる」


 四人はふふふ、と笑う。 四人ともそれぞれ「普通ではない」人生を送ってきた。 そして「普通ではない」目的の為に自警団も結成した。


「面接でさ、どうして自警団を作ったのですかって尋ねられたら、ぼくはどう答えようかなぁ」


 清流がため息混じりに三人に問いかける。


「そんなもん、国の役に立ちたくて!と言えばいいだけじゃん」


 世尊がからっと言い放つ。


「そんなこと微塵も思っていないからねぇ」

「清流。 その一言を言わなければ大丈夫だよ」


 そう来意が釘をさす。

 その時、待合室の扉がノックされて兵士が顔を出す。


「次、陽炎隊の皆さんの番です。 隣の部屋へ行かれて下さい」


 四人は立ち上がり、隣室へと向かった。

 隣室には書類の置かれた長テーブルに、軍隊長ボルゾンが中央に座り、その両脇に2名の男、背後のテーブルに書記係が座っていた。


「失礼します」


 一礼して来意が先頭きって部屋に入る。 続いて羽織、世尊、清流。 それを見て軍隊長ボルゾンがおや?と声を出す。


「確か――長い黒髪の――」


 手元の資料をペラペラとめくりながら四人を上から下まで見る。


「そうそう、羽織とやら。 お前が隊長ではなかったか?」


 他の面接官二人の視線も羽織に注がれる。


「羽織が陽炎隊隊長に間違いありません」


 答えたのは来意だった。


「ならなぜ先頭で入ってこない?」

「陽炎隊のフォーメーションはいつもこの並びですので。 この並び方が一番効率が良いからです」


 まるであらかじめ台詞が用意してあるかのようにすらすらと来意が答える。 実際は一番入退室時の礼儀作法に詳しいのが来意だったからなのだが。


「いついかなる時でもすぐ事が行える体勢である、いいことですな」


 ボルゾンの右となりの男が頷いた。

 その時、一人の兵士が慌てて駆けて来て、ボルゾンに駆け寄った。


「し、し、失礼します! 緊急ですので、失礼します!」


 兵士は声を裏返しながらボルゾンの耳元で何やら囁いた。


――先日のオクナル家被害の盗難品が発見されました


 来意にはそう勘じられた。 人の数倍の聴覚を持つ清流をちらりと見る。 清流の様子に変化は無い、――なら僕の勘どおりだな、と来意は思う。

 ボルゾンは少し考えて兵士に耳打ちする。 それを聞いて慌てて兵士は部屋を後にする。

 兵士がいなくなるとボルゾンは言った。


「先日、山賊に盗まれた品物が見つかった。 もしかすると山賊退治をしなければならんかもしれん。 今、本当に山賊なのか確認中だ。 もし、退治するときは力を貸して貰えるか?」


 来意の背筋に、嫌な電流が走った。

 一人離れて世尊が堂々と自信たっぷりに答える。


「それは勿論!」



 ボルゾンは、頷いた。

 





 さてその頃、雑貨店では二代目がオルゴールの修理を終えていた。

 ゆっくりとその緑色の箱を開ける。


 ポロ、ポロロロ……


 まるで天使が弾くハープのように美しく流れるような音楽が部屋に響く。 これを聴いていると体の疲れが溶けていくような、心が洗われるような、いつまでも聴いていたい音色だった。

 二代目は机を蹴り、キャスター椅子に座ったまま部屋の中をシャーッと移動すると、本棚から一冊の本を取り出し再び本棚を蹴り椅子のまま机に戻る。


「やっぱりアリドさんはすごいや〜。 こんな珍しいの持ってるんだからなぁ」


 そう言いながら本をめくる。

 確かこれに載っていたはずだ。 緑の花模様が鮮やかだったのでピンときたのだ。 最も斜め読みした程度だったので、貴重なもの位にしか覚えていなかったが。

 本の中盤でめくっていた手が止まる。 そこには見開きで両側に一つづつ、同じ緑の花模様の自動巻オルゴールが描かれていた。


「えーっと、なになに? 時計技師ブランが初期に制作した物である。 自動巻オルゴールの先駆け。 2つで対になっており……」


 二代目はその先に目をやって動きを止める。


「……手作りで一つしか作成されていないため、非常に希少価値がある。 市場に出回ることはまず無い、幻の一品」


 視線をずらして自動巻オルゴールを見る。


「……マジ?」


 高揚する胸を静めるように深呼吸して、ゆっくりオルゴールを手にしそっと箱を見回す。

 箱の底にブランのサインがある。


「はぁあ……」


 感心して唸る。 さすがアリドだ、とんでもない物を持っている。 どうやって手に入れたのか。

 その時、店の方でカランカランと勢いよくドアが開き、ぞろぞろと大勢の人間が入ってくる気配がした。

 思わず二代目はそっと部屋の扉を開けて店を覗く。

 父親の服の裾しか見えない。

 しかし会話が聞こえてくる。 

 二代目は、耳を澄ませた。


「この手配書の品に間違いないんだな?」

「ええ、間違いありません」

「ヤツが自分で持ち込んだんだな?」

「自分のだと言ったのだな?」


 二代目は、心臓の鼓動が体じゅうに響く。


「軍隊長は連行するようにとのことです」 


 二代目は目を閉じた。 額に脂汗が出る。 二代目はそっと扉を閉めて机の前に立ちつくす。 膝ががくがくと震える。


「山賊が出てオクナル商人が大損害……ってのはきいていたけど……」


 二代目はまばたきすることすら忘れたかのようにじっと箱を凝視する。


「アリドさんが、あの山賊……?」


 信じられなかった。



 

 アリドが小さい頃山賊に育てられたというのは有名なの話なので知っていた。

 二代目は、1年ほど前、父親に嫌気がさし家を飛び出して西地区に紛れ込んだ事がある。 その頃アリドはまだ西地区で顔は売れていなかった。 二代目はとある小さなグループに入れてもらい、毎日、ケンカや恐喝、盗みをくり返していた。

 その頃西地区では総元締めという輩がいて、毎日各グループはみかじめ料として一定の金か物か女を上納するきまりになっていた。 ノルマは厳しく、達成できなかった者は殴る蹴るの暴行を受けて当然だった。

 親が嫌で家庭が嫌で大人が嫌で入り込んだ、何の制約も無く自由でパラダイスのはずの西地区は一度入ったら逃れられない地獄のようだった。 ノルマを達成するために子分に無理をさせ、上役のご機嫌を伺う。 気をぬけばいつ陥れられるかもしれない、一時たりとも気の休まらない、そんな所だった。

 アリドはその頃、西地区の女を次々にモノにしていってた。

 二代目がアリドと会ったときも女が側についていた。 

 あれは確か、上役からリンチを受けそうになっていた時だった。 『ゆ、許して下さい!』と泣き叫んだが許して貰えず鉄パイプを持った上役達に囲まれた時だった。


『うっるせぇぞ!』


 と、すぐ側のホテルの窓から声がして、ベッドが落ちてきた。 ベッドは上手い具合に二代目と上役達の間に落ちて、上役がなんだなんだと上を見ると、美しい女二人を両脇に抱いて、今まで見たこともない、あざやかな褐色の肌で六本の腕を持ったアリドが金髪を太陽の光に反射させながら現れたのだった。


『こちとらお楽しみ中なんだよ、静かにしねーかホモ野郎!』


 とアリドが挑発すると上役達は次々に口汚く罵った。 ところが。


『ケーンカ、売ったな?』


 アリドは上役たちに罵られて、嬉しそうに微笑んだ。 両脇の女を部屋の中に突き飛ばすとひらりと窓から飛び降りた。

 確かあのときは3階からではなかったか。

 予想しない行動に驚いて思わず固まってしまった上役達に、アリドはにっこり笑って言った。


『買った♪』


 その時いた上役5人を鮮やかに殴り倒してしまうのはほんの数秒間の出来事だった。

 二代目はその時以後、アリドに惚れ込んでいつも後をついていくようになった。

 二代目の仕事はアリドが命令したときに食事を作ったり、風呂をわかしたり、パシリ等だった。 とはいえアリドは不定期に現れて不定期にいなくなるので二代目はこきつかわれても負担では無かった。 

 アリドはいつも女遊びをしていた。 その腕たるや、二代目は声だけ聞いても羨ましくてたまらなかった。 そして少しずつ、アリドの周りに二代目と同じような者達が集いだしてきた。 アリドはみかじめ料などは要求しなかったし、自分達のやることに文句も言わなかった。 しかしどうしようもないピンチの時や、これはいきすぎてしまうというような時、アリドはしらっとみんなの注意を逸らしたりして、上手く回るようにしてくれていた。

 アリドはみかじめ料の事を知らなかったので、ある日総元締めのグループから呼び出しを受けた。

 アリドは『へー。 そんだけ納めリャいいんだ』と気軽に答えていた。

ところがアリドは呼び出しを受けた後も悠々として、金を集める気配はなかった。 どうなるんだろうと思っていたら、上納の日、何事も無かったかのようにルンルンとして帰ってきた。

 話をきくと、総元締めの態度がなんだか気にくわなかったので払う気を無くしてケンカして帰ってきたらしかった。 総元締め達すべてを力でねじ伏せてきたのだ。 それでは今度の総元締めはアリドさんですか、と尋ねたら、俺は人の上に立つのは好きじゃないし毎日上納金を持ってこいとかの管理も苦手だ。 今のままの気楽な立場がいいから遠慮する、ときたものだ。

 ところが今までの総元締め達は逆に困ってしまった。 アリドに媚びへつらう材料がどこにもないのである。 金もいらない、薬もいらない、女にも不自由してないアリドの希望はただ自分の好き勝手させろ。 邪魔するなら容赦はしないときたものだ。 それこそケンカがあっていても黙って見過ごすこともあればほんのちょっと恐喝していただけで”何となく気に入らなかった”ひどいときは”ムシャクシャしていた”という理由だけで、その時に気の向いた側の味方になって暴れ回るのだからタチが悪い。 ただ、どうやら不利な立場の相手を加勢したくなるタイプのようだった。

 自由気ままに出来なくなった総元締めらはもっと住みよい所にと他の土地や国に行ってしまった。 相変わらず西地区は盗みや恐喝、暴行にケンカと荒れてはいたがとても住みやすくなったのだった。

 二代目はよくアリドに機械の修理をさせられていた。 二代目はそのうち自分が機械いじりをしていたら心が落ち着くこと気づき、そしてこの技術で未来を切り開いていけるのではないかという希望がわいてきた。 しかし自分は家を出た人間。 西地区の人間。 今更、他の土地にも行けないと落ち込んでいた。

 そんな時だった。 アリドがとても変なものを欲しがった。 車の模型をした消しゴムである。 懐かしいから欲しい。 そう言ってアリドば二代目を脅した。

 二代目は自分の家の倉庫に子供の頃買っていたものがあるのを思い出した。 殺されたくなかったら取ってこい、自分の家の物だろう!と吠えられ、おそるおそる家へと行った。 そしてそこには家を飛び出した自分には見えなかった両親の姿が見え、散々心配をかけたことや、自分はここに帰ってきたかったのだと感じたのだ。

 消しゴムを持ち帰ってアリドにこの西地区を離れたいと言うと、アリドはベットに寝ころんだまま背をむけて『あ、そ。 好きにすればいいじゃん』と、素っ気なかった。 二代目は捨てられたような寂しい気持ちがして黙ってその背中を見つめ佇んでいると『たまーに何か壊れたら修理してもらいに来るからよ、そんときはまけろよ? 治せないっつったらタダじゃおかねーからしっかり腕、磨いておけ』と素っ気なく、でも暖かく、言ったのだ。

 

 二代目はじっと、緑の花模様のオルゴールを見つめた。


 南の森で黒犬に襲われ、その後、大きな黒犬にまたがったアリドに出会ったという人は二代目も何人か知っていた。 しかしアリドは黒犬達が持っていったものの他にその場で取り上げる事はしなかった。 怪我すら殆どさせていなかった。 その話をきいて、どこか甘い、アリドさんらしい、と思ったものだ。

 ところがアリドか除籍されてからというもの、山賊に襲われて怪我人が出るようになった。 変だな、と二代目は思った。 荒れてるのかな、とか、アリドさんは関係してないだろう、と思っていた。

 ところが今ここにあるのは、オクナル商人が大怪我をした時の被害品。 そして持ってきたのは間違いなくアリド。


 どういう事?


 二代目は考えた。

 でも、どうしても、旅人に死にそうな危害を与える山賊がアリドだとは思えなかった。

 何かきっと訳がある。

 二代目はそう結論つけると音を立てないように窓を開け、オルゴールを抱え、父親達に気づかれないようにそっと窓から抜け出して隣の家との間の狭い隙間を通って表側へ行き、覗いてみる。


――どうにかして兵士達より先にアリドさんに会って、本当のことを聞くんだ。 そしてもし、もしこのオルゴールがアリドさんの不利になるようなものだったら、こっそり捨ててしまっても良い。


 二代目はそう思っていた。


「!」


 なのに、何という悪いタイミングなのだろう。 アリドが正面の道を通ってまっすぐ店に向かってくるではないか。 二代目はただ慌ててアリドのもとへ駆け出した。


「いよぅ。 どうした?」


 血相変えて裸足で走ってくる二代目を見て、珍しい物を見るような、面白そうな顔をしてアリドは手を軽く挙げた。

 二代目はもう少しでぶつかりそうになりながら何とか止まり、オルゴールの箱をぶるぶると震える手で持ち上げた。


「あ、あの」


 息が詰まり二代目は舌がまわらない。


「どうした? 修理できなかったか?」


 アリドはしかめ面をしながら尋ねる。 二代目は首を横に振る。


「と、とにかく……」


 かすれた声を出しながら二代目はアリドの腕の一本を掴んで店とは反対方向へ引っ張った。


 こんな店の真っ正面じゃすぐ兵士に見つかってしまう!


 とにかく見つからないうちにどこか別の場所へと二代目は手を引いた。

 だが、背後で、カランカランと店の扉が開く音がした。




 扉の音に二代目はすくみ上がった。

 二代目の反応を見てアリドも店の方に目を向ける。


「アリドだな?テノス国軍だ。」


 そう言って兵士達が10人ほど近寄って来てアリドを取り囲んだ。

 アリドは少し不機嫌そうな顔をしながら兵士達の顔を眺め回した。


「何の用だ?」


 アリドは早く終わらせてくれといわんばかりのぞんざいな態度で尋ねる。 分隊長が一歩前に出て近づくと、二代目の手から自動巻オルゴールの箱を取り上げた。


「なぁに、一つ尋ねたいだけだ。 この自動巻オルゴールをここの雑貨店に持ってきたのは、お前か?」

「何で答えなきゃなんねーんだよ」


 アリドは気だるそうに首を回した。


「いいから答えるんだ!」


 背後で別の兵士が叫ぶ。 二代目はがたがたと震えていた。

 後ろで威勢の良い兵士と、真っ青な二代目を見比べてからアリドは耳を指でほじりながら答えた。


「あー、オレだけど?」


 ごくり、と兵士達が唾を飲んだ。

 分隊長が続けて質問をした。


「このオルゴールはお前のか?」

「そゆこと」

「いつ手に入れた?」

「つい最近」

「どこでだ?」

「ひみーつ」


 兵士達がざわめきあう。 分隊長がじっとアリドを見つめながら尋ねた。


「もっと詳しく話を聞きたい。 本部まで来てくれるかな?」


 兵士達が半歩、間合いを詰める。


「はぁ? 嫌だぜめんどくさい。 オレ忙しいから協力する気、全くねぇから。 何でもいいや、オルゴール返して貰うぜ?」


 アリドは指先についた耳かすをフッ、と吹き飛ばし、その手で分隊長の持つオルゴールに手をのばした。


「これは渡す訳にはいかない」


 分隊長は手を引き、オルゴールを渡さなかった。


「何だっつんだよ……」

「アリド、もう一度きく。 これはお前のなんだな?」

「何回も何回もウルセーな? オレんだって言ってんだろうか。 おーれーんーだ。 分かったかボケ」 


 かなりイライラしてアリドは返事をする。


「アリド。 お前を山賊強盗の罪で取り調べる。 素直についてこい。」


 分隊長がぴしりと言った。


「はぁ? 何で?」


 アリドは間の抜けた声を出した。


「アリド。 今回ばかりは足がついたな。 このオルゴールは――先日、山賊被害にあったオクナル商人の物だ!」


 へっ?とアリドが微かに漏らす。


「ち、ちょっと待てや? こんなオルゴールどこにでもあんだろが?」


 アリドの問いに「いえ……アリドさん、これは世界に二つしかない貴重品なんです」と、二代目が小声で教える。


「そうだ! 世界に二つしかない、正確に言うとオクナル商人いわく、オクナル家にもうひとつはあるそうだから、外には盗まれたもう一つしか存在せんのだ!」


 分隊長が大声で付け加える。


「ア、アリドさん、これ、拾ったんですよね?」


 二代目が必死に助け船を出す。


「アリドさんはよく南の森を散歩するのが好きじゃないですか? 拾ったんでしょ? だからアリドさんのだって言ったし、どこで手に入れたかとか言わなかっただけでしょ?」


 ふむ、と分隊長が唸る。 

 アリドは真ん中の腕で腕組みをして何か考えているようだった。


「それって、オクナル商人のモンに間違いねぇ訳? そっくりのコピー品とかどっかのみやげ品とかじゃねぇ訳?」


 下の右腕でオルゴールを指して尋ねる。


「それは修理した僕が分かります。 間違いないです。 あれはコピーとかじゃなくてオリジナルです。 だから……」 


 二代目が泣きそうな顔をしながら答える。

 それを聞いてアリドは一度、天を仰いだ。


「どうした? アリド!」


 分隊長が急き立てる。

 ほんの少しの間、アリドは空を見つめていたが、突然スイッチを切り替えたかのようにすっ、と顔を正面に向けて分隊長を見ると、にやっと口の端を開けて言った。


「ばれちゃあ仕方ねー」


 その言葉に分隊長以下兵隊が身構える。


「仕方ない……とは?」


 分隊長がゆっくりと尋ねる。


「あのオッサン、オクナル商人だったのか。 物取るのに夢中で全然気づかなかったぜ。 そーさねオレが盗ったんだ」


 ざわ、と周囲がざわめく。

 アリドは腕組みしていた手をほどき、腰にあてると、はっきりと言い切った。


「オレが山賊だよ」

「アリドさん!」


 二代目が悲鳴に近い叫び声を上げる。


「やるじゃんか、二代目。 お前なら簡単に騙せるだろうし気づかないだろうと思って持ってきたのにさ。 さっさと通報するあたり、もう完全に西地区と縁は切ったってぇ事だな」


 アリドが毒づく。


「アリドさん! そんな!」


 二代目が叫ぶ。


「すまねえな」


 アリドは、困ったように微笑んだ。 そして、兵隊達を見た。


「ただし、捕まってやるつもりは無いぜ」



 周囲を兵士達に囲まれていながら、アリドは堂々と言い放った。 

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