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第20話  変化鳥

 その夜。

 白の館の窓が一つだけ開き、そこから星空を見上げているリトの姿があった。

 頬に当たる夜風が湯上がりの火照った体に心地よい。

 白の館の中では少女達の楽しそうな語らいの声が壁を隔てて漏れてくる。

 昼間のラムールの入浴の話題だろう。 聞かずとも想像がつく。

 均整の取れた彫刻のように美しいラムールの上半身。

 ラムールに比べると少し幼い、デイの上半身。

 それらは少女達の眼にしっかりと焼き付いていた。 興奮しすぎて今晩中騒ぐ少女達もおそらくいるであろう。

 水遊びの最中や、運動の後など、上半身自体は過去に何度か目にしたこともあるはずなのに場所が場所のせいか、全く違ったものを見た感じなのだろう。 

 興味もあったし、つきあいがてら、リトも見学?に行き、確かに見た。 それなりに驚きはしたが、リトは全く違う事が気に掛かった。

 アリドのことである。


「アリドは……いっつも、上半身は裸なんだよね……」


 リトはぽつりと呟く。

 アリドの褐色の肌。 六本の腕。

 あまりリトの見慣れない肌の色のせいか、それともいつも上半身に服は着ていなかったせいか、今まで一緒にいて、少しもいやらしくも恥ずかしくも感じなかった。


「何してるんだろうなぁ……」


 リトは呟いた。

 アリドがみんなの前で、ラムールとひと揉め起こして去ってたからもう相当経つ。 当然、裏の世界でアリドがRとして名を売り出し始めたなどリトが知る訳もない。

 リトは、闇夜に輝く星をじっと見つめる。 まるで星からの声を聞こうとするように。

 雲一つ無い、澄んだ夜空に散りばめられた小さくきらきら光る星たち。  


 ふと。

 一部の星が何かの影で隠れた。

 雲ではなかった。 何かが星の明かりを遮った。


 何かがこちらに飛んでくる。

 まるでその部分だけ切り張りしたように微妙に空間がずれて近づいてくる。


 何?


 リトは窓から身を乗り出した。

 何かが飛んでくる。

 それは大きな大きな……黒い何か、としか分からなかった。

 リトは何故だか反射的に窓から離れると慌てて部屋の扉の内鍵を閉めた。 カチャリ、という小さな音が、白の館とリトの部屋の空間を分断した。


「いよぅ♪」


 そのとき背後の窓の外で聞きこがれた声がした。

 リトは迷わず振り返った。


「アリド!」


 そう、そこには窓の枠に足をかけているアリドの笑顔があった。

 リトは窓に駆け寄る。 アリドはひらりと部屋の中に入る。


「ちょっと待ってな」


 アリドは誰にそう言ったのか、リトに背をむけると窓を両窓とも全開させた。 そしてきょろきょろと部屋の中を見回して、外に向けて口笛を小さくヒュッ、と吹いた。

 途端にバサッ、と羽音がして窓の外から何かが部屋の中へ入ってきた。 空気がごう、と音を立てて部屋の空気をかき乱す。


「きゃ……」


 リトは思わず小さな悲鳴を上げて身構える。

 すると空気はくるくるとつむじ風を上げてふわりと弓のベットの上に降りたった。


 降りたった?


 それは霧が晴れてだんだん姿を現す風景のように、ゆっくりとその姿を露わにした。

 星空を切り取ったようなその姿から赤や黄、緑や青などのカラフルな羽毛が姿を見せる。

 「それ」の全長は馬ほどもあった。

 全体的には少し首の長い鷹のようだが、オウムのような頭の羽がある。 そして特筆すべきはまるで絵画を見ているかのように色とりどりの羽。

 「それ」は弓のベットの上で身繕いをする。

 クルル、クルル、と鳩のような鳴き声が喉もとから聞こえてくる。

 それを誇らしげに眺めながらアリドが言った。


「変化鳥っつーんだ」

「変化鳥?」


 リトがくり返す。


「図書館で調べた」

「図書館?」


 アリドの言葉にリトはくすりと笑った。 図書館で調べものをするアリドだなんてちょっと意外だったから。


「笑うなよ。 そりゃー、……図書館なんて初めてだったけどさ」


 アリドが軽くリトの頭をこづく。


「にしても図書館ってのは信じられねぇ位の本が置いてあるのな」

「そりゃあ、図書館だもの」


 そう言って、ふとアリドと目が合う。


 何だろう。

 思わず目に見入ってしまう。

 初めて会ったときのように。


 この瞬間、どういう訳か、リトには周囲の物音も何もかも感じなくなる。 見つめただけで、魂が吸い込まれるようだ。

 アリドの瞳が優しく笑う。


「んな目で……」


 アリドがそっと手をリトに伸ばそうとした時だった。


 ガチャッ!!!


 いきなり部屋のドアが勢いよく開いた。 リトとアリドは慌てて離れる。

 そして勢いよく開いたドアから飛び出してきたのは……


「アリド兄ちゃん!」


 元気のいい、やんちゃな少年。


「デイ????!」


 リトが素っ頓狂な声を上げる。

 バタン、と扉がゆっくり音をたてて閉まる。


「アリド兄ちゃーん! どーしてたんだよ? 心配した!」


 デイはロケット砲のようにアリドに飛びついた。


「いよー、デイ」


 アリドはデイの頭をくしゃくしゃと撫でる。

 リトは扉に手をかける。 確か閉めていたはずだが???


 カチャカチャ。


 ところがノブを回しても扉は開かない。


 え?え?


 リトは手元のノブとデイの姿を交互に見る。


「鍵は閉まって……」


 リトが呟いたときだった。


 ドンドンドン!!!!


 扉が勢いよくノックされてリトは飛び退いた。


「リト? どうしたの? 何かドタバタしてるけど、何かあったの?」


 ノックと共に聞こえてきたのはユアの声であった。


「どうしたの? 鍵がかかってるわよ? 平気?? 開けて?」


 ユアは扉をガタガタとゆする。


 や、やばい。 ここを開けたら巨大な鳥とアリドと王子がいる。 どう取り繕えば良いのだろうか。

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