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Hollynightに幸せを  作者: 綾部 響
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5 12月23日 サンタなんか信じないっ!

直仁達とは少し違う視線で考え込んでいたマリーに、直仁の冷めたツッコミが投げ掛けられました。

「……マリー? 何言ってるんだ?」


 直仁様の問いかけに答えたマリーでしたが、その答えは直仁様の求めていた物と大きくかけ離れていたようです。もっともこの場合勘違いをしているのはマリーであり、直仁様は先程の少年達、裕也君、義達君、真尋ちゃんが優れた気配察知能力を見せた事について質問していたのです。


「ふえっ!?」


 しかしその事に気付いていないマリーは、どうやら自身の考えに深く浸っていたようで、アッサリと直仁様に否定されて素っ頓狂な声を上げてしまいました。


「あいつらはこの施設でもトップ3に入る実力者だ。と言っても、まだまだ未熟なんだけど、それでもあの気配察知能力の高さは群を抜いてる……もっとも他の奴らも侮れないんだが、あの3人以外なら俺でも能力抜きで何とかなるんだ……」


「Oh! やっぱりあの3人は Particular(特別) だったのね? あんな子達ばっかりだったら、流石に条件をもう少し変更しなきゃいけないと思ったんだけどね」


 クロー魔も直仁様の話を聞いて合点がいったのか、両手を軽く肩口まで上げて中空に視線を向けながら軽く溜息を吐きました。“異能力” を使わなくともそれに見紛う隠密能力が備わっているクロー魔でさえ、あの少年達が見せた能力は高い物だったのでしょう。


「……つまり……あの3人を何とか誤魔化せれば、直仁もこの施設での任務を熟す事が出来ると言う事ですかの?」


 直仁様達の話を聞いて、マリーがそれらを要約して結論付けました。


「……まあな。もっとも、それが出来れば苦労はしないんだけどな。“施設” ってだけあって集団生活を義務付けられてるから子供達はいつも殆ど同じ場所にいるし、個室を与えられているとは言ってもそう広いもんじゃない。一人が気付けば殆ど3人共気付いていると考えられるからな」


 マリーの答えに直仁様が問題点を口にして小さく溜息を零しました。


「……夜中に、眠っている間に忍び込む……等と言うのは無理なのですかのー?」


 マリーがもっともな事を口にしました。かのサンタクロースも子供達が眠っている間に枕元へと忍び寄り、プレゼントをこっそりと置いて行くのです。しかしそれが可能ならば直仁様がそう悩む事はないと思うのですが……。


「……うう……ピノンは相変わらず毒舌ですのー……」


 ボックの言葉に、マリーが涙目となって落ち込んだ声を出しました。


「……ピノンが何を言ったか知らないけどな、恐らくはその通りだよ。あれだけ感受性が高いと、多少気配を消した処で近くまで行けば気付いちまうんだよ」


 能力が洗練されれば、その感受性を切り替える事も可能でしょう。しかしまだ子供である彼等はその切り替えが困難であるらしく、四六時中周囲の状況を敏感に感じ取っているのでした。これには集団生活が彼等の助けとなっており、就寝時刻には全員が寝静まる事によって彼等の安眠も確保出来ているのです。


「……むむー……」


 ボックと直仁様の集中口撃(・・)に晒されて、マリーは閉口して呻きだしてしまいました。


「……ねえー……ここで考えてても仕方ないんじゃない? とりあえずお茶を用意してくれてるって事だし、施設の中に入ってみようよ」


 足を止めて考え込んでしまったマリーにクロー魔がそう提案して先に進む事を促しました。確かに今ここでいくら考えても良策等すぐには浮かばないでしょう。


「そうだな。とりあえず明日の事は後で考えるさ」


 直仁様の言葉で3人と1匹は再び施設へと向かい歩を進めました。




「あーっ! 直仁兄ちゃんだーっ!」


「ほんとだーっ! 直仁兄ちゃんーっ!」


「あーっ! 何か女の人連れて来てるぞーっ!」


「わかったーっ! 恋人だーっ! ……でも2人いるぞ?」


「ばっかだなー。どっちかは愛人にきまってるだろー!」


 全く、子供は騒々しい事この上ないですね。もっともそれは直仁様がこの施設で人気者だからではあるのですけれども。


「……恋人……」


「あ……愛人ですとーっ!?」


 しかし今日の子供達は初めて訪れた2人の女性に注目を向けているようです。直仁様が誰かを伴って来る事も初めてならば、当然女性を連れて来るのも初めてなのです。それを子供達が騒ぎ立てない訳はなかったのでした。

 クロー魔は「恋人」と言うフレーズを呟いて心なしかニンマリと微笑んでいます。それに対してマリーは「愛人」と言う言葉に反応して目を白黒とさせていました。……まぁ、何もそこに反応しなくとも良いと思うのですが……。


「さぁさぁ、お茶の準備が出来ましたよ。直仁君が用意してくれたケーキをみんなで頂きましょう」


 出迎えてくれたのは何も子供達だけではありませんでした。この施設を管理し子供達の面倒を見ている保父母さんの面々もにこやかに直仁様達を迎え入れてくれ、纏わりついて離れなかった子供達を「魔法の言葉」で散らせてくれたのでした。ケーキと聞いた子供達が、玄関の先にある大広間に用意されているケーキへと群がっていきました。

 この保父母さん達もただの(・・・)世話係ではありません。政府が派遣している「異能力研究所」の職員であり、子供達の世話をしながらその機微(きび)(つぶさ)に監視しているのです。勿論愛情を持って接している事に変わりはありませんが。


「……そうか……今年は直仁君が……」


 今回この第1施設を回る旨を責任者である院長に話すと、彼はその表情を曇らせて小さな溜息と共にそう呟きました。


「……今年は人手不足な様なんだ……。力不足だと思うが協力して欲しい」


 直仁様が顔を翳らせた院長にそう付け加えました。確かに直仁様では能力も無しにこの施設へ忍び込み、子供達へプレゼントを配るとなるとどうにも荷が重いと言わざるを得ません。


「……違うんだよ、直仁君。例え君でなくとも、今年は特に困難が予想されていてね。知っているかもしれないが特に裕也、義達、真尋の3人は能力の成長が著しく飛び抜けていてね……。今年は一流の “異能者” をと政府に掛け合っていたんだが……」


 院長の言葉にボックは合点がいきました。だからクロー魔が選ばれたという事なのです。彼女の “超一流” である隠密能力(スニーキング・スキル)ならば、彼等を出し抜けることも可能かもしれません。直仁様もその事に気付いたのか横目でクロー魔を睨み付けていますが、当のクロー魔はどこ吹く風で黙々とケーキを頬張っています。


「……それに少し問題も発生してしまっていてね……」


 院長は更に困ったような表情を浮かべ、こめかみを掻きながらそう続けました。その真意を直仁様が問い質そうと口を開けた瞬間、隣の大広間からその答えが飛び込んできました。


「いーやっ! いないねっ! ぜーったいいないっ!」


「いるっ! いるもんっ! サンタさんは絶対いるんだからっ!」


 どうやら子供達はサンタクロースがいるか、いないかで揉めているようです。小学生も中学年となれば、それは避けて通れない問題なのかもしれません。


「安田君が言ってたもんねっ! サンタさんは実はお父さんだったってさっ!」


「そ、それは安田君の(うち)だけの話でしょっ!? ってゆーか安田君って誰よっ!?」


「安田君だけじゃないもんねっ! 木田君だって吉田さんだって、みーんなそう言ってるもんねっ!」


 どうやらサンタいない派の子は、クラスメートの友達が言っていた話を元にそう言っているようです。


「まぁまぁ、落ち着けよ。それは今年ハッキリするんだからさ」


 その口論を仲裁に入ったのは聞いた事のある声の少年でした。


「裕也の言う通りだよ。今年は僕達がバッチリ確認してやるからさ」


 裕也君の言葉に同意したのは義達君に間違いないでしょう。


「そんな簡単に安請け合いして……どうせ二人ともすぐに寝ちゃうんでしょ?」


 そんな二人を(たしな)めるように言葉を挟んだのは真尋ちゃんでした。その的を射た意見に二人の少年も即座の反論は不可能の様でした。


「だ……だからさ。真尋も手伝ってくれよな」


 裕也君の言葉に、周囲の期待に満ちた目が真尋ちゃんに注がれているのがその場に居なくても解ります。


「……わ……わかったわよ、もう……」


 そして折れたのは真尋ちゃんの方でした。しっかり者で頼み事を断れない性格なのでしょう真尋ちゃんは将来「良い女」になる事請け合いですね。


「……これなのです」


 そして院長は再び溜息を吐いてそう呟きました。確かにただでさえ気配に敏感な三人が寝ずの番をするとなると、その難易度は格段に跳ね上がってしまいます。


「何か良いアイデアでもあれば良いのですが……」


 そうは言っても簡単に対応策など浮かびません。直仁様とマリーは眉間に皺を寄せて考え込んでしまいました。


問題が問題を呼んで、直仁にとってこのミッションは難易度がさらに跳ね上がってしまいました。

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