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乾坤一擲パイルバンカー♂  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】英雄の卵編
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06:二人の少女

「大丈夫か?」


 ラスティスが近付いてそう声を掛けると、フィオニーとエリザの二人は緊張していた肩から力を抜いた。


 彼女達にしてみれば、野盗達を追い払ったとは言え、見ず知らずのラスティスは警戒の対象だった。

 何しろ、助けるつもりではなく単に獲物の横取りを狙っただけかも知れないのだ。


 しかし、心配そうに問い掛けてきた彼の様子を見て、どうやら悪い人物ではないと判断して警戒を解いた二人は、彼に感謝を告げた。


「は、はい! 助かりました!」

「危ないところを、ありがとうございます」


 二人から礼を告げられ、ラスティスは照れたように頬を掻いた。


「取り敢えず、自己紹介しておこうか。

 俺はラスティス。見ての通り冒険者だ。

 それと、こっちはエルヴィだ。

 ちょっと説明が難しいんだが……」

『まぁ、精霊のようなものだ』

「おいおい」


 エルヴィの大雑把な説明に、ラスティスは引き攣る。

 しかし、幸いにもフィオニーもエリザもそれにはツッコミを入れては来なかった。


「私はフィオニー、剣士です。

 それでこっちの子が……」

「エリザです。御覧の通り、魔法使いです」

「ああ……って、怪我をしているみたいだな」

「ええ、恥ずかしいことですが毒矢で麻痺毒を受けてしまって……」

「毒!? 大丈夫なのか?」


 地面に座り込んだまま告げたエリザの言葉に、ラスティスはギョッとした。

 その様子に座り込んだままのエリザは僅かに笑みを浮かべながら答えた。


「痺れて動けないですけど、致死性ではないみたいなので大丈夫です」


 エリザやフィオニーを襲った野盗達の狙いを考えれば、致死性の毒でない理由は明白だ。

 しかし、ラスティスは敢えてそこには触れなかった。

 二人も分かっていることであるし、無理にそのことを話題に上げて思い出させる必要もないと考えたからだ。


「そうか。

 でも、取り敢えず応急手当をした方がいいだろう。

 後は、早く街に戻って念のためにきちんと治療を受けるべきだな」

「そうですね。致死性のものではないとは言っても、治療はちゃんとしないと」

「これを使ってくれ」

「ありがとうございます」


 ラスティスが取り出した治療道具を受け取り、フィオニーはエリザの脚の手当てを始める。

 彼女がローブの裾をまくり上げるのを見て、ラスティスは慌てて後ろ向いた。




 ♂  ♂  ♂




「その、すみません。ラスティスさん」


 ラスティスの背中に背負われたエリザが、少し恥ずかしげにしながらも申し訳なさそうに呟いた。


「いや、大したことはないから気にしないでくれ。

 こちらとしても、街まで案内してくれるのは助かる。

 何しろ、当初の予定とは逆方向に来てしまったし……」


 負傷したエリザにきちんとした治療を与えるためにも早目に街に戻った方が良いという話になったが、エリザは脚を怪我しているし麻痺毒も抜けていないために歩けそうになかった。

 フィオニーが背負って戻るにしても、彼女自身の戦闘能力が封じられ、無防備になってしまう。

 それを懸念したラスティスが、彼女達に同行し自分がエリザを背負っていくことを提案したのだ。

 最初は狼狽したフィオニーとエリザだったが、結局他に良い案も無かったことから、最終的には彼の案を受け入れた。


 異性の背に密着することになり、エリザは顔を真っ赤にして恥ずかしがっているが、生憎と言うべきか幸いと言うべきかラスティスからは彼女の顔は見えなかった。

 また、ラスティスの方も背中に感じる柔らかな感触に内心激しく動揺しており、それどころではなかったりする。

 ゆったりとしたローブを羽織っていたために外見からは分からなかったが、エリザはかなり肉付きの良い身体付きをしていた。


 ちなみに、フィオニーはスレンダーな体型である。

 彼女はラスティスの右側を歩いている。周囲への警戒は怠っていないようだが、ラスティスの右腕に装着されたパイルバンカーのことが気になるらしく、チラチラと視線を向けていた。


『気になるのかの?』

「ひゃい!?」


 突然後ろから掛けられた声に、フィオニーは飛び上がって驚いた。

 ラスティスは彼女の左側を歩いており、エリザはその背中。後ろを歩いているのはもう一人だった。

 いや、正確には歩いているというよりは、浮かんでいるというのが正しい。

 銀髪の神秘的な少女、エルヴィだ。


 フィオニーは精霊としか聞いていないが、パイルバンカーの精神が実体化した存在であるエルヴィにとっては、パイルバンカーをチラチラ見ていたフィオニーの行動は自分に視線を向けられているようなものだ。

 そのため気になって声を掛けたのだが、予想以上のリアクションに声を掛けたエルヴィの方も思わずビクッと身を竦めた。


『あ、すまぬ。驚かせるつもりはなかったのだが』

「こ、こちらこそごめんなさい。大声出して」

『いや、それは構わぬが、我……じゃなかった、ラスティスのパイルバンカーが気になるのか?』

「え、ええ。

 ぱいるばんかーというんですか?

 凄い武具ですよね。

 たった一撃で地面に大穴を空けてましたし。

 まるで、伝説に出てくる武具みたいでした!」


 エルヴィの素性を理解していないフィオニーはラスティスの持つ武具を褒めたつもりだが、エルヴィからすれば自分が称賛された気分になり、照れくさくなって頬を掻いた。


『ま、まぁ実際に伝説の武具だからの』

「え?」

「伝説の武具が眠る丘、エルドラリオールでコイツを手に入れた帰りなんだよ」

「「ええええぇぇぇっ!?」」


 エルヴィの言葉を補足したラスティスの発言に、フィオニーだけでなくエリザも一緒に素っ頓狂な声を上げた。

 フィオニーもエリザも冒険者であり、伝説の武具のこともエルドラリオールのことも知っている。

 しかし、そこに挑んでそれを手に入れた者など彼女達が冒険者になってからどころか、生まれてから一度も聞いたためしがない。

 最早、お伽話の類であると認識していたほどである。


 普通であればラスティスの言葉も胡散臭いと疑ってかかるところなのだが、実際に自身の目でパイルバンカーの威力を見た彼女達には嘘とは思えなかった。

 冒険者であるフィオニーやエリザでも地面に大穴を空けるような武具は見たことも聞いたことも無い。それだけに、伝説の武具であるという言葉にも信憑性があった。


「す、凄いです!

 選ばれし英雄だけが手に入れられる伝説の武具を持っているなんて!」

「あ、ああ。ありがとう」


 興奮して身を乗り出すようにして顔を近付けてきたフィオニーに、ラスティスは気圧されながらも礼を告げた。

 パイルバンカーの性能が尖り過ぎてまともに戦えない彼にしてみれば、フィオニーの称賛は後ろめたさを覚えるものだ。

 野盗を追い払ったのだって、結局のところはハッタリだ。

 あの時は「こうなりたい奴から掛かって来い」などと言っていたものの、実際に掛かって来られたらどうしようかと内心冷や汗を掻いていた。


「そ、そう言えば、二人は何をしにこんなところまで来ていたんだ?」

「森に出没した魔物の討伐依頼だったんです」

「なるほど、その依頼は?」

「大丈夫です。終えて帰る途中でしたから」


 そういうと、フィオニーは腰に結び付けた袋から魔物から剥ぎ取ったと思われる爪を数本取り出して見せた。


「依頼を終えて帰るだけと思って油断していたところを、いきなり矢で撃たれて」

「私は鎧に掠っただけだったんですけど、エリザが脚を……」


 見ると、フィオニーの装備している皮鎧にも傷があるのが見て取れた。おそらく、矢が掠った時のものだろう。


「俺はこの辺りには来たことが無いんだけど、野盗の被害が出ているのか?」

「いえ、特に噂は無かった筈です」

「来る前にギルドで貼り出されている依頼は一通り目を通したんですが、討伐依頼もありませんでした」


 ラスティスやフィオニー、エリザのような冒険者は主に各街に設けられているギルドで依頼を受けて報酬を貰うことで生計を立てている。

 ギルドには毎日依頼の紙が掲示板に貼り出されるので、冒険者達はその中からより良い依頼を受けられるように小まめにチェックをする。

 仮に街の近くで野盗の被害が出ているのなら討伐依頼が出ていてもおかしくないのだが、フィオニー達が見た時にはそういった依頼は見付からなかった。

 勿論、既に誰かが紙を剥がして依頼を受けたために無かった可能性も存在するが。


「そうか。もしかすると、他の場所から移ってきたのかもな。

 なら、ギルドにも報告しておいた方がいいな」

「そうですね」


 その後も雑談を続けながら、ラスティス達は街へと足を進めた。

 途中で何匹か魔物が出没したものの、何れも小物でフィオニー一人で容易く倒せるものばかりだった。

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