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乾坤一擲パイルバンカー♂  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】英雄の卵編
4/43

04:弱点

「邪神アベレージ」第三巻、本日5/25発売しました。

(場所によっては昨日くらいから店頭に並んでいた可能性もありますが)

「はぁ……はぁ……」

『はぁ……はぁ……』


 魔物に追い回されたラスティスとエルヴィは、なんとか撒くことに成功して、木立の中で休息を取っていた。

 散々走ったせいで息が上がってしまっており、膝に手を突きながら呼吸を整えようとしている。

 汗が滝のように流れ、心臓の鼓動も通常よりかなり早いペースで打っていた。


「──って、お前は疲れてる筈ないだろう!

 走ってないんだから!」

『いや、付き合いも大事かと思ってな』


 正確には、今にも倒れそうな程疲弊しているのはラスティスだけだ。

 ふよふよと浮いて移動していたエルヴィは息も上がっていないし、汗も掻いてはいない。


 ラスティスの真似をして荒い息を吐いていたエルヴィだったが、指摘を受けてあっさりと身を起こした。

 当然、ケロッとしており疲労の色はない。


「ああ〜、死ぬかと思った」


 ラスティスは地面に仰向けに倒れると、大の字になりながらそう告げた。


『……すまん、我の説明の足りなさが多少の原因になっていたやも知れん』

「あ、いや。俺にも悪い部分が……ない!

 危ない! しおらしい態度で騙されるところだった!

 多少の原因じゃないだろう! 百パーセントだ!」

『チッ』


 上目遣いでおずおずと告げてきたエルヴィにフォローの言葉を掛けようとしたラスティスだったが、すんでのところで我に返った。

 実際のところ、先程の窮地は説明をしていなかったエルヴィが完全に悪い。しおらしい態度で多少の過失にすり替えようとした企みは途中まで上手くいき掛けていたが、結局は失敗に終わった。

 ラスティスが叫ぶと、エルヴィは途端に渋面になって舌打ちをする。先程のまでのしおらしい仕草が嘘のようだ。いや、実際嘘以外の何物でもないが。


「一発撃つと百数えるまで次に撃てないとか……敵が複数居たら終わりじゃないか」

『一対一でないと厳しいのは確かだな』

「一発ずつの威力を落として複数回使用出来るようにとか出来ないのか?」

『無理だ。常に最高の威力で放つのがパイルバンカーというものだ』

「あのなぁ……って、ちょっと待った。

 つまり、常にあの威力ってことなのか?」


 ラスティスは先程、魔物の一体を屠った時のパイルバンカーの威力を思い出し、焦りを浮かべた。

 あの時は、あまりの威力に敵を欠片一つ残さずに吹き飛ばしてしまったのだ。


『うむ、そうなるな』

「おおい!?」


 あっさりと認めたエルヴィに、ラスティスは悲鳴を上げた。

 エルヴィの言うことが正しければ──嘘を吐く理由もないので正しいのだろうが──このパイルバンカーでは常に最大威力の攻撃しか出来ないことになる。相手が最弱のゴブリンだろうと最強のドラゴンであろうと、おかまいなしにだ。

 確かに、強大な相手であれば威力が高い方が良いかもしれないが、簡単に倒せる筈の相手に過剰攻撃を強制されるのは嬉しくない。

 それに、あの威力では大抵の魔物は跡形もなく消し飛んでしまうだろう。ラスティスのような冒険者は魔物を討伐した時に討伐報酬を得るために特定の部位を剥ぎ取って証拠とするのだが、塵一つ残さず消滅してしまっては剥ぎ取りも何もあったものではない。勿論、牙や毛皮などの素材として使える部分も消滅してしまっている。


 加えて、あれだけ威力があると対人でも滅多なことでは使用出来ない。人の身丈程の魔物が消し飛んだ以上、人に使ったら同じことになるだろうからだ。


「マ、マジか……」

『マジだ』


 先行きの暗さに先程まで寝転んでいた地面に両掌と膝を突いて落ち込むラスティス。一方のエルヴィはそんな彼の姿に全く頓着した様子を見せない。


「ちょ、ちょっとこのパイルバンカーについて整理させてくれないか。

 このまま戦闘に入ったらまずいことになりそうだ」

『ふむ、よかろう』


 既に先程の時点で大分まずかったのだが、そこは流す二人だった。




 ♂  ♂  ♂




「取り敢えずの特徴としては、連発出来ないことと威力の調節が利かないことだよな。

 後は至近距離じゃないと使えないことか?」

『うむ、接触して効果を出す武具だからな』

「それ以外の問題は……重い、嵩張る、五月蠅いってところか」

『何をーーーー!』


 パイルバンカーの特徴を告げるラスティスに、エルヴィは両手を振り上げて憤りの声を上げた。

 列挙された特徴は何れも悪口と言った方が正しい内容なのだから、それも当然だろう。

 ラスティスは武具の特徴を挙げているが、エルヴィにとっては自身に向かって言われたも同然だ。


「いや、実際そうだろう?

 右腕にこんな重くて嵩張る武具を装着しているせいで大分動き難いんだが」

『むむむ、では五月蠅いとはなんだ、五月蠅いとは!』


 実際、大きさといい腕に装着する形状といい重さといい、動きを阻害するものであるのは確かだった。

 エルヴィもその点に関しては何も言えずに、もう一つ言われた特徴に対して文句を言う。


「さっき撃った時の音、かなり遠くまで響いただろう?

 毎回あんな音を立ててたら隠密行動は無理だし、下手をすれば強力な魔物に見付かって襲われかねない」

『ぐぬぬ』


 音の大きさに関しても、ラスティスが言っていることは正論だ。

 轟音を防ぐ方法も持ち合わせていないエルヴィは、ぐぬぬと悔しげな表情を浮かべた。


「取り敢えず重いから一旦外すぞ?

 ……って、あれ? これ、どうやって外すんだ?」


 話している内に腕に装着されたパイルバンカーが重く感じてきたラスティスが外して休憩しようとするが、生憎と外し方が分からない。

 というよりも、パイルバンカーは腕を金属で覆うような形になっており、繋ぎ目すらない。手首の部分の余裕もないので、腕を引き抜くことも出来ない。


『無理に決まってるだろう』

「は?」


 予想もしなかったエルヴィの返答に、ラスティスは固まった。

 もしかして、信じられない、嘘だと言ってくれという視線をエルヴィに向けるラスティス。

 しかし、彼女はその視線に気付かずにあっさりと答えた。


『は? ではない。

 契約した以上は外せんぞ』

「はあぁぁぁぁーーー!?」


 素っ頓狂な声を上げるラスティスだが、それも無理はあるまい。このごつくて重くて嵩張る右腕に装着された武具を外すことが出来ないと言うのだから。


「ちょっと待て! 外せないってどういうことだ!?」

『ど、どういうことと言われてもな。

 最初から外すことなど想定した造りになっていないだけだ』


 ラスティスの剣幕に少し圧されながらも言葉を返すエルヴィ。その答えに、彼は頭を抱えた。


「マ、マジか……」

『マジだ』


 先程と同じやり取りだが、ラスティスの落ち込み具合は先程の比ではない。

 エルヴィも流石にまずいと思ったのか顔を引き攣らせているが、かと言って対応策があるわけでもなくどうにもならなかった。


「寝る時も風呂も、トイレの中でも着けたままでいろってことか」

『………………あ』

「ん? どうした?」


 ラスティスのボヤキを聞いたエルヴィが、ふと思い出したかのようにポツリと声を上げる。

 それを聞き付けたラスティスが顔を向けると、そこには額から汗を流している少女の姿があった。


『その、言い難いのだがな……我は本体からあまり離れることが出来ん。

 せいぜい十数歩離れるのが限度だ』

「ま、まさか……」


 エルヴィの言葉と冷や汗を掻いている彼女の様子から察したラスティスも青褪めてゆく。


『当然、寝る時や風呂、厠でも近くに居ることに……』

「………………」

『………………』


 二人の間で気まずい沈黙が流れた。




 ♂  ♂  ♂




「さ、流石にもう問題はないよな?

 これで打ち留めだよな?」


 お願いだからそうだと言ってくれと言わんばかりに懇願するような視線を受け、エルヴィは腕を組んで考え込んだ。


『ああ、そう言えばもう一つあったの』

「今度は何だーーー!?」


 思い出したようにエルヴィがポンっと手を打った瞬間、ラスティスは悲鳴を上げた。


『我は魔力によって杭を射出していることは既に言ったな』

「え? ああ、確かに聞いたけど」

『その魔力だが、当然ながら契約者であるぬしから得ている。

 威力の分だけ魔力も必要になるので、ぬしの生成する魔力の大半をこちらに回すことになるだろう』

「な──ッ!?」


 ラスティスの表情がこれまでで最大に青褪めた。





『今のぬしは魔法が殆ど使えなくなっている筈だ』

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― 新着の感想 ―
ヒデえ…………。 最悪片手に別の武器を持ってもいいだろうけど、戦いにくい事この上ない。
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