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乾坤一擲パイルバンカー♂  作者: 北瀬野ゆなき
【第二章】古の魔人編
39/43

18:魔人之王

『ッ!? 下がれ、ラスティス!』

「な!?」


 モルドーラにトドメを刺そうとしたラスティスに、後ろからエルヴィが叫んだ。

 ラスティスは慌ててパイルバンカーを止め、後ろに跳び下がる。それによって、モルドーラは命を取り留めることとなった。


 しかし、エルヴィの言葉によって退いたラスティスだが、その反応が彼を救うこととなった。

 そのままであれば彼が立っていたであろう場所に、雷光が叩き付けられたのだ。


「なんだ!?」


 モルドーラの反撃かと考えたラスティスだが、すぐにそれを自ら否定する。彼女はラスティスの攻撃に反応出来ておらず、立ち竦んでいる。とても、今の雷光を彼女が放ったようには見えない。


『あそこだ、ラスティス!』

「誰だ!?」


 エルヴィの指示を受け、ラスティスを始めとする一向は窓の方向に視線を向ける。

 すると窓の外には、翼の生えた青年が浮かんでいた。モルドーラと同じような灰色の肌をした長髪の青年で、皮膜のある黒い翼をはばたかせている。

 しかし、目を引くのは彼の左腕だ。彼の左腕には、拳を覆い隠すように黒光りする螺旋状の武具が装着されている。


 その特徴的な武具の反対側、青年の右側にはドレスを纏った幼げな少女が浮いていた。濃紫の髪をストレートに下ろした小柄な少女で、その瞳はエルヴィと同じように黄金に輝いている。

 見た目の歳に似合わぬ妖艶さで、青年の肘の辺りに絡み付くように抱き付いていた。


 青年の掌は部屋の中に向けられており、彼が先程の攻撃を放ったことが窺える。


『あれは、まさか……』


 青年の左腕に装着された武具、そして隣に侍る少女を見たエルヴィが緊張を浮かべる。彼女の様子に気付いたラスティスは、窓の外の二人から視線を外さないように意識しながら、エルヴィへと問い掛けた。


「知っているのか、エルヴィ?」

『ああ。直接会うのは久し振りだが、忘れもしない。

 あれは、あやつは……』


 ラスティス達の視線が集中する中、青年と少女はふわりと窓から部屋の中に降り立つ。

 二人の足が床に着くのと同時に、エルヴィが彼女の名を告げた。そしてそれは取りも直さず青年の正体を明らかにすることにもなる。


『我と同じく最古から存在する武具の一つ。

 滅魔の螺旋槍──アルトシュピラーレだ』

「それって前に話してた……って、それじゃあの男が!?」

「魔人王!?」


 以前、モルドーラと初めて遭遇した後に語られた、かつて魔人を率いて人間達と対立した魔人の王。

 彼が保有していた武具は、エルヴィと同様にエルドラリオールの地に最古から存在した三つの武具の内の一つだということについては、既にラスティスも知るところだ。

 螺旋状の刃を持つ円錐で、回転によって対象を穿つ武具。ドリルとエルヴィが語ったそれは、目の前の青年が左腕に装着している武具と確かに特徴が合致する。


 青年と少女が、驚愕に固まるラスティス達一向に向かって言葉を掛けた。


「私のことを知るか。ならば、話が早い。

 私の名はオーディス、かつて魔人を統べた者だ。

 魔人王と呼ばれることの方が多いがな。

 そしてこちらは、私の半身であるアルトだ」

『久し振りね、エルヴィアリオン。

 ああ、そうだわ。お祝いをしないといけないわね。

 漸く! 何とか! 辛うじて! 契約者が見付かったようね。

 おめでとう、嫁き遅れの猪突猛進娘さん』


 魔人王の方はまともな挨拶だったが、隣に立つアルトと呼ばれた少女は強烈な毒を籠めた祝辞を投げ掛けてきた。

 周囲の空気が凍り、エルヴィの額に青筋が立つ。


『ほ、ほう。祝いの言葉は有難く受け取ろう。

 たかだか数百年早く契約者が見付かった程度で先達面とは、その厚顔さに呆れるがな』

「数百年は少しじゃないと思うんだが」

『う、五月蠅い! どちらの味方なんだ、お前は!』


 自らの契約者であるラスティスに無理もないツッコミを受け、エルヴィは顔を真っ赤にして両手を振りながら抗議の声を上げた。

 そんな二人の様子を見て、アルトはツッコミどころを見付けたと言わんばかりにニヤリと笑った。


『あらあら、そちらは契約者と上手くいっていないのかしら。

 その点、私とマスターは最早一心同体と言っていい程の親密な関係よ』


 そう言いながら、彼女は隣に立つ魔人王と身体を絡めるようにして抱き付いた。幼げな容姿とは裏腹に、そこには濃密な「女」の色香が感じられる。

 尤も、顔が真っ赤になっていなければの話だが。


『ほら見ろ、あのくるくる女に見下されたではないか』

「いや、そんなことを言われてもな」

『ちょっと! 人を頭がパーみたいな言い方しないで頂戴!』


 アルトの妖艶なパフォーマンスに気付くことなく、ラスティスへの抗議を続けるエルヴィ。

 一方、彼女の呼称が気に喰わなかったのか、アルトの方も額に青筋を浮かべて文句を言い始めた。

 エルヴィはドリルという回転する武具の特徴を差して「くるくる女」と称したわけだが、確かに事情を知らなければ──あるいは知っていても──頭を揶揄しているように受け取られかねない呼び方だった。


「その辺にしておけ、アルト。

 私は口喧嘩をしにわざわざ出向いたわけではない」

『も、申し訳ありません。マスター』

『やーいやーい、叱られておる』

『ぐっ』

「エルヴィもやめろって……」


 激化しそうだった口論は、お互いの「保護者」によって止められることとなった。


 エルヴィとアルトの応酬が止んだところで、横合いからモルドーラがおずおずと声を上げる。

 最初魔人王達が登場した時には角度的に見えなかったようだが、部屋の中に入って姿を見て以来彼女は焦りを浮かべていた。


「へ、陛下……」


 その声が聞こえたのか、魔人王は彼女の方にチラリと視線を向けた。


「危ういところだったな、モルドーラ」

「も、申し訳ございません。

 陛下のお手を煩わせてしまうとは……」

「構わぬ。元々彼らとは私が直接対峙する必要があると考えていた」

「きょ、恐縮です」


 立場が無く縮こまるモルドーラを尻目に、魔人王は左腕のドリルをラスティスの方へと向けながら宣告した。


「長きに渡り封印されている中に、私の血族は著しく衰退してしまった。

 今では僅かに幾つかの集落が隠れるように残っているのみだ。

 この責任は、間違いなく私にある」

「そ、そのようなことは!?」

『そうです、マスター!』


 魔人王の言葉に、モルドーラとアルトが慌てて彼を擁護しようと叫ぶ。

 しかし、彼は手を上げてそれを制すると、ゆっくりと頭を横に振った。


「かつて王として魔人を率いた私には、その責任がある。

 そして、血族の現状を変える責務もまた存在する。

 ならば、私は再び立ち上がり世界に挑む以外に採るべき道は存在しない」

「和平の道は無いのか?」

「私達魔人は、少なくとも個々の力において人間よりも上だ。

 その時点で、人間達は私達と共に歩むことは出来まい。

 いつ殺されるか分からない相手と、共に暮らすことなど出来ないのだから」


 身体能力に優れ、魔法も人間より高い水準で使える魔人。

 一対一で戦えば、ほぼ確実に魔人の方が優位であることは間違いない。

 勿論、国家同士の戦争となれば個々の力だけでは決まらず、人口の面で人間の方が優位になるが、共に暮らすとなればその実力差は軽視出来ない。


 魔人王は反論出来ずに黙り込んだラスティスに対して、最後通牒を突き付ける。


「私の道を阻まぬならお前達には用はない、このまま立ち去ることを許そう。

 しかし、私の道を阻むならば、如何なる相手であろうとこの滅魔の螺旋槍アルトシュピラーレを以って撃ち滅ぼすのみ」


 このまま対峙するか否か、二つに一つの選択を迫る魔人王。

 彼の左腕に装着されたドリルは、その意思と魔力を受けて回転を始めた。

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