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乾坤一擲パイルバンカー♂  作者: 北瀬野ゆなき
【第二章】古の魔人編
38/43

17:力を合わせて

 広い室内に轟音が響き渡った。パイルバンカーの発射音だ。

 音と共に空気が振動し、その衝撃で砦の壁や天井からパラパラと小石が落ちてくる程だった。

 一階で何度か壁を破壊したこともあり、元々傷んでいた砦は既に倒壊寸前まで来ていると言ってよい。

 パイルバンカーの向き先が床などであれば、今の一撃で倒壊していた恐れもある。


 しかし、今の一撃は不発だった。

 パイルバンカーの杭はただ空気を押し退けるだけで、何も貫くことはなかった。

 ラスティスは空中に放ったのだから、それも当然だろう。

 届かないと知りつつも一応の警戒をしていた魔人モルドーラは、パイルバンカーの攻撃が自身に何の痛痒も与えなかったことを確認してから鼻で笑った。


「フン、何のつもりかは知らんが無駄に終わったようだな」

「無駄なんかじゃないさ」

「負け惜しみか? 何のダメージにもなっていないぞ」

「それはそうだ。当てるのが目的じゃないからな」


 見下すようにラスティスを見るモルドーラだが、彼があまりにも落ち着いていることに不審を抱き始める。

 とその時、彼女の斜め後ろから突然声と共に剣が襲い掛かった。


「ハッ!」

「何っ!?」


 モルドーラは咄嗟に高台から斜め前方に飛び立ち、翼を広げて中空に滞空する。

 彼女が振り返ると、そこには栗色の髪をした少女が剣を横薙ぎに振り切っていた。

 折角の奇襲にも関わらず声で報せてしまう愚行……とも思えたが、彼女の剣が向かう先を見ればそうでないことが分かる。


「フィオニー!」

「助けに来たよ、エリザ」


 モルドーラを奇襲した少女──フィオニーの剣は、隣で拘束されていたエリザの縛めを斬り裂いて自由の身にする。

 敢えて奇襲を報せることでモルドーラに退かせ、その隙にエリザを助け出すことを狙っていたのだ。


「おのれ」

「もう遅いよ」


 まんまと狙いに嵌まってしまったモルドーラは苛立ちと共にフィオニーとエリザが立つ高台に向かって魔法を放つが、二人はそれが着弾するよりも早く高台から床へと飛び降りた。


「先程の攻撃はその娘の奇襲を隠すための目くらましか!」

「そういうことだ」


 無駄に思えたパイルバンカーの一撃の理由を今更ながらに察し、歯噛みするモルドーラ。


 三人で砦を訪れたラスティス達だったが、モルドーラの待つこの大部屋に入ってきたのはラスティスとエルヴィの二人だけ。フィオニーの姿はそこにはなかった。

 彼女は、隙を見てエリザを助けるため、右側の部屋の崩れた壁から気付かれぬように侵入していたのだ。

 壁の穴はラスティスには体格的に通れない程度の大きさだったが、彼よりも小柄なフィオニーであれば何とか通ることが出来た。


 ラスティスが放ったパイルバンカーは、モルドーラの注意を彼に集中させるものであると同時に、フィオニーが近付く時の音を掻き消すためのものだった。


「してやられたのは認めよう。

 その娘が居なかったことも、逃げたとしか思わなかった。

 まさか、虎視眈々と人質を取り返すことを狙っていたとはな。

 しかし、今更人質を取り返したくらいで何の意味がある。

 元より、人質を取っていたのはお前をこの砦に誘き出すためだ。もう必要ない」


 高い天井の近くに浮かんだままラスティス達を見下ろすモルドーラは、問題ないと言いつつも悔しげな表情を浮かべている。

 ラスティス達の策に上手く嵌められたことを恥じていることもあるが、彼女の態度には焦りが感じられた。


「なら何故、エリザだったんだ?」

「何?」


 下から見上げて問い掛けるラスティスの言葉に、モルドーラの表情が固まった。


「人質のことだ。

 直前まで俺と一緒に居たエリザよりも、一人で居たフィオニーの方が攫い易かった筈だ。

 それなのに、何故エリザを攫ったんだ?」

『ふむ?』

「そう言えば……」

「確かに、そうですね」

「………………」


 ラスティスの指摘に、エルヴィ達が気付かなかったとばかりに首を傾げる。

 一方のモルドーラは苦々しい表情を浮かべたまま答えを返さずに彼の事を睨み付けていた。


「魔法使いのエリザが邪魔だったんだろう?」

「? どういうことですか?」

「エリザが居ないと、このパーティは近距離攻撃しか出来ないからな。

 上空や高台の上から一方的に攻撃されたら反撃出来ない。

 パイルバンカー対策として遠距離から一方的に攻撃するつもりなら、

 魔法使いであるエリザが邪魔だったんだ。

 だから、敢えて人質にして戦えない状態に追い込んだんだろう」

「ハッ、笑わせるな。

 所詮は人間の魔法使いだ、魔人である私に対抗出来るわけがあるまい」


 ラスティスの推測を否定しながら、モルドーラは床の上に立つ四人へと掌を向けた。


「魔人は人間よりも優れた存在だ。そのことを身を以って教えてくれる!」

「エリザ、一人で打ち勝つ必要はない!

 相手の攻撃は俺やフィオニーが防ぐから、攻め手に集中してくれ!」

「分かりました!」


 ラスティスはエリザの前に出て剣を構えた。フィオニーも彼の横に並び、モルドーラの攻撃に備えた。

 エリザは彼らの後ろに立ち、魔法の詠唱を始める。エルヴィも、三人に対して支援魔法を掛けるべく、詠唱を始めた。


「喰らえ!」

「させるか!」


 モルドーラは要であるエリザを狙って氷の矢を放つが、それは途中でラスティスが剣で弾くことによって防いだ。

 小さく舌打ちすると共に、今度は複数の矢を同時に放ってくる。


「エリザには当てさせないよ!」


 ラスティス一人であれば手数が回らずに攻撃を通してしまうところを、フィオニーが上手くカバーに入る。

 ラスティス達は二人掛かりでモルドーラの魔法を弾き続けた。

 そして、二人によって守られたエリザは、隙を見てモルドーラを狙って炎の矢を放つ。


「くっ!?」


 魔人であるモルドーラと人間であるエリザの魔法では、確実にモルドーラに軍配が上がる。

 仮に真っ正面から打ち合えば、早さでも威力でも勝るモルドーラの魔法がエリザを圧倒するだろう。

 しかし、彼女の魔法をラスティス達が防ぎ、エリザが攻め手のみに集中出来るなら話は変わってくる。


 隙を突いてエリザが放った魔法を避けるため、モルドーラが翼が羽ばたかせて身を翻す。

 だが、そうすることでモルドーラの攻撃の手は止まる。一度攻撃の手を止めてしまうと、今度は一方的に攻撃を受ける立場となる。


「お、おのれ!」


 自身の不利を悟ったのか、苛立った声を上げながらモルドーラが無理な姿勢で魔法を放つ。

 しかし、苦し紛れの攻撃は容易くラスティス達に弾かれてしまう。


「こ、こんな莫迦な……」


 先程までは一方的に狙い撃ちに出来ていたにもかかわらず、エリザ一人が加わっただけで不利な状況へと追い込まれている。

 そのことが信じられず、屈辱と焦燥にモルドーラの攻撃の手は次第に雑になっていった。


「こんな莫迦なことが、あるか!」


 苛立ちが最高潮に達したのか、モルドーラはその身を壁際へと移動させて壁を背に両手を四人へと向けた。

 大技を放つ予備動作を受け、ラスティス達に緊張が走る。


「させないよ!」

「フィオニー!?」


 大技のための集中に入りモルドーラからの攻撃がやんだことを好機と見て、フィオニーがモルドーラへと駆け寄った。

 そのまま跳び上がり、壁へと蹴って斜め上へとその身を浮かび上がらせながら剣を振るう。


「何っ!? がっ!?」


 相手の剣が届かないと考えて大魔法の詠唱に集中していたモルドーラは、回避が遅れて完全にはかわしきれず、フィオニーの一撃は彼女の左の翼を斬り裂いた。

 バランスを崩したモルドーラは、その身を支えることが出来なくなり床へと落下する。


「終わりだ!」


 フィオニーの後を追う形で駆け寄って来ていたラスティスが、走りながら右手を後ろに引く。

 先程放ってから既に百カウントは過ぎており、パイルバンカーはいつでも放てる状態だ。

 恐怖の表情を浮かべるモルドーラに、ラスティスはトドメとばかりに右腕を突き出した。

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