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乾坤一擲パイルバンカー♂  作者: 北瀬野ゆなき
【第二章】古の魔人編
37/43

16:魔人モルドーラ

「此処を上がれば三階、か」

「そうですね」

『おそらく、この上には魔人が待ち構えているだろう』

「ああ、それにエリザもそこに居る筈だ」


 砦二階の探索を終えたラスティス達は、上の階に繋がる階段のもとで三人で相談をしていた。

 大量の魔物による数の力でラスティスを葬り去ることを企んでいたと思われる二階だが、最初の攻防で彼らが粗方の魔物を倒してしまったため、それ以降は僅かな生き残りと遭遇する以外には戦闘は発生しなかった。

 血の海と化した広間から出て探索したが、三階に登るための階段は一つだけしか見付かっていない。

 迷うようなルートはなく、これを登ればエリザを攫った犯人である魔人との対峙が待っている。


『我のことを事前に調べ、対策を練っている相手だ。

 決して油断するでないぞ』

「ああ、分かってる」


 エルヴィの警告に真剣な面持ちで頷いた後、ラスティスはフィオニーの方に向き直り、告げた。


「フィオニー、後は手筈通りに頼む」

「はい、任せてください!」


 そして、最後の打ち合わせを済ませた三人は、三階への階段を警戒しながら登っていった。




 ♂  ♂  ♂




 砦の三階は一階や二階に比べると非常に狭かった。

 階段から上がった先には扉が三つだけあり、しかも位置関係からその内の中央の部屋だけが他の部屋より数倍大きいことが見て取れる。かつてこの砦が実際に使用されていた時、兵士達を集めた集会などに使用されていた部屋なのだろう。

 先に小さい二つの部屋を確認したラスティスだが、そこには何も見付からなかった。

 魔人とエリザが居るのは一番広い部屋だと結論付けた彼は、左右の部屋から中央の部屋へと入れないかを確認する。

 一部右側の部屋の壁が崩れていて大きな部屋と繋がっている部分もあったが、彼の体格では通り抜けることも難しく、ラスティスはそこから侵入することを断念せざるを得なかった。

 結局、真っ向から扉を開けて入るしかないと結論付け、彼は本命の扉の前に立った。


「準備はいいか?」

『ああ、いつでも大丈夫だ』


 魔法を得意とする魔人のことだ。扉を開けた瞬間を狙って攻撃してくることもあり得る。

 そう考えたラスティス達は扉の正面を避けた場所に立ち、手を伸ばして取っ手を掴んだ。


「一、二……三!」


 カウントともにバッと扉を開いたラスティスだったが、懸念されていた攻撃は無かった。

 部屋の中の気配を探りながら注意深くその中へと足を踏み入れるラスティスとエルヴィ。


「来たか」

「ラスティスさん!」


 部屋に入った二人に、聞き覚えのある声が掛けられた。

 しかし、それは想定よりも少し上の位置から聞こえる。

 二人が声のした方に顔を向けると、そこには人の身長を超える高さの台座が設けられ、その上に以前見た魔人モルドーラと縛られたエリザの姿があった。


「エリザ、無事か!?」

「は、はい。大丈夫です」


 ラスティスがエリザの身を案じる言葉を掛けると、彼女からは縛られて多少苦しげではあるものの無事であることを示す答えが返ってきた。

 そのことに内心で安堵すると、ラスティスは魔人の方に向き直って睨み付けながら言い放つ。


「手紙に書いてあった通り、此処まで来たぞ。

 約束通りエリザを解放しろ」

「お前を此処まで誘き寄せるという役目は終えたからな。

 解放してもいいが、お前を始末するまでうろちょろされても厄介だ。

 後で解放してやる」

「クッ……」


 ラスティスがエリザの解放を迫るが、魔人はそれを取り合うことなく後回しにした。

 今のところ彼女に危害を加えるような素振りは無いが、この後戦闘で追い詰められたら何をするかは分からない。

 そうならないようにエリザの身柄を魔人の手元から離しておきたかったラスティスだが、どうやら交渉は失敗のようだ。


「それにしても此処まで辿り着いたか、やはりお前は危険な存在だな」

「辿り着けないと思っていたのか?」

「いや、半分程度だと考えていた。

 そもそも人質を救出に来ないのが一割、一階層の狭い通路で魔物に倒されるのが一割。

 二階層に用意した大量の魔物に殺されるのが三割、と言ったところだ」

『パイルバンカーを意識した構えだったようだが、甘かったな。

 あの程度では我やラスティスを止められはしない』

「癪だが、そのようだな。

 魔物では相手にならない以上、私が直接相手をする以外にあるまい」


 実際には、エルヴィの言う程容易いものではない。

 イレギュラーな方法で突破した一階は兎も角として、二階の備えは違う結果に至っていても不思議ではなかった。

 例えば、魔物が倍の数居れば凌ぎ切ることは難しかっただろうし、そもそもフィオニーが居なければ手数が足りずに押し切られてしまっていた筈だ。

 しかし、モルドーラはそのことを知らないため、エルヴィの言葉を信じてしまう。


「さぁ、望み通り此処までやってきたんだ。

 降りて来い、魔人モルドーラ!」

「フッ、その必要はない」

「何!?」


 剣を向けて高台から同じ床の上に降りるように告げるラスティスに、モルドーラはニヤリと邪悪に笑って右掌を彼の方へと向けた。


「その武具は近接戦でしか使用出来ないのは分かっている。

 ならば、近付くような愚を犯すわけがあるまい。

 このまま、一方的に狙い撃ちさせてもらおう」

「チッ!?」


 言うなり、モルドーラは掌から氷の矢を幾条もラスティスに向かって放ち始めた。

 ラスティスとエルヴィは舌打ちしながらも、それぞれその場から左右に離れる。二人が跳び退いた直後、彼らが居た場所にモルドーラの放った氷の矢が突き刺さった。

 しかし、それだけでは終わらない。

 攻撃が不発に終わったことも気にせず、モルドーラは次から次へと氷矢を放ち続ける。

 当然、ラスティス達はその場に立ち止まることも出来ずに動き回って回避に専念することしか出来なかった。


『やはり徹底してパイルバンカー対策で来るか!』

「拙いな、これじゃ近付けない」


 モルドーラが乗っている高台は、跳び上がれない程の高さではない。

 しかし、そこに近付いて乗り上げようとしたら、どうしてもその瞬間は隙だらけになるだろう。

 そもそも、連続して魔法を撃ち込まれている以上、近付く隙もない。

 当然、魔法を撃ち続ければ魔力を消費することになるが、彼女の魔力が尽きるのとラスティス達がかわし切れずに攻撃を受けてしまうのとどちらが先かと考えれば、分が悪い勝負となる。


 近接戦闘に特化したラスティスと、支援魔法に秀でているエルヴィ。二人には、遠距離で攻撃する手段がほとんど存在しない。

 石を拾って投げるくらいは出来るかもしれないが、そんな苦し紛れの攻撃では大きなダメージにはなり得ないだろう。


「フッ、手も足も出ないようだな」

「それはどうか、な!」


 モルドーラの嘲弄に言葉を返しながら、ラスティスは部屋の左前方へと大きく踏み込んだ。

 魔人はすぐに反応し、彼の動きに合わせて魔法の矛先を向け直す。


「ハッ、甘いぞ。

 私の攻撃を潜り抜けられるとでも思ったか」

「そんな簡単にいくとは思っていないさ」

「だろうな」


 上から見下ろす形になっているモルドーラにとって、ラスティスの行動に併せて魔法で迎撃するのは容易いことだ。

 彼女から見て右側から回り込むようにして、高台に近付こうとしたラスティスの機先を制するように、足元に魔法が撃ち込まれる。


「つまりは、此方が本命なのだろう?」


 右手からラスティスに向けて魔法を撃ち込みつつ、モルドーラは部屋の入口の方に左手を向けて炎を放った。


『クッ、読まれていたか!』

「当然だ、精神体であるお前は宙に浮くことが出来るからな。

 そちらの男を囮にして私に近付き、引き摺り降ろすか人質を解放しようとしたのだろう」


 宙に浮かんで高台に近付こうとしていたエルヴィは、撃ち込まれる炎を避けるようにして飛び下がった。

 恐るべきは左右の手で異なる魔法を同時に運用する魔人の制御能力だろう。


「小細工は済んだか?

 ならば、そろそろ終わりにしよう」

「いや、まだだ」

「何?」


 ラスティスはモルドーラに対して右手を向ける。当然、そこには最強の武具であるパイルバンカーが装着されている。


「正気か?

 それは接近しないと使えないことは分かっている。

 そんな離れた位置で放ったところで、私には傷一つ付かんぞ」

「やってみなければ、分からないだろう」


 そう言うと、ラスティスはパイルバンカーを放った。

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