03:試し撃ち
この作品はキリの良いところまで書き上げて予約投稿しています。
そのせいで文字数表示と差が出てますが、予約投稿の仕様ですのでご了承下さい。
なお、キリの良いところまでいった後どうするかは、まだ考え中です。
動向を見ながら決めたいと思います。
「おお、本当に一瞬で地上に戻れたな」
森の中にひっそりと建てられた祠の入口で、赤髪の青年が太陽の光を眩しそうに手で遮りながら感嘆の声を上げた。
周囲には背の高い樹が生い茂っているが、少し離れたところにそれよりも遥かに高い塔がそびえ立っているのが見える。
その塔は試練の塔と呼ばれ、伝説の武具が眠る丘陵エルドラリオールに至る為に挑戦する場所だ。
かくいう彼──ラスティスも、あの塔を登って彼の地に赴き、伝説の武具を手に入れた一人である。
「もしかして、行きも此処を使えばあの塔にわざわざ登る必要無かったのか?」
『一方通行だと言っただろう。
地上からエルドラリオールに行くのには使用出来ん』
「なんだ、そうなのか」
塔を一瞥した後に振り返りながら告げられた問い掛けを、問われた銀髪の少女はにべもなく切って捨てた。
しかし、ラスティスの方もそれほど重要な質問でもなかったのか、あっさり引き下がるのだった。
彼にしてみればもうあの地に赴くことはないと考えているのだから、それほど重要事ではないと考えるのも無理は無い。
『ところで、これからどうするのだ?』
「そうだな、取り敢えずあの塔に登る前に寄った街に戻って一泊しようと思う」
『ふむ、我は道が分からんから着いてゆくぞ。
なにせ、地上に降りるのは初めてだからの』
この後の行き先を告げるラスティスに、ふよふよと浮いたままのエルヴィアリオンは頷く。
しかし、その言葉を聞いた彼は振り向いて驚いたような表情を向けた。
「え? そうなのか?
今まで一度も?」
『う、うむ……というか、契約者を得なければあの地を出られないからの。
ぬしが我の最初の契約者だから、我はあの地を出るのは初めてだ』
少し恥ずかしそうに答えるエルヴィアリオンだが、ラスティスはその答えに首を傾げた。
何故なら、少し前のやり取りで彼女が地上のことを話していたことを覚えていたためだ。
「昔はパイルバンカーが他にも少しはあったって言ってたけど、あれは?」
『「少しは」ではない! 「そこそこ」だ!
ま、まぁ……あの話も我がこの目で見たわけではなく、他の者から聞いただけなのだ』
ラスティスの言い回しに思わず怒りを露わにして両手を威嚇的に振り上げたエルヴィアリオン。しかし、すぐにその勢いを無くして別の意味で顔を赤くしながら言い訳をした。
要するに、自分で見たわけでも無く人からの伝聞だったわけである。
「まぁ、別にいいか。
あまりここで長々と話をしていると街に着く前に日が暮れてしまいそうだ。
そろそろ行くとしよう、エルヴィ」
『うむ、分かっ……待て、今何と言った?』
旅立とうとして足を踏み出した直後、エルヴィアリオンはラスティスの言葉が引っ掛かって呼び止めた。
「ん? あまり長々と話をしていると……」
『そこではない! 我のことを妙な呼び方で呼ばなかったか?』
そこまで言われて漸く、ラスティスは先程呼び掛けた時の呼び名のことを言っていると気付いた。
「ああ、エルヴィアリオンって長いし、人の名前とは違うから街中とかで呼んだら目立ちそうだと思ってな。
エルヴィアリオンの頭を取ってエルヴィ、どうだ?」
『最強の武具である我の名を勝手に……』
「やめた方が良かったか?」
『いや、構わん! そのままでいい!』
ぶつぶつと小声でぼやいていたが、ラスティスがまずかったかなという表情で問い掛けると、エルヴィは慌ててそれを否定した。
「そ、そうか? それじゃ、そう呼ばせて貰うぞ」
『う、うむ。そうしてくれ』
顔を真っ赤にしている辺り、恥ずかしいけれど嫌ではないようだ。
それどころか、少し嬉しそうにも見える。
『ふふふ、あだ名……親愛の証……』
♂ ♂ ♂
「ッ! 魔物が居る」
『む? どうやら、そのようだな。
どうするのだ、ラスティス?』
森を出て街の方へと向かって歩いていた二人──片方は浮いているが──だが、途中でラスティスが警告と共に身構えた。
前方に三体の魔物の姿が見えたのだ。
魔物とは、大気や大地に含まれている魔力を取り込んだ動植物の総称である。
全てが肉食というわけではないが、全般的に攻撃的で人を襲う危険性が高いものばかりだ。
今彼らの前方に居るのは、人の身丈と同じくらいの大きさをした毛むくじゃらの獣で、鋭い爪と牙を有している。
どうやら既に彼らのことを捕捉しているらしく、一気に走って来ている。
「折角だし、試し撃ちといこうじゃないか」
『ふむ、我の最初の相手としては少々物足りんが……まぁ、練習としては良かろう』
「ああ、派手にぶちかまさせてもら……あれ?
これ、どうやって撃つんだ?」
『あ、そう言えば、言ってなかったな』
「おおい!? それ一番重要なところだろう!」
迎え撃とうと身構えたラスティスだったが、ふと右手のパイルバンカーの操作方法が分からずに硬直した。
それを聞いたエルヴィの方も重要なことを伝えて居なかった事実を思い出して慌てる。
「は、早く教えてくれ!」
『わ、分かっている!
と言っても、別段難しいことはない。
我とぬしは契約で繋がっているので、撃つことを念じれば発射出来る』
「そ、そうか……それなら!」
そうこうしている内に、魔物がかなり近くまで近付いてきていた。
最初は三体が固まっていたのだが、走るうちに差が開いたのか先頭の一体が突出している。
ラスティスはその先頭の一体に狙いを定め、腰を落として右腕を後ろに引いた。
「ハァッ!」
裂帛の気合いと共に、右腕を突き出す。
同時に、脳裏に発射のイメージを浮かべた。
パイルバンカーの先端が魔物に接触する瞬間……物凄い轟音が辺りに響き渡った。
大気が打ち震え、森の鳥達が一斉に飛び立ってゆく。
走り寄って来ていた魔物の二体も、そのあまりに大きな音に硬直している。
そして、肝心の相手である先頭の魔物は跡形も無かった。
「は?」
ラスティスは慌てて周囲を確認するが、やはり直前まで目の前に居た筈の魔物の姿は何処にもない。
それどころか、周囲には僅かな血痕すら残っていない。
あまりの衝撃に、塵一つ残さず消滅してしまったのだ。
『ふふん、どうだ!
これが最強の武具である我、エルヴィアリオンの威力だ!
少しは我の凄さが分かったか!』
「あ、ああ……威力が凄いってのは聞いていたけど、想像以上だな。
それに、これだけの威力なのに反動はそんなに大きくないし」
『魔力で反動を相殺しているからな』
その大きな胸を張りながら自慢げに言うエルヴィの言葉に、ラスティスは未だ若干困惑しながらもその威力に関しては文句の付け所も無かったため、頷いた。
「よし! 残りの二体もこの調子で片付けるぞ!」
『あ、それは無理だぞ』
「え?」
これだけの威力がある武器であれば残りもすぐに倒せるだろうと思ったラスティスだが、そこにエルヴィから待ったが掛かった。
身を乗り出していたところに水を差され、彼は思わず前につんのめった。
「どういうことだ?」
『射出用の魔力の充填が必要なのだ
一発撃つと次に撃てるまで百数える必要がある』
「はぁ!?」
思わぬ言葉に驚愕したラスティスがエルヴィの方を向くと、彼女の額に何故か「81」という数字が浮き出ている。そしてその数字は、「80」「79」と次第に減っていっている。
先程の彼女の話が正しければ、おそらくこの数字は次に撃てるようになるまでのカウントダウンなのだろう。
「聞いてないぞ!」
『うむ、確かに言ってなかった』
「じゃ、じゃあ残り二体どうすればいいんだ?」
『我に聞かれてもな……撃てるようになるまで待ってもらうのはどうだ?』
ラスティスとエルヴィが言い争いをしている間に、轟音で硬直していた二体の魔物は我に返っていた。
「待っててくれると思うか?」
『無理そうだな』
知能が高い魔物であれば仲間が一撃で殺されたことに警戒心を抱くところだが、この魔物はそこまでの知能が無いらしく、まだ彼らに闘争心を向けている。
どう見ても、パイルバンカーをもう一度撃てるようになるまで待ってくれそうにはない。
「仕方ない、こうなったら……」
『こうなったら?』
「……逃げるぞ!」
『お、おお!』
ラスティスは言うが早いか、魔物に背を向けて全力疾走を始めた。
ふよふよ浮かんでいるエルヴィもその後を追う。
唐突に逃げ始めた彼らに意表を突かれた魔物は反応が遅れて固まっていたが、やがて再び我に返るとその後を追い回し始めた。




