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乾坤一擲パイルバンカー♂  作者: 北瀬野ゆなき
【第二章】古の魔人編
22/43

01:プロローグ

 男は夢を見ていた──かつて武具の聖域エルドラリオールの地を訪れた時のことを。


 自らの権勢をより盤石にするために伝説の武具を求め、辿り着いたその地で彼は自らの半身と呼ぶべき存在を手にした。

 それは、最古の武具にして悠久の時を契約者を待ち続けた三振りの中の一。

 最初は扱い辛く慣れるまでに時間を要したが、使いこなせるようになってからは最早彼の前に敵は無かった。




 男は夢を見ていた──伝説の武具の力を以って世界に覇を唱えたことを。


 彼を慕う者達を束ねて軍団とし、幾つもの国と戦う日々。

 堅牢な城壁ですら彼の持つ武具の前では脆くも砕け散り、如何なる敵も敵足らず。

 彼は味方からは英雄であり優れた指導者として崇敬され、その一方、敵対者からは悪鬼の如く恐怖される。

 滅ぼした国の跡地を領土として築き上げた国は、彼らにとっての理想郷となった。




 男は夢を見ていた──彼を止めに来た聖剣を携えし青年との死闘、そして敗北の末に封印されたことを。


 敵対した者達の中から頭角を現した一人の青年が、光り輝く剣を携えて数人の仲間と共に彼の元まで辿り着いた。

 重臣も側近も既に倒され、謁見の間に立っているのは彼らだけ。

 復讐に燃える瞳で振るわれる剣は、彼が持つのと同じ伝説の武具だった。


 実力だけならば彼の方が間違いなく青年よりも上だった。これが一対一の戦いならば、おそらく彼は勝利していただろう。

 しかし、相手の青年には仲間が居た。

 剣士が一人に魔法使いが一人、それから僧侶が一人。

 彼の攻撃は魔法使いの放つ牽制によって勢いを減じられ、剣士に逸らされてしまう。その隙を聖剣を持った青年に突かれる。何とか反撃するも、負わせた浅い傷は僧侶の放つ回復魔法で癒やされてしまう。


 やがて力尽きた彼を、青年達は殺すのではなく封印という手段で処した。

 それは決して慈悲ではなく、暗い憎悪によるものだったのだろうと今でも思う。


 閉じ込められた封印空間には一切の光も音もなく、ただ闇だけが広がっていた。

 そこでは老いることも餓えることも死ぬことも無いが、何の刺激もないその空間に置かれた場合、常人であればそう長くは掛からずに発狂していただろう。

 否、たとえ強い精神力を持つ彼であっても、結果はそう変わらなかった筈だ。


 彼が発狂を免れたのは、ひとえに彼の左腕にある武具の存在故だった。




 そして、男は夢から目覚めた──。


『お目覚めですか、マスター?』

「……ああ」


 玉座に座り肩肘を突いた状態で眠りに就いていた彼は、身を起こしながら隣に侍る少女へと答える。

 声を掛けてきた少女は、幼げでありながらも何処か妖艶な雰囲気を醸し出す美しい姿をしていた。

 それは、彼の半身とも呼ぶべき武具の意思が具現化した存在だ。

 共に戦い共に勝利し、共に敗北し共に封印された、唯一無二の存在だった。


 かつての部下達の子孫によって封印から解かれし今も、彼女は変わらず彼の傍に侍っている。


「私が眠っている間、何か変わりはあったか?」

『ええ、一つお耳に入れたいことが……』


 目覚めたばかりの気だるさを振り払いながら問い掛けると、少女は彼の耳元へと口を寄せながら小声で囁いた。

 少女が告げた言葉に、彼は眉根を僅かに持ち上げた。


「ほう? ならば捨て置くわけにはいかんな」

『仰せのままに、マスター』

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