パイルバンカー日記♂
契約者が一向に現れず暇で暇で仕方ないため、せめてもの無聊の慰めに日記を付けることにする。
我は破神の刺突槍エルヴィアリオン、このエルドラリオールの地に眠る最古にして最強の武具だ。
日記を付けると言っても、当然今の我は文字など書けない。
というか、契約者が現れない現状は武具の形態すら取っておらず、単なる光の球でしかない。
空きリソースに考えた文章を刻み込んでおくだけだ。
何、リソースなら一億日分書いてもまだ余裕があるくらいには空いている。
これが埋まるくらいには契約者が現れてくれると信じたい。
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月 日 天気:
さて、日記を付け始めてから最初の一日だ。
本来なら日記は日付けを書くところから始めるそうなのだが、生憎とこの地は外界とは隔離されているため、暦というものが機能していない。
外に行った他の武具達から聞いてそう言うものが存在することは知っていても、具体的に今が何の日かは分からない。よって空欄とする。
それにそもそも、ここでの日々はそんなに変わるものではない。
毎日書こうと思っても、書くネタがない。
というか、初日にして既に書くことが無くて困っている。
この調子では勤勉に毎日書こうと思っても、おそらくすぐに破綻するであろうから、何か書くことが出来た時にだけ書くような感じで良いのではないかと思う。
決して、我が怠惰なわけではない。
書くことがあれば、ちゃんと書く。
取り敢えず、今日の所はその決意だけを記して終わることとしよう。
♂ ♂ ♂
月 日 天気:
以前、日記を書き始めてから数日が経った。
この間、一切記録がないことは我がサボっていたわけではない。
あくまで、書くことが特に無かったのだ。
そもそも日記とは何を書けば良いのだろうか。
天気?
天気か。
書いても良いのだが、このエルドラリオールは常に霧に覆われている。
我の知る限り、ここの天気が霧以外だったためしがない。
最古の武具である我が知らない以上、実際一度もそれ以外の天気になったことはないのだろう。
天気:霧
書いてみたが、これ、意味あるのだろうか。
♂ ♂ ♂
月 日 天気:霧
暇で暇で仕方ないため、契約者のことについて考えてみた。
我らエルドラリオールに眠る意思持つ武具は、それを求める契約者を待ち、その者と契約することで実体を持って世に出る。
他の武具達は大半が一度は世に出ていて、我のように一度も契約者を持ったことがない者は稀だ。
勿論、最近発生した若い者達であればその確率も上がるのだが、我のように古くから存在する者では精々我を含めて三体しかいなかった。
若い武具達から嫁き遅れ三武衆とか言われてるらしい、我は泣いた。
ついでに、その三体の内の一体に契約者が現れてしまった。おのれ、抜け駆けするか!
しかし、我が悪いのではない。我に相応しい契約者が現れないのが悪い。
もしも我に相応しい契約者が現れるなら……そうだな。
顔は勿論美形、身長が高く高収入で、性格は優しくて、我のことをこの世で一番大事にしてくれる者がいいな。
何? 恋人募集じゃないんだから高望みはやめろ?
やかましい。
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月 日 天気:霧
エルドラリオールの地に新たに武具を求める者が現れた。
チラッと覗いてみたが、身長が高く、顔も悪くない、見る感じ性格も良さそうだ。
収入云々は分からないが、この際それはどうでもいい。
来い、来い、我の所まで来るのだ。
………………って、何故そこまで来ておきながら、聖剣と契約する!?
あともう少しなのだぞ。
最強の武具である我と契約出来るかも知れんと言うのに、何故適当な所で満足してしまうのだ。
思うに、丘の一番奥という場所が良くない気がしてきた。
しかし、最古にして最強の武具である我としては威厳というものもあって、あまり前に出るわけにも……。
まぁ、契約者が来たところで波長が合うかどうかは別問題なのだがな。
ええい、今夜はヤケ酒だ。飲めないが。
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月 日 天気:霧
この前契約して外に出て行った聖剣が戻ってきた。
おそらく、契約者がその生涯を終えたのだろう。
聖剣は人間の中でもポピュラーで、人気がある。
契約を結んで外に行く比率も断トツで高い。
今回戻ってきた奴などは既に五人目くらいの契約者だった筈だ。
フン、尻軽剣め。
あっさりと次の契約者に乗り換えおって。
今は付き合った契約者との死別で落ち込んでいるようだが、どうせすぐに立ち直って次を見付けるのだろう。
そんな浅い関係の契約者が何人居ようと、羨ましくなど……羨ましくなど……すっごく羨ましい。
駄目だ、この件については嘘が吐けない。
羨ましい、妬ましい、我も契約者が欲しい。
容姿とか身長とか、生意気言ってすみませんでした。
贅沢は言わないので、我にも縁をください。
誰に祈れば良いのか分からないけれど、取り敢えず祈る。
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上火月 半月の日 天気:晴れ
旅立ちの期待と緊張が味わえる日が来るなど、夢にも思わなかった。
新たな転機に相応しい晴れ晴れとした日の中、記念すべき一歩を踏み出す。
我が半身となるべき契約者に祝福を。
ぬしが命尽き果てるその時まで、共に歩み、共に悩み、共に生きよう。
ひゃっほう♪
以上、外伝「パイルバンカー日記♂」でした。
色々考えましたが、折角なので続きを書きたいと思います。
「待っててやるよ!」という方はブクマはそのままでお願いします♂




