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乾坤一擲パイルバンカー♂  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】英雄の卵編
11/43

11:デート

「え?」

「!?」


 栗色の髪をした少女と緑髪の少女は、ノックした扉から顔を見せた人物を見て、驚きに固まった。

 宿の受付で部屋を聞いた彼女らは、てっきり赤髪の青年が顔を見せると思っていたのだが、出てきたのが銀髪の少女だったからだ。


『……どうかしたのか?』


 ノックされたので扉を開けたら訪問者が彫像のように固まってしまったため、応対した側の少女──エルヴィも若干驚きの表情を浮かべている。

 相手は数日前にラスティスが助けた少女達であったため不審者ではないと判断したが、自分の顔を見るなり硬直するという奇怪な行動に首を傾げるしかない。


「あ、あの……この前助けて貰ったお礼をしたいと思って」

「受付でラスティスさんがこの部屋に泊まっていると聞いたのですが……」


 訪ねてきた少女達、フィオニーとエリザはおずおずと目的の人物の所在を尋ねた。

 当然、彼女達もラスティスと共に居たエルヴィのことは覚えている。どうやらこの部屋には彼女が泊まっていたということは理解したが、それならばラスティスは何処に泊まっているのか。

 自分達や宿の主人が部屋を間違えたなら別に構わない。

 問題は、ラスティス「も」この部屋に泊まっていた場合だ。


 危ないところを助けられて彼のことが気になっている二人としては聞きたくない答えなのだが、その希望は叶えられることはない。


『なんだ、ラスティスに用があるのか。

 ラスティス、フィオニーとエリザが訪ねて来たぞ』


 部屋の中に向かって呼び掛けたエルヴィの行動に、答えを察した二人の顔が思わず歪んだ。

 その歪みは、開いた扉から見える部屋の内装を見て更に大きくなる。ベッドが一つしかないことに気付いたためだ。


 この時点で、ラスティスとエルヴィの関係を確信した二人だが、だからと言って諦めるという気持ちはなかった。

 何故なら二人は冒険者だ。困難に立ち向かうことこそ本分。

 この程度の難事を乗り越えられなければ、栄光を手にすることは出来ない。


 装備も万端だ。

 以前に会った時は依頼を受けて街の外に居た時だったため、フィオニーは皮鎧に剣、エリザはローブに杖で武装していたが、今日はオフであるため装いを大幅に変えている。

 フィオニーはシャツにショートパンツという快活そうな格好だ。華美ではないが、健康的な魅力を十二分に引き出している。

 一方のエリザは清楚な雰囲気のワンピースを着ている。元々大人しそうな雰囲気の彼女には良く合っていた。

 武装した二人しか知らないラスティスは、きっとそのギャップに気を留めてくれるだろう。


「やぁ、二人とも。

 今日はオフみたいだけど、どうしたんだ?」


 ラスティスが部屋の中から顔を見せると、フィオニーはパッと笑顔になった。エリザはそこまで目立った反応ではなかったが、それでも嬉しそうな表情に変わる。


「あ、ラスティスさん。こんにちは」

「こんにちは。オフなので先日のお礼をしたいと思いまして」


 挨拶をしながら来訪の目的を告げる二人に、彼は少し驚いた顔を見せる。


「お礼とか気にしなくていいって言ったのに」

「そうはいきません。

 冒険者として借りを作ったままには出来ません」

「ええ、私達だって冒険者の端くれなんですから」


 冒険者として借りを作りっぱなしにしたくないと言われると、ラスティスも無碍には出来ない。

 あくまで固辞し続けると、それは二人を冒険者として認めていないということになってしまうからだ。

 尤も、フィオニーとエリザにとってそんなものは口実でしかないのだが。


「そうか、分かった。

 出掛ける準備をするから、少しだけ待っててくれるか」


 ラスティスが了承すると、二人は嬉しそうに頷くと準備をする彼を待つことにした。


「はい、分かりました」

「一階で待ってますね」




 ♂  ♂  ♂




「お待たせ」

『待たせたの』


 二人と同じようにオフ用の私服を着たラスティスと、こちらは相変わらずのワンピースを着たエルヴィが二階の部屋から降りてくると、一階の受付前で待っていたフィオニーやエリザは彼らと合流して共に街へと繰り出す。

 フィオニーはラスティスの左腕にしがみ付くように、エリザは彼の手をチラチラと気にしながらも踏み出せずに右側を歩いていた。

 なお、私服とはいえラスティスの右腕にはパイルバンカーが装着されたままのため、右手を繋ぐのは難しいという事情もある。

 エルヴィは彼ら三人の後ろを昨日買って貰ったばかりのブーツで歩いている。


「あっちに安いけれど質の良い雑貨屋さんがあるんですよ」

「へ〜」

「あの宝石、綺麗……」

『どれどれ……って、高っ!?』


 四人組となった一向は、フィオニーとエリザのオススメのお店を巡ったり、適当な店をウィンドウショッピングをしたりしながら、街を歩く。

 その様はまるでデートのようだった。

 実際、フィオニーとエリザはそのつもりが大半だったのだろう。

 尤も、青年一人に少女が三人というそれが傍から見てデートに見えるかという点は疑問ではあるが。


 そんな男女比の集団が歩いているとガラの悪い者達に絡まれそうなものだが、不思議とそんなアクシデントも無かった。

 実際には目を付けた者が皆無というわけではなかったのだが、ちょっかいを出してくる者は居なかった。

 フィオニーとエリザはこの街ではそれなりに名の知れた冒険者であり、実力も認められている。

 そんな彼女らが少しでも邪魔者になりそうな者を見付けると殺気を孕んだ視線で睨み付けて来るのだ。その恐怖を乗り越えて声を掛けてくるような猛者は生憎と居ないようだ。


「そろそろ、夕食の頃合いかな」

「そうですね。美味しい魚料理を出してくれるレストランがあるので、そこでどうでしょうか」

「いいね、賛成」


 散々街を歩き回った四人は、お腹が空いてきたということでエリザがオススメするレストランへと入った。

 この街では珍しい部類に入る魚料理を堪能しながら、これまでの冒険について語り合う。

 エルヴィは冒険譚となるとあまり話せることもなく聞き手に回ったが、代わりに他の武具達から聞いた過去の話を披露したりした。

 人間達の間では伝承として伝わっているような話だったが、当事者から聞いた思わぬ裏話などもあり、事情を知っているラスティスは勿論のこと、エルヴィのことを伝説の武具だと知らないフィオニーやエリザも大いに興奮した。

 何しろ、三人とも冒険者だ。冒険や伝承の話は大好物である。


「今日は楽しかったよ。

 ありがとう、二人とも」

『そうだな。なかなか面白かった』


 そろそろ遅くなってきたのでお開きにしようかという時間帯。

 ラスティスは二人に向かって感謝を告げる。

 エルヴィも満足そうだった。


「それは良かったです。機会があればまた是非」

「今度は、お礼とかじゃなくて純粋にデートってことでお願いします」


 最早お礼という名目は忘れつつあった二人だが、ちゃっかりとそんな要望を出したりしていた。


「ところで、二人は明日以降はどんな予定なんだ?」

「既に依頼を受けてるので、明日はそちらに行くつもりです」


 何の気なしに告げられたラスティスの問い掛けに、エリザが答える。

 その時、フィオニーが何かを考え込むような仕草をして、隣に座るエリザへと話し掛けた。


「ねぇ、エリザ」

「どうしたの、フィオニー?」

「明日の依頼、ラスティスさん達にも頼むのはどう?」

「あ、それは……」


 フィオニーの提案に、エリザは驚く。

 ラスティスやエルヴィは二人で話し合われていることが良く分からずに首を傾げた。

 そんな彼らに、フィオニーが改めて向き直って質問をしてくる。


「ラスティスさん、明日って時間あったりしますか?」

「そろそろギルドで何か依頼を受けようかと思ってたくらいだけど。

 どういうことだ?」

「私達が受けてる依頼を一緒に手伝って貰えないかなって。

 報酬は勿論、人数頭割りの折半で。

 ギルドからの直接依頼なので報酬は結構高めだから、折半でもそれなりになりますよ」


 通常、ギルドというのは街の人々などからの依頼を斡旋するのが仕事だ。

 依頼者は別に居て冒険者を紹介する代わりに払われる報酬から手数料を取るという業態である。

 ただ、時折ギルド自体が依頼を行うことがある。

 そういった依頼は重要度が高いことと手数料を取られないことから比較的高めの報酬が支払われる。


「どういう依頼なんだ?」


 依頼内容を尋ねるラスティスに、エリザが答える。


「最近街の近くで魔物が増えていることについての調査と、必要なら討伐を行うことです」

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