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乾坤一擲パイルバンカー♂  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章】英雄の卵編
1/43

01:プロローグ

邪神アベレージ三巻(5/25発売)発売記念連載!

http://blog.konorano.jp/archives/51996452.html

 深い霧に覆われた丘陵。

 広大なその場所は清浄な空気によって満たされていた。


 ここは、神具の聖域エルドラリオール。

 意志を持つ伝説の武具達が眠る場所だ。

 神話や伝承で語られるような聖剣や魔槍が、この丘で主を待って静かに眠っている。


 この地に眠る武具達はいずれも強大な力を持っており、幸運にも「彼ら」の力を得ることが出来た者はその絶大な力を持って様々な偉業を成し遂げてきた。


 ある者は世界を支配しつつあった邪悪な魔導師を打倒し、ある者は戦争を一人で終結させた。

 ある者は洪水を剣で切り開いて国を救い、ある者は魔法で気候を制御して人々を飢えから救った。


 人は彼らを英雄と呼んで賛美し、長きに渡ってその名を謳った。


 しかし、誰もが「彼ら」の力を得られるわけではない。本当に力を得られる者はごく一握りの選ばれし者だけだ。

 選ばれし者とは一体誰が選ぶのか……その答えは、この地に眠る武具達自身である。


 意志を持つ武具である彼らは、自らを振るう主を己自身で選ぶ。

「彼ら」に認められた者だけが、その力を得て英雄となることが出来るのだ。

 如何に強くても、身分が高くても、人望があっても、「彼ら」に認められなければ、主にはなれない。


 また、そもそもこの地に辿り着くこと自体が相当な難業であると言わざるを得ない。

 試練の塔と呼ばれる最高難易度のダンジョンにたった一人で挑み踏破した者だけが、このエルドラリオールの地に辿り着き、パートナーとも呼べる武具に出会う機会を得ることが出来るのだ。


 英雄に憧れて「彼ら」を求める者は後を絶たないが、実際に手にすることが出来る者は数十年に一人と言われている。

 それほどに困難なことなのだ。


 そして今、新たにこの地に久方振りの訪問者が訪れた。


「ここが……ここがエルドラリオールか。

 伝説の武具が眠る聖域……」


 赤い髪をした彼の名はラスティス。英雄に憧れてこの地を目指した冒険者だ。

 歳の頃は二十歳にも満たない青年であり、端正な顔立ちをしている。街を歩けば年頃の娘達に囲まれるような容姿だ。

 身長はそれなりに高いが一見するだけでは華奢に見え、とてもここまで辿り着けるような強者である事実は窺えない。

 しかし、見る者が見れば彼が放っている雰囲気から、その力量を推察することが出来ただろう。


 背には剣の鞘を背負っているが、そこには剣が収まっていない。しかし、かと言って手に持っているわけでもない。

 ボロボロに傷付いている装備や身体を考えても、塔の試練を乗り越える過程で剣を失ってしまったのであろうことが見て取れる。


「確か伝説では、この谷にある光の中から自分にあったものを見付けるんだったな」


 エルドラリオールの丘陵に足を踏み入れたラスティスは、周囲を見回しながら足を進めて探索していた。

 丘のあちらこちらに光の塊が点在している。それは、一つ一つが伝説の武具だ。「彼ら」は眠るとき、そのような姿を取っている。

 波長が合う光があれば、それに触れて交信することで契約を結ぶことが出来る。

 しかし、当然ながら合う光が居なければ武具を得ることは叶わない。

 ここで波長の合う相手を見付けられるかに、全てが賭かっているのだ。


 選ぶのは武具の側だが、必要なのは魂の相性である。

 相性が合う相手であれば、武具を求める側の者からもそれが運命の相手であることを感じることが出来ると言われている。

 ラスティスは注意深く光の塊を見詰めるが、なかなか合うと言えるものが見付からなかった。

 ここで波長が合うものが居なければ折角試練を乗り越えてこのエルドラリオールまで辿り着いたことも完全に無駄足であり、長年抱いてきた夢にも敗れることになる。


(頼む、どうかあってくれ……っ!)


 内心で焦りを浮かべながらも、彼はついに丘陵の頂上へと辿り着いてしまう。

 ここより先に道は無い、行き止まりだ。

 そして、これまで歩いて来た間に彼が波長が合うと思えた光は存在しなかった。基本的には一本道であり、見落としも考え難い。


(折角ここまでやってきたのにダメなのか……ん?)


 がっくりと肩を落とすラスティスだが、ふと丘の最も高い場所に一際力強く輝く光があることに気付いた。


「──────ッ!」


 その光を目にした瞬間、彼の鼓動がドクンと大きく脈打つ。

 理屈でもなく道理でもなく、魂が確信していた。それこそが、自らの半身に等しいパートナーであると。

 ラスティスは吸い込まれるようにして引き寄せられ、その光の前に立つ。

 すると、目の前の光から耳には聞こえない声が彼の脳裏に直接響いてきた。


『……ほう、まさかこの我と波長が合う者が存在するとはな。

 これは興味深い。

 ぬし、名は何と言う?』

「ラスティスだ」

『良い名だな。

 この地を訪れた以上は、我らの力を求める者であることに相違ないな』

「ああ、その通りだ」


 光が明滅する。それはまるで楽しげに笑っているかのように。


『ならば、問おう。

 ぬしはなにゆえ、我らを……力を求める?』


 光がラスティスに問い掛けてきた。

 この問い掛けに対して答えを誤れば、おそらく「彼ら」の力を得ることは叶わないだろう。

 慎重に慎重を重ねて答える必要がある問いだ。


「英雄になるためだ」


 しかし、ラスティスは微塵の躊躇も無く言い放った。

 そこには、不安も怯えも欠片も存在しない。

 その答えに、予想していなかったのか光も戸惑ったかのようにしばし沈黙する。


『……そこは人を救うため、とか答えるところではないのか?』

「これからパートナーになろうって相手に、その場限りの嘘や誤魔化しをしても仕方ないからな。

 これが、俺の正直な気持ちだ」

『………………』

「俺は、英雄になりたい。

 子供の時に憧れた、伝説の勇者のようになりたい。

 勿論、邪悪な敵が居れば戦うし、困っている人が居れば助けたい。

 それでも、何のために力を求めるかと聞かれたら、英雄になりたいからだ」


 夢を語るように、しかし真剣に。

 真っ直ぐに光を見据えながら、ラスティスはその胸中を語った。

 その眼差しは純粋であり、澱みはない。


『…………フフ……ハハハハハ!

 悪を倒すでもなく、人を救うでもなく、ただ英雄となることを望むか。

 面白い、それもまた力を求める理由に相違ない。

 よかろう、ならばラスティスよ。

 手を伸ばし、我に触れよ』


 光の声に従い、ラスティスは右手を前に出して光に触れた。

 気のせいか、触れた瞬間に光が震えたようにも思える。


『長く、長く待ち続けた。

 生まれ出でてより幾星霜。我を振るうに相応しき主を今漸く得ることが出来た』


 声と共に、光は更に輝きを増してゆき、辺りを照らす。

 ラスティスはその強い光に左手で目を押さえながらも、差し出した右手は決して引きはしなかった。


『我はこの聖地エルドラリオールの長にして、全ての武具の頂点に立つ者。

 神をも屠ると謳われし、最強にして最古の武具。

 力を求めし者、ラスティスよ。

 汝を我が契約者として、今ここに仮契約を取り交わそう』


 光が収束し、差し出したラスティスの右腕へと集まってゆく。


『我が名をその魂に刻み込め。

 我が名は……』


(剣か? それとも槍?

 あるいは弓なんかもあり得るな)


 長年の夢であった英雄の武具を手にする瞬間に、ラスティスの心が最大限に震える。


(しかし、やっぱり英雄とか勇者って言ったら剣だろう!

 よし、剣だ、剣来い!)


 祈るような思いで形を成してゆく光を見るラスティスの前に、彼が契約を結んだ武具がついに姿を表す。


『破神の刺突槍──エルヴィアリオン!』


 それは一見、手甲のように見えた。

 武骨な箱の形状をしており、ラスティスの拳の上には鋭い杭が僅かに突き出している。

 それは、この状態では突き付けても相手には突き刺さらないような僅かな突き出方ではあったが、杭の周囲は穴が開いており、何らかの機構が備えられているのが分かった。

 槍という名が付いていても、それは通常の槍とは次元を異にする武器だ。


 そう、その武器とは……。


「は? 何だこれ?」

『何か不満でもあるのか、貴様ーーーー!?』


 自身の右腕に装着されたその武具が何だか分からず思わず呟いたラスティスの言葉に、伝説の武具エルヴィアリオンの怒号が響き渡った。

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― 新着の感想 ―
どうしてパイルバンカーなんて機構を持ったアイテムが神具になったんだろうなあ…………。 神殺しという名のチェーンソーみたいなモンか。
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