表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覚醒の竜殺し  作者: えーりゅー
第一章 三度目の人生
8/22

守護の刃 3

 ピチャン、ピチャン。

 頭、首筋、肩、手の甲と、天井から滴ってくる水滴がシオンを直撃する。

 普段は気にしないようなことでも、薄暗い中で周囲に気を配りながら歩く今のシオンにとってはいちいち気になって仕方ない。

 一歩……ピチャン。

 一歩……ピチャン。

 また一歩……ピチャン。

 更にまた一歩……ピチャン。

 かれこれもう十数分は歩いた。なのに、周りは相変わらずゴツゴツした岩の壁。昔俺が日本にいた頃やっていたRPGは、ただの住処なのに異常に長く余計な道が複数あったりして、住処もとい、アジトとしてどうなんだ? と思ったことはあったが、これもその類いなのか? ゲームの中だけかと思ったが、実際に体験するとは思はなかった。

 一歩……ピチャン。

 こう一歩一歩進むたびに落ちてくるのは異常としか思えない。

 歩みを止めてみた。

 ……………………落ちてこない。

 一歩踏み出してみた。

 ピチャン。

 俺は反射的に上を見上げ武器を構えた。

 すると何かが落ちてきた。

 ドゥルン


 「うわっ!」


 薄暗いため色はわかりにくいが、ゼリー状の物体が上から落ちてきた。

 ――スライム。だがその形態は、かの有名なマスコット的存在のそれではなく、全身がブヨブヨと不定形な形をしており、大きさは大人半分位、体は半透明で臓器物が見える、雑魚キャラとは程遠い姿だ。恐らく、ここが明るかったら臓器の中で溶かされているであろう、おぞましいものも見えただろう。

 俺はハッとして首筋や肩に触れてみる。改めて感触を確かめると、若干の粘性のある液体だった。

 マジかよ……

 はっきり言って気持ち悪かった。知らなければ幸せって、こういう時に使うものなのかな……

 俺がスライムから意識をそらした瞬間、スライムが突然伸縮下かと思えば

大型のブヨブヨとしたスライムに似つかわしくない速度で突っ込んできた。


 「ぐっ!」


 寸でのところで横に転がるも音を立ててしまった。

 このまま去ろうとも考えたが、後続のリオのことと、俺の本来の役目を考えた結果、戦うことを決めた。

 

 「サモンズブレイド!」


 右手から焔が現れ、そのまま手の中で刀の形を模る。

 焔は一瞬で消えたが周囲の温度は上昇したままだ。

 盗賊のやつらが気づくのは時間の問題か……

 スライムはまたこちらに飛びかかってきたが、今度はしっかり構えていたので対処できる。

 半歩横にずれ、居合の構えを取り、すれ違いざまに抜刀する。

 ズブリと、スライムの薄い皮膜を裂いたあと中身の半固体のゼリーが弾力で押し返そうとする。スライムの突進の勢いもあって意外と腕が持ってかれそうになるが、こちらも気合で振り抜く。

 ジュっと焼けるような音がした。左肩を見てみると衣服が溶けていた。


 「マジかよ」


 あのスライムの中身は強烈な酸でできているらしい。ホント、スライムって何なんだろう……

 しかし困った。斬ったところで勢いがないと跳ね返される。中身は強烈な酸だ。こういう相手は核となる部分を破壊しないといけないが、初めて戦う相手だ。情報が少なすぎてあるかどうかも分からない。せめて、一撃で消し去ることが出来れば……


 「魔法があるじゃないか」


 以前、竜戦の時は謎の石の力で出していた――その石は俺が意識を失ったとき失くしたみたいだが――が、今は魔法を飛ばせなくても武器に宿すことができる。

 俺は刀に意識を集中させた。

 すると刀身が緋く発光する。


 「一撃で決める!」


 刀を突き出しスライムの体を穿つ。突き刺したため酸は飛び散らない。

 刀身が体内で止まったところで魔力の流れを加速させる。


 「爆ぜろ!!」


 そのまま言葉のトリガーを引き、魔力を爆発させる。

 スライムの体内で爆炎が吹き上がり、そのまま飛散させる。

 沸点を超えていたみたいで、飛び散った酸がシオンに届くことはなかったが、洞窟内を震わすほどの爆音が響き渡った。

 見つかるのは時間の問題か、子供のいるルートをある程度確保しないと。

 俺は走ろうとしたがその場で踏みとどまった。


 (ぐっ……!対応が早いな!)


 薄暗がりで視認できないが、既に何人かに囲まれているのを肌で感じる。

 ヒュンっと空を裂く音。同時に俺の左肩に猛烈な違和感。

 一泊遅れて矢が突き刺さっていたことに気づいた。


 「っがあぁあぁぁぁ!!」


 腕は吹き飛ばされなかったものの、あまりの激痛に呼吸が荒くなる。


 「今のは警告だ。去らないのならば次は外さない」


 奥から声が聞こえる。盗賊の一人だろう。なるほど、手加減してくれていたみたいだ。

 しかし、侵入者相手に何故わざわざ手加減なんかするんだ?アジトがバレたら後々厄介になるだろうに。

 こんな不利な状況じゃ引くことを選ぶ方が無難だろう。だが、引きつけ役の俺は引くという選択肢を取らなかった。


 「すぅ……はぁ……いや、せっかくの警告を無視するようで悪いけど、立ち去れないんだ、よ!!」


 言い終わる前に俺は声のする方へ駆け出し殴りに掛かった。


 「人の警告は素直に聞くべき、だ!!」


 盗賊の一人が俺の攻撃に反応して拳で受け止めた。


 「なぜその剣で来なかった?」


 「いきなり斬って殺したら弓のいい的になりそうだったからだ」


 「はっ、本当にそうか?」


 盗賊の男は言いながらぶつけていた拳を引き、俺の拳めがけ蹴りを入れる。

 俺は咄嗟に身を引きその直撃を逃れた。そのまま足の上がった男の踵めがけ裏拳を入れる。


 「くっ」


 男は後ろにバランスを崩しかけるが、寸でのところで堪え、踵落としをする。

 俺は半身になり回避すると、右の拳で牽制を入れつつ攻撃を加える。左腕が動かないのはかなりのハンデがある。

 男が下がりながら蹴りを入れてくるが、牽制用の蹴りのため驚異ではなかった。俺はその瞬間を狙って腕を振り抜く。


 「はっ、甘いな」


 しかしその一撃は見事に受け止められる。そして足を刈られ背後から倒れこむ。


 「ぐっ……はぁ!!」


 背中から伝わる衝撃が肺の中の空気を一気に押し出し、矢の刺さった左肩に激痛を与える。

 男の攻撃はそこでは終わらず、倒れている俺に組み伏せ、喉元にナイフを突き立ててくる。


 「死ぬ前にひとつ聞かせろ。なぜ俺たちのアジトに攻め入った?」


 「ふ……ざける……なよっ! 人を……それも子供を拐って売りに……飛ばそうとして!!」


 「人拐い? 子供? なんの話だ?」


 「!?惚けるなよ!!」


 「待て、いくら俺たちでもそこまで非人道的じゃないことはしないぜ?」


 「は?」


 「詳しく聞かせろ」



 ――数分前――


 シオンが前方に意識を集中していたから気付かなかったかもしれないが、後方から安全に周囲を散策していたリオは隠し通路を見つけていた。


 「こんなところに、ねえ……」


 開けて入ってみると奥に別の道が繋がっていた。

 もしかしたら、シオンの道は間違いかもしれず、私の道が正しいかもしれない。そうなると場合によっては役割交代になるわね。

 隠し扉の存在に気付かなかったシオンが後でこれるように扉はあえて開けたままにした。

 数分間進むが特に変化はなかった。

 しかし、突然洞窟内に鈍い音が響いた。


 (シオンのやつ、派手にやってくれるわね)


 どうやら向こうは向こうで引きつけ役をまっとうしているみたい。

 また少し歩くと扉が見えた。他に道が無いことから、この扉の奥が怪しいと感じた。

 念のため心眼を使う


 (奥に人の気配は二人……恐らく拐われた子供と見張りかボスね)


 ただの人間になら遅れは取らないという自信から、特に警戒なく扉を開ける。

 ミッションクリア目前にして気が緩んでいたのかもしれない。リオの行動は浅はかだった。


 「ね?言った通りでしょ?なかなかの上玉が釣れるって」


 「おぉう、確かにあんたの言うとおりだ」


 扉を開けると確かに人は二人いた。しかし、少年はおろか、子供の姿はどこにもいない。

 代わりにそこにいたのはスキンヘッドの大男と、


 「あ……あなたは」


 「はぁ~い♡ 二日ぶりかしらねぇ~?」


 先日息子が拐われたとエヴェイユに依頼してきた女性だ。


 「こ……子供は、いや、なんであなたがここにいるの!?」


 「そんなの決まっているじゃなぃ♡ 特別な力を持つあなたを私たちの奴隷にするためよぉ?」


 言って鎖のついた首輪みたいなものを手に持って見せてくる。

 ――奴隷輪。特殊な金属で造られ一度はめると首を落とすしか取り外し方法がない、現代では失われた魔具の一つだ。

 ゾクリとリオの背筋が震えた。

 ヤバイヤバイヤバイ。リオの中で警戒信号が赤く光っている。

 

 「ほれ、お嬢ちゃん。痛くなる前に大人しく首輪をはめるんだ」


 「い……嫌よ!!」


 背を向けて走り出そうとした。だが――


 「さ せ な い♡」


 バタン

 扉が勢いよく閉まりロックが掛かった。

 

 「くっ!」


 迎え撃つしかない。数は不利だけどシオンが気づいてここに来るまで耐えるか倒すしかない。


 「観念しな!」


 「捕まってたまるもんですか! サモンズソード!!」


 蒼白く煌やく光がリオの左手に集中する。そのまま刀身の中心部分がくり抜かれた長剣が姿を現す。


 「なんの手品かしらねえが、大人しく捕まりやがれ!」


 大男が素手で掴みに掛かってくる。イメージ的には抱き抱えようと両腕を半開きにしている。


 「フリューゲル、私に力を貸して!」


 リオはそんな姿を一蹴し、男の素手にフリューゲルを突き立てる。


 「おあああああ!?」


 間抜けな声を発しながら傷ついた手を引っ込める。


 (まだ傷は浅い!)


 「ぬぉ!?」


 リオは持ち前の加速力と剣裁きで大男の胸や腹、足や腕等に確実に当てていく。

 全体的な傷口は浅いも、傷の上に何重もの攻撃を与え続ければ、深手を負わせることができる。

 払い、突き、振り下ろし切り上げ、回し蹴りで大男のバランスを崩し、後ろに回り込んで払い、突いて打撃を入れ……

 速度によるラッシュで大男の反撃を許さないリオの猛攻は続く。しかし、いくら攻撃を重ねても、バランスを崩すことはあっても倒れる素振りは見せない。


 (しぶといわね!)


 なかなか倒れない大男にイライラしてくるリオ。

 リオの意識はだんだんと大男にしか向けられなくなっていた。だから、背後から近づくもう一人の存在に気づくのが遅れてしまった。


 「はぁ~い♡ つぅ~かまえたぁ~」


 「なっ!!?」


 リオは驚きとありえないという感情が織り交ざった声をあげた。

 いくら背後の存在を忘れていたとしても、動き回るリオを簡単に捕まえるというのは、普通の人間ではまず不可能だ。それをこの女はいとも簡単にリオを捕まえたのである。

 

 「あんまりぃ、暴れるとぉ、疲れちゃうわよぉ~?」


 言いつつ、リオの首に奴隷輪を回す。

 これを付けられたら、つけた人の命令は強制させられてしまい、自分の意志で動くことすら許されなくなってしまう。それは絶対に避けなければならない。

 リオは抵抗するも、しっかりと固められてしまって首を動かすことしかできない。


 「ちょっとぉ~、あんまりあばれないでよぉ~。ほらぁ、あんたも手伝いなさいなぁ~」


 「お、おう。」


 大男によって完全に頭を固定されてしまう。


 「へへ、嬢ちゃん、お前さん乳でけえなぁ。おい、手伝ってやったんだから最初の命令は俺がしていいんだろ?」


 「ええ、もちろんよぉ~。私が欲しいのゎ、この娘の力ですものぉ~。だ か ら、体の方は好きにしてもいいわ~」


 「だとよ。さあ、そのエロい乳や体で俺を楽しませてもらおうか」


 嫌だ……嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!

 こんなことで私の人生終わらせたくない!!

 なんでこんなゲスに私の初めてが奪われなきゃいけないの!初めては好きな人じゃなきゃイヤ!

 それに、私にはやらなくちゃいけないことがあるんだ!!

 黒い瞳の竜を倒して、妹を探さなきゃいけない!!

 こんなところで終わってたまるものですか!!!!!!


 「ふふふ、あ な た のご主人様は、私ですよぉ~」


 あと数センチでリオの首に奴隷輪が装着される。

 カチ――


 「クレスト!!」


 リオはそのまま女の腕を払い飛ばし、大男の鳩尾に拳を叩き込み反対側の壁まで飛ばす。


 「ゲハァッッッッ!!!!!!!!」


 大男が膝から崩れ落ちる。

 

 「ハァ……ハァ……」


 使ってしまった。だけど、幸いなことに殺していない。

 本来クレストは、使用者の基礎能力を何倍にも増幅させ、竜という種族に対して更なる特効を得る。だが、力の底上げは、並みの人間に対して振るうと血と肉塊しか残らないほど恐ろしいものだ。

 しかし、リオのクレストは安定性に欠け、力の伸びも低いため、並みの人間を殺すには至らない。


 「ぐ……やってくれるじゃねぇか嬢ちゃん……」


 大男はゆっくりと体を起こす。

 いくらリオの攻撃力が低いからといって、クレスト使用者の攻撃を受けて起き上がれるなんて普通はありえない。

 リオはフリューゲルを構える。

 この大男、タフさだけは竜並かも……そう思うリオの内心はかなり焦っていた。

 大男は斬っても斬っても眉ひとつ変えないタフさの持ち主。

 女の方は動くリオも簡単に捕え、相手の動きを封じるのに特化している。

 対してリオは、力が低く満足したダメージを与えられない。どんなに素早く動いていても女に捕まる可能性は大きい。

 不殺なんて甘い考えは捨てたほうがいいみたい。本気で殺しにかからないとこっちが死ぬ。


 「あらぁ? 何か決心した顔ねぇ~? だったら、こっちもそれに答えてぇあげなきゃねぇ~」


 女は指をパチンと鳴らした。


 「グッ!? オオオォォォオォオォォォアアアアアアアアアアア」


 「な、何!?」


 急に大男が腹を抱え、苦しそうに前かがみになっている。

 メキッ……

 メキメキッ!

 突如、大男の背中から黒い影が伸びてくる。

挿絵(By みてみん)

 その黒い影はリオの横を通り抜け、部屋の中を周り霧散した。

 だが、変化はそこでは終わらなかった。

 男の背中には金属製の触手が何本も生えていた。

 しかも恐ろしいことに、触手の先端が非常に攻撃的なものだ。

 針、鋏、刺叉、ナイフ、銃口等々……


 「な……んなの」


 「うふふふ♡やっておしまい」


 「ガ……ァアアアアアアアア!!!!!!」


 「!?」


 大男が触手を伸ばしてくる。

 リオは咄嗟に回避行動を取る。

 一本、また一本と触手が地面を抉る。土埃が舞い上がり、視界がどんどん失われていく。

 持ち前の反射神経と運動力でギリギリの回避は成功していくが、大男の方も、慣れてきたのか、回数を重ねるごとに正確さと手数が増えてくる。

 やがて、ナイフのついた触手がリオの左ふくらはぎを掠める。


 「くっ」


 視界が失われていく中、相手の精度はますばかり。普段なら気にしないダメージだが、掠めたという事実がリオの焦りを加速させる。

 また、それとは別にリオにはもうひとつの焦りがあった。


 (このままじゃクレストの効果が切れてしまう……!)


 時間が過ぎてしまえばリオの意識は深い闇の中へと落ちてしまう。だからといって解除をしてしまうと今の状況がもっとキツくなる。

 焦りに焦ってしまい、集中力が乱れてきた隙をつかれ、刺叉でリオの動きは封じられてしまう。


 「しまっ!?」


 壁に勢いよく押し付けられる。


 「うっ!」


 腹部を思い切り押さえつけられ、胃酸が逆流しそうになる。

 しっかり固定されてしまい、身動きひとつ取れなくなってしまった。

 大男の攻撃はそれでは終わらず、次の触手を伸ばしてくる。

 右足全体に触手が絡みつき、脚の付け根まで這い上がろうとする。

 また、針が右腕を、ナイフが左太ももを、銃口が左肩を撃ち抜く。


 「ああああああああああああ!!!!!」


 意識が飛びそうになる。いくらクレスト発動したからといっても、痛いものは痛い。

 傷口から血が流れ、地面を赤く染める。

 正直、気合で意識を保つのがやっとだ。

 大男がリオの前に立った。


 「ア……ガアァアァァァァアアアア!!」


 リオは大男に服を掴まれ、そのまま胸元あたりから引き裂かれた。


 「ぃや……ぁ」


 あらわになった白い谷間が裂けた服の下から覗き、先ほど絡みついた触手が遂にスカートの中まで侵入してきた。

 自分が奴隷輪をはめられる絶望や、もしかしたら死ぬかも知れない恐怖よりも、女の子として大事なものを失ってしまう、そのことに震えてしまい、涙を流してしまう。


 (助けて……誰か……)


 「うふふふ♡だぁれも助けになんて――」


 ドォン!


 「な、なにごと!?」


 遠隔ロックした扉が勢いよく吹き飛ぶ。

 もうもうと煙がたちこみ、部屋の中を覆い尽くす。

 突然の出来事に部屋内にいた三人は固まってしまう。


 「グゲ!!」


 リオを掴んでいた大男が急に叫びだす。同時にリオに絡みついていた触手が離れる。

 自由になったリオはその場で崩れ落ちるが、何かがそのリオを優しく支えた。

 煙が次第に晴れていきその輪郭がはっきりと見えてくる。


 「シ……オン……」


 「遅くなった。後は俺たちに任せろ」


 「ん……お願い、するわ……アンチクレスト……」


 クレストを解いたリオはそのまま意識を失った。普段から強気な彼女とは思えない程弱々しい姿を見て、シオンは少し驚く。

 傷だらけのリオを刺激しないよう、静かに横たわらせた。

 シオンは大男に向き直る。

 

 「あれは……人間なのか?」


 背中の触手以外は人間だというのはわかるが、背中の触手が異質すぎるのと、大男の言動や動き、そして目の奥がどうしても人とは言い難いものだった。


 「か、頭……一体どうしちまったんだよ」


 「頭! 俺たちです! 返事してくだせぇ!!」


 「あの頭が人に手を出したんだか?」


 盗賊ABCが頭と言われる大男に向かって叫んでいる。


 「お頭、これは一体どういうことです? 俺たちに説明してください」


 先ほど戦ったリーダー格の盗賊が大男に向かって言うも、大男の瞳はどこか虚ろだ。


 「!! 皆、散れ!」


 一拍遅れ、触手が一斉に攻撃を仕掛けてきた。


 「がああああ!!!」


 「ぐはぁ!!」


 「うげっ!!」


 リーダー格の盗賊以外は触手の攻撃をモロに受け倒れる。


 「ちっ! ガキ! まずはこの変なのから切り落とすぞ!」


 「ああ! わかっている!!」


 シオンは回避行動を取りながら刀を構える。

 すり足で敵の攻撃を躱しながら同時に刀を振るう。

 金属タイプの触手のため、関節以外は弾かれてしまうが、何度も斬り込みを行うことで、斬撃の精度を増す。

 躱し一閃。刀でいなして一閃。カウンターで一閃。

 金属と金属がぶつかる音が部屋中で響いていく。回避行動を取るたび土煙が舞う。

 やがてシオンの斬撃は一本の関節を捉え、切断する。


 「グゥガッ!!?」


 怯んだ瞬間続けざまにもう一本を落とす。

 金属の触手が重たい音を立てて地面に転がる。

 リーダー格の盗賊も、ナイフで触手の関節を抉る。

 こうして触手はどんどん切り落とされ、大男は丸裸になった。


 「お頭、もう一度聞きます。これはどういう状況か説明してください」


 「……………………」


 しかし返事はない。相変わらず目の奥が人とは思えない何かに見える。

 

 「お頭……俺たちは、強きものから弱きものを救う心情の元、盗賊をやっていた。お頭がこのまま見境なく罪を犯すなら、俺がお頭を断罪します」


 「なぁにを言ってもぉ、む だ よ♡ そのむさ苦しい男、もう死んでいるもの」


 「な、何を言って……」


 「あなたたち強うそうだからぁ、私は逃げるわね♡ バァ~イ♡」


 「逃がすか!」


 リーダー格の盗賊が女を追おうとしたが、突如立ち上がった盗賊ABCその他によって道を塞がれた。

 

 「お前たち何をしている! 起き上がったならあの女を追え!」


 「……………………」


 しかし反応はない。


 「下がれ! そいつらこの男と同じだ!」


 「な……に?」


 リーダー格の盗賊が振り向いた瞬間、盗賊ABCその他が一斉に襲いかかってきた。


 「ちっ!」


 シオンは間に入って刀で受け止める。

 幸い、攻撃自体は重くないが別の方向から攻撃が飛んでくる。

 シオンはバックステップを踏み逃れるも、また別の方向から攻撃が放たれる。

 

 「伏せろ!」


 リーダー格の盗賊が落ちていた触手についていた大鋏を使い、正確に相手の剣を切断する。

 

 「お頭と同じって……こいつらも死んでいるのか?」


 「分からない。だけど、盗賊、こいつらの目や動き、発している雰囲気が普通の人間とは思えない」


 「そうか……」


 「だけどこいつら、数は厄介だが動きはあの男と違って単調だ。応じようはあるはず」


 「……お前たちの本来の目的は少年の救出だろ? ここにはいなかったんだからもう行け」


 確かに、俺たちの本来の目的は少年の救出だ。だが、さっき逃げていった女の人は恐らく、先日の依頼主だ。

 その女の人がここにいた時点で、あの依頼事態嘘ということになる。

 では何故そんな嘘の依頼をする必要がある?

 盗賊と俺らを戦わせ両方潰すとか?

 いまいちピンと来ない。

 俺らを潰したところで相手に何の利点がある? なんもないじゃないか。

 いや……竜への驚異を減らすことはできるのか……

 しかし、そうなると余計にわからなくなる。何故、世界を脅かす存在の味方をしているのか――


 「あー、考えてもわかんねぇ! とりあえず、その件は多分なくなった!」


 「は? どういうこ――」


 「説明は後でする!」


 盗賊ABCその他が攻撃を仕掛けてくる。

 動きは単調だ。余計な動きは見せず、カウンターで相手の戦力を奪う。

 左肩がまだ痛むが、リーダー格の盗賊と比べたら何十倍も戦いやすい。

 ものの数分もしないで大男以外の盗賊は片付けた。


 「あんたがやりにくい相手なら、俺がやるが?」


 「調子に乗るなガキが。身内の問題は俺が責任もって片付ける」


 「……」


 「あん? どうしたよ?」


 「いや、なんでも」


 「そうかい」


 シオンは不思議に思う。いくら既に死んでいると知っていても、仲間だった男だ。それを自らの手で片をつけるというのだ。

 辛くはないのだろうか?

 シオンは既に二回も大事な人と時間を失っている。それこそ、相手を知れば知るほど失った時の悲しみは大きい。

 この男はそれを知っている上で殺ると言うのか? それとも、もともと薄情なのか?

 つい数分前に初めて会った人だ。数分とは言え拳を交わした。数分とは言え共闘した。この数分だけでも多少でも情は移る。

 リーダー格ならあの大男とも長いはずだ。大男に掛ける言葉も、おおよそ薄情な人間がするような言い方ではなかった。

 理解ができない。

 何故と思う。

 だがシオンはそれ以上深く詮索するのをやめた。

 知れば知るほど情を移しやすいシオンは、その人を失った時の苦しみを二度と味わいたくない。

 だから、相手のことは必要最低限にとどめるようにしている。

 意識を失ったリオを見やる。

 リオはどんな想いで、どんな気持ちで、どんな覚悟で、エヴェイユで戦うことを選んだのか……

 知りたくないといえば嘘になるが、知ったらきっと引き返せない。そして、知ったあと守りきれなかったときに失う、悲しみにはあいたくない。

 

(俺は決めたはずだ……)


 決めたはずなのに、傷だらけのリオを見るとその決心が揺らいでしまう。

 彼女を知った上で護りたい。そんな想いが胸中を駆け巡る。


 (知って失うくらいなら、知らないで失ったほうが……)


 俺は無理矢理思考を中断させた。



 ――洞窟出口――


 「うふふふ。ここまでくればぁ安心ねぇ」


 依頼主だった女は妖しく微笑む。

 クレスト持ちを奴隷に出来なかったのは残念だったけど、アンデットたちの餌食にできたんだから上出来だわと、自己満足する。

 

 「ああ、ああ~ん♡ この結果を報告すればぁ、あの方もさぞ大喜びだわぁ~♡ どんな気持ちのいいご褒美がもらえるのかしらぁ♡」


 「刺されるのがお望みならば、最高に気持ちのいいもので刺してやろう」


 「え?」


 ズブリ

 下半身に猛烈な違和感の後、想像を絶する激痛が走る。

 

 「ひっ……」


 腹部から股下にかかって突き刺さっていたのは、幅30センチはあろう大型の剣だった。


 「そのまま血で濡れ逝きなさい」


 大剣を勢いよく引き抜かれ、女はそのまま絶命した。


 「あんまり気持ちよさそうじゃなかったけど、真後ろからじゃなく真下から突き上げたほうがよかったかしら?」


 腹部から股下にかけて真っ二つになっている死体を見ながらその人物は言う。


 「ふぅ……アカネ嬢に頼まれて来てみたはいいけど、サベルを掛けたところ、どうやらこの女が黒のようね」


 滝の流れる音が辺りに響く。



 ――洞窟内小部屋――


 リーダー格の盗賊と交戦していた大男が突然悲鳴をあげた。

 致命的なダメージを受けたとか、必殺技を出す前触れとかではなく、何もない状態からいきなり叫びだしたのだ。

 そして次第に、足元から灰と化し、崩れていく。

 

 「お、お頭……!」


 大男の顔まで灰化が迫ってきた瞬間、突然笑顔を見せたのだ。

 呪縛から解放されるような、そんな顔を。

 やがて全てが灰となり消えた。


 「う……ん…………あれ? アニキ? 俺たちいったい???」


 大男が消えた瞬間、周囲で転がっていた盗賊ABCその他が目を覚ましたのだ。


 「なにがどうなっているんだ……」


 俺はさっぱり分からず、呆けてしまう。


 おはようございます、こんにちは、こんばんは。


 会話の中に多少エロいことが載ってるかもですが、気にしないでください。

 ああ、イラストでおっぱい描きたいよおっぱい……


 と言った冗談は置いといて、今回も遅くなってすみません。

 前回の3に引き続き、今回の3も文章長めです(文章まとめ苦手っす)

 説明臭い戦闘シーンも、毎回どうにかならないかと試行錯誤の毎日です。

 ここにこんな際どい文章入れていいのか毎回悩んで消して消して泣く泣く消して……(泣)


 文章の構成上おかしいところや誤字脱字の報告お願いします。

 確認はしているのですが、確認が甘いのか、毎回のようにあるんです(泣)


 あと、盗賊の一団は平たく言うと正義の盗人設定です。

 頭があの女の言葉に惑わされたりしなければ、ねぇ……


 彼らの今後の活躍もとい、出番はあるのだろうか? 私にはわかりません。

 あと、最後の方に出てきたキャラ(また謎の人物だよ)は、今後明かしていく予定です。


 ではでは、次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ