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覚醒の竜殺し  作者: えーりゅー
第一章 三度目の人生
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守護の刃

 リファールの城下町竜害跡地。竜の出現から一月程経ったのにも関わらず復興の目処はついていない。それどころか、人一人すら見当たらない。逃げ延びた住民はリファールの中心部近くの避難所にいるのだろうか。いや、そいつらはもう存在すらしていない。そう、文字通り消滅したのだ。

 生存者がいたのにも関わらず全員が消えた前例はなかったため、当初は騎士たちもかなりの困惑を見せていた。というのも、被害があった数日間は避難所にいたわけだから、いきなり消えたとなっては驚かないほうがおかしい。騎士達の間で捜索は続けられてはいるが当然見つからない。それもそうだ。喰われたのだから。

 漆黒のローブの下で男は口元を歪める。

 ジャリ…


 「む?お前、ここで何をしている。ここの元住民ではないようだが旅の者か?」


 城の騎士か。直接竜の被害を受けてない心の持ち主では喰う事はできないな。ここで殺してもいいが、そうなると厄介だ。適当に流そう。


 「ええ、そうです。ここらで竜が現れたと風の噂で聞いたものですから、ちょっと気になって足を運んだ身です。」


 「そうだったのか。まあ、ここら辺の出入りは自由だが、町の中心部は検問を通る必要があるから、そこだけは忘れるなよ」


 「ええ、お気遣い感謝します」


 ………遠のいていく騎士を横目で見やる。ここにはもう用は無い。他の生存者もいないみたいだし。

 男は身を翻し中心部とは反対の方向へ歩いていく。


 「そこに隠れている嬢ちゃん、見逃してやるから余計なことはするなよ?」


 「!!!」


 男は鉄骨と廃屋の方に向けてそんな言葉だけを発して歩いていく。


 「………長に知らせないと」


 同じく、黒を基調としたローブを纏った少女の背中には嫌な汗がまとわりついていた。



――――――――



 ――白い世界。そう、例えるならそんな世界。俺はそんな世界に一人佇んでいた。

 あの黒一色の世界と似てるようで違う、どこか居心地の良い世界。俺はこの世界を知らないのに、どこか懐かしく感じている。心の安らぎというか温もりというか…どこで味わったんだっけ?

 ふと、背中から誰かに包まれる感覚。優しく、とても温かい…俺はこの温もりを知っていた。


 「リリアさん」


 振り向くとそこには、俺が会いたかった人がいた。

 ――リリア・ファグネス。日本で突然の事故に巻き込まれた俺がこの世界で初めて会った人。同時に、俺を家族として迎え入れ、第二の人生を与えてくれた人だ。優しく、暖かく、俺の生きる希望でもあった。

 それ故に、彼女の死はあまりにも大きかった。当然、死にたくもなった。だが、リリアさんとの最後の約束を俺は守る。諦めない。運命に立ち向かう。生きる希望は失わない。俺が今尚生き続けていられているのは、そういった約束をしたからなのだ。

 リリアさんの口元が動く。しかし声は聞こえない。だけど、リリアさんが俺に言いたいことはなんとなく伝わってくる。

 

 大丈夫。諦めないで。できる。頑張って。


 俺は微笑んで静かに頷き伝える。

 

 俺は大丈夫ですよ、と。


 ゆっくりとリリアさんの体が俺から離れていく。手を伸ばせば引き止めることができるかもしれない。だけど俺はその手を伸ばさなかった。引き止めなかった。もし、引きとめようと手を伸ばしたら俺はおそらく前には進めない。だから俺は必死に伸ばしそうになる手を抑える。リリアさんの姿が見えなくなるまで。

 そして、リリアさんの姿が完全に白に溶けたタイミングで白い世界は暗転していった。



 「………」


 窓から光が射す。陽は登り始めた頃だろうか。窓の隙間から吹く風が涼しい。あまりの心地よさに再び眠りにつきそうになる。

 ………起きよう。あいつを起こさないと朝ごはんが抜きになってしまう。

 俺は起き上がり伸びをする。関節がバキバキと音を鳴らす。昨日はいつもより激しかったからなぁと、昨日のことを思い出しながら俺はあいつを起こしに扉を開ける。


 あいつの部屋の前に俺は立っている。もう何度目になるのか…せめて朝食の当番の日くらいは早く起きて欲しいものだ。はぁ、と俺はため息を漏らす。

 コンコンコン――リズムよくノックをする。

 ………反応なし。

 再びノックをするも反応なし。三度、四度とノックを繰り返しても反応はない。

 

 (くそ…まだ寝ているのか?)


 グゥ…と、腹の音が鳴る。直接起こさなきゃならないのか…

 正直、部屋には入りたくなかった。だが、このままだと朝ごはんが昼ごはんになってしまいかねない。俺は意を決しった。


 「リオ、入るぞ!」


 少し大きめに言うが返事はない。着替え中だったらとも思ったため少し待ったが、本気で寝ているのかもしれない。

 扉に手をかけ、ゆっくりと開ける。そこにリオの姿は――無かった。

 代わりに、ベッドの上で大きくて丸い布団の塊がある。


 (まさか、潜り込んだのか?)


 しつこいノックが鬱陶しかったから、布団の中で丸くなった…と考えればなんとなくわかる。だが、いくら朝とは言え今は真夏だぞ? その選択肢は間違ってないか? 窓から吹く風は涼しくても、風が当たらないと結局は暑いだけだ。果たして、後どのくらい持つのだろうか? 布団追加してやろうか? と、いたずら心が現れてくる。

 グゥ…腹の音がまた鳴る。無理にでも起こそう。いたずらと朝食を天秤に掛けるまでもなく即決した。

 俺はリオを覆っている布団を剥がそうと手を伸ばす。この時俺は運命を少し呪ってしまった。

 リオが暑さに耐え切れず突然布団から体を出したのだ。で、俺はその布団を取ろうと手を伸ばしていた。後は…言わなくてもわかってほしい…

 リオは布団から体を起き上がらせたのだが、その起き上がり方が悪かったのだ。伸ばした俺の手はリオのそこそこ大きい胸に当たってしまった。薄手のシャツが夏の暑さでしっとりと汗ばんだ胸に張り付いていた。軽く触れたのにも関わらず手のひら全体に伝わる女性特有の柔らかさと適度の張り。そして、一点だけ他と違う感触。張り付いたシャツがうっすらと桜色をしていた。そして俺の視線は下に向いているわけで、おまけと言わんばかりにリオの下着が視界に映ってしまった。

 ――こいつ肌着以外何も着ていない!?

 動揺が隠せない。嫌な汗が流れる。思考回路がショートしている。

 対するリオは、半分寝ぼけていたが徐々に現在の状況を把握していく。やがて耳まで真っ赤になってプルプルと体が震えだす。俺はごめんと言って慌てて部屋を出た。



 台所に二人並んで作業をする。料理の得意なリオは手際よく調理を行う。対して料理はさほど得意ではない俺は食材を切ったり道具を準備したりする。

 先ほどのこともあってか、リオの表情はどこか固い。たまに目線が合うと慌てて目を逸らす。不機嫌な態度がおまけ付きで。

 流石に俺も先ほどの動揺が隠せず、包丁を扱う手が安定しない。そして、溜め息と共に肩と視線を落とした時、誤って指を切ってしまう。


 「っ!!」


 人差し指から血が出てくる。やってしまったと思い、傷口を圧迫させる。


 「はい。これ使いなさい」


 リオが差し出してきたのはガーゼとテーピングとゴム手袋だ。俺はリオに感謝し傷の手当てを始める。



 エヴェイユのメンバーと朝食を終え、俺はいつも通りリオと戦闘訓練を始める。宿舎の外で、少し開けた場所で行う。


 「今日は初めから実戦形式で行うわよ。昨日の動き、忘れてないでしょうね?」


 「あれだけ激しくやられたら嫌でも覚えるよ。おかげで体中が痛い」


 「私は朝が眠たかった」


 いつもの事だろと思うも、昨日が原因で今朝はあそこまで徹底していたのか…そう思った。同時に脳裏にその時の光景が浮かび上がる。

 ――今は集中だ。俺は頭をふり雑念を捨てようとする。


 「おまけに今朝のあんたのあの…あの所為で今すっごく機嫌が悪い!!」


 雑念を捨ててる最中なのにソレを言うなー! あと、機嫌が悪いのもほぼいつものことだろ!


 「だから叩かないと気がすまない!!!」


 リオは木剣を左手に持ち、駆ける。


 朝から実戦形式にしたのはそれが理由か! あと、リオはおそらく、朝から体を動かして剣と剣をぶつけて発散させたいと言いたかったのだろう。説明不足と言うより、口下手にも程があるだろ! 発言が物騒なんだよ!

 俺が内心で突っ込みを入れている最中にリオは眼前に迫っていた。

 やばい! 瞬時に戦闘モードに思考を切り替えた。

 低い体勢からリオの突きが放たれる。俺は横に避け、すれ違いざまに居合抜きを行う。

 リオは半身になることで上手く躱す。そのまま回転した勢いで背中向けて木剣を凪いでくる。直感でヤバイと思った瞬間、居合抜きをした手の勢いを殺さず背中に構えて受け止める。

 リオの木剣が肩に当たるがそこまで。真剣だったら恐らく切っていた。受け止めた俺は一瞬の隙を見せてしまい、背中に強い衝撃が走る。


 「がはっ!!」


 リオ得意の蹴りが直撃。

 飛ばされるが受身を取って正面に向き直る。しかし、視界にリオは映らなかった。

 ――斜め後ろ!!

 半歩下がり身体を捻って木剣で受け止める。


 「よく気づいたわね」


 「一ヶ月もここで訓練しているんだ…イヤでも身にしみる、さ!」


 振り抜いて弾く。リオは後ろに飛び、俺と距離をとった。

 リオは中距離から間合いを詰めて懐に飛び込み、すぐ離脱するという戦い方を得意とする。

 ――ヒットアンドアウェイ。

 対して俺の得意な戦い方は未だ掴めていない。癖を挙げるなら、目を狙う。単発。足が止まる。動きを見すぎて次の動きまでのタイムラグがある。武器に頼りすぎている。リオに指摘された大まかな点はこれだけある。細かいところまで行くと目線とか足の運びとか色々ある。

 まったく…人をよく見ている。おかげで、未だリオから一本も取れていない現状だ――


 「休んでる暇はないわよ!」


 中距離から一気に攻めてくる。俺はまた居合抜きの構えを取る。

 せめて一撃…先っぽだけでも決めてやりたい!

 シオンはリオが間合いに入る少し前に居合い抜きをした。タイミング的には絶妙だが、ヒットさせるには十分。そのままリオが突っ込んでいればの話だが。


 「掛かったわね。フェイントよ」


 間合いに入る少し前に急に動きを止めた。おかげで渾身の一撃は空振り懐がガラ空きになる。

 

 「しまっ――」


 「おそい!」


 喉笛に木剣が軽く触れる。


 「勝負あり。また私の勝ちね」


 「だな…負けたよ…」


 ドッと疲れが前面に出てきてその場に座り込んでしまう。

 おまけに喉がすごい渇いている。

 この炎天下で動いたんだ。そりゃあ喉も渇くよな。

 

 「おつかれシオン。最後の一撃は当たったら一撃必殺だったかもしれないけど、まだまだ甘いわね」


 ご機嫌な様子で語りかけてくる。


 「でも勘とはいえ、二度も受け止めたのは良かったと思うわ。後は受け止めてからの硬直時間をもっと減らすようにね」


 悪いところは悪い、良いところは良いと、嘘やお世辞でもないから自分の行動を見直しやすい。


 「ひとつ気になったんだけど、最後振り抜いたあとから私が決めるまでの間、左手の動きに迷いがあったけど、なんで使わなかったの?」


 そのまま体術を使えばもしかしたら戦闘継続できたかもしれないと指摘されるも、使わなかった理由は流石に言いにくい。体術――特に手は直接相手に触れるわけだから、今朝みたいなことが起きないとは言い切れない。男相手だったら迷わず使えるのだが、流石に女の子相手だと…


 「どうしたの?」


 「い、いや、何でもない」


 慌てて起き上がり宿舎の方へ足を向ける。

 

 「依頼が来ているか掲示板見てくる」


 そう言って訓練場を後にした。



 ――エヴェイユの宿舎、掲示板前

 ここにはありとあらゆるジャンルの依頼が書き込まれている。

 勉強を教えて欲しい。話し相手になって欲しい。買い出しに料理。輸送の護衛。魔物の討伐。情報を集めて欲しい。家の修理。名指しもある。

 ここにある依頼は全部ザック団長が管理をしている。依頼を受けるときは、竜討伐のためにもある程度宿舎に待機させていなくちゃならないため、団長、または副団長のアカネさんに声を掛ける必要がある。

 俺は依頼リストを眺めているが、イマイチピンとくるものがない。

 俺にも出来そうなものと言えば、魔物の討伐があるが、依頼主の名前を見て正直受ける気になれなかった。


 (こいつとは顔を合わせたくないな…)


 その他を眺めても地味な内容ばかりでどうしても受ける気にはなれない。

 

 (残りの時間なにしてようかな)


 そう思案していた時、扉が開いた。


 「あ…あの!助けてください!!!」


 これから告げられる依頼内容が、俺が初めて受ける依頼となる。


イラストは今回ありません。申し訳ありません。


果たして、シオンの記念すべき最初の依頼内容とは?

サブタイトルの守護の刃の意味とは?

リオのスリーサ((ry


誤字脱字ありましたら報告お願いします。

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