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覚醒の竜殺し  作者: えーりゅー
第一章 三度目の人生
5/22

再襲来 3

 体勢を崩していた竜がゆっくりと体を持ち上げる。だが俺はそれを待たず、刀を振り下ろす。狙うは竜の左目。

 ブチャァと、瞼の肉を裂き、眼球を切り裂く感触が腕に伝わってくる。オーガ戦の時と違い貫通したわけではないが、視界を奪うことは成功したらしい。その証拠に、竜は怒りで左腕を振るうも、俺にはまったく掠る気配もなかった。


 「あのガキ、目玉を狙うとか抉いな…」


 俺はこの時、完全に油断していた。狙いがつかないなら範囲攻撃が来ることを、予測していなかった。


 「ぐっ…はぁ!」


 竜はその場で回転し、遠心力で威力を増した尻尾に俺は弾かれた。

 幸い、刀で受け止めていたから直接体に当たったわけではない。だがそれでも、衝撃までは抑えることができず、受け止めた右腕に強烈な疲労感と、打った背中から伝わる衝撃が内蔵を揺らし、痛みで呼吸が止まってしまう。

 片目を潰された竜が真っ直ぐこちらに狙いを定め、今まさに飛びかからんとする。


 「よそ見してんじゃないわよ!」


 ザシュッと、ツインテールの少女は右手に長剣を持ち替え、竜の右肩を突くが、ほとんど刺さらない。

 竜に噛まれた左腕はあいかわらずだらけさせている。

 少女が近くにいた事を完全に忘れていたらしく、予想外の攻撃に一瞬怯むも、大した影響ではなかった。竜は目標を変え、目の前の少女に牙をむいた。


 「オレ様も忘れてんじゃねえ!!」


 竜の背後から筋肉さんが大剣と、どこから出したのか戦斧を振り下ろす。

 ドン!

 竜の背中の鱗は硬く、傷をつけられなかった。だが、動こうとしていた竜を止めることはできた。


 「ちっ!これじゃ傷一つ付けられねぇぜ!おいリオ!もう少しでナターシャが来っからそれまであのガキの援護に回ってろ!」


 「なっ!筋肉、あんたまさか、クレスト発動させる気!?」


 「そのためのオレたちだろうが!あと、あのガキも恐らく同じのを発動したままだ!強制停止する前に止め方くらい教えてや――くそ!」


 筋肉質の男は少女の襟首を掴み――シオンの方へ放り投げた。


「ちょっ!何その扱い!」


 「喋ってる暇があるなら防御に徹していろ!」


 筋肉質の男は竜から距離をとり、腰を落として構える。


 「だあああああああああああ!!!!クレスト!!!!」


 男の右肩が、服に隠れているにも関わらず強い光を放つ。瞬間、あたり一面に青白い光が放たれる。


 「オレ様の効果時間は他のメンツより強力な分、発動時間が短けぇんだ。速攻で行くぜ!!」


 予備動作無しの状態から竜の目の前まで一気に距離を詰め、右手の大剣を水平になぎ払う。竜は咄嗟に危険と判断してか、体を少しずらすが躱しきれず、右肩から鮮血が飛び散る。そのまま左手に持っている戦斧を抜刀するような動作で投げ、浅く切った右肩に追い打ちを掛ける。


 「サモンズアクス!」


 二本目の戦斧を呼び出し、先ほど投げた戦斧が刺さっている右肩を両断した。


 ガアアアアアアアア!!!!!!


 竜は叫びながら、失った右肩から崩れる。

 

 「案外、勝て…そうね」


 俺のそばまでやってきた少女がそう呟く。


 「あんた、今使っている能力早く止めたほうがいいわよ」


 今使っている能力…今気づいたが、右手の甲から浮かんでいるもののことだろうか? 


 「これのことか?なんで止める必要があるんだ?」


 感覚でわかるが、これが出ている今は、不思議な力がわきあがってくるようだった。それを止める理由がよくわからない。


 「あんたは手順踏まないで発動したからわからないと思うけど、それ、時間制限くると意識吹っ飛んで、数日間意識失ったままになるわよ」


 「なっ…!」


 意識が吹っ飛び、更には数日間単位で目を覚まさないらしい。リスクが大きすぎる。そもそも、この能力のメリットって何なんだ?


 「どうやったら止まるんだ?」


 「クレストが発動しているときは、体の一部から紋章が浮かび上がってくるから、そこに手をあて『アンチクレスト』って言って発動を抑えるの」


 俺のそのクレストとか言うやつは、右手の甲から発していることになる。左手で右手の甲を押さえ、「アンチクレスト」と言って念を送った。

 すると、浮かび上がっていた紋章が光を失い完全に消えた。


 「これでいいわ。あとは発動させないことね」


 「あ、ああ…ありがとう。ところでこの『クレスト』とかいう能力、デメリットがわかったけど、使うメリットってなんだ?」


 「使うメリット…あんた、あの筋肉――ライガって言う奴なんだけど、あいつの戦い見てなにか思うところある?」


 言われて筋肉さん――ライガさんを見る。竜の右腕を両断したあと、暴れる竜の腕をもう一本奪ったところだ。


 「思うところって…圧倒しているくらい…」


 よくよく考えれば、クレスト発動前のライガさんの戦いをちゃんと見たのって無かった。


 「はぁ…さっきまであいつの攻撃は重力をプラスした戦い方だったの」


 そういえばそうだったような…


 「で、クレスト使ってからあいつは凪いだり投げたりするだけで竜の体にダメージを与えているの」


 なんとなくわかってきたような…

 つまり、何も発動していない状態で全体重をプラスした攻撃でも効かなかったのに、クレスト発動後は、重力に逆らった攻撃でも竜に傷をつけられている、と言ったところか…


 「結論から言ってしまえば、特効よ。あと、身体能力の強化」


 なるほど、だから俺は竜の攻撃を弾いたり傷をつけたり出来たのか…

 じゃあなんで簡単に戦線離脱したんだろう…?


 「便利なんだけど、持続時間にも問題があって…個人差があるんだけど、長くは使えないの。さっき言った通りに意識が吹っ飛ぶ――」


 突然少女の表情は焦りに変わった。


 「ライガ!!クレスト今すぐ止めなさい!」


 ライガさんの方を見やると、光が弱くなっている気がする。


 「ちっ…!ここまでかよ!『アンチクレスト』」


 男から光が完全に消える。試しに持っていた戦斧で竜の首めがけて振り下ろすも、傷を与えることすら叶わなかった。


 「くっそ!解除するタイミング早すぎたか!?おいリオ!お前がトドメ刺せ!」


 「無茶言わないでよ!クレスト発動してもあんたみたいに両断なんて叶わないわ!利き腕も使えない状況じゃ尚更よ!」


 二人が言い争っている。動けなくなった竜を前にして余裕があるのかないのか…とりあえず、今ここにいる中では俺が適任かも知れない。乱れていた呼吸は既に収まっている。俺はその場を立ち、右手を――


 「テメェは使うな!」


 「なっ!」


 止められた。何故か止められた。意味がわからない。


 「あんたに説明しきれてなかったんだけど、発動する時が一番エネルギーを使うの。だから、発動後に強制停止なんてよくあるわ。特に発動と停止を繰り返すと」


 俺はさっきクレストを止めた。そこからまた発動するとエネルギーを大幅に食うらしく、そのまま強制停止の可能性があるらしい。

 なんだよ! 後一歩のところで詰みかよ!

 確かに竜は動けない。ほっといても害はなさそうだけど、なんかスッキリしない!

 

 ガアアアアアアア!!!!


 竜がいきなり吠えた!

 気づいたら、残っていた後ろ足だけで立っていた。背翼四足型の竜が。


 「おいおい…マジかよ」


 「ライガ避けなさい!」


 少女の叫びは一歩遅く、竜はいつのまにか口内に溜めていた火球を放つ。


 「ぐっ!」


 ライガは咄嗟に戦斧を盾代わりにするが、物理的なものではなかったため、意味がなかった。


 「があああぁぁああぁあぁ!!!」


 次いで、二足で立っていた竜が、その体でライガを押しつぶそうと倒れ掛かってきた。


 「やべぇ…っ!」


 ドオォン


 間一髪で避けるが、竜は続けざまに口を開き――ブレスを吐いた。


「ぐがぁぁぁああぁあ!!!!」


 ライガの全身が炎に包まれる。悶える。炎の中で苦しみ叫ぶ。決まった運命かのように、このまま死を受け入れるだけなのか?


 「のヤロゥ!」


 ライガは拳を地面に思いっきり突き出した。ライガを中心に衝撃波が広がり、全身を包んでいた炎が吹き飛んだ。

 焼死は免れたものの、全身は既にボロボロ。

 竜はその場から大きくは動けないものの、首を伸ばせば食えると判断してか、大きく口を開いた。


 「させない!」


 少女は左腕から血が流れているのを気にせず、高速でライガと竜の間に割って入り、利き手とは逆の手で握った長剣を突き出した。


 「レインフォースメント!」


 ガキィン!


 当然ながら強化したとは言え、攻撃につかえるようなものでなく、かろうじて受け止める形となった。

 そして、先程と同じように、右腕に竜の牙が食い込むこととなる。


 「ああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 今度はさっきみたいに誰かが助けに入ることは出来ない。このままでは少女の右腕は引きちぎられる。そういう運命だ。

 は? これが運命だと? 何言っている! 何が運命だ! 結局このまま何もできないで誰かが死ぬのか? 違う! リリアさんが言っていた。運命なんかに負けるなと。

 誰も動けないなら俺が動いてやる。強制停止? やってみなきゃわからない! このまま黙ったままだったらどの道死ぬしかないんだ! なら、少しでも生きながらえる確率がある方を選択する!


 「はあああああああ!!!クレスト!!」


 俺の意識はそこで途絶えた。



 ――何もない暗い世界。どこを見ても闇が広がっている。自分の体も見えない。体があるのかどうかも分からない。


(ここは…どこだ?)


 移動している感覚だけはある。だけど出口らしきものは見当たらない。

 俺は走った。

 走った。

 走った。

 走った。

 走った。

 だけど、いくら走っても出口は見当たらない。


 (くそ!早く戻らないとあの二人が…!)


 「ふざけるな!俺は戻って変えなきゃいけないんだ!決まった運命に抗うんだ!絶対に死ぬ運命なんて認めない!!」


 俺は叫んだ。力の限り叫んだ。叫んだが、声は何かに反響するまでもなく、静かに消えた。まるで、決まった運命にかき消されるかのように。


 「ふざけるなよ…」


 ――無様だな…


 「誰だ!」


 声が聞こえた。だが、耳にではなく、直接脳に語りかけてくるような感じだった。


 ――あの時ああしていればああなっていたのに。あの時あの選択をしていれば誰も傷つかなかったのに。あの時こうしなければもっといいことが起きたのに。自分の選んだ選択によって導かれる運命を何か別のものの所為にし、自分は悪くない。悪いのは運命だと自分を正当化する。見苦しい。


 その声に抑揚は全くないが、自嘲気味にも聞こえた。


 「俺は自分の選択を誰かの所為になんかしているつもりはない。俺は俺で選んだことに責任は持つ!だから、変えられるものは自分の力で変える!」


 ――可能性が無くてもか?


 「もう、後悔はしたくないから」


 目の前に人の姿が浮かび上がる。

 ローブを深く被っているため、顔はハッキリと確認できないが、隙間から赤い髪の毛と、闇より深い碧い瞳がチラつく。


 「自分の生き方に後悔したくない…そうだな。すまない、俺はお前に少し意地悪をしたな…」


 いきなり現れていきなり謝られても、正直反応に困る。


 「この空間は俺の管理区間だ。意識体だけのお前は俺以外何も見えないと思うが気にしないでほしい。この空間はお前のいた空間とは別の次元だから、ここで消費していた時間は向こうには影響ない。だから安心しろ」


 純粋に意識が失っているなら時間は過ぎていくはずだ。だが、ここでの時間は向こうでの時間とは関係がないと言う。そもそも、何故俺はこの空間にいるんだ?


 「聞きたいことはあると思うが、この空間を維持する時間がないんで、手短に伝える」


 赤毛の男は話し始めた。


 「あのまま突っ込んでいったところでは竜にたどり着く前に時間切れだ。わかっていると思うが、お前をここに呼び出したのは俺だ。だから呼び出した――いや、偶然呼び出せた、が正しいか」


 呼び出せたのは偶然?

 赤毛の男は一つ間を置く。それからポケットから何か取り出してきた。


 「これを持ってろ」


 何か宝石みたいな赤いものをこちらに投げつける。手のひらで握れる程度の小さなもので、危うく取り損ねてしまうところだった。


 「これは?」


 「名前はない。持っているだけで効果は目に見えてわかる」


 「何故俺にこれを?」


 「一つはお前の運命に抗う姿を見たくなった。もう一つは――」


 急に赤毛の男の姿が霞んでくる。


 「どうやら時間のようだな。…お前のその意志………絶対に曲げ…な…」


 声が遠くなっていく。

 ちょっと待て。二つ目の理由まだ聞いていない。

だが、先程と違って声が出ない。いや、出せないではなく、元々音が存在していないかのように音が出ない。

 やがて俺の視界は完全にブラックアウトした――



 気がついたら俺は走っていた。視線の先には竜と少女と男の姿。右手の甲は発光している。クレストが発動している証だった。意識が飛ぶ前の状況だが、ひとつ違うところがあった。

 左手の中には赤毛の男から受け取った宝石みたいなものを握っていた。

 持っているだけで効果が出ていると言っていたが、正直今は実感出来ない。


 「あ、あんた、何でクレスト発動させているの!?!?」


 「黙って見ていられるかっての!」


 俺は竜の視界に映らない左側から、殺傷能力の高い突きを選び、竜の喉笛めがけて放つ。

 しかし、普段から魔物退治に狩り出ているわけではないので、武器の扱いは得意ではない。そのためか、狙った箇所の下の方を刀が通過する。

 チッと掠めただけだったが、死角からの攻撃に少し驚いてか、口を少し開け、唸り声を上げた。

 少女はその隙を逃さず、竜の口から右手を離す。流れる鮮血と共に。


 「爆薬の栓を抜いたわ!一旦この場から離れるわよ!」


 「え?」


 瞬間、少女は動けないライガさんをさっきの仕返しかのように蹴飛ばし、自身もバックステップを踏んで距離を取る。

 ちょっと待て、爆薬ってなんだ??


 ドォン!


 考えを巡らせる前に竜の口の中で爆発が起きた。

 口の中で爆発が起きた竜の頭は大きく上へと向いた。柔らかそうな喉の肉を全開に見せながら。

 当然、爆発の衝撃はこっちまで伝わってきている。クレストが発動されているからなのか、衝撃は軽減されたけど、傷を負っていた二人が受けていたら、ただじゃ済まなかっただろう。


 「あんた!クレスト使っているならそのまま切り上げなさい!」


 竜の首が重力に沿って落下してくる。俺は片手で下から刀を振り上げる。

 ズブリと、喉の肉にめり込む音が聞こえるが、入ったのはほんの数センチ単位。そのまま竜の頭が落下する勢いで俺の腕は下へともって行かれそうになるため、左手で柄を支える。

 カチン――左手に持っていた宝石みたいな石が柄の部分に当たると、刃の部分から焔が吹き出た。竜の全身を紅い焔が覆い尽くす。


 ガアアアアアアアアアアアアァアァアァァァァァアア!!!!!


 竜が叫ぶ。頭と尻尾と背中の翼をばたつかせる。

 ――この石が発動させたのか?

 後は全身が焼き尽くされるのを待つだけ…か。しかし、そこはさすが竜の鱗。皮膚が剥がれることも無く、焔によって生傷が塞がっている。

 あれ? これって意味あるのか? 倒せるか少し不安になってきた。


 「黙って見てないでトドメをさしなさいよ!」


 少女がこちらに向かって叫んでくる。

 そうか、黙っていても変わらないなら、手を加えるしかないのか。左手に持っている石をポケットにしまう。

 下からだと力が入りにくい。俺の技量では上からじゃ硬い鱗を斬るのは無理。なら、遠心力を加えた一撃で喉元を抉ろう。俺は助走の加速力も付け加えるため、距離を置き、刀の重さ、感触を確かめながら水平に構える。


 「はああああああ!!!」


 加速と回転力。それと、ほかの部位より防御の薄い喉元。俺は全力で振り抜く。

 ズブリと肉に食い込むが、焔に炙られていたからのか、先程より硬く感じる。

 

 「くっ!またか!」


 だが、刀を引き抜いた時おびただしい量の血が吹き出た。全身に血を浴びる。

 この量なら時間が経てば出血死するだろう、と思ったのも束の間。すぐに血は止まる。いや、傷口が塞がっている。おかしい。いくら焔で炙られているからってあの傷の深さをこの十数秒間の間で塞がるわけがない。

 ――超常的な生命力

 竜は他の種族と違い、知能、力、守り、生命力、あらゆる面でそれらを凌駕する。

 ゲームだけのルールかとも思っていたが、この世界でもしっかりと適応されている。

 倒すなら首を落とすとかしないといけないんだなぁ…いやまてよ? こんな状況なら別に放っておいても問題はないんじゃないかな? さっきまで暴れていたのが嘘のように――


 バサッバサ


 未だ焔に包まれている竜が翼を羽ばたかせる。

 辺りに強風が吹き荒れる。


 「うわ!」


 竜がボロボロな状態で宙に浮いている。

 ――しまった! 歩けなくても竜は飛べたんだ! あの距離じゃ攻撃が届かない! 

 俺は竜の一方的な攻撃が来ると思い防御体勢に入ったが、竜は上昇するだけで何もしない。離脱していた。


 「まさか逃げる…とはな」


 驚異が去ったといえば去った。だけど、それは一時的なものだ。

 やがて竜の姿は見えなくなった。

 それと入れ替わる形で魔物がこちらに迫ってきた。


 「なんだよ!休む暇もくれないのかよ!」


 オーガ、オーク、ゴブリン、リザードマン…リファール周辺に生息する魔物の群れだ。

 恐らく、竜がいなくなったところを見計らって襲ってきたのだろう。

 対してこちらは重傷者二名と俺。明らかに不利だ。確かに俺は魔物退治はやったことがあるが、必ずチームを組んで行っていた。ソロで多数を相手したことなんてない。

 非常にまずい。さっきまでの手負いの竜はまだ大人しい方だったと思う。


 「早く逃げなさい!」


 だがもう遅い。魔物は獲物を見つけると全力で走ってきた。


 「やるしかない!」


 俺はまずオーガに目標を定めた。

 振り下ろされる大剣を躱し蹴りで大剣を弾く。持ち上がったオーガの二の腕を切断し首を刎ねる。続けて来るリザードマンのランスを横に弾き柄の部分を切り落とす。そこでオークの斧が俺の体めがけて振り下ろされる。手持ちの刀でそれを受け止めるも勢いに負け膝をついてしまう。

 俺は隙を見せてしまった。そこに二体目のリザードマンが曲刀を振りかざしてくる。

 

 「しまっ――」


 咄嗟に身体を捻り躱したが、無理に踏ん張ったせいで足を挫いてしまった。


 「がっ!!」


 無様にも転んでしまう。

 ――やばい! 避けられない!?

 再度振り下ろされる刃。

 ギンッと、間一髪刀で防ぐが、リザードマンの曲刀が鼻先に触れるほどに迫ってきている。

 ――死んでたまるか!


 ――――――――


 奇跡って、連鎖的に起こるものだろうか? リザードマンの即頭部を一筋の閃光が通り抜けた。白目を剥き、血を流しながら俺の上に覆いかぶさる。流れる血が俺の服を汚しながら。

 一筋の閃光の来た道を辿ってみると、三人の男女がいた。


 「危なかったですね。でももう大丈夫です」


 物腰の柔らかそうな女性が弓を構えながらほわほわと微笑む。


 「ナターシャはリオとライガさんの治療に、ユキさんは私の援護をお願いします」


 長槍を持ったポニーテールの少女はナターシャと呼ばれる女性と、ユキと呼ばれる男性に指示をする。


 「エヴェイユ自警団副団長アカネ、いざ参る!」


 バチバチと長槍に電気が走り、風を発生させ上昇する。彼女の視線の先にはオークがいる。アカネと名乗った少女はオークめがけて空中から一直線に突撃した。

 気がついた頃には少女は近くにいたもう一体のリザードマンに接近し、緩やかな風のように舞い、首を蹴る。倒れ掛かったリザードマンの体を長槍の柄で飛ばし、ゴブリンを巻き込む。

 あまりに一瞬過ぎてあっけにとられていたが、オークは左肩から右脇腹にかけて上の部分が消し飛んでおり、リザードマンの首は360度回転して半ばちぎれかかっていた。

 あっという間に二体の魔物を倒してしまう。

 他の魔物はいつの間にか消し炭になっていた。

 さっきチラッとライガさんと少女の会話であった通り、ユキと呼ばれる男の魔法のようだ。

 残ったゴブリンは戦意喪失したのか、背中を向けて逃走し始めたが、リザードマンを射た一筋の閃光がゴブリンの後頭部を通過する。

 ナターシャと呼ばれた女性の一矢だった。


 

 残りのメンバーであろう男三人が、この周辺に他の魔物の存在はなくなったと話をした。


 「報告ありがとう。引き続き行方不明者の数と生存者の救助とを頼む」


 副団長のアカネは男三人とナターシャ、ユキに指示を出す。


 「リオ、到着が遅くなってすまなかった。どうか許して欲しい。両腕の傷、しばらく残りそうだな…」


 「ア、アカネ!?」


 アカネはリオを抱きしめた。


 「ちょっ、ひ、人前でそんな、て、てゆーか、アカネ、あんた泣いてんの!?」


 「す、すまない…大切な家族がこんなボロボロになって…グスッ、死んいでたかもしれないって思うとグスッ…つい」


 「おい、オレ様の方がどー見ても瀕死だろ」


 ライガの全身は包帯だらけ。ダメージが酷く横になって安静にしていた。


 「むぅ、そ、それはすまない」


 「筋肉、あんたの普段の行いが悪いからじゃないの?」


 「るせぇ」


 「と、すまない。君に礼を言わなくてはな。リオとライガを助けていただき感謝する。それと、今回は本当にすまないと思う…その、君の家族…っ!!」


 アカネはその場で胸を押さえ、嗚咽した。


 「本当に…ぁ…本…当に…ぅ…すまな…」


 膝が折れ、その場でうずくまってしまう。責任を感じすぎてしまっているのかもしれない。はっきり言って、リリアさんが死んでしまったのはエヴェイユの人たちは関係なく、オーガを倒しきれなかった俺の問題だ。

 俺はアカネと名乗った彼女の肩に手をあてる。


 「気にしないでくれ、って言うのはおかしいかもしれませんが、リリアさん――俺の育ての親…姉ですが、俺の実力不足が原因です。え、と…アカネさん?顔、上げてください」


 アカネさんが調子を取り戻すまで彼女の背中をさする。その間、ツインテールの少女――リオが何か言いたげな視線でこちらを見る。

 いや…俺だって流石に初対面の女の子の背中さするとまずいと思うよ? でもこの状況は致し方ないと思う。



 「み、見苦しいところを見せてすまなかった」


 さっきから謝ってるところしか見ないなぁ…


 「あ、ちょっと割り込むわよ。あんた、今もクレスト発動しているけど、なんともないの?ここまで時間が続くなんて普通ありえないわよ。まして初心者が」


 言われてみれば、俺の右手の甲は未だ発光していた。身体の変化は分からないが、ここまで効果時間が続くとしたら…あ。

 俺は思い当たる節があった。あの石みたいなのだ。確かポケットにしまっていたな。

 俺はポケットの中をまさぐりそれを取り出そうとした。取り出そうとしたところまではよかった。ポケットから引き抜く時が悪かった。

 ポケットの口の部分に引っ掛けてしまい石みたいなのをうっかり落としてしまった。


 「あ」


 『持っているだけで効果は目に見えてわかる』


 その意味は今はっきりわかった。魔法を撃ちだすとかは副産物的なもので、本来の使用効果は、


 「クレストの延長…」


 目に見えねぇよ。体感でしかわかんねぇよ。

 当然、俺の意識は闇の底に落ちた。



――――――――



 リファールの城下町、数日前までシオンが竜と交戦していた工場区間に黒を基調としたローブを纏った人物が立っていた。


 「…あった。この石…この世界のものじゃない?でも、これはすごい力を感じる」


 「その石、我々に渡してもらおうか」


 「!!」


 同じく黒を基調としたローブを纏った人物が三人立っていた。しかし、その人物たちのローブは厚手のコートに近い素材で出来ており、少々暑苦しそうだった。


 「させない…お願いイルフェン」


 「我々の言う通りにすれば怪我しないで済む…」


 ドサッ

 ローブを纏った三人の男がいきなり倒れた。


 「もういいわよ、イルフェン」


 涼やかな声で何もない空間に呼びかける。


 「…………お姉ちゃん」


 後日、三人の遺体は人知れず無いものとされた。



――――――――



 目が覚める。木製の天井。リリアさんの家じゃない。閉めたカーテンの隙間から光が差し込む。

シャーっとカーテンを開ける。光が目に刺さり思わず目を瞑ってしまう。

 窓の外は畑が見える。農場というよりは家庭菜園。部屋を見渡すと、木製の本棚、机、椅子、その他は特に何もない、少々寂しい空間だった。

 と言うか、ここは何処だ? 俺、いったいどうしたんだっけ? あぁ、確か、クレストの効果時間が過ぎて意識が飛んだんだっけ。てことは、何日くらい寝ていたんだろう? 

 ん~、と考えていると木製のドアが開いた。


 「あら?目が覚めたようですね。気分はどうでしょう?」


 金髪セミロングで、ウエーブがかかっている、どこかほわほわした感じの女性。身長は俺と10センチも差はないと思う? 全体的にスラッとしていてモデル体型に近い印象を受けた。


 「え、と…丁度今目が覚めたところです。気分は…そうですね、大丈夫だと思います」


 「そうなのね。あ!今目が覚めたということはお腹も空いていますよね?今朝食持ってきますね」


 バタン

 ………ここどこですか? 聞こうと思ったけど、聞く隙すら与えてくれなかった。


 きゃあ! ちょっ!ナターシャ、あんた何もないところで転ばないでよ! って立ち上がろうとしてまた転ば…きゃあ! ちょっ! ナターシャ! スカート引っ張らないで!


 何だか外が凄いことになっているな…


 え? 目が覚めたから朝食を? あんたが運ぶとここに持ってきた頃には皿の中が全部なくなるから私がやっとくわ。え? いやいや、謝らないでよ。それより筋肉の様子みてきて。


 ………ナターシャさんって、おっちょこちょい?


 コンコン

 ドアがノックされた。


 「入るわよ」


 現れたのは食事の乗ったトレイを持っているツインテールの少女。さっきのナターシャさんとは違い、トゲのある視線が気になる。身長は150半ばくらいだろうか? それでも出るところはそこそこ出てる印象はある


 「「………………」」


 無言の空気が流れる。気まずい。というか、その手に持っているトレイを届けに来たって言えばそれで済むのに何で黙る!?


 「「あの…」」


 被る。そんでもって「なんで同じタイミングで言うの」と言わんばかりの視線を投げかけられる。理不尽だ。

 俺は「先にどうぞ」と手で意思表示をした。


 「ご飯、ここに置いておくから」


 それだけと言わんばかりにここから去ろうと、扉に差し掛かったところで、


 「それと、先日はありがとう」


 そう言うと走ってこの部屋から出ていった。

 背中越しで表情は確認できなかったがそれはどうでもいい。俺に質問の権利はないのか


 何時間くらいだろうか、外に出ようと思えば出れた。だけどなんか出る気はなかった。気分の問題だろうか? いや、二度目の人生を失った俺は今後どうしようか、真剣に悩んでいた。だが、答えは出てこない。

 コンコン

 再びノックされた。ナターシャさんの時はノックが無かったので三度とは言わない。どうでもいいな。


 「どうぞ」


 開いたドアの先にはオールバックのおじさんが立っていた。


 「目が覚めたそうだな、少年」


 気さくにはなしかけてくる。親しみやすそうな雰囲気だけで見ると、リリアさんに似ている。


「オレはエヴェイユ自警団団長ザックだ。ここはオレ達の拠点だ。で、少年が眠っていた時間は5日だ。それと少年、君の家族はリファールの風習にならって手厚く埋葬しておいた。君が聞きたかったであろう情報は先回りして伝えた」

 

 前言撤回。質問の権利ではなく、発言の権利すら与えてくれそうにもない。


 「さて、他に質問は?」


 更に前言撤回。やっと発言の許可が…あれ? 許可取る必要全くないよな、思えば。


 「特にないです」


 「そうか。ではこっちから質問をしよう。ああ、起きたばかりなのにすまないな。そう長くはならない」


 質問は、何故クレストが使えたのか、今後どうしていきたいか、戦闘経験はあるのか、竜と交戦して思ったこと、あと、巨乳派か貧乳派か(クソどうでもいい)を聞かれた。

 クレスト、今後の予定はわからないと答え、戦闘経験はチームでリファール周辺の魔物退治を不定期的に、竜はクレスト使ったライガさんがやっと切断できるほどの硬さと、行動力は基本的に思慮深いと答えた。巨乳か貧乳かの質問は無言を貫いた。


 「クレストは仕方ないとして、今後の少年の予定なんだが提案がある」


 「?」


 俺の予定とか考えていたのか…どんな案があるんだろう。参考程度に聞いておこう。


 「我々、エヴェイユの一団にならないか?」


 スカウトだった。俺の何を見込まれたのか、それとも、保護を目的としたのか…気になった。


 「何故です?」


 もちろん、俺は全面拒否するつもりは全くない。だけど、入団するにしてもそのスカウトした目的を聞かないと判断ができない。


 「一つ目の理由だが、クレストを一般市民である君が発動させたこと。これに関しては興味があるのと、監視だ」


 監視に関しては、一般世界の中で発動させて事件を起こさないためと、突発的な不祥事帯に対応できるようにするため。


 「二つ目は、人員の補充だ。ここは街の依頼なんかも引き受けている。言ってしまえば自警団なんてのは自称だ。どっちかっていうと便利屋に近い。依頼内容によっては人員の負担が大きくなる。それを少しでも軽減するためだ」


 依頼内容の中には魔物退治からペットの散歩なんてのまである………は?


 「三つ目は、君の保護だ。リファール、君の住んでいた周辺は物の見事に廃墟となっている。まだ成人していない君が他に選べる道は、リファールの騎士団に入団だが、入団もタダじゃない。それと個人的に、あそこはいけ好かねぇ」


 代わってここは入団無料だとか。自分の資金は依頼で稼ぐとかして欲しいとのこと。あぁ、だからペットの散歩まで依頼の幅が広いのか。貧乏…?


 「四つ目は、数少ない竜との戦闘経験者。ここ5年間は竜は現れなかったが、いまの団員は竜との戦闘経験者が非常に少ない。いても、このオレと副団長のアカネ。他に4人だけだ」


 意外と少ないと思ったが、ここにいる団員の殆どは、竜が出現しなくなった間の時期にクレストが使えるようになったとか。クレストの発動しないものは、対竜戦闘要員から外されるみたいだ。


 「君を誘う理由は以上だ。それを踏まえて、どうする?」


 「一つ質問いいですか?」


 「おう、何だ?言ってみろ」


 「あなた達エヴェイユの目的ってなんですか?」


 相手が誘う理由はわかった。後は俺がそこに入るかどうかだ。そこで、この自警団? 便利屋? の存在理由を知る必要がある。


 「目的か…そうだな、表向きは悩みとか揉め事を解決する便利屋だが――真の目的は、人々を竜の驚異から守ること、だな」


 俺はどうしたい? 理不尽にも日常が壊されてどんな気持ちだった? 逃げるか立ち向かうか。リリアさんはなんて言っていた? 運命に負けるな。負けるなということは勝ち続けろと。抗えと。なら俺は抗い続ける。竜という驚異を俺の手で排除する。俺は絶望の運命をひっくり返してやる。

 俺の意志は決まっていた。だからこう言う。


 「入団を希望します。俺は、俺の手で運命に抗い続ける」


 ガシッとザック団長が俺の手を力強く握る。


 「おう!よろしく!さて、団員にも紹介しないとな。ニューフェイスの登場だ、って」


 「え…?」


 いきなり引っ張られる俺。ちょっ! まっ!



 食堂に連れてこられた。時刻は…夕方! 不在の団員以外は集まっている。全部で20人に満たない。えと…すごい視線が集まっているんだけど…

 午前中から今の時間まで団長室で何故か女のタイプだのフェチだのなんだの、終いにはエロトークし始めやがって…オレノセイシンハゼロヨ…


 「おーい!皆揃ったかー?」


 ウオオオオオオオオ!!!!!

 むっさ苦しい男連中の声が響く。


 「今日は新しい仲間――家族の紹介だ!ほら少年、一言」


 うわ…無茶振りだろ! なんも考えてないよ! 何言えばいいんだよ!?

 今まで多数の視線の中で何かを喋ったことないため、かなり緊張してしまっている。マジでどうしよう。


 「まずはテメェの名を名乗れー!」


 酔っ払い気味のライガがそう言ってくる。ちょっと腹が立った。いいよ、言ってやるよ。

 俺は一歩前に出て、


 「初めまして!俺はシオン。サカガ――いや、シオン・サカガミって言います。よろしくお願いします!」


 一礼をする。パチパチと拍手される。あれ? こんなんで良かったのか? ちょっとあっけなく感じてしまった。しかし、安堵したのも束の間。


 「巨乳と貧乳、どっち派だー?」


 はぁ?

 予想外の角度と次元から予想外の攻撃が飛んでくる。


 「一日何回してるんだー?」


 「ヤったことあるのかー?」


 一歩後ざする。いやいやおかしいでしょ? 団長といい他の男連中といい、何故下ネタ方面で行く!?

 ポンと肩に団長の手が乗る。


 「後は適当に流していいから食ってこい」


 本日最っ高の笑顔でこう言ってきた。助けるつもりはないらしい。ええ、知っていますよ、わかっていますよ。揉まれてこいって言うんでしょ!


 俺は空いている席に着く。視線が痛い。特に男連中の視線が。女にその視線を向けるのはわかる。でも俺男だよ? バカなの? ホモなの? 勘弁して…


 「ねぇ」


 ビックリした。いきなり声をかけられるものだから、心臓に悪い。

 右隣にはツインテールの少女が座っていた。


 「あんた、ここに入団することになったんだね」


 「ま、まぁ」


 「ちゃんと名乗ってなかったから名乗ってあげるけど、私はリオよ」


 「シオンです、どうも」


「そ、その…さ、朝はちゃんと面向かってお礼言えなかったから改めて言うわ。あんたのおかげで腕を失わないで済んだわ。本当にありがとう」


 照れくさそうに目を伏せてしまう。でも今朝よりは気持ちがこもっているように感じた。


 「よ~、ぼーず。飲んでるか~?」


 酔っぱらいのライガが背後に迫ってくる。酒臭い。

 と、いきなり俺の右腕を掴んだ。え?


 「このぼーずがねぇ…どうやって発動させたんだか」


 俺の右手をまじまじと見る。俺そんな趣味ないから離して欲しい。


 「リオも、最近やっと使えるようになった身としてはやっぱり知りたいんじゃないのか~ヒック」


 「はぁ?私は使えるようになったんだから特に知りたいことなんてないわよ。あと筋肉、酒臭い!」


 「ガハハハ!だがこのぼーずは使用時間はオレ様達より遥かに長かったろ…ヒック…あ~、長くする方法とか気にならねぇのか?」


 「ぅ…確かに、気にはなるけど…」


 あ…そういえばあの石って回収されたのかな…

 俺は別の事を考えた。その時右手から意識を外したのがまずかった。


 「ガハハハ!知りたいなら直接この右手に聞くといい…ヒック」


 悪酔いライガは俺の右手を操作し、あるものを掴ませた。

 ふにょん。

 意識が別の方向に飛んでいた俺は、右手がなにか柔らかいものを掴んだ事に今気づく。

 柔らかい………柔らかい!?

 バッと右手の先を見る。

 右手首にライガの左手。正面には顔を真っ赤にしてプルプル震えているリオ。俺の右手に収まっているものは…

 勘のいいやつはすぐわかるだろう。それがなんなのか。

 俺が感じる指の感触は柔らかく、俺の指の関節は硬直。周囲の空気はフリーズ。


挿絵(By みてみん)


 「あ………あぁ……………あああああ………」


 「ヒック…どうよリオのおっぱいは…ヒック。あとで感触きかせろ――ふごぉ!!」


 見事な左ストレートがライガの顔面を潰す。

 手で胸を押さえ、こちらを睨み返すリオ。


 「~~~~~~~~っ!!!!!」


 ダッとその場から走り去ってしまった。

 俺も被害者の一人なんですが…でもこれって言い訳か。触ったという事実は覆らない。これ流石に抗うとか、そういう次元の問題じゃない…

 今度は誰かの手が右肩に乗る。アカネさんの手だ。


 「今のは全面的にライガが悪いが、君も少々油断しすぎだと思うぞ?許してもらえる保証はないが、追って謝るとかはしておいた方がいいと思うぞ」


 俺はわかったと頷き、リオの後を追った。



 案外直ぐ見つかった。外に備え付けられているベンチに座って空を見ていた。

 声を掛けようと近づいたが、先手を取られた。


 「言っておくけど、私は怒っていないから謝らないで。た、確かに、胸触られてびっくりはしたけど、それだけだから」


 「あ、あぁ…」


「ザック団長から言われたんだけど、私、あんたの戦いの指南役になったから」


 え? いつの間にそんな話がされていたんだ?


 「だからさっきのことが原因でギクシャクした状態にはしたくないわけ」


 「………そうだな」


 「「…………」」


 沈黙が過ぎていく。だけど朝とは違い、気まずい空気ではない。夏の夜風が涼しい。

 そんな心地いい時間もあっという間に過ぎ去っていく。

 

 「さ、てと。そろそろ中に戻りましょう。あんまり長いと皆が心配しそうだから」


 「もう遅いと思うけどな」


 笑って返す。リオも笑顔で返す。

 俺はリオと共に皆が待っている食堂へ戻った。



 ここから再々スタート。俺の第三の人生。

 日本での生活。

 リリアさんとの生活。

 そして、エヴェイユの団員としての生活。

 この第三の人生で俺は運命に抗ってみせる。決まった絶望をひっくり返す。守れなかったものを守るために。

 リリアさん、俺はあなたに感謝します。たくさんの物をいただきました。たくさんの幸せをもらいました。俺の道を照らしてくれました。

 今度は俺の番です。見ていてください。どうか…

再襲来終わりました!アップまでに三週間かかってごめんなさい。

物語はまだまだ続いていきますのでどうぞ引き続きよろしくお願いします!


キャラ質問などあればいつでも受け付けています。


また、誤字脱字などがあれば報告お願いします。

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