表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覚醒の竜殺し  作者: えーりゅー
第一章 三度目の人生
3/22

再襲来

 部屋の奥で電話声が聞こえる。


 「…そうか、現れたのか。………あぁ、そうだな………一体だけだな?準備出来次第すぐ向かう」


 ガチャンと、小気味よい音が響く。


 「5年間振りの出現か…」


 最後に竜の姿が目撃されたのは、5年前の”闇色の瞳”を持つ背翼二足型の竜だ。

 リコットの悲劇――5年前、リコットの街を竜が襲撃し、少女一名(・・・・)を除く全ての住民が犠牲になった、過去最悪に匹敵する災害。あれ以来、竜の情報は全くと言っていいほど入ることがなかった。過去の例からなぞってみても、少なくとも大規模な災害が起こったあとは小規模な被害があるのが普通だった。だから、5年という節目で現れるとなると、何かの前触れだと勘ぐってしまう。ただの考え過ぎかもしれないが…


 「今回の情報通りの竜なら、全員で向かう必要はないな」


 頭の中で情報を元に、竜の構図をイメージする。背翼四足型の10メートル弱。攻撃班と救助班、合わせて8人で十分だ。もちろん全員が向かえば簡単だが、その間に他のところで竜が出現したら対処ができなくなる。仮に、追加の人材が必要な場合があるかもしれないが、今回送るメンバーは”そうなっても対処出来る者たち”だ。だから、余計な戦力は必要ない。

 男は立ち上がり、出撃メンバーに声を掛けに行く。



――――――――



 異世界――坂上紫音はこの世界のことをそう思っている。

3年前、突然の事故に巻き込まれ、気がついたらこの”リファールの城下町”で倒れていた。当時14を迎えたばかりの俺は見ず知らずの、知り合いもいない場所に飛ばされてどうすることもできず、途方に暮れていた。そんな俺に救いの手を差し伸べてくれたのは、今の育ての親であるリリアさんだった。決して裕福ではない。むしろ貧しく、一人暮らしで生活するのがやっとなのに、得体の知れない俺を一緒に住まわせてくれた。そんなリリアさんなのだが――


 「シ、シオン君~!ちょっとたすけて~」


 「え?あぁ、りょーかい」


 「ん、しょ…ありがとうね。やっぱりこの脚立、買い換えたほうがいいかもね?」


 「というより、別のものを代用すればいいと思う…この家、そんな屋根高くないし、椅子とかで十分だと…」


 「私の背じゃ届かないでしょ!も~」


 「電球の交換くらいなら俺がやりますよ…て、起きていて大丈夫なんですか?」


 「あ~、うん、このくらいなら問題ないよ」


 「無理だけはしないでくださいね」


 「大丈夫大じょ…ゴホゴホ」


 「あー、ほら…薬持って来ますんで寝ていてください」


 「はーい」


挿絵(By みてみん)


 バタンと、扉を閉めて薬を取りに行く。

 育ての親リリアさん――年齢こそ四捨五入したら30代だが、10代後半と並んでも違和感が無いくらい若い外見。朗らかで人当たりがいいが…天然が入っているのか、危なっかしくてちょっと目が離せない。

 だがそんなリリアさんも、3ヶ月くらい前から病に伏せてしまった。幸い、不治の病ではないにしろ、完治するにはかなりの時間を有するらしい。だから最近では俺が大体の家事を担当している。まぁ、お世話になっている身だし、当たり前なんだけど?

 薬箱から専用の薬を取り出し、リリアさんの部屋に向かおうとした。その時――


 「――――――――」


 何かの咆哮のようなものが聞こえた。確かに、この家は外に近い位置にあるから、外の魔獣の遠吠えとかが聞こえてきても不思議ではない。が、今のは明らかに違う。何が違うかって? 音が異様に近い。

 気になって外の様子を見ようと、窓に近づこうとしたとき――


 ズドォォン!


 地響き。それも、かなりの近くで。恐る恐る窓から様子を伺うと――


 「なん…だあれ?…ドラゴンだと?」


 近くにあった小屋を潰し佇むその姿は、全身を硬い鱗で覆われたトカゲみたいな背翼四足型の生物。日本にいたときは、RPGなんかで厄介な敵としてよく現れる、伝説上の生き物そのものだった。


 「この世界、ドラゴンなんかいたのかよ…って、そうだ!リリアさん!」


 この世界の元々の人間じゃない俺には、この世界のドラゴンはどんなものかはわからない。だけど、元々この世界の人間であるリリアさんなら何か知っているかもしれない。

 リリアさんの部屋まで走って行き、勢いよく扉を開ける。


 「リリアさん!」


 「シ、シオン君!?どうしたの、そんなに慌てて。それと今の音って何?」


 乱れた呼吸を整え、質問する。


 「外にドラゴンみたいなのがいるんですけど、リリアさんなんか分かり…」


 その言葉は最後まで言い切ることはなかった。だって、”ドラゴン”の単語を言った途端、リリアさんの表情が、一瞬にして険しい顔つきに変わったんだから。


 「リ、リリアさん…?」


 「…シオン君、詳しい話は後でするから、急いでここを離れましょ」


 急な展開で思考が追いつかなかったが、とりあえず言われた通りに俺はリリアさんと共に外へ出る。竜のいない裏手から。

 リリアさんの話によると、最後に竜の出現が確認されたのは、今から5年程前のことらしい。だから俺はドラゴン――竜のことは知らなかった。竜という存在は、突如現れては、人や町、ひどい時は国をも破壊する存在らしい。しかもその行動原理は不明だときた。で、そんな危険な存在に対して、裏から見つからないようコソコソ逃げる訳は、生物を視認したら真っ先に向かってくるとのこと。まあ確かに、自らの存在をアピールして逃げるなんて、囮かよっぽどのバカしかいないだろうけど…

 リリアさんが竜に対して知っていることはこのくらいだ。情報量は少ないが、危険な存在だと認識するには十分な情報だった。

 

 移動を開始してから1分もしないタイミングで、状況が変わった。


 「グルゥァァァァァアアァ!!!!!」


 「っ!シオン君、ペース上げ…ゴホゴホッ」


 「リリアさん!」


 「大丈夫よ…急ぎましょ…」


 元々体力のないリリアさん。さらに現在進行形で病に冒されているその様子は、全く大丈夫には見えなかった。治る病気とは言っても、結構厄介な病気なのだ。リリアさんの額から汗が流れ始める。息も絶え絶えで足もふらつき始めている。正直見ていられなかった。


 ドオォォン!


 竜の破壊活動が開始された。遠くから人と思われる声が引切り無しに続く。多少無理をしてでもここから離れなければどの道死ぬ。



 ややあって工場区間に出た。俺が住んでいた日本と比べると文明――特に科学――はそこまで発展していないが、魔力を動力とする魔道具が普及しているため、意外と馬鹿にできない。

 で、その工場区間なのだが、建造中の物や廃墟もいくらかあるようで、鉄骨が剥き出しになっているのもチラホラ見える。


 「リリアさん、だいぶ距離は稼げたと思います。一度休んだ方が…」


 「中心部…以外は……ハァハァ……竜の襲撃に対応出来る…造りじゃないから…ゴホゴホ!」


 咳き込むリリアさん。そして――唸りを上げる”魔物”の声。


 (な…っ!!)


 何故魔物――しかもオーガ――がここにいる? 普段は、城壁に囲まれているこのリファールには侵入できないはずなのに。ましてや、この中心部に近いところまで――


 ガルァァァァ!!!


 ドラゴンか! ドラゴンに城壁を破壊されてそこから侵入してきたのか。となると、侵入してきたのはオーガだけとは限らないな。


 「シオン…君、私はいいから、あなただけでも先に行って…」


 「それは出来ませんね。リリアさんから貰った恩があるのに、そんなことをしたらバチがあたりますよ。それに、そんなことをしたら”あいつ”に殺されますよ」


 言って俺は、近くに落ちていた長さ5メートル程の鉄パイプを手に取る。はっきり言って重い。足と手が震える。恐怖ではない。重いだけだ。だけど、これで振り回そうとは思っていない。目的は――


 「万物共通の弱点、目を狙えば…っ!」


 鉄パイプを最長に握り直し、体長3メートル程のオーガの顔面めがけて鉄パイプを突き出し、助走をつける。コンクリートのため、踏ん張りがきく。ぶれそうな矛先を必死に腕力で支えながら――加速する。


 「だあぁぁぁぁぁ!!」


 オーガが大剣を振りおろし、鉄パイプを切断する。


 「ぐっ!重…っ!」


 手から鉄パイプが落ちる。だが、このくらい想定済みだった。今の攻撃で落ちてくれれば一番楽だったのは確かだが。

 俺は切断されて短くなった鉄パイプを、手の甲がコンクリートとの摩擦で擦り切れるのを無視して拾い――全力で投げた。

 回転しながら迫る鉄パイプをオーガは大剣を振り上げ弾く。距離が近いのもあって、オーガは振り上げた腕の遠心力で後ろにバランスを崩す。その間に俺は、もう片割れの鉄パイプを拾い、オーガの眼球目掛けて、腕を突き出す。


 ブチャァ


 嫌な音と感触の手応えが、オーガの左目を潰したのだと物語った。


 「オオオォォォォオォオオオ!!!!」


 顔を押さえ悶えるオーガ。

意外とあっさりいったなと思った。単に幸運だったのかもしれない。一度死んだと思っていた俺が、この世界に来て生きているくらいなんだ。それなりに運はある方なのかも。

急いでここから離れよう。俺は、すぐにリリアさんの所へ戻った。


――この行動が、一生の別れを意味するとは知らず――


オーガはすぐに立て直し、左眼球に突き刺さっている鉄パイプを引き抜き、背を向けているシオンに全力で投げつけた。もちろん、背を向けているシオンには、自分の死が迫っていることを知るすべはない。


「――シオン君!!」


「!!!!!」


――赤い、血が飛び散る。目の前に手を広げたリリアさん。背中からは、鉄パイプが突き出ている。膝をつき横たわる。前方には投擲モーションをとった後のオーガ。全てがスローモーションのように流れている。そして――


ドサ


一瞬にして思考が凍結してしまった。なんで? なんでオーガがもう動けるんだよ? なんで俺の体に血が付いているんだよ? なんでリリアさんの体に鉄パイプが刺さっているんだよ? なんでリリアさんが血を流して倒れているんだよ? なんで…


「ゴフッ!…シ……シオ…君………大…丈夫…?」


現実を受け入れたくなかった思考が、一気に現実を認識し始める。


「ぁ…リリア…さん?」


膝をついてしまう。

俺のせいだ。俺がもっと注意していればリリアさんが俺を庇う必要なんてなかったんだ…俺が軽率で無力なばかりに…

リリアさんの惨状を目の当たりにし放心状態に陥ってしまう。焦点が定まらなくなってきた。


「…に…しているの……早く…行って…!!」


リリアさんの言葉も虚しく、俺の耳には入ってこなかった。

そうこうしているうちに、オーガは獲物に止めを刺すべく、大剣を握り、前傾姿勢で走ってきた。

振り下ろされる大剣。この一太刀で二人は両断されるだろう。

そう思った――


ギイィン


………体は両断されなかった。代わりに、金属の音が響き渡る。


「男なのに情けないわね!呆けている暇があるなら行動しなさいよ!」


女の子の声が響く。見上げると、そこにはオーガの半分程度の身長の少女がいた。その少女は、左手に持っている長剣で、オーガの大剣を弾き飛ばしたのだ。

そして、腰まで伸ばしたツインテールをなびかせて、少女は回し蹴りでオーガを”弾き飛ばす”。建設中の骨組みに当たり、鉄骨と共に崩れるオーガ。ありえない。少女のそのか細い体のどこに、そんな力があるのか。振り下ろされた大剣の衝撃をもろに受けたのに、傷一つ付かない、刃の中心が空洞の剣。何より、あの瞬間に割って入ってきた少女の速度。普通の人間(・・・・・)ではありえない事(・・・・・・)を当然かのようにやっている。


城壁が壊されていた(・・・・・・・・・)からこっち(・・・)かと思ったけど、全く関係なかったのね」


苛立ちの篭った口調で、少女はオーガに剣を構えた。


「あんたに構っている暇なんかないの。だから、全力で片付けてやるわ」

挿絵(By みてみん)


いよいよ本編が始まりました。やっとの思いでスタートが切れたと思います。この先どんな展開になっていくか、自分でも楽しみで仕方ありません。


みなさんの感想ご意見など、お待ちしております!


誤字脱字がまたありました。すみません、報告ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ