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覚醒の竜殺し  作者: えーりゅー
プロローグ
2/22

プロローグ~復讐者

00復讐者


 崩れゆく街の中を走る。火の粉が舞う中、とにかく走る。途中で転びそうになりながらも、妹の手をしっかり握りながら必死に走る。


 ドォォォォン!


 「っ!」


 足が止まってしまった。逃げなければいけないのに逃げられなくなった。

 まっすぐこちらを見据える”闇色の瞳”をした竜。背翼2足型で全身を黒鉄色に染まった鱗をぎらつかせている。全長10数メートルはあろう体躯を動かし、ゆっくりと2人の少女に近づいてくる。


 「いや……こないで…」


 少女は恐怖で足が竦んでいた。もう自分は死んでしまうのだろうか。先ほど、自分たちを庇った両親が、目の前で竜に食われた瞬間が脳裏を横切り、目の前に迫る”死”に恐怖し涙を流す。


 「お姉ちゃんをいじめるな!!」

挿絵(By みてみん)

 妹が姉の前に立ち、手を広げた。いつも姉の背中を見て育った妹は、今の自分に出来ることを精一杯やろうとしている。”死”を理解していないものの、恐怖は感じている。しかし、自分が困っているときや泣いているとき、お姉ちゃんはいつもどうしていたか。考えると体が勝手に動いていた。

 姉の方はそんな妹の姿を見て、思考は一瞬現実に戻される。しかし、妹の行動に勇気を与えられるわけではなく、妹が死んでしまうという恐怖と焦りが勝ってしまう。


 「ダメ!逃げて!」


 その叫びは悲鳴に近かった。


 「お姉ちゃんはわたしがまもる!」


 姉の必死の叫びも虚しく、妹は足下の石を竜に投げるため、10数歩近づいてしまった。ここが運命の分かれ道となってしまった。


 「ガアァァァアァァア!!!!」


 竜は咆哮をあげ、翼を羽ばたかせ、あたり一面に突風を起こす。


 「―――っ!」


 瓦礫が崩れ、死体が跳ね、火の粉が舞う。


 「お姉ちゃ―――」


 ドォォン!!


 姉と妹の間に建物の瓦礫が割り込む。


 「だめ…助け…ないと…」


 心のどこかで諦めが渦巻いていた。それでも妹を連れて逃げなきゃと瓦礫に近づく。もう一度あの手を握り直さなきゃ、私がしっかり守らないと。瓦礫を持ち上げたり引いたりするが、少女の小さな体ではビクともしない


 「うぅ………してよ…」


 声にならない声。


 「返……してよ………私の家族、返してよ!!!!!」


 叫ばずにはいられなかった。恐怖、怒り、憎しみ、複雑な感情が渦巻いている。数時間前までの平和。自分は何も悪いことなんてしていないのに。あまりにも唐突で理不尽。

 時間と竜は待ってはくれない。一歩一歩少女に迫ってくる。そして、数メートルまで近づくと、竜はその大顎を開いて、捕食の体勢にはいった。


 「――――――!」


 あぁ、もう自分は死ぬんだろうな。少女はそう思った。今まで家族や友人と過ごしてきた、この街での思い出が脳裏を横切る。楽しかった。でも、やりたいことはたくさんあった。大人になって結婚もしてみたかった。そんな、色々な思いが溢れ出る。

 竜の大顎が少女まで1メートル。後は竜が顎を閉じれば捕食完了。そして大顎を閉じる。


 ガツン!


 しかし、竜の閉じた顎が捉えたのは、”何もない空間”だった。そこには少女の姿もなくなっている。


 「―――え?」


 少女は状況が理解できていなかった。だって、視界が一気に竜の頭より高いところにあるのだから。


 「大丈夫か?」


 ふと声を掛けられて気づく。自分は抱き抱えられているのだと。それも、空中で。


 「さて、ここまで来れば安全だろう」


 たったの一躍で数百メートルの移動。理解できない。思考が追いつかない。”普通”なら絶対に不可能だ。でも言いたいことはそんなことの疑問ではなく。


 「た、助けて!あの子を、お願い!!」


 無我夢中だった。自分の力じゃ助け出せないが、大人の力なら妹を助け出せるのではないかと。だが、男から返ってきた言葉は少女が求めている回答とは真逆だった。


 「いや、無理だ」


 「!!!どうして!?」


 僅かな希望も、その一言で砕け散った。男の袖に掴みかかる。


 「まあそう焦るな。今行ったところで、竜が近くにいるんだから救助中に潰されるか、食われるかのオチだ。だから―――」


 ドォォォォン!!


 突然の爆発。その爆発は竜の頭部から起こったものだ。爆発を受けた竜は数歩後さする。


 「だから、まずは安全を確保するために、竜をあの場所から遠ざけないとな」


 少女が求めていた回答とは違うが、男が行おうとしているのは、少女が求めている目的そのものだった。そして、男が竜の方にいる“誰か”に合図を送ると再び爆発が起こった。


 「さて、救助に遅れると死亡率が跳ね上がるから、全力で潰すか。嬢ちゃん、後で迎えに来るから、ここで大人しく待っているんだぞ?」


 男は少女が返事をする前に飛び立った。


 それからはあっという間だった。遠目からはよくわからないが、幾度の爆発の他に、武装した人間が竜の躰に攻撃を加える。ものの十数秒で、妹が埋まっているであろう瓦礫から遠のいていく。竜もその巨大な体躯を使い反撃に転じようとするが、波状攻撃を受けている状態では満足に行動できない。

 だが、後さするだけでダメージは受けていないように見える。遠目だから細かいところまでは分からないが、出血の跡や、爆発によって肉片が飛び散っているわけでもない。多少爆発による(すす)が付いただけようにしか見えない。

 しかし、竜の気まぐれなのか、ダメージが少ないにも関わらず、その場から去ろうと、突然背中を向けた。波状攻撃は止まなかったが、竜が本格的に翼を広げ撤退を始めると、攻撃が届かなくなった時点で攻撃は終わっていた。

 少女はこの戦いを見て、ひとつ決意する。



 「団長、報告します。まず、少女の妹の捜索ですが、瓦礫の下に埋もれている人物はいませんでした。周囲も現在捜索中ですが、未だに見つかっていないです。あと、少女の姉妹を除くこの街の生存者数ですが、一人もいませんでした」


 団長と呼ばれる男に、生真面目そうな青年が報告をする。


 「そうか…わかった。すまないがもう少し捜索を続けていてくれ」


 団長と呼ばれる男がそう言うと、青年は去っていった。


 「嬢ちゃんよ、すまんな。捜索はもう少し続けるが、もし見つけら―――」


 「ううん、いい、もう…竜が食べる行動を起こしたのは私にだったから、食べられたってことはないと思う。だから、あの瓦礫の中にいなかったらきっと…どこかで………」


 少女は泣かなかった。もしここで泣いたら生きている希望を無くしたのと同じになってしまう。だから、少しでも希望を繋げるために泣かなかった。


 捜索は数時間続けたが結局見つからず、そのまま打ち切られた。



 「あの」


 「ん?どうした嬢ちゃん」


 「遅くなっちゃったけど、さっきは助けてくれて、ありがと」


 「あ、ああ、いいっていいって、気にすんな…っつても、気にしない方が無理か?」


 「それでお願いがあるんだけど、いいかな…?」


 「内容によるけど、まあ、なんだ?」


 「わたしも…」


 少女は断られたらどうしようと思い一瞬躊躇ったが、それでも言葉を繋げる。


 「わたしも、一緒に連れてって!お願いします!」


 言って深く頭を下げる。助けてもらって更に付いて行きたいと言うんだ。図々しいかも知れない。だけど、このまま何処かの孤児院などの施設に預けられて何もしないで過ごすなんてイヤだ。もちろん、孤児院は何もしない場所とは思っていない。ただ、少女のやりたいことは叶わないまま過ごす事になる。それだけはイヤだった。


 「理由を聞いていいかな?」


 男は、落ち着いて聞いてくる。


 「…わたし、街も家も家族も無くなっちゃって、行くところもなくて………だけど、どこかの施設に預けられるのもイヤで…ううん―――」


 一つ深呼吸をする。回りくどい言い方はダメだ。パパが物事を言う時は結論から言えって言っていた。


 「わたし、強くなりたい!おじさんたちみたいに!竜からたくさんの人を助けたい!それと…」


 次が強くなりたい最大の理由だ。


 「妹を―――エレンを探して、助けたい!」


 強くなるのと人探しが出来るのは繋がらない。少女はさっきの戦いを見て、普通の人間にはできないことができるようになると思い、もしかしたら人探しも簡単にできると思ったのかもしれない。子供の考えることは単純だ。それと、これだけ妹―――エレンを探しても見つけられなかったら、普通は生存の可能性は極めて厳しいと思う。それでもこの少女は、エレンはどこかで生きていると信じていたいらしい。いや、無理にでも信じ続けなきゃいけないのだろう。たった数時間で全てを失ったんだ。それを認めたらきっとこの少女は潰れてしまう。だから、僅かな希望にすがっていたい。そして、すがり続けるためには強くならなきゃいけない。

 男は少女の考えが甘いとは思うも、付いてくることには特に否定しない。孤児院などの施設も考えていたが、そうなると強くなる道が限りなく閉ざされるのも確実だ。だが男は付いてくる事を許可する前に、少女に一つ確認した。


 「付いてくるのはいいが、強くなるにはそれ相応の厳しい時間が待っている。ましてや、オレ達みたいに強くなれるわけじゃない。妹も見つからないかもしれない。それども、来るのか?」


 「………はい!」


 少女は力強く答える。どうやら確認は無意味だったようだ。いや、確認する前からこの少女の決意は、揺らぐことはないと確信していた。だから男は、用意していた言葉を言った。


 「うむ、なら今日から嬢ちゃんは我々”エヴェイユ”の団員だ!」


 男は手を差し出す。


 「そう言えばお互い自己紹介がまだだったな。オレはエヴェイユ自警団団長、ザックだ。嬢ちゃんは、なんて言うんだ?」


 男の差し出した手を、少女は小さな手で躊躇いながらも握る。


 「わたしはリオ。リオ・ノールズ」


 これから少女の新たな人生が始まる。強くなってエレンを探すんだ。―――妹を探す―――目的であることにはかわりないが、もう一つ、ザック団長に言っていなかったことがあった。

 


 ―――逃げた”闇色の瞳”を持つ竜は、わたしが殺すんだ―――

初めまして。自分で描いた物語をこういった文章等に落とし込んだのは今回が初めてです。不慣れな点が多々あります。文章がおかしいところもきっとあります。それでも一つ一つ勉強しながら良い作品に仕上げたいと思います。どうぞ、よろしくお願いします。


あと、イラストは基本自分で描いています。文章ともども、気になった点があったら教えていただけると助かります。



※誤字がありました。”後出迎え→後で迎え”

ご指摘ありがとうございました。

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