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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第伍章 奇々怪々 ~妖怪とお化けは紙一重?~
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第玖話 【1】 怨念の日本人形

 ようやく作戦が決まり、ぬいぐるみに変化した白狐さんを抱え、この家の裏手に来ました。

 すると、釘で打たれていたはずの木の壁がめくれていて、その部分だけぽっかりと、大きな穴が空いていました。どうやら、ここから中に入ったようですね。まるで化け物の口みたい。


『ふん、ついでに妖気までプンプン漂っとるわ。人間が近づけんのを良い事に、悪霊や妖怪共が集まっとるようじゃな』


「うわぁ……これが任務だったら、かなり難易度高くなるよね」


 流石に相手が相手なので、だんだん怖くなってきた僕は、ぬいぐるみの白狐さんをしっかりと胸に抱きしめる……けれど、ついついぬいぐるみだと思ってしまい、強めに抱きしめちゃったよ。

 これって、白狐さんに胸を押しつけているのと、なんら変わらないんですよね。うん、ぬいぐるみなのに鼻血出してる。


『ふ、ふふ、役得じゃ。ジャンケンに勝った者の特権じゃな』


「鼻血出しながら言われてもなぁ……」


 白狐さんと黒狐さん、両方を連れて行くとなると、外で何かあった時に、対応が出来ないという判断になったのです。

 そこで、どちらか1人だけを連れて行く事になったんだけれど、その時の白狐さんと黒狐さんのジャンケンときたら、鬼気迫る感じになっていて、それで殺し合いでも始まるんじゃないかってほどでした。


「そして、何で2人も着いて来るんですか?」


 ここは危険だから、外にいて欲しいって言ったのに、カナちゃんと如月さんまで着いて来てしまっていて、気合十分と言った表情を見せていました。


「椿ちゃん1人で、男子達を連れ出せると思ってるの?」


「何かあっても、守ってくれるんでしょ?」


 如月さんにまで、そんな事を言われるとは思わなかったから、ちょっと驚いてしまいました。


「でも、如月さ――」


「雪、で良い。大丈夫、戦闘は出来るから」


 えっと……名前で言って良いって事は、少しは距離が縮まっているのかな。とにかく、そう言われたのなら名前で呼ぼうかな。

 でも、戦闘が出来るって言っても、妖具はいったいどこにあるのでしょう。


「えっと、雪ちゃん。戦闘が出来るって、妖具は何処にあるの?」


「これ」


 そう言って見せてきたのは、右手の中指で、そこに雪の結晶の様なリングが、彼女の指にピッタリとはまっていた。

 そしてそこから、多少の妖気と冷気が放たれている。雪女の妖気の籠もった、特殊な結晶なんでしょうね。


「だから、邪魔にはならない」


 雪ちゃんもカナちゃん同様に、やる気満々です。その怖がらない姿勢、美亜ちゃんにも分けて上げて欲しいですね。


 当然だけど、美亜ちゃんは外です。あの場から一切動けなくなってましたからね……。

 さっきは強がって仁王立ちしていたけれど、この家の外観を見た瞬間、足がガクガクと震えていて、ちょっとでも歩こうとしたら、そのまま崩れ落ちる様な感じでしたよ。


 とにかく、そんなにのんびりはしていられない。

 さっきの亜里砂ちゃんとのやり取りでも、多少時間を取られちゃったし、いざ入ろうとした瞬間に、中から男子の悲鳴が聞こえて来ましたよ。もう最悪です……。


「椿ちゃん! 早く行こう!」


「分かった! 白狐さん、少しでも危なそうだったら言ってね」


『分かっとるが、お主自身も注意を払えよ』


 白狐さんにそう言われたけれど、祟りなんて僕は初めてだから、どう注意をすれば良いのだろうか。


 とにかく、ヤバいと思ったら近づかない。これですね。


「それじゃあ、僕が先に入るね」


 このメンバーの中で、危険があった場合に、真っ先に対応が出来るのは、多分僕だと思う。


 そして体を屈めて、外壁の穴の部分から中に入ろうとするけれど、下の方に穴を空けたらしいので、屈んでも通れなかったよ。這いつくばらないと通れないね、これは。


「ん、しょ……っと」


 その時、白狐さんを胸で潰しちゃいそうになっちゃったけれど、鼻血出してるから別に良いよね。


「白狐さん。毎回思うんだけどね、僕のあんまり発達していない体の、いったい何処が良いの?」


『ぬぅ、何処がだと? 分かっていないな、椿よ。成長途中の体こそ、これから育っていく様を見られるのだぞ! 完成しきったものに、その様なものを求められるか?! 断じて否!』


「むぎゅっ」


『ぬぉっ?!』


 ちょっと黙っていて下さいね。というか、僕の白狐さんへの評価が下がりそうなんです。

 そんなに僕の胸が良いなら、こうやってずっと胸の前で、しっかりと抱きしめておいて上げますよ。


 それにしても、家の中は真っ暗で何も見えないや。


 ここは……何処かの部屋かな?

 畳が敷いてあるけれど、それ以外は何があるか分からないです。


 これは明かりが欲しいな――って、懐中電灯を持っているのはカナちゃんだった。


「カナちゃん、懐中電灯」


 それと、カナちゃんが遅いです。何やっているんだろう?


 そう思って後ろを振り向くと、そこには上半身だけが覗いている、カナちゃんの姿がありました。

 それを見て、一瞬カナちゃんがやられたのかと思ったけれど、良く見たら途中で引っかかっていただけでした。


「ご、ごめん! 椿ちゃん、手伝って! お尻が引っかかって、う~!」


 何やっているんですか……カナちゃん。

 君のお尻って、そんなに大きかったんだ。スタイル良いな~とは思っていたけれど、そのレベルなんだ。


「この、デカケツ。早くして」


「きゃっ! 待って雪! お尻は叩かないで!」


 本当に、何やっているんでしょう……。


 ―― ―― ――


 そこから悪戦苦闘をして、ようやくカナちゃんが穴から入って来たけれど、ズボンが引っかかっていたらしいですね。


 カナちゃんは、ショートパンツのボーイッシュな格好。

 雪ちゃんは、スカートで少し可愛らしい感じなんですが、こんな時にズボンって、結構引っかかりやすいんですよね。ほら、雪ちゃんは割と簡単に入って来たよ。


 それでも、僕の方が巫女服みたいな服装だから、こっちの方が引っかかりやすいけれど、ちゃんとそこは分かっていたから、引っかからずに入れたよ。


「も~お尻は関係無かったじゃん」


 そう言いながら、カナちゃんはお尻の汚れを払い、懐中電灯で辺りを照らし始める。


「うわっ、何これ!」


 そこで真っ先に声を上げたのは、僕です。


 だって……この和室の部屋、そこら中にお札が貼ってあるんだ。もうこれだけで、恐怖映像なんだよ。


「ねぇ、椿ちゃん……あそこの布団入れの所から、何か出てるよね? あれって……」


「あ……ひ、人の髪の毛?」


 四畳半程のその和室の部屋には、僕達が入って来た正面の方に、玄関に続く廊下があって、その横に布団入れがあったけれど、カナちゃんが照らしたその隙間から、黒い毛の様な物が垂れ下がっていた。


 すると雪ちゃんが、何の抵抗も無くスタスタと、髪の毛の垂れ下がっている布団入れに向かうと、軽やかにそこを開け放った。


「少しは怖がってよ、雪ちゃん!」


「そう、言われても――あれ? これ、日本人形? 髪長い……」


 その中にあった物を見て、雪ちゃんが言ってくる。


「雪ちゃん。お願いだから、もうちょっと警戒してよ」


「何で? 何かあっても、あなたが反応するでしょ?」


 キョトンとした顔で言う雪ちゃんに対して、少し薄ら寒いものを感じてしまった。


『なるほど。中々に、肝っ玉の座った娘じゃな』


「感心しないで下さい、白狐さん……」


 確かにね、それだけ信頼されているのは嬉しいよ。

 初対面のはずの雪ちゃんが、なんで僕をそこまで信頼しているのかは、ちょっと謎だけど。


 因みにだけど、そこからは妖気を感じられなかった。


 でもね……。


「雪ちゃん、その人形には触らないでね。ちょっと、怨念が凄いから」


「分かった」


 僕が言った後、雪ちゃんは布団入れの扉を閉めてくれた――けれど、隙間に何かが挟まった……。

 あれは指、手? あれ……さっきの日本人形って、どういう格好をしていたっけ? 腕は真っ直ぐ、下に降ろしていたよね。


「……頑丈に、閉めた方が良い?」


「そ、その方が良いかも知れません」


 もしかしてあれは、怨念だけで動く人形――とかいう類のもの?


 冗談じゃないですよ。まだ入った所なんですよ。一刻も早く、男子が悲鳴を上げた場所に行かないといけないのに。


「椿ちゃん、とりあえず行こう。男子が悲鳴を上げたのは、この奥の部屋みたいだから、割と早くに、男子達を連れて脱出できそうよ」


 果たして、そう上手く行くのかなぁ……。

 奥の部屋って、変な気配がいっぱいある所だよね。それだけでもう既に、男子達が危ない目にあっているのが分かるよ。


 そうなると、危険な事が起きている場所に、男子達を助けに行くよりも、何処かに居るはずの亜里砂ちゃんを見つけて、捕まえてしまった方が良いのかな?

 いや、彼女がこの家の怪奇現象や、妖怪達を操っているわけでは無いかもしれない。


 やっぱり、男子達を先に助けないといけませんね。


「とにかく、最悪の事態にはならないようにしよう……!」


「うん。そうだね、椿ちゃん――って雪、さっきからどうしたの?」


「いや……髪の毛が」


 僕が和室の入り口に手をかけた瞬間、雪ちゃんがボソッと呟いた。


 その理由は、直ぐに分かったよ。僕の足に、大量の髪の毛が絡まってきたのです。

 その髪の毛は真っ直ぐに伸びていて、さっきの布団入れに続いていました。


「あ~駄目ですか……これを先に何とかしないといけないのですか」


 何でそんなに怨念が溜まっているのかは知らないけれど、僕達の邪魔をするのなら、何とか処理しないといけませんね。

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