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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第伍章 奇々怪々 ~妖怪とお化けは紙一重?~
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第漆話 【3】 地獄の新作かき氷

 まさか如月さんが来るとは思わず、僕達は大人しくテーブルで、カナちゃんのかき氷と混ぜた、もの凄い色をしたかき氷を食べています。


 甘くて苦い……けど、食べ過ぎたら気持ち悪くなっちゃうかも。食べ物を粗末にしてはいけませんって言う、良い例ですね。


「それ、おいしいの?」


 僕達のかき氷を見て、正面に座った如月さんが話しかけてくる。


「いや、その……」


 当然美味しいとは言えず、俯いて反省しています。責任持って、僕が全部頂きますよ。


「もう、椿ちゃんったら。それで、雪は何でまたここに?」


「別に。いつもここで、かき氷を食べて帰るのが日課だから」


 なるほど。かき氷が好きだから、僕達が居ようが居まいが来ていたのですか。ちょっとだけ期待してしまいました。


 すると突然、如月さんがジッと僕の方を見てきた。

 いったい何でしょうか。その少しキツい目で見られると、虐められた時の事を思い出してしまいます。おかけで、ちょっとだけ耳がピクピクと動いてしまっていて、警戒モードです。


「……その耳、触りたい」


「えっ?」


「ここの新作。奢るから、耳触らせて」


「えっと……」


 お店の新作? そういえば、そんなのがあったような気がする。


 そこで僕は、その新作がどんなのかを見る為にと、一旦お店の看板の方に目をやった。


『当店オリジナル! 辛さと冷たさの夢のコラボ! 激辛かき氷!』


 それを見た瞬間、顔が青ざめたのは言うまでもないです。


「何あれ……激辛シロップに、ハバネロとか入ってるじゃん」


 もしかして、かき氷のひんやり感で、辛さが和らぐのかな――と思ったら、その氷まで赤いんですけど。


「なになに……氷にも唐辛子を大量に混ぜ――って、止めて下さい! これってコラボも何も、ただの罰ゲーム用じゃないですか!?」


「おすすめ」


「何処かですか?!」


 どうやら如月さんは、これを美味しいと感じたらしいです。彼女は、辛いのも大好きなのでしょうか。


「好きな物が合体するなんて、まさに夢のよう。絶対おすすめ。だから奢る。代わりに耳、触らして」


「うぅぅ……」


「椿ちゃん、チャンスなんじゃない?」


 分かってます、分かっていますよ。如月さんと仲良くなれるチャンスなんだよ。

 せっかくの好意、無駄には出来ない。出来ないんだけれど……僕、辛いの苦手なんだよ。


「椿ちゃん、大丈夫。私も少し、手伝って上げるから」


 そんな時、カナちゃんが僕に向かって、とても嬉しい言葉をかけてくれた――のだけれど、手汗が凄いですよ。もしかしてカナちゃんも、辛いの苦手なのかな?

 だけど、辛いのが苦手じゃなくても、これは誰でも引いちゃうよね。ただ、2人なら何とかなるかも知れません。


「わ、分かった。ありがとう……カナちゃん」


 そして決心をした僕は、如月さんの提案を受け入れ、その恐怖の新作かき氷を奢って貰う事にした。

 その後お礼に耳を――って、僕にとっては損でしかないよね、これって……。


 そして数分後。

 その手に、地獄の炎の様に真っ赤っかなかき氷を持って、如月さんが僕達の元に戻ってきた。


「んっ」


 そして、若干目が嬉しそうになりながら、如月さんが僕達の前にそれを置いた。それを見ているだけで、もう目が染みてきそうです。

 ニヤニヤしている如月さんは、多分絶対分かっているんだろうね。この後の、僕達の姿を……。


「ふぅ……い、頂きます」


 このまま睨めっこしていても、かき氷が溶けるだけだよね。

 せっかく奢って貰ったんだし、話のネタになると、そう思って食べれば良いんだ。


 そして僕は、意を決してほんの少量を、本当に小さじ一杯くらいの少量を、一口だけ食べてみた。


「っ~~!!!!」


 辛いとかじゃない! 舌が痛い、これ! 口が……口の中が火傷するよ!


「椿ちゃん大丈夫?! 店員さん、水!」


 足をバタバタさせて、ひたすら口の中の辛さと戦っているけれど、駄目ですギブアップです。とにかく消火、消火をさせて!!


「はい、椿ちゃん水!」


「ん、んぐんぐんぐ……ぐっ、ゲホゲホ……! し、死ぬかと思った~」


 カナちゃんから水を受け取ると、直ぐにコップの中の水を飲み干す。それでもまだ、口の中がヒリヒリするよ。何これ……こんなの食べられる人いるんですか……。


「うぅぅ……胃の中も熱い……お腹壊しちゃいそうだよ」


「やっぱり、駄目か」


「如月さん、“やっぱり”って何ですか?」


 もしかして、既に何人かに試したの? そうだとしたら、僕は実験として犠牲になったのでしょうか……。


「実はこれ、私が考えた」


 その言葉に耳を疑ったけれど、かき氷屋の店主さんが、店先から困った顔を向けているのを見ると、あながち嘘では無いようですね。


 すると、僕の様子を見ていたカナちゃんが、スプーンを手にし、目の前の激辛かき氷を掬った。その量は、僕よりも多い。


「カナちゃん、や、止めた方が……」


「いや、私も辛いのは平気だよ。ハバネロのポテトチップス、食べた事あるもん」


 そんなのもあるんですか。それも僕は、絶対に食べられ無いよ。

 だけど、そんなお菓子を食べるくらいだから、カナちゃんなら案外いけるかも――と思ったら駄目でしたね。一口食べただけで、僕と同じ事になっています。


「カナちゃん、はい水!」


 さっき食べる前に、店員さんに持って来て貰って正解でしたね。

 カナちゃんは、僕の手から咄嗟に水を受け取ると、やっぱり同じ様にして一気飲みしました。


 あっ……でもこれ、さっき僕が使ったコップ。ということは、か、間接キ――いやいや、女の子同士だから普通だし。


「はぁ、はぁ……雪、これハバネロだけじゃ無いよね? この氷に入れた唐辛子、なに?!」


「ジョロキア」


「死ぬわ!!」


 カナちゃん、落ち着いて下さい。スプーンを投げないで。えっと……携帯で調べたら出て来ましたね。

 ブート・ジョロキア。ハバネロの2倍の辛さ。これ、人間に食べさせたらいけませんね。僕達だから死ななかったとしか言いようが無いです。


「美味しいのに」


 そう言うと如月さんは、鞄から真っ赤なペースト状の何かを取り出し、僕達がギブアップしたかき氷に、それをかけ始めた。もしかして、それって……。


「如月さん、それって……」


「うん、唐辛子ペースト。通称デスソースってやつ。辛さ足りないから」


 開いた口が塞がりません。そして、それはカナちゃんも一緒というか、呆れた顔をしていました。


 平気でパクパクと、その殺人かき氷を食べている如月さんは、何だかどこか幸せそうです。表情は変えずにいますけどね。

 むしろ、表情を変えて欲しかったかな。辛そうにする様子も無く、普通に食べているその姿は、少し恐ろしいです。


「あっ、そうだ。耳、触らして」


 そうでした……僕は更に、この耳を触らして上げないといけないんだった。僕、損ばっかりしてませんか?


「ど、どうぞ」


 とにかく、約束は約束ですからね。

 僕が如月さんの方に少し頭を傾けると、待ってましたと言わんばかりに、凄い速さで手が伸びて来て、僕の耳を触り始めた。


 尻尾より敏感ではないので、まだ我慢は出来ます。くすぐったいけどね。


「触り心地、良いね」


 だけど、おかしいな……如月さんは、学校ではもっと近寄り難いオーラを出していたのに、何で今は、こんなにもフレンドリーなんだろうか。


 あれ、でもそれは、カナちゃんも一緒のような……。


「椿ちゃん、必死にくすぐったいの我慢してる。可愛いな~」


 あっ、待って。何でカナちゃんまで触ってるの? しかも如月さんよりも、カナちゃんの方が触り方がいやらしいんですけど……。


「な、何でカナちゃんも触ってるの?」


「え~良いじゃん。友達でしょ?」


 僕、その言葉には弱いんですよ。逆らえないです。


 卑怯だよ、カナちゃんってば……こんなの、必死に悶えるのを我慢するしかないじゃん。

 ちょっと待って、店員さんが変な目で見てる。ねぇ、2人とも、僕の耳は一般の人には見えないって事、分かってるのかな。


「やっぱり、香苗は分かってるね」


「あのね、雪。言っとくけれど、最初に私が目を付けたのよ?」


 あれ……しかも、何その会話。待って、待って。2人とも知り合いなんでしょうか。


 だけど、良く考えたら――そうか。

 クラスに1人は必ず半妖が居て、交流もあるって言ってたじゃんか。だからカナちゃんに、如月さんの紹介を頼んだんだった。


「香苗ばっかり……ズルい」


「それなら、もっと早くにアプローチしなさいよ」


 確かに、カナちゃんの言うことにも一理ありますね。何でもっと早くに、僕と会ってくれなかったのかな。


「でも……」


 だけど如月さんは、そのまま黙り込んでしまった。僕と会わなかったのには、何か理由がありそうですね。

 もしかして、それがこの人の悩み? 母親の氷雨さんにも、それを打ち明けられない程の悩みなのかな。


 でもその後は、僕の耳をずっと無言で触り続けるだけで、何も話してはくれなかった。


 そろそろいい加減、くすぐったさで悶えてしまいそうですよ。


「ちょ……もういいでしょ? 如月さんだけじゃなく、カナちゃんまで触ってくるし、それはもう我慢出来ません」


 すると如月さんは、また僕の顔をジッと見た。まだ何かあるような、そんな目をしています。


 さっきも思ったけれど、そんなに見られたら恥ずかしいんだってば。


「それじゃあ、1つお願いを聞いて」


「えぇ!? 何だか、お願いがどんどん増えてませんか?」


 もしかして……如月さんって、最初から僕に頼み事があったんじゃないの?

 それだったら、わざわざかき氷を奢るとか、そんな事をしなくても良かったのに。


 そう思ったんだけれど、これはこれで、自分の開発したかき氷の反応が欲しかっただけなのでしょうね。


「嫌なら、このまま帰りもずっと触り――」


「聞きます! 聞きますよ!」


 冗談じゃないです。帰りもずっと触られていたら、それこそ腰が抜けちゃいます。それなら、彼女の頼み事を聞いた方が良いです。


 新作かき氷の試食会じゃなければ良いけどね……。

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