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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第伍章 奇々怪々 ~妖怪とお化けは紙一重?~
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第漆話 【1】 「雪女」氷雨の悩み

 暑い日が続き、少ないながらも蝉も鳴き始め、いよいよ本格的な夏到来です。

 そして、夏休みもいよいよ明日から。今日は終業式――って日だよね……。


「な、何で真冬みたいな寒さ何ですか~!!」


 僕は今、布団の中で丸まり、寒さに耐えるようにしながら震えています。でも無理です。夏用の薄手の布団ですから、全然効果がない。


 今朝あまりの寒さに目を覚ましたら、部屋の中全体が、冷凍庫の中に居るみたいに冷えていたのです。


『つ、椿よ……も、もももっと引っ付け。寒かろう』


『いやいや。白狐よりも、黒い毛の俺の方が、太陽の熱を取り込み易いから温かいぞ』


 どっちの尻尾の毛も温かいので良いですが、窓から外を見ると、強い日光が差し込んでるんですよね。これって、窓開けた方が早いような……。


 とにかく確認の為にと、2人にも引っ付いて来て貰って、窓から差し込む日差しに当たってみるけれど、おじいちゃんの家は山の方にあって、夏は割と快適でね、日差しもそんなに暑くは無いの。


 でもこれは、明らかに冬の日差しでは無く、夏の暑い日差しです。

 ついでに窓も開けると、冬の凍えた風では無く、夏の暑い熱気が部屋に入ってきた。


「ねぇ、これってもしかして……」


 おじいちゃんの家の中だけ、冷凍庫並みに冷えてしまっているんだ。


 確かに、連日暑い日が続いているけれど、避暑地に出来そうな程涼しい場所にあるこの家では、クーラーが無くても生活が出来る程です。だから、こんなに冷やす必要なんか無いんです。


『やれやれ、また奴か。悩み事がある度に、家の中を冷凍庫にしおってからに』


 そんなに毎回あるものなのですか? それと白狐さんの言葉で、これが家の中に居る妖怪の、誰かの仕業というのも分かりました。

 そして冷やす能力と言えば、だいたい限られてきますね。でもこの家には、該当する人が2人居ます。いったいどっちでしょう。


「椿ちゃ~ん、おっはよう! 今日はちょっと冷えるね!」


「ちょっとじゃない! 凄く寒い!」


 いつものように里子ちゃんが、元気良く僕を起こしに来たけれど、何だかテンション高いですよ。


「そんなにかな? でもこんな日こそ、走り回ってもバテないし、丁度良いよね! それじゃあ、朝ごはんは温かいの用意するね!」


 テンションの高い里子ちゃんは、そのまま僕の部屋を後にすると、元気良く走り出した。


 里子ちゃん、狛犬見習いっていう事は、犬の妖怪だよね。

 犬って確か、雪が降ると喜んで遊ぶんだよね? 里子ちゃんってば、寒いから雪でも降ると勘違いしているのか、ただ単に寒いのが好きなのか、どっちなんでしょう……。


「ほら美亜ちゃん、早く布団から出てよ!」


「嫌よ! 寒過ぎるわよ!」


 そして、隣の部屋から聞こえてくるのはそんな声。

 美亜ちゃんは猫の妖怪で、猫は寒さに弱いんだよね。うん、ある童謡を思い出しちゃったね。


「はぁ……とにかく、その妖怪さんの悩みを解決しないと、この寒さが続くんだよね?」


『そうじゃな……』


 窓を開けて熱気を取り込んだから、この部屋はちょっとマシになったかな。吐く息はまだ白いけれど、さっきよりマシだね。

 さて、悩んでいるのはいったいどっちなんでしょう。そこで、白狐さんに聞いてみた。


「どっちの雪女さん?」


『歳がいってる方じゃ』


 実はこの家には、2人も雪女さんが居るのです。


 先ずは、僕が最初にこの家にやって来た時、元気良く挨拶をしてくれた子、雪女の幼体氷魚(ひお)ちゃんです。

 アユの幼魚の名前を付けられるなんて、どうなんだろうなと思ったけれど、本人は全く気にしていないようです。


 だけど今回は、もう1体の方。白狐さんの話では、良くこの家を冷凍庫にするのが、この方なんでしょう。

 既に100年以上は生きている雪女、氷雨(ひさめ)さんです。


 この雪女さんは、里子ちゃん達の上司で、給仕係長としてこの家に住んでいます。

 だから里子ちゃんは、この人には頭が上がらないらしいんですが……今回はその人のせいで、困った事になっているんだからね。皆もっと強気で言えばいいのに。


 とにかく僕は、タンスから長袖の服とかを取り出し、色々と着込んでから部屋を出て、寒い廊下を歩いて1階に降ります。


 すると、丁度その氷雨さんがそこに居ました。


「あっ、いた! 氷雨さん!」


 氷雨さんは、白い給仕服をキッチリと着こなし、エプロンもバッチリでした。見た目はとても若いですよ、雪女ですからね。


 透き通るような白い肌に、雪の様に真っ白で、腰まであるストレートロングヘアー。凛としたその顔付きは、年季を感じさせる程のクールな性格を臭わせている。

 女性の方なら、嫉妬を通り過ぎて、尊敬する程の美女なんです。そして今は、髪を上に纏め上げてお仕事モード。


「あら、椿ちゃんおはよう。今里子に、朝ごはんを用意させてますからね」


 いつも通りです。そう、いつも通りには見えるけれど、目に元気が無い。そして、何だか嫌な予感がします。


「はぁ……」


「寒っ!」


 氷雨さんが最後に、大きくため息を突くけれど、無意識に出したそのため息には、大量の妖気が籠もっていて、それが冷気に変換され、家中を冷やしていた。


 今日はいったい、何回ため息を付いたんでしょうか。


『こりゃ、氷雨よ。何か悩みがあるんだろう! 我等が困った事になるんだ、お前さんは悩みを抱えるなと、常に言っているだろう!』


「あら、ごめんなさい白狐さん……だけど、これは私達の問題ですから、どうしても私がと……ふぅ」


 だからさ、ため息をしないで欲しいんです。

 氷雨さんがため息を突く度に、家の中の温度が2~3度下がっている気がするんですが?


 雪女さん達は、普段は体内から冷気があまり発し過ぎないようにと、調整をしてくれていますが、これが精神に影響されるらしく、ストレスや悩み事があったりすると、調整が出来ずに冷気が漏れるそうです。


 因みに、怒らせるともっと大変です。

 怒りが爆発すると、あっという間に氷像にされちゃうのですよ。だから、誰も文句が言えないんだ。


 ここで唯一言えるのは、立場も妖気も上である白狐さん黒狐さんか、おじいちゃんくらいなんです。


 それでもこの前聞いたら、白狐さんと黒狐さんも昔、氷雨さんが癇癪を起こした時に、一瞬で氷像にされたらしく、その時の恐怖があるから、これ以上は強く言えないんだって。

 ため息を突きまくる氷雨さんに対して、困った顔を向けていますね。


「あっ、そうだわ。椿ちゃんになら頼めるかしら?」


「うぅ……また僕ですか。はい、別に良いですよ」


 日々快適に過ごす為なら、どんな事でもやりますよ。こうも温度差があると、風邪引いちゃいますからね。


「うぅ、氷雨さん。何でもやりますから、早く悩みを打ち明けて下さい」


 僕はとにかく、この寒さを何とかしたいだけです。

 外に出たら良いんでしょうけれど、さっきも言ったように、温度差が激し過ぎて、このままでは体調が悪くなりそうなんですよ。


「えぇ。ありがとう、椿ちゃん。実はね、娘の事なのよ」


「娘? 氷雨さんって、子供が居たのですか?」


 でも、ちょっと待って下さいね。雪女さんの有名なストーリーでは、男性と結婚していて、中には子供が居たり何て、そんな書かれ方もしていますよね。うん、居ても不思議では無かったね。


「そうよ。でも、相手は一般の男性だから、その子は半妖なのよ」


 有名な物語の通りでした。

 それなら半妖なのは当たり前だし、その娘さんの悩みで僕に相談ということは……。


「その子、椿ちゃんと同じ中学に通わせているのだけれど、友達が1人も居ないし、ずっと独りなの。それに最近、母親である私とも、全くと言って良い程に口を聞かないし、何かあったのか、思い悩んでいる様子なのよ」


 やっぱり、僕の通っている学校にいる生徒でした。

 氷雨さんが心配しているのは、表情を見ても分かります。かなり思い悩んでいたんでしょうね、疲れ切った顔をしています。


「それで出来たら、椿ちゃんにその子と友達になって貰って、色々と悩みを聞いて欲しいの」


「それを、氷雨さんに教える? だけど思春期なら、自分の気持ちを母親に知られたくはないだろうし、教える事は出来ないかも知れないです」


 僕のその言葉に、氷雨さんはそれもそうだったと、そう言わんばかりの顔をして、また思いっきりため息を突いて肩を落としました。


 それだけで凍っちゃいますよ。


「うぅぅぅ!! ひ、氷雨さん、分かりましたよ。可能な限り教えます!」


「本当に? ありがとう~椿ちゃん」


 そう言って、僕の手を握ってきた氷雨さんの手は、凄く冷たくて、身震いしてしまいそうになりました。


 話を聞く限りだと、その子はどうも反抗期っぽいし、親に自分の気持ちを知られたく無いと、そう思っているはず。

 だからやっぱり、教えるのはどうかなとは思うんだけれど……それでも、氷雨さんの頼みは聞かないといけない。そうしないとおじいちゃんの家は、しばらくの間極寒地獄ですからね。


 う~ん、どうしよう……。

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