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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾肆章 虎擲竜挐 ~強者と強者の激突~
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第漆話 【1】 茨木童子の寿命

 何とか無雲を倒すことが出来たけれど、その戦闘で美亜ちゃんがダウンしちゃいました。


 白狐さんの治癒が間に合って、命に別状は無いみたいだけれど、背中から凄い出血をしていたみたいです。大怪我じゃないですか。

 僕は、目を閉じて倒れている美亜ちゃんの元に駆け寄り、座り込んで様子を伺います。汗が凄いけれど、安静にしていれば大丈夫そうに見えますね。


「椿様。鞍馬天狗の翁達の増援が、あと少しで到着します。その方達に、美亜さんを頼めば……」


「それまでの間、誰が見るんですか? 地獄の鬼がやって来るかも知れませんよ」


 僕の後ろから、虎羽さんがそう言ってくるけれど、ここは敵地なんです。意識の無い美亜ちゃんを、こんな所に置いておく訳にはいかない。危険ですよ。


「そこは大丈夫です。私のこの盾で守っておきます。私がここから離れても、しばらくは彼女を守ってくれますから」


 玄葉さんがそう言うと、玄武の盾を一枚、美亜ちゃんの所に展開しました。玄葉さんが離れても効果を発揮するなんて、凄いですね。


「良かった……美亜ちゃん」


 結局、まだ僕は弱い……。

 皆に助けられて、そして傷付けてしまって、何でもっと力を制御出来ないのでしょうか。


「美亜ちゃん、ごめなさい。ありがとう」


 そして僕は、そっと美亜ちゃんの頭を撫でます。すると……。


「んっ……」


 美亜ちゃんがそう言いながら、ゴロゴロと喉を鳴らし始めました。

 これ、意識あるんじゃないですか? あれ? 猫って寝ていても、喉を鳴らしたっけ?


「美亜ちゃん……?」


 僕はそれを確かめるために、耳と喉も触ってみました。


「んぅ……ん~」


 更に喉を鳴らし始めましたね。だけど、やっぱり起きる気配が無いので、寝ているのかな? 怪我しているから、これ以上は止めておいた方が良さそうです。


「それと、雪ちゃん。ジッと見ないで下さい」


 僕の横に座って、嫉妬の目を向けないで下さい。

 しかもその後に、美亜ちゃんの尻尾を握っていますよ。怪我人なんだから、安静に……と思ったら。


「ふにゃぁっ?! ちょっと雪! 何してーーあっ」


 美亜ちゃんが悶え始めました。


 やっぱり起きていましたね、美亜ちゃん。

 僕を心配させようとして、わざと意識が無いふりをするなんて。美亜ちゃん、君って妖怪は……。


「あっ、いや……違うからね。本当に体が動かなかったからで、な、何もあんたの撫で方が気持ち良かったとか、そんなんじゃ無いからね!」


 あっ、違いました。顔を真っ赤にしながら否定している所を見ると、これはツンデレというやつでしたね。

 どっちでも良いけれど、わざとじゃないんですよね? それなら、もっと頭を撫でて上げます。美亜ちゃんに大怪我を負わせちゃったんだから、これくらいはしてあげないと。


「へっ……? ちょっ、椿!?」


 腕を前に突き出して抵抗しようとしても、目を細めながら気持ち良さそうにしていたら、全く意味が無いですよ。


「良いから。美亜ちゃんはここで、大人しくしていて下さい。鞍馬天狗の翁が他の皆を連れて来るので、ちゃんと保護して貰って下さい」


 すると、僕のその言葉の後に、その場にいた全員が目を丸くしていました。何処か、おかしかったかな?


『椿よ。お主、今……翁の事を「おじいちゃん」と呼ばなかったな』


「えっ? あっ……」


 白狐さんに言われてから気付きました。だって、無意識でそう言っちゃったんだもん。

 多分だけれど、僕の中の人間だった時の感覚が、殆ど無くなったからだと思う。


『それと、椿。戦闘の時もだったが、どことなく女っぽかったぞ。やはり……』


「だって、記憶が戻ったんだから。分かってるでしょう?」


 黒狐さんにそう言われて、僕は頬を膨らましながら言い返します。とっくに気付いていると思っていたんだけど。


「とにかくあんた達。私は大丈夫だから、先に進みなさいよ」


 そう言っていたら、美亜ちゃんが僕達の会話を遮ってきました。

 良かった……危なかったです。また白狐さん黒狐さんとふざけちゃう所でしたよ。


「ごめんね、椿。助けに来たつもりが、いきなりこんな事になって……」


「ううん。そんな事無いですよ、美亜ちゃん。ちゃんと大人しくしていて下さいね」


 ここに渦巻いていた怨嗟の声は消えたし、美亜ちゃんはこれ以上暴走はしないでしょう。


「よし。行こう、皆!」


 それから僕は立ち上がると、後ろにいる皆にそう言います。


 その後に僕達は、この先にある階段を目指して歩いて行きます。

 とはいっても、小さな街くらいあるので、かなり距離があって大変でした。


「おい、椿。次の地獄の名前は分かってるのか?」


 すると、下に降りる階段に到着した直後、酒呑童子さんがそう言ってきました。


「えっと……」


呵呵(かか)だ。覚えとけ、バカ野郎」


 確かに……ここが出現する時に、茨木童子がそう言っていた気がするけれど、いちいち覚えていられませんよ。


 すると酒呑童子さんは、腕を組みながら続けてきます。


「この呵呵だが、これには大声で笑うって意味がある。他のは知らんが、これだけはたまに見るだろうが」


「現代では見ませんね」


「おぉ……あ~なる程なぁ……」


 見事な時代錯誤でした。

 それだけ長く生きていると、こういう事も分かるんですね。でも、それが地獄の名前になっているって事は……。


「少なくとも、この先の地獄が何の地獄か、だいたい予想つくよなぁ?」


「抱腹絶倒する地獄でしょうか?」


「ちんけな事で対抗してんじゃねぇよ」


「いへへへへ……!! ごめんなさい!」


 何故か酒呑童子さんにはバレていました!

 だってさ「知っていて当然だろう?」って顔をされたのですよ。対抗したくもなりますよ。

 思い切りほっぺをつねられて、それどころじゃ無くなっちゃいましたけどね。


『ふっ……師弟同士、仲の良いことだな……』


 あっ、白狐さんが嫉妬している。黒狐さんの方も、酒呑童子さんを睨んでいますね。だけど酒呑童子さんは、直ぐに僕のほっぺから手を離してくれましたからね。


 だからさ、これ以上は嫉妬しないで下さいね。僕、何だか嬉しくなっちゃうから。

 嫉妬するくらい想ってくれているって、そう思っちゃうのです。もうダメだなぁ、僕は。


 すると酒呑童子さんは、僕にしか聞こえないくらいの小さな声で、僕に話しかけてきます。


「んで、お前が急にここを襲撃をするなんて、よっぽどじゃなければやらねぇよなぁ? 何か考えがあっての事かぁ? まさか、あいつらと離れたかったからとか、全部1人で背負い込んでとか、そんな事で亰嗟を襲撃するーーなんて事ぁ、ねぇよなぁ?」


「そ、それは……その……」


 やっぱり、酒呑童子さんも知っていて当然でしたね。だって、酒呑童子さんの元弟子だし、誰よりも茨木童子の事を知っているはずなんですから。


 それとこの状況を見たら、誰だっておかしいと思うはずです。亰嗟のメンバー、その半妖の人達や、人間の人達が、誰1人として居ないのです。

 白狐さん黒狐さん、それに他の皆も、難しい顔をしながら警戒しています。相手の戦力が思った以上に少ないし、何かあるんじゃないかと、そう考えているみたいです。


 そして僕も、皆に聞こえないくらいの小さな声で、酒呑童子さんに返事をします。


「それは、茨木童子さんの寿命が……」


「やっぱ知っていたか。お前の封じられた記憶の中には、この事は無いはずだぞ? 誰からだ?」


 それを説明するのは凄く難しいんですよ、酒呑童子さん。

 僕の記憶が蘇る時に現れていた、狐のお面を付けた子供達って言っても、そんなの通じなさそうです。


「ん~っと、説明し辛いです。そんな存在の人から教えて貰いました」


 もう、こう言うしか無かったです。

 でも、それを聞いた酒呑童子さんは、それ以上この事に突っ込んではきませんでした。


「……まぁ、良い。それと、その通りだ。だからよぉ、亰嗟は放っておいても、分裂するはずだったんだよ……」


「それがなんで、こんな事に?」


「華陽の野郎だ。あいつがお前の事を話し、そして協力をしていたからだ。戦力増強も何もかも、華陽の仕業だ」


 やっぱり、華陽ですか。

 華陽は、自分以外の者を利用する事しか考えていない。茨木童子もそのはずです。それなら尚更、止めないといけませんね。


 華陽が何を考えているかは分からないけれど、少なくとも、人間界を地獄に変える事は、華陽の目的ではないはずです。

 華陽の目的はあくまで、元の1つの九尾の狐に戻る事。それだけのはずなんです。だからそれ以外は、どうでも良いはずなんですよ。


 そして酒呑童子さんは、下に続く階段を睨みながら、ボソッと呟きました。


「もって、数日。それが今の、茨木童子の寿命だ」


「えっ?」


 たった……それだけ? 茨木童子にいったい、何が起こっているんですか?

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