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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾肆章 虎擲竜挐 ~強者と強者の激突~
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第伍話 【2】 第二地獄『無雲』

 その後僕達は、警戒をしながら先へと進んで行きます。


 そしてやっぱり、酒呑童子さんは僕の問いかけに答えてくれませんでした。

 雰囲気からして、僕達を裏切るつもりではないとは思うけれど、何だか気になりますね。


「椿様。そろそろ通路が終わりそうですよ」


 すると、僕達の前を歩いていた朱雀さんが、僕に向かってそう言ってきます。

 僕が前を歩くって言ったんだけど、龍花さん達4人が、危険な事はもうこれ以上はさせないと言ってきて、強引に僕を守ってきているんです。


 わら子ちゃんに「こうなった4人は、絶対に折れないって分かってるでしょ?」と言われて、出会った当初を思い出しました。確かにその通りです。


 それなら、ここから4人を守れば良いだけなんです。僕は決意を新たにして、龍花さん達に続きます。


「ここは……?」


 そして、次の地獄に着いた僕は、思わずそう言ってしまいました。

 だって、さっきの禍々しい地獄の空間とは違っていて、ここは地獄らしくなかったのです。


 そこは広間と言うよりも、何も無い真っ白な空間が広がっているだけでした。壁が見えないんだけど、ちゃんとあるよね?


 これは、無闇やたらに進んでも危なそうなので、僕達はその場から動けなくなっちゃいました。

 ここの地獄を担当する鬼を見つけないと、どうしようも出来ないですよね。


 すると、その広い空間の上から、誰かが降りてきました。いや、もう誰かと言うよりも、鬼ですよね。鬼しかいません。

 十極地獄の鬼、ヒョロヒョロにやせ細った鬼です。あれ? でも確か、この鬼の能力って……。


「出ましたね、朱雀弓! 追炎矢(ついえんし)!」


 だけど、鬼が現れたその瞬間、朱雀さんが炎の形を模した朱雀(すざく)の弓を、突然出現させた炎の中から取り出し、その炎から矢も同時に作ってつがえ、それを相手に放ちました。


 でも、駄目です。その相手、そいつは確か……!


「駄目です! あいつは、体がすり抜けるんです! しかも自在に操れるのか、向こうは僕達には触れてきます!」


「何ですって?!」


 その僕の言葉に、1番驚いていたのは朱雀さんです。だって、攻撃しちゃいましたからね。

 だけどその鬼は、片手を前に出し、朱雀さんの炎の矢に向けます。すると急に、炎の矢が霧散して消えてしまいました。


 そんな。もう1個能力があるなんて……。


「私の名は無雲(むうん)。第二地獄無雲。心無き者が落ちる地獄。怨嗟の声に蝕まれ、心朽ち果てるが良い」


 そして、その鬼はそう名乗ると、両手をゆっくりと広げてきます。

 その瞬間、今度はその部屋が薄暗くなり、そこに嫉妬、憎悪、怒り、そんな負の感情を持った叫び声が、辺りに響き渡り始めました。


「うっ! くっ……!! こ、これ。うるさいどころか、気持ち悪い!」


『な、なんてものだ。これが、十地獄の地獄か?!』


『くそ、俺達ではこれはキツいぞ……!』


 白狐さん黒狐さんは守り神で、聖なるものに近いんでした。だから、こういう負のエネルギーとは相反していて、強すぎると耐えられないようです。

 普段のちょっとした負の感情くらいなら、簡単に防げるみたいだけど、この濃厚な負の感情の波は、かなりキツいみたいで、2人は咄嗟に耳を塞ぎました。


 それでも守り神なので、2人はへたり込まずに耐えています。他の皆は、もうへたり込んでいます。これは、僕達が何とかしないと。

 そう思っても、僕も耳を倒して塞ぎ、それを何とか耐えているだけで、徐々に吐きそうになってきています。


 でもそんな中で、美亜ちゃんだけは平然としていました。いったい何で?!


「ふ~ん。凄い量の負の感情ね。でも悪いけれど、こんなのは私に力を与えている様なものなのよね~それ!」


 すると、美亜ちゃんは腕を振り上げ、そしてその後に、地面に向かって振り下ろしました。

 その瞬間、周りの怨嗟の声が少し収まりました。でも、それと同時に……。


「きゃぁぁぁあ?! 美亜ちゃん! 何ですかこれは~?!」


「何って? いつもの呪術じゃない」


「規模が違いすぎるの!!」


 下から凄い勢いで木が生えてきたんだけど、その量がいつもの比じゃないんですよ!

 薄暗かった空間が、また真っ白な空間になっていって、今度はあっという間に大樹海ですよ。それでようやく分かったけれど、ここは小さな町くらいの広さがあります。


 そんな広い場所に樹海を生み出したというのに、美亜ちゃんは全く疲れていません。

 まさか……辺りから聞こえる怨嗟の声を、負の感情満載のこのエネルギーを、呪術に使ったのですか?


 流石のレイちゃんも困惑する程だったのに、それを利用するなんて、美亜ちゃんは流石です。


「あはっ。凄いわね、ここ。これでもまだ、負の感情が無くならないなんてね~」


「その前に、僕達が危なかったです」


「何よ、ちゃっかり全員守ってるじゃない」


「当たり前です!」


 美亜ちゃんの呪術の後、僕は咄嗟に妖具生成で竹とんぼを作り、そこから竜巻を生み出して、皆を包んで守っていたのです。


「でも、やり方間違えたんじゃない?」


「えっ? わぁ!? 皆!!」


 失敗しました……慌てていたから、そこまで頭が回らなかったです。とにかく僕は、急いで竜巻を消しました。


 そうでした……竜巻の中心って、空気が薄くなっているから、息がし辛くなるんですよね。

 僕は自身の妖気で大丈夫だけれど、皆は膝を突いて肩で息をしていました。苦しかったんですよね、ごめんなさい。


『げほげほ……椿、すまん。我の守護があれば……』


「いや、僕が慌ててしまったからです。大丈夫ですか?」


『大丈夫じゃ。椿の可愛い悲鳴のお陰で、何とか……』


 ちょっと。何でそれで意識を保っているんですか? もしかして他の皆も、耐えられた理由って同じじゃないでしょうね?


「椿の、可愛い悲鳴」


「姉さんが、完璧な女の子に……」


「椿ちゃんが、椿ちゃんがぁぁ……」


 同じ理由でした!! そして里子ちゃんは、別の意味で失神しそうですね。

 因みにわら子ちゃんは、いつの間にか龍花さん達に守られていたし、酒呑童子さんは自力で何とかしていました。


「それよりも椿。相手の妖気は?」


 すると、誰よりも真剣な顔をした美亜ちゃんが、僕にそう言ってきます。

 だけど、地獄の管理者のこいつらは、妖怪とは違う扱いなんです。妖気を持っていないですからね。


「ごめんなさい……こいつらは妖怪じゃないみたいで、妖気を持っていないのです」


「何ですって?! それじゃあ、いったい何の力でその能力を使っているのよ」


 すると、僕達の話し声に反応するかのようにして、樹海の中から声が聞こえてきます。やっぱり、これくらいじゃやられませんか。


「私達地獄に住まう者は、獄力(ごくりょく)を用い、その能力を行使し、そして罪人の魂を裁くのです。心無き者に、負の感情を与え苦しませる。それが、この私の力です」


 それで、この辺りの魂に負の感情を植え付けたのかな? それとも、元々ある自分の地獄から連れて来たのかな?

 どっちにしても、僕達にもその力を使われたら大変です。何とかして、気を強く持たないと。


「負の感情ねぇ……だから、今の私にはそれも効かないわよ!」


 すると、美亜ちゃんがそう言って、また手を下にやりました。そして新たな木々が生えてきて、無雲を襲います。

 ちょっと美亜ちゃん……それ、あんまり使いすぎたら……。


「あはははは!! あんたと私の相性は最悪なのよ!!」


 ほらぁ! 感情がドス黒くなっちゃってるってば、美亜ちゃん!!


「ちょっと、美亜ちゃん。落ち着いーー」


「フニャァァァア!!」


 僕の声も聞こえていないよ!


『いかん、椿! 美亜を止めろ! あいつには攻撃が効かないのだろう!』


「分かっていますよ、黒狐さん!」


 しかも、無雲はまだ金棒を出していない。嫌な予感がします。

 そして僕は、突撃していく美亜ちゃんの後ろを、慌てて着いて行くけれど、ちょっと遅かったです。


「フギャッ?!」


 いきなり美亜ちゃんが叫んだと思うと、僕の横をかすめて飛んでいきました。


「我が金棒は、姿無き金棒。音も無く、どこからともなく襲いかかる。怨嗟の声が効かない、負の感情が付加出来ないからといって、地獄を甘く見た罰だ」


「美亜ちゃん!!」


『椿! 美亜は我が……』


 だけど、白狐さんが美亜ちゃんを見に行こうとした瞬間、また木々が伸びてきました。


「ちっ……! ったく、次から次へと……しっかしマズいな。あのままでは、自らの負の感情に飲み込まれるぞ」


「えっ、美亜ちゃん……?」


 酒呑童子さんの言葉に、僕は美亜ちゃんが吹き飛ばされた方を見ます。

 すると美亜ちゃんは、木にもたれかかるようにしながら立っていて、毛を逆立てながら威嚇していました。


 あの……美亜ちゃん。ちゃんと理性はありますか?


「フゥゥ……!!」


 そして、美亜ちゃんが唸る度に、地面から大量の木々が生えてきています。

 もう皆は、必死にそれから逃げるしかなくて、酒呑童子さんですら交わすしかないくらいです。僕だってそうです。


「無意味……!」


 でも、そんな美亜ちゃんに向かって、再び無雲が攻撃しようとしています。突き出る木を軽々と交わして、美亜ちゃんに迫っているよ。


 いけない。今の美亜ちゃんじゃ、あっという間に殺されちゃう!

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