表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾肆章 虎擲竜挐 ~強者と強者の激突~
395/500

第伍話 【1】 また皆で

 その後僕は、皆に記憶の事を話しました。


 僕が白狐さん黒狐さんを殺したと言っても、あんまり信じてくれそうになかったのです。だって今までも、僕は暴走とかしていて、危なかった時があった。だけど、結局は押しとどまっていました。

 つまり皆に、僕は精神力が強いんだと思われていそうなんですよ。

 そんな事はないんだと、自分では思っていたとしても、他人の評価って、意外と分からないんですよね。


 だからもう、話すしかなかったのです。

 妲己さんの体とか、危険に繋がるような情報は伏せてだけどね。


『なる程……我等の妖気が回復しにくかったのは、仮の体だったわけか』


『しかし何故、俺達はその時の記憶が無いんだ?』


「多分。僕の力が、強すぎたんだと思います。それで、一時的に記憶が……」


 さっきはちょっと、感情的になっちゃったんだけれど、よく考えてみたら、皆こんな所にまで来ちゃったんだから、今更家に帰ってと言っても、その道中でまた危険な目に合うかも知れない。

 外でまた、沢山の鬼達が復活して、暴れている可能性もあるからね。


 だから、ちょっとだけ冷静になった僕は、正座しながら皆に話をしています。

 皆の様子を見ていると、僕の話を信じてくれているようです。やっぱり、酒呑童子さんがある程度話していますね……。


『ふむ。全てを滅ぼす程の力、か……しかし、天照大神の力なら、そんな事には……』


「白狐さん。相反する天津甕星の力も混ざっているんですよ? 力が変異しちゃっていて、もうオリジナルの神の力になっちゃっているんです」


 多分、僕のあの時の攻撃で、魂ごと破壊しようとした攻撃で、記憶にまで影響を及ぼしていたんだと思う。

 白狐さん黒狐さんは、記憶が封じられているんじゃなくて、本当に記憶を失っていたのです。仮の体になる前の、全ての記憶が……。

 2人を殺しただけじゃなく、僕はそんな事までしてしまったのです。だからもう、二度と会わないって、そう決めていたのです。


 それなのに、そっちからやって来るなんて……卑怯です。


「僕は2人に、とんでもなく酷い事をしているんです。それなのに、妻にとか結婚するとか、そんなの……そんなの駄目なんです。僕なんかじゃ……!」


 すると今度は、白狐さん黒狐さんから同時に手を引かれ、2人の間に連れて来られました。

 ちょっと、いったい何を……? しかも近いです。2人の良い匂いが、僕を緊張させてしまって、顔が熱くなって……あれ? おかしいな。今まで僕は、こんな反応なんてなかったのに、何で急に?


『椿よ。そんな理由で、我等がお主を怒ったり、お主を嫌ったりすると思うか?』


『その通りだ。むしろ、また会えた奇跡に感謝するしかない。もしかしたら、そのまま二度と会えなくなっていたのだろう?』


 なんで? なんで2人は、こんなにも僕の事を。

 だけど、僕の中に湧いてくるこの感情。溢れてくる想いは、白狐さんにだけです。

 黒狐さんに対してだけは、どこか遠慮みたいなものが出てしまっています。妲己さんがいるしって思っちゃう。


「そんな事言っても、僕が危険なのには変わりないんですよ! だから、僕はもう……」


 すると、また白狐さんが僕を抱き締めてきます。そして……。


『大丈夫じゃ。今度は、その力をしっかりと扱える。自信を持て、我は信じているぞ』


「ふぐっ……なんで。なんでそんなに、ハッキリと言えるんですか? 僕なんか、僕なんかじゃ……」


『椿よ。お前は今まで、何を得てきた? もう過去のお前とは違うじゃろう? 自分なんかがとは言うな。大丈夫じゃ』


「うっ……ぐす」


 何だろう……? 何でだろう。白狐さんのその1つ1つの言葉は、僕を安心させていく。本当に大丈夫なんだと、そう思っちゃいます。


 とにかく僕は、涙を拭って皆をもう1度見ます。

 皆、もう何を言っても戻らない。といった様な顔をしていますよ。龍花さん達は、ちょっと怒っている様な……う~ん。表情が読めないから分からないけれど、多分そうだと思う。


「本当に、厄介な妖怪さん達に、僕は好かれちゃいましたね」


「厄介とはなによ。凄く厄介と言いなさいよ」


 まさか美亜ちゃんが反応してくるとは思わなかったです。しかも、更に上を言ってきましたからね。


「はは……うん。皆、ごめんなさい。僕また、1人で抱え込んじゃっていました」


 良く注意されていたんですけどね。これ、中々直らないです。

 でもそれを、皆がこうやってフォローしてくれるのなら、例え僕が暴走しても、今度は誰も死なずに抑えられるんじゃないかなって、そう思っちゃいました。


 だから、また皆に頼るのも良いんじゃないかなって、そう思っています。


「ごめんなさい、皆。僕に力を貸して下さい。茨木童子を止めないといけない。そしてついでに、華陽と八坂さんを、ここにおびき寄せます」


 その僕の言葉に、皆真剣な表情をしながら頷いてきました。

 ここからは、皆を守りつつ、僕自身も暴走をしないように意識しないといけません。


「ふふ。まぁ、私の呪術の力で、存分に相手を翻弄してあげるわ」


 美亜ちゃんは、自分の事が良く分かっているみたいです。冷静に、僕のフォローに回ると言ってくれています。


「我慢していた分、椿ちゃんと一緒に……」


「里子さん。ちょっとは抑えましょう?」


 わら子ちゃんの言う通りですね。里子ちゃんの事だから、僕がいなくなってショックだったんだろうし、何か凄く変な思いを募らせている様な、そんな気がします……。

 ただ、わら子ちゃんは緊張した表情をしていて、それを心配した龍花さん達に囲まれています。


 問題なのが、それ僕を含めているんですよ。

 別に僕はもう、龍花さん達に守られる程じゃないですよ? とにかく離れましょう。


「あっ、椿様。危険です! それに、あなたには少し説教をーー」


「それを察知したからです」


 でも、やたら僕に引っ付いてくるよ。もう……。

 あれ? 楓ちゃんは震えている様な気がする。流石に、この子には荷が重いかも知れません。地獄のこの怖さに、震えているんですね。


「ここで活躍すれば、一気に姉さんと同じ級に? いやいや、それは無理でも、一級くらいにはなれるっすよね! そしたら自分、もうくノ一って言っても過言ではないっすよね!」


 違った。やる気に満ちていて、興奮して震えていました。どんな神経しいるのでしょうか?


「ちゃんと試験受けないと駄目ですよ」


「あっ……」


 忘れていたのでしょうか?


 それから、今気が付いたけれど、雪ちゃんとカナちゃんはいったい何処に?

 あっ、後ろの方でコソコソしている。そっか、感動の再会をしてーー


『雪、良く頑張ってくれたね。ありがとう』


「香苗……うん、約束守ってる。ちゃんと椿を、一人前のアイドルに!」


 そっちの話でしたか! あぁ……でも、カナちゃんのキラキラした目を見ていると、何も言えなくなるよ。積もる話もあるみたいだけど、いつまでもここでジッとしている訳にもいかないのです。


「よし、皆。とりあえず先に進みます。今の僕でも、十極地獄の鬼を1体倒すのがやっとだったから、気を抜かないで下さいね」


 僕がそう言った瞬間、また皆が驚いた顔をしました。あれ? どうかしました?


『椿よ……1体とは? まさかだが、先程通った所に倒れていた、あの鬼を? 厚雲とかいう鬼を、椿が倒したのか?!』


「はい。そうですけど」


『誰か別の者が倒していて、ラッキーと思って先に進んだのかと。だから、警戒をしておったのだが……』


「白狐さ~ん?」


 あぁ……どうりで、1階から降りて来るには遅いと思いましたよ。

 確かにね。今までの僕じゃ、絶対に倒せなかったですよ。でもね、記憶が戻ったって言いましたよね?


「あのね、僕は記憶が戻ったんです。自分の妖気が、使えるようになったんですよ? 半分だとしても、それでも相当だったんです。今までは、白狐さんと黒狐さんの妖気、そして自分の中から漏れていた、その僅かな神妖の妖気を使っていました。だけど記憶が蘇って、自分の妖気の使い方が、ちゃんと分かったんです」


 そして僕は、自分の手から狐火を出して、皆に見せます。それこそ、業火の様な燃え方をする狐火をね。


『ぬぉ……』


『これは……』


 それを見た白狐さん黒狐さん、そして皆も驚いちゃっています。


「僕の妖気は、少し特殊だったんです。神妖の妖気が混ざっているから、使う妖術全てが強力になるんです。しかも、今はそれが半分だけなのです。だから、神妖の妖気を使う要領で、少し抑えておく必要があったんです。そうしないと……」


 そして僕は、その抑えた状態を止めます。するとその瞬間、僕の掌の炎が爆発します。


「……こんな風になっちゃいます。これ、僕の妖気が半分無いからだと思います」


 ちょっと熱かったです。咄嗟に防いだけれど、やっぱり抑えていないと危ないですね。

 すると、それを見た白狐さん黒狐さんが、僕を心配してきました。


『大丈夫か、椿。全く……そんなに強力になっているなら、気を付けないと駄目じゃな』


『本当だ。椿の綺麗な手に傷が……』


「さっ、と」


 黒狐さんが僕の手を握り締めようとしてきたけれど、何だかやっぱり遠慮しちゃいます。


『な、なんでだ? 椿。さっきからおかしくないか?』


「おかしくないです。だって黒狐さんには、妲己さんがいるんだもん。昔は2人とも、仲が良さそうでしたよ」


『んなっ?!』


 あっ、黒狐さんがショックを受けています。記憶が無いって大変だよね。

 僕も、まだちょっと整理が出来ていないですからね。でもそれを、体を動かす事で何とかしようとしています。


『ふっ、なる程。残念だったな黒狐よ。これは、勝負ありではないか? なぁ、つばーー椿?!』


「ふえ?! あっ、えっ? えと……うん。そ、そそ……そう、そうなの、かな?」


 駄目です。白狐さんと目が合った瞬間、顔が熱くなって、心臓までドキドキしちゃって、何だか胸の辺りまでキュウって締め付けられちゃう。


 これ以上白狐さんの顔が見られないよ!


『椿よ……もしかして、完全に女の子に……?』


「え、えと……男の子だった時の記憶はあるよ。だから、まだ『僕』って言っているんだよ。でも、あの……本質はもう、女の子かな?」


 それで感極まって抱き締めないで下さい、白狐さん!

 それと、黒狐さんが分かりやすく項垂れているけれど、大丈夫なのかな? 別に、黒狐さんを嫌いになった訳じゃーー


『ふ、ふふ……こうなったら略奪だ。白狐、油断するなよ。俺はまだ、諦めていない!!』


 いや、そこは諦めて下さいよ!!

 普通だったら諦めそうなものなのに、やっぱり黒狐さんはしつこかったです。


 本当に僅かな差なんだよ。本当は、僕は黒狐さんを……それを、ただ白狐さんで紛らわしているだけです。そっちに気持ちを全振りすることでね。卑怯ですね、僕は。


 それとここに来てから、酒呑童子さんの口数が少ないです。何か考え事をしているみたいで、ずっと難しい顔をしています。

 やっぱり、茨木童子の事なのかな? 何があったのか聞いてみたいけれど、言ってくれるかな?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ