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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾肆章 虎擲竜挐 ~強者と強者の激突~
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第肆話 【2】 私、幽霊だよ?

 僕は色々と思い出しながら、迷路を進みます。

 迷路の前で突っ立っていても、突破は出来ないですからね。その間に、僕は決めました。


 やっぱり僕は、彼の方が落ち着くし、何だかんだ許嫁だったからね。だからって訳じゃないです。

 でも、思い出しちゃったから……黒狐さんと妲己さんの事を。それを考えたら、ね……。


『あっ、椿ちゃん。道が!』


 そして、僕が決めた瞬間、いきなり前の道が開けて、その先の広い場所へと繋がっていきます。反応が早いですね。

 とにかく僕は、そのまま先へ進もうとしたけれど、その前にカナちゃんが、好奇心旺盛な目を僕に向けてきました。何だか嫌な予感……。


『という事は……椿ちゃん、決めたの?!』


「うん。まぁ、一応ね……」


『えっ、どっち? ねぇ、どっち!』


「レイちゃん、口塞いどいて!」


『むぐぅ~!!』


 レイちゃんが着いて来てくれて良かったかも……なんて思っちゃいましたよ。


「もう聞いてこないですか?」


 そんな僕の言葉に、カナちゃんは素直に頷いています。

 それは本当かなぁ? でも、ずっと口を塞いでいたら会話が出来ないしね。


『もう~椿ちゃんったら、恥ずかしがっちゃって。でもどうせ、白狐さんか黒狐さんのどっちかでしょ? それなら、何で言いたくないの?』


「だって僕はもう、二度と2人に会う気は無いから。だからこのまま、2人とも大好きなままで、終わりたいんだ」


『えっ? 何で……?』


「だって僕、2人を殺していたんですよ。ずっと昔に、既に2人に会っていて、そしてその時に……」


 久しぶりのカナちゃんとの会話のせいなのか、僕は感情が抑えきれず、涙が溢れてきてしまいました。


「思い出しちゃったんだ、僕。封じられていた記憶の事を、全部! 僕の中には、危険な力があったんだ。僕自身も使いこなせていない最高神の力が、僕の中にあったんだよ!」


 本当は、誰かに打ち明けたかった。でも、僕のこの記憶の事を言ってしまったら、皆が知ってしまったら、危険に晒されるかも知れない。

 だから僕は、皆とお別れしたんです。僕と一緒にいたら、それだけで危ないから。


『そっか……それを椿ちゃんは、皆には言わずに出て来たんだ』


 カナちゃんはそんな僕を、優しい目で見ています。だけどその後に、真剣な顔付きになりました。やっぱり、怒られるのかな?


『椿ちゃんのバ~カ』


「はい?」


 あれ? バカって言われた。これって、怒られているんだよね? 

 それなのにカナちゃんの顔は、あんまり怒っている様には見えないです。


「あの……怒らないんですか?」


『ん~? それは、後ろからやって来る方達にして貰おっかな~』


 えっ? あっ! この沢山の妖気は……しまった! 何でこんな所に?!

 もしかしてこの中って、妖気を感知しにくくなっているの?! そうじゃないと、こんな近くまでやって来ているのに、僕が気付かない訳が無いですよ。


「あ、あわわわ!! か、隠れないと!」


『何処にですか? 椿ちゃん』


 後ろの迷路がもう機能していなくて、隔てる壁がなくなっている!! ちょっと広めの広場みたいになっているじゃないですか!


 あぁぁぁ……もう皆階段から降りて来ているよ!


「わわわわ!! レイちゃん! カナちゃんを降ろして!」


『えっ? きゃっ! ちょっと!?』


 そして僕は、咄嗟にそのカナちゃんの後ろに隠れました。

 もちろん、尻尾もはみ出ない様に、足の間に挟んでいます。その直後、この広場に良く知った沢山の声が響きました。


『椿!!』


 そうです。白狐さん黒狐さん、そして美亜ちゃんに雪ちゃんに、楓ちゃんとわら子ちゃんと里子ちゃん。更には龍花さん達4つ子の姉妹に、酒呑童子さんまでやって来ていました。


 そんな皆が、一斉に僕の名前を呼んできています。


「香苗?! えっ、嘘……何でここに?」


 その後に、雪ちゃんがカナちゃんの姿を見て驚いていました。これは読んでいましたよ。

 でもこの後、どうやって皆から逃げようかなって、そう考えていたんだけれど、その前に白狐さん黒狐さんが、僕に向かって叫んできます。


『椿よ! それは隠れているつもりか?!』


『まさかこう何度も逃げるとはな……いや、それだけじゃない! こんな危ない事を、1人でやろうとしているなんてな!』


 あれ? もしかして、バレています?! な、何で? ちゃんとカナちゃんに隠れてーー


『椿ちゃ~ん。私、幽霊』


 あっ……どうりで皆の姿が見えると思いました。カナちゃん、幽霊だから透けていました……バレバレじゃないですか。

 慌てていたからって、何をやっているんですか……僕は。いや、まだ大丈夫のはずです。人形のふりをしていれば。


『何をしとるんじゃ、椿。聞いているのか?!』


 大丈夫。僕は人形、僕は人形……。


「僕は人形、僕は人形……」


『人形が喋るか。たわけ』


「わぁぁあ!! 声に出てたぁ! 白狐さん離してぇ!」


 だけど白狐さんは、暴れる僕を離さずに、そのまま抱き締めて来ました。


「ふえっ?! ちょっ、白狐さん……?」


 あまりにも急な事で、僕は動きを止めてしまいました。駄目です、急いで逃げないと。僕と一緒に居たら危険なんだよ。


 だけど、強く抱き締めてくる白狐さんからは、どうやっても逃げられません。


『どれだけ……いったいどれだけ心配したと思っているんだ』


「うっ……」


『たった1人でこんな所に乗り込むなんて、何かあったらどうしていたんじゃ』


 駄目、駄目です。白狐さんの言葉に、耳をかたむけたら駄目です。だって僕は……もう、決めたんだもん。白狐さんに決めちゃったんだもん。だから、駄目なんです。

 白狐さんの匂い、何故か存在するこの温もり。仮の体でも、温もりはちゃんとあるんだよね。

 白狐さんの声。心配してくる気持ち。全部全部、僕の心を折るには、十分過ぎる威力なんですよ。


「嫌……白狐さん。離して……」


『離すものか』


 そう言われても、何だか徐々に頭かぼうっとしてきて、息苦しくなってきて……。


『白狐さん。それ、絞めてる絞めてる』


「きゅぅ……」


『ぬぁっ!? 椿!!』


 地獄で僕達は、いったい何をしているのでしょうか?


 ーー ーー ーー 


「椿ちゃ~ん!! 良かったよ~無事でいてくれて!」


「里子ちゃん……」


 その後、白狐さんから解放された僕は、皆に囲まれてしまいました。

 そして、白狐さんから解放されたのに、次は里子ちゃんに抱き付かれています。こんなに尻尾を激しく振られていたら、無下には出来ないですよ。


 早く進まないといけないのに、何ですかこの展開は!


『全く。分かっているのか? 椿。結局、皆がお前を心配して、こうやって危険を顧みずにやって来たんだぞ。分かったのなら、少しは反省をしろ』


 そう言いながら、黒狐さんも僕に近付いてきます。腕を広げながらね……。

 黒狐さんも、僕を抱き締める気満々ですね! でも何故か、僕は黒狐さんから距離を取っちゃいました。


 あれ? 無意識に体が動いちゃった。


『ぬっ? 何故逃げる、椿』


「あれ? いや……」


『ほっ!』


「はっ!」


 あれ? ついつい避けちゃいます、黒狐さんのハグを。

 それはやっぱり、黒狐さんには妲己さんがいるからって、そう思っているから、体が無意識に避けちゃっている? 多分そうかも知れません。


 あっ、黒狐さんが落ち込んだ。まぁ、良いです。


「それよりも、何で皆ここに来たのですか? 僕を連れ戻す為にですか?」


 すると、そんな僕の言葉に、龍花さんが答えてきます。


「違いますよ、椿様。皆、あなたを手伝いに来たのです」


 手伝いに? いや、それこそ危険ですよ。

 僕と一緒に戦ったら駄目なんです。でも、そんな戸惑っている僕に、酒呑童子さんが話しかけてきます。


「椿、てめぇ。これが、自分だけの問題だとでも思っているのかぁ? あぁ? 違うだろうが。これは、妖怪達全員の問題なんだよ」


 お酒飲みながら言っているけれど、そんな事は僕だって分かっていますよ。だけどね、それ以外もあるんですよ。


「それでも、僕と一緒になんかいたら……」


「記憶、戻ったんか?」


 僕の言葉に、酒呑童子さんが間髪入れずにそう言ってきました。

 この妖怪はどこから聞いたのか、僕の過去の情報を持っていたのですよね。だから、ここで誤魔化しても無駄なんで、素直に頷いておきます。


「やっぱりな。それで? 力がまだ使いこなせていないのか? 使ってみたのか?」


「それは……」


「けっ、怖いのかぁ? あぁっ? 俺はお前を、そんな風にはーー」


 ちょっとそれはカチンときましたよ。あなたは僕の何を知っているんですか?


「怖いですよ!! それがどうしたんですか! だって僕は、その暴走した力で、白狐さん黒狐さんを殺しているんですよ!!」


『…………』


『…………』


 そんな僕の言葉を、白狐さん黒狐さんは黙って聞いていました。

 つまり、この事も多分、酒呑童子さんに聞かされているのでしょうね。だから、僕は続けます。


「ううん、暴走じゃないですね。あれは、確固たる僕の意思で、2人を殺したのです。だから僕は、皆と一緒にいたら駄目なんですよ!」


 そして僕のその言葉を、皆も真剣な顔で聞いています。やっと分かってくれたかな? 僕は、それだけ危険な妖狐なのです。

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