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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾参章 記憶解放 ~封じられた過去~
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第陸話 【1】 八坂の謀反

 僕のお母さんの指示で、本気で華陽を攻撃していく僕のお父さん。そして遂に、その華陽が膝を突きました。


 流石に、出した妖術を全て交わされ、次々と攻撃をされたら堪らないですよね。

 九本の尻尾を駆使しても、僕のお父さんのスピードの前では無意味だし、力技なんて論外でした。呆気なく吹き飛ばされて、そのまま追い打ちされ、地面に叩きつけられていました。


 そんな攻撃を受け続けても、戦い続けようとした華陽は凄いです。だけど、10分程でギブアップしました。


「はぁ、はぁ……あ~もう! 冗談じゃないわ。でもね、こっちはもう、目的の物を手に入れているのよ」


「それがどうした?」


「あとは逃げるだけ……なのに。見つかるなんてね」


「そうだな。この通り、出来ていないだろう?」


 華陽の言葉に、僕のお父さんが睨みつけながら返します。ちょっとだけ格好いいかも。お母さんの尻にさえ敷かれていなければ……。


「ふっ、うふふ……甘いわね、金尾。分身が、あんただけのものだとは思わない事ね」


 そう言うと、目の前の華陽の姿が、突然殺生石と一緒になってドロドロに溶けていき、そして消えてしまいました。だけど……。


「ぎゃぅ!!」


「あら、ごめんなさい。てっきり分身かと」


 いきなり横の茂みから、殺生石を持った華陽が飛んできました。しかも、僕のお母さんも一緒です。また分身?!


「ふっ、ふふ。あ~ら、その通りよ~」


 あっ、またドロドロになって溶けた。だけど、また違う所から飛び出てきた。もう1体の、僕のお母さんと一緒に。でも、華陽はまたドロドロになって溶けます。

 それを見た後、僕のお母さんは分身を消すけれど、直ぐにまた別の方向に視線を移しています。


 華楊の場所が分かっているのですか?! 妖気を探知しているのかな? すごいや……。


 そしてまた、華陽の分身が僕のお母さんに吹き飛ばれ、ドロドロになって溶けていき、また別の場所から僕のお母さんの分身に吹き飛ばされ、勢いよく飛び出してくる。

 それを次々と繰り返していくけれど、あの……これを機に、華陽の本体に逃げられたりはしていないのでしょうか?


「困ったわねぇ。中々当たらないわ。華陽の分身は本体から出ているから、その内に本体の方に当たると思ったのだけれど……」


 そう言って、また華陽の分身を吹き飛ばす僕のお母さんだけど、幼い僕は何が何だか分からないといった感じで、すっと頭を押さえています。でも、頭を押さえているのは、頭痛が原因です。


 まだ、幼い僕の状態は良くなっていないのです。寧ろ、徐々におかしな感情や意志が膨らんでいき、抑え込むのに精一杯だったのです。


「はぁ、はぁ……」


 そして聞こえてくるのは、邪な者達が許せないという、歪んだ正義の感情。

 そんな奴等は、全て殺してしまえという感情が、幼い僕の中で膨らんでいっているのです。


「椿? いかん! 早く終わらせないと」


「あなた。だからと言って、焦ってはいけないわ」


 僕の様子を見て、お父さんがそう言ってくるけれど、お母さんが止めてきました。

 確かに今のこの状況だと、焦っても良い結果にはならないですよね。


 だけど、僕のお母さんがそう言った瞬間、僕の後ろから声が聞こえてきました。


「ふ~ん。やっぱあんた、とんでもない力を貰っているわね。丁度良いわぁ。殺生石復活の役に立つかも知れないし、ちょっとこの子、貰っていくわね~」


 そして華陽が、僕のお父さんお母さんからの反撃を受ける前に、僕を掴んで去ろうとした瞬間、倒れ伏していた妲己さんが叫びました。


「黒狐! 今よ!!」


 すると、黒狐さんが急に起き上がり、そして妖術を発動します。


「妖異顕現、黒雷槍(こくらいそう)!!」


 黒狐さんは、影絵の狐の形にした手から、黒い槍の形をした雷を、華陽に向けて放ちます。だけど……。


「おっ~と。そう簡単にいくわけないでしょう? あんたが意識を取り戻しのたは気付いていたわよ」


 黒狐さんの妖術は華陽には効かず、簡単に上空に弾かれてしまいました。


「くそ! すまん、妲己!」


「謝ってないで、次撃って!」


 その妲己さんの指示で、また黒狐さんは、同じ妖術を華陽に向けて放っていくけれど、全部九本の尻尾で弾かれています。


 それにしても黒狐さんって、既に妲己さんのお尻に敷かれています?


「あはははは~!! 妲己~! 裏切るなら今って事ぉ~?」


「そもそも、あんたの仲間になったつもりは無いわよ、華陽~!!」


「それなら、あんたの今住んでいる町、吹き飛ばしてもいいわけ? 結構住み心地良いんでしょう? 住人にも取り入っててさ~」


 華陽が、黒狐さんの攻撃を弾いているタイミングで、起き上がった妲己さんにも攻撃をしているけれど、一向に当たる気配が無いです。妲己さんも、攻撃を避けまくっています。


 そして2人とも、睨み合いながら叫んでいて、とても怖いです。だけど幼い僕は、もうそれどころじゃ無かったりします。


「あ……うぅ、くっ。はぁはぁ……パパ、ママ、ここ、駄目……来る、あれが来る!! 私が、私じゃなくなっちゃう! やだぁ!」


 頭を抑えながらそう叫ぶ幼い僕に、お父さんとお母さんが急いで駆け寄ってきます。


「椿、しっかりしろ! 大丈夫だ、自分を保て!」


「いけない! 2つの神妖の妖気が混ざり合おうとしているわ!」


「なっ、そんな馬鹿な事が……!」


「起こっているのよ、実際!!」


 幼い僕の様子を見て、お父さんとお母さんも焦っています。

 そして幼い僕は、必死にこの奇妙な感情を抑えようとするけれど、確かこの時、次々と溢れてくる感情を、抑える事が出来なかったはずです。


 もうとにかく、全ての者に天罰や神罰を与えようと、そんな考えが頭を埋め尽くしていたはずです。


「パ、パ……マ、マ。私は私だから、おかしくなっているんだよね? 白狐さん黒狐さんが女性にもなれるなら、私女の子じゃなくて、男の子でも良い!! この私を変えて! パパとママなら……!」


 それでも必死に、僕は自分を保とうとして叫ぶけれど、もう混乱していて、自分でも何を話しているのか分かっていなかったです。

 この時のこの思いが、男の子のままでいたいと願った原因かも知れません。


「椿、落ち着け。いくら性別を変えたとしても、お前の中の者は消えない。それこそ、強力な封印術でそいつを封印し、更にお前を人間にするとか。それだけ、お前の中の力との縁を切らないと、抑えられないだろうな」


「あなた……」


 僕のお父さんとお母さんは、幼い僕を落ち着かせようとして、そう言ってくるけれど、お父さんとお母さんの顔は曇っています。もしかして、かなりのリスクがあるのかな?


 だって、妖怪を人間になんて、普通出来ないですからね。

 更に、そんな強力な封印術までかけるとなると、僕のお父さんとお母さんはどうなるんでしょう。さっきまでの戦闘で、妖気をそこそこ消費しているんだから。


「あなた、覚悟は?」


「とうに出来ている。例え、永遠に石像になろうともな」


 それは駄目です。と言っても、現に僕は人間になっていた。つまりここで、僕のお父さんとお母さんは、その妖術を行使する。これは、変えられない過去なんです。


「パ、パ……ママ? うぅ、ごめんなさい。ごめんなさい! それは嫌だ! 私……私じゃなくても、別に!」


「椿、落ち着け! それしかもう……」


 するとその瞬間、僕達の近くに、妲己さんと黒狐さんが吹き飛んで来ました。嘘でしょう? 2人ともやられたのですか?!


「話は終わったかしら? それなら、ちょっとその子、頂いていくわね」


「くっ……華陽!」


「しつこいわね、負なる者」


 そして僕のお父さんお母さんは、幼い僕の前に立ち塞がり、華陽を睨みつけます。


 だけど次の瞬間、今度は別のものが僕達の横を通り過ぎ、華陽の前に吹き飛んで来ました。


「えっ? ちょっ……きゃぁ?!」


 しかも、そのまま華陽と激突しました。次から次へと、いったい何が起こっているんですか?!


「くっそ、八坂ぁぁあ!! 貴様ぁ! 謀反でもする気か?!」


 その後、華陽にぶつかったその人が起き上がり、僕達の後方、天狐様の社に向かって叫びます。

 というか、吹き飛んで来た人って、天狐様じゃないですか。しかもボロボロになっていて、そこら中怪我だらけです。本当に何があったんですか?!


 すると今度は、僕達の後ろから、冷たく重い声が聞こえてきました。


「えぇ、その通りですよ。天狐」


 声のトーンを落としていても、この声は八坂さんだって分かります。そして幼い僕は、そっちを向けないでいます。でも、これは仕方が無いです。

 だって八坂さんの後ろには、体に幾何学的な模様を付けた、禍々しいそいつらが並んでいたから。僕の恐怖のトラウマが、そこには勢揃いしていたのです。


 複数体の、脱神が。

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