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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾参章 記憶解放 ~封じられた過去~
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第肆話 【1】 力を求めし妖狐

 天狐様に求婚された幼い僕は、嫌そうな顔をしています。


 だけど僕自身も、あれだけ白狐さんと黒狐さんに求婚しまくっていて、夢は全ての男性妖怪のお嫁さんになると、そんな事まで言ってしまっているんです。

 それと重ね合わせて、僕は自分自身の行動を恥じてしまっています。


 ここで僕は、少し大人になりました。

 押し付けは駄目だって。でも、約束は守らないと。そんな考えが、この時の僕の頭にはありました。


「待って下さい! それはどうか、勘弁して下さい」


「その子には、許嫁の白狐がいるんです。だから……」


 そんな天狐様の言葉に、僕のお父さんとお母さんは必死に許しを請うけれど、天狐様は退く様子が無いです。


 そもそも僕の両親は、僕の可愛いさを色んな妖怪にアピールしたいみたいだけど、この天狐様にだけは、何か苦手意識があるのか、そのアピールをしないです。だからなのか、天狐様の提案も必死に拒否しています。


「そんなもの。何人夫がいようと、何人妻がいようと、妖怪の世界に決まりは無い」


「そうですが……」


「とにかく、私はその子が気に入ったのだ! 嫁にーー」


「嫌だ」


「ぬっ?!」


 そんなやり取りを見て、幼い僕が遂にそう言いました。そう、どうしても嫌だったんです。

 この天狐様、何か裏がありそうな感じがしたのです。しかも、かなり自己中な感じもあって、とにかく嫌だったんです。


「しかしお前も、白狐と黒狐に求婚しまくっただろう。それにお前の夢は、全ての男性妖怪の嫁になる事だろう?」


 やっぱり、天狐様は全て知っていました。

 心が読めるのか、僕の行動を見ていたのかは分からないけれど、意地悪な笑みを浮かべて、僕に近付きながらそう言ってきます。


「あなたを見て思ったの。私が無理矢理お嫁さんになったって、その妖怪さんが幸せになれるなんて限らないんだね。今の私が、そうだから。だから、あなたのお嫁さんになっても、私は多分幸せになれない!」


「それは、何故だ?」


「女の勘!!」


 まだ子供なのに、何を言っているのかな? 僕は。

 すると天狐様は、それに驚いて目を見開き、そして僕のお父さんとお母さんは泣きそうになっていました。


「椿……!! そんなにハッキリと否定が出来るようになったのか!」


「いつもは肯定ばかりして、従うばかりだったあなたが……私も嬉しいわ!」


 えっ? ちょっと待って……僕って幼い時はそうだったのですか? ただ流されるだけの、ダメ妖狐だったのですか?

 だけどそれって、主にお父さんとお母さんのせいじゃないかな? 僕の事を否定しないもん。怒ったりはあった感じだけど、僕の主張や意見には、二つ返事でイエスだったよ。


 すると今度は、天狐様が僕から少し離れ、腕を組みながら言ってきます。


「それなら、白狐と黒狐とはどうする?」


「あの妖狐さん達は、良い妖怪さんだから。それに私、約束したから。だから、約束は守らないと」


 天狐様に会って、ちょっとずつ僕の中で何かが変わってきている。それは、初めて妖術を発動させて、自信が付いたからなのかな?

 ハッキリと言うのは変わらないけれど、それでも、ここで少しだけ考えが変わりました。


「あんな男か女か、どっちかよく分からんような奴等の、何処が良いのやら」


「へっ? どういう事?」


 天狐様のその言葉に、幼い僕は驚いています。

 初めて白狐さんと黒狐さんに会ったのだから、それを知らなくて当然でした。それを僕のお母さんが、ヒソヒソ声で教えてきます。


「白狐さん黒狐さんて……どっちにも、なれるの?」


「性別が固定されていない妖怪はね。妖狐は固定出来るけれど、白狐黒狐は特別なのよね」


 そのせいで僕も、白狐さん黒狐さんには良く悪戯されましたね。もう半年前の事だし、今は逆に僕が反撃するからね。


「という訳だ。何より私は、その白狐黒狐よりも位が上だからな。良い生活が出来るぞ!」


「それでもやだ!」


 やっぱり幼い僕は即答しました。

 それを聞いて、流石の天狐様も額に手を当て、顔を上に向けました。ショックを受けたのかな?


「そういう訳です、天狐様。いくらあなたといえど、無理強いは良くないのでは?」


「ふっ……確かにその通りだな、銀狐。しかし尚更、私はそいつが気に入った。中々に芯がある。流石はお前達の子という訳だ。良かろう。そいつが白狐黒狐と別れたら狙うとしよう」


 そして天狐様は、顔を元の位置に戻し、真っ直ぐにこちらを見ると、また幼い僕をジッと見つめてきています。全然諦めていないですね。


「どちらにせよ、お前達の子だ。天狐候補としても十分にあり得る。アレは授けようと思っていたのだ。さて、始めーー」


「お待ち下さい、天狐様。それは、先に手紙を送り、説明をしているはずです」


「ん? 手紙?」


 それから天狐様が立ち上がり、何かを始めようとした瞬間、僕のお父さんがそれを止めました。その後に八坂さんが、机の上の大量の手紙に目をやります。


 良く見たら、どれも封を開けていないのばかりですね。


「うむ……あ~うん。しかしだな、あまりにもその量が多くて、覚えていられないんだ。何だったかな?」


 嘘つかないで下さい。絶対に読んでいないですよね。


 僕のお父さんとお母さんも、体が震え始めています。


 これは……怒っている?


 天狐様の方が立場は上でも、生きた年月はお父さんお母さんの方が上だし、天狐様に怒ったりする事もあるのかな?


「良いですか? 椿は産まれた時から、神妖の力を授かっているのです。それも、かなり強力なやつです。今は私達の力で封じておりますが、もう一つ与えられるとなると、どんな暴走を起こすか分かりません。ですからその儀式、神妖の妖術を与える儀式は、椿にはしないで下さい。そして報告したとおり、その儀式のせいで、とんでもない者が生まれています。即刻中止の方もーー」


 僕のお父さんは何とか怒りを抑え、そう説明しました。

 お母さんも同じだけど、気のせいかな? 怒りのオーラが抑えられていないような気がするんですけど。


「ふむ……それなら尚更では無いか。今まで神妖の妖気を2つ持った者はいなかった。それは、この儀式が一生で1回しか行えないからだ。産まれながれに持つ者は、相当稀なのだ! もちろん失敗するリスクもあるが、2つの神妖の妖気を宿せるチャンスなのだぞ! リスクより、リターンの方がデカい! そいつは良い天狐候補になりそうだ!!」


 天狐様の、その力に固執した言葉に、幼い僕は本当に怖くなって、お父さんとお母さんの影に隠れちゃいました。だけど良く見たら、僕の足下に、何か糸の様な物が集まってきています。

 嫌な予感がするけれど、幼い僕も、僕のお父さんとお母さんも気付いていない。でも、これには何も感じ無いし、妖気を消されているのかな?


「ふざけないで下さい! それがどれだけ危険か分からないのですか! そんなに天狐候補に拘るなら、別の者にして下さい!」


「それに、どんな神が来るかも分からないのですよ! 椿にそんな危険な事はさせられませんわ!」


 やっぱり僕の両親は、とても良い親です。親バカでも、僕の為にと真剣に怒っています。例え位が高い妖狐でも、そんなのは関係無く怒っています。


 それに安心してか、幼い僕はしっかりとお父さんとお母さんにしがみついているーーのだけれど、この時に足下をもうちょっと確認した方が良かったかも知れません。


「きゃぁあ?!」


「「椿?!」」


 足下の糸が、幼い僕の足に絡み付き、そのまま釣り上げられてしまいました。そして、フワフワ浮きながら、天狐様の下まで連れられてしまっています。しかもその後、天狐様の尻尾の先にぶら下げられてしまいましたよ。この糸ってもしかして、天狐様の尻尾の毛だったの?!

 その前に天狐様を止めたいです。頭が下になっていて、下着が丸見えだから! 巫女服でもスカートタイプの物だったから、そんな風にされたら捲れるってば!


「うわぁあ! パパ、ママ~!」


「椿! おのれ天狐! 話を聞かぬか!」


「ふふ……くくくく。私の性格を知っているだろう? 強い者を生み出す事に、悦を感じるんだぞ? そんな程度で止まる訳が無かろう!」

 

 あぁ……天狐様がそんな性格だから、神の体を弾き、力だけを妖怪に与えるという、あんな危険な儀式を生み出したのですか。傲慢極まりないですね、この妖狐は……。


「天狐~!! あなた、いい加減にしなさい! そんな傲慢で勝手な性格だから、あなたの下には誰もついていないじゃないの! だから、天狐候補だって……!」


 僕のお母さんも、眉間にしわを寄せて激怒しています。もう我慢の限界だったのでしょう。お父さんと一緒になって、天狐様の下に向かい、幼い僕を助け出そうとしています。


「ふん。それで良いんだ。力を求める者は、孤高でなくてはならない。それに、力を求めずして、どうやって人を恐怖に陥れる? だから人々は、妖怪を忘れていっているのだろう? 日に日に妖怪達の力が弱まっているのが分からんのか?」


「それは分かるが……そうだからと言って、力というのは危険を犯してまで手に入れようとするものではない!」


「あなた! とにかく椿を取り返すわよ!」


 だけど、僕のお父さんお母さんがそう言った瞬間、天狐様は尻尾を動かし、そこにぶら下げていた幼い僕を、社の更に奥へと放り投げました。

 嫁にすると言っときながら、扱いが雑ですね。やっぱり、この妖狐の妻にだけはなりたくないです。


「「椿!!」」


 そんな両親の叫び声を聞きながら、幼い僕は社の奥にある、小さな部屋の床に落ちました。

 そこは、何本かのロウソクの明かりだけがあって、ユラユラと僕の姿を照らすけれど、同時に大量の鏡と、何体もの古い日本人形も照らしていました。


「ひっ!」


 そのあまりの怖さに、幼い僕は身が竦んでしまい、外のお父さんとお母さんに向かって叫ぼうとします。

 だけどその前に、古い日本人形が一斉に口を動かしてきたので、悲鳴しか出せていませんでした。


「きゃぁぁぁあ!!!!」


 でも、この鏡と日本人形の配置は、見た事があります。以前、クラスの皆と肝試しに入った、稲荷山の近くの廃屋。そこにあった鏡と、色んな種類の人形の置き方が、これと同じだったのです。


 幼い僕を囲むようにして数枚の鏡があり、その前には1体ずつ、古い日本人形が置いてある。


 これは……神妖の妖気を手にする為の儀式様式です。

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