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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾参章 記憶解放 ~封じられた過去~
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第参話 【2】 天狐様

 天狐様の姿を見る前に、あり得ない人物の登場の方で、僕は驚いています。だけどこれは、僕の記憶。

 子供の姿をした、八坂と呼ばれた人が現れた瞬間、僕の頭の中にも、その事が記憶として刻まれます。でもこの時の八坂さんは、子供の姿です。


 白い袴に、白い薄手の着物。この格好は……狐のお面を付けていて、僕の心の中にも出て来るあの子達と、全く同じ格好だよね。違うのは、お面を付けていない事。

 だけどその顔立ちは、旧校舎で見た青年の姿の八坂さんそっくりです。あれを幼くした感じですね。


 そして、今気が付いたのが、この時の八坂さんの目に陰があること。何か、良くない事を考えているような、そんな目です。

 だけど、幼い僕はそれには気が付かなかった。天狐様という方が気になっていたので、八坂さんの方はあんまり見ていませんでした。


「すまんな、八坂。案内してくれ」


「はい、こちらです」


 僕のお父さんが八坂さんにそう言うと、案内を命じました。それに素直に従う八坂さんは、僕達に背を向けて、境内の奥へと案内していきます。


 う~ん……八坂さんにしては物腰も柔らかいけれど、それはこの場所だからなのでしょうか? すると、その子はポツリとこう言ってきます。


「皆さん。天狐様には、気を付けて下さい」


「分かっている。今日の予定にも関わらず寝ていたのも、何かの準備をしていて、それで疲れて寝入ってしまわれたのだろう」


「そうですね。しかし流石は銀狐様。見抜いていましたか」


「当然だ」


 僕のお父さんにも「様」付け。この時の八坂さんは、それだけ従う立場を徹底しています。

 やっぱりこの子は八坂さんですね。旧校舎の時だって、あの神様に対して従う立場を徹底していましたから。


「そうなると、やはり“あれ”をする気よね。八坂、あの事は?」


「知っています。知っていて、それでも尚……」


「そう……良いわ、八坂。あなたでは、警告すら出来ないでしょうからね」


「申し訳ないです」


 そう言う八坂さんは、拳を強く握り締めていて、凄く悔しそうにしていました。余程、天狐様がやっている事が許せないのかな?

 それに八坂さんって、本来ここに居るはずじゃ無いですよね? 八坂神社の守り人だよね? 何でここに居るのでしょう。


 すると八坂さんは、強く握り締めた拳を解くと、次に幼い僕の方を見てきました。


「可愛い娘さんですね。って、これは……この娘は!?」


「あぁ、気付いたか? 流石だな。だが、この事はーー」


「えぇ、分かりました。天狐様もご存知で無いなら、この事は胸に秘めておきます。ですが、ようやく……なのですね?」


「そうなるかどうかは、この先次第だ。ただ俺達としては、椿にそんな事はさせたくは無いんだ。だが、お前の事を思うと……」


「いえ、大丈夫です。それはもう、天運に任せるしかないですから。それなら尚更、天狐様の行動は止めなくてはいけません。今日はその為に、面会をされるのですね」


「あぁ、椿の神妖の妖気の事も伝えないといけない。先に勝手な事をされる前にな」


 何の話やらサッパリです。

 でも確かに、こんな会話をしていました。何でしょう……僕にいったい、何が? 僕の力の事なのかな? お父さんとお母さんがさせたくない事って?


 幼い僕はおろか、今の僕ですらこの時の会話はサッパリです。


「パパ、ママ。私もお話したい~」


「はは、悪い。椿、今のは聞かなかった事にしてくれ」


「え~?!」


 僕のお父さんのその言葉に、幼い僕は頬を膨らませ、不機嫌さをアピールしています。


「悪いな。もう天狐様の所に着くのだ」


「さっ、椿。身だしなみは大丈夫かしら?」


 すると、お父さんがそう言った後、お母さんが僕の服の乱れや、髪の乱れをチェックしていきます。

 あっ、幼い時の僕の服装は、当然巫女さんっぽい服です。子供用の小さい物だから、子供にコスプレさせているみたいです。この頃から既に、僕はこういうのを着せられていたのですね。


「さっ、着きました。天狐様を呼びに行って来ますので、少々お待ち下さい」


 そして、ある大きなお社に辿り着いた後、八坂さんがそう言って、その社の中に入っていきました。


 ここは拝殿する場所かな……と思ったんだけれど、神棚が無いんですよ。

 形はそのまんまそれなんですけど、色々と道具が足りなくて、ただその建物だけがあって、正面は大きな垂れ幕がしてあるだけです。


 辺りは砂利で敷き詰められた地面で、その他にも小さな社が点在しているけれど、どちらかと言うと、お守りを売っている建物の大きさと同じで、その形も同じでした。

 だけど、そこにも何も無さそうなので、用途が分からない。と思っていたら、中でずんぐりとした体型の何かが寝ていました。


 何ですか? あれは……。


 幼い僕はそれにビックリして、お母さんに引っ付いています。そんな僕の頭を、お母さんは笑みを浮かべながら撫でてきます。

 尻尾振っちゃって嬉しそうですね、幼い僕は。本当に僕は、お父さんとお母さんが大好きだったんです。


 するとその後、その大きな社の垂れ幕の奥に、誰かの影が現れました。

 そして、大きな4本の尻尾を靡かせ、僕達の正面に座ります。


 いよいよ、天狐様が登場。というわけですか。


「椿、緊張しなくても大丈夫よ。私達が居るから」


「は、はい」


 幼い僕は緊張もしてしまっていて、お母さんの体に引っ付いたままです。流石にそれでは、年相応では無い様に見えるので、お母さんが僕を離してきます。こういう所は、しっかりと厳しくする親でしたね。


 そして遂に、垂れ幕が上がっていくーーのだけれど、そこに座っていたのは、4本の尻尾を付けた、等身大の狐のぬいぐるみだけでした。

 あれ? 人型に見えたのに、いつの間に獣に? それよりも、いつの間にぬいぐるみに?


「天狐様?」


「またお戯れですか?」


 流石に僕のお母さんも首を傾げ、お父さんがそう言って辺りを見渡すけれど、誰も居ないですよね?

 すると、幼い僕の後ろに急に妖狐が現れ、そしてーー


「バゥ!!!!」


「ぴゃぁっ??!!」


 あっ、思い出しました。確かこれで……。


「狼~!!」


「んっ? おぉっ?!」


 自分自身の妖術に目覚めて、それを発動しちゃったんです。

 そして、出現させたけん玉を手にして、思いっ切り後ろの妖狐目掛けて、けん玉の玉を投げつけたのでした。


「うごっ?!」


 しかもそれは、その妖狐の顔面にクリーンヒットして、そのまま転倒しちゃいました。


 確か僕は、犬じゃなくて狼が、特に大きな狼が苦手なのでした。もちろん、昔襲われたからなんですけどね。

 だからさっきみたいにして、重低音の犬の鳴き真似なんかをされちゃうと、それを狼と勘違いして、パニックになっちゃうのです。


「むっ……天狐様に言うのを忘れていたな」


「そうね。でも、これは天狐様が悪いわね。それよりも椿。あなた、今妖術を?!」


「おぉ、そうだ! 初めての妖術だ。びっくりして発動したとは言え、何とも椿らしい妖術だな」


 それはそれで恥ずかしいと思うけれど、この時の僕はただ、両親の喜ぶ顔を見るのが何よりも嬉しかったんです。

 お母さんに更にしがみついた幼い僕は、その言葉を聞き、ちょっとだけ緊張が解れた様です。少しだけ、笑顔を浮かべています。


 それよりも、天狐様は大丈夫なのでしょうか?


 4本の尻尾を持った男性の妖狐。毛並みはしっかりと整っていて、少し濃いめの茶色をしていますね。

 服は当然狩衣だけど、もっと神々しくなるようにする為なのか、色々と装飾が施されています。


 だけど今は、大の字になって伸びているから、神々しくも何とも無いですね。

 イタズラ好きの妖狐なのでしょうか? ある意味、1番妖狐らしいですよ。


「天狐様。いい加減、お起きになってはどうですか?」


 すると、大きな社の傍に立っていた八坂さんが、天狐様に向かってそう言ってきます。


「ふっ、はは。驚いて泣く姿を見ようと思ったら、まさか反撃されるとは思わなかったわ。見事見事」


 そう言った後、天狐様はむくりと起き上がり、胡座をかいて僕を見てきます。それはジッと、一切視線を逸らさずにです。だから、僕の中の天狐様の第一印象は『怖い妖狐』でした。


 やっぱり妖狐のトップだからか、その目は鋭く、荒々しい雰囲気を持っている天狐様には、恐怖が真っ先に芽生えます。髪だって荒々しいですからね。


 そして次の瞬間、天狐様は更にとんでもない事を言ってきました。


「その子が、金狐銀狐の娘、か……うむ、気に入った。そいつを我が嫁にする!」


「「なっ!?」」


 天狐様のこの言葉に、僕のお父さんお母さんも、そして幼い僕も、目を丸くしてしまいました。


 でもね、幼い僕はこれと同じ事をしているんですよ。あり得ないと思っていても、自分もそうだったのです。これはもう「他人の振り見て我が身を直せ」です。


 この時の僕は、自分と同じ事をしてきた天狐様にあり得ないと感じ、そして全く同じ事をしていた自分自身が、急に恥ずかしくなってしまったのです。

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