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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾参章 記憶解放 ~封じられた過去~
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第壱話 【2】 華陽と妲己の本当の姿

 それにしてもこのお札、本当に今にも消えちゃいそうです。これに触れるだけで良いのかな? あの鎖は取らなくても良いのかな?


 とにかく僕は、そっとそのお札に触れてみます。

 するとそのお札から、いきなり風景みたいなものが飛び出し、辺り一面に広がっていきます。というか、風景ですね、これは。いきなり目の前に、千本鳥居が出て来ましたよ。


 更にそこには、2体の妖狐に幼い頃の僕、それと髪の短い白狐さんが立っていました。

 これってもしかして、以前思い出した事がある記憶の続き?


「さぁ、覚悟しておいてね。この先は、君が思っている以上の事が起こるからね」


「そんなの、今更です」


 今の僕も、一応その場には居るけれど、これは僕の記憶。映像だけが再生されているみたいなものです。

 だけど今回は、まるでその場に居る様な臨場感があって、そして聞こえてくる声もハッキリと聞こえてきます。


「悪いが、2人の面会の話しがいっていても、天狐様はこれから、この子と面会をされる。もしどうしてもと言うのなら、その後にしてくれないか?」


 僕が気を引き締め、記憶の再生をしっかりと見ようとした時、若い白狐さんがそう言ってきました。

 その言葉に、2体の妖狐の内の1体が、幼い僕に近付いて行く。金髪ロングヘアーに垂れ目のこの妖狐は、多分華陽です。今とは雰囲気が違うけど、佇まいや動きは彼女ですね。


「ふ~ん。私達よりも、この子の方が重要って事なのね。私達が誰か、分かってる?」


「それは十分承知だ。その上での、天狐様の判断なのだろう」


 すると今度は、同じ金髪ロングヘアーのつり目の妖狐が、華陽に話しかけてきます。


「華陽、仕方ないわ。この子、少し他の妖狐とは違うから」


 こっちが妲己さんだ……何だろう、凄く久しぶりなこの声に、僕は勝手に涙が溢れて来ちゃいます。

 妲己さんはずっと、僕の中に居たんです。常に一緒で、一心同体だったんです。情だって湧きますよ。例え、悪い妖狐だったとしてもね。


「その間に私は、黒狐と初顔合わせをしてくるから」


「あらそう、分かったわ。あんたも大変ね。別の国に旦那がいるのに、勝手に新たに旦那を増やされてさ」


「うるさいわね、いつの話よ。もうとっくに死んでいるわよ」


「あら、ごめんなさい。未亡人さん」


 華陽の話し方、少し悪意がありませんか? 妲己さんが凄く睨んでいますよ。

 すると、先に行こうとする妲己さんを、また白狐さんが止めてきました。


「悪いが、黒狐も忙しい。天狐様に何か言われていたからな」


「何よ、それ。新たな旦那にも会えないなんて、それだけの厳戒態勢って事?」


「そういう事だ」


 そういえば若い頃の白狐さんって、今と違っていて、柔らかい雰囲気じゃないです。話し方もどちらかというと、今の黒狐さんに少し似ています。


「この子にそれだけのものがあるっていうの? 信じられないわね~」


 また華陽が幼い僕に近付いて来るけれど、その瞬間、幼い僕はあり得ない事を言いました。


「おばさん。悪い事を考えたら、めっ! だよ」


「おばっ……!?」


 本当に怖い物知らずなんですか?! この頃の僕は! なんて事を……。


 61年前とは言え、華陽と妲己さんは何百年も生きている大妖狐なんですよ。

 だからって、おばさん呼ばわりなんて……妲己さんがその後ろで、お腹を抱えて笑っていますよ。


「ちょ~っと、あなたの両親の顔が見たいわねぇ……紹介してくれる?」


「悪いおばさんの言う事は聞いちゃ駄目って、お父さんとお母さんに言われたもん。だから、嫌っ!」


「くっ……何回も何回もおばさんって……!」


 うん、怒ってる。華陽は怒っています。


 そして、僕と華陽のやり取りを見て、白狐さんも笑いを堪え、口元を手で押さえています。

 ただそれを見る度に、確かにそう言ったんだという記憶が、僕の中に蘇ってきます。


 そしてその後、白狐さんの後ろから声が聞こえてきます。


「待たせたな、椿。これから妖界の方に行きーーっと、お前達は……」


 そう言いながら、銀色の尻尾を靡かせ、耳を華陽の方に向けた妖狐が現れました。この妖狐は、銀狐の銀尾。僕のお父さんです。整った顔立ちを険しくさせて、華陽を睨みつけています。

 その後ろからは、綺麗な顔立ちをして、毛並みが整った金色の尻尾の金狐もいます。この妖狐は、僕のお母さんの金尾です。


 妖怪センターで見つけた、両親の手紙の事があったから、名前と顔立ち、その性格、雰囲気とか何もかもが、まるで絡まった糸が解れる様にして、次々と僕の頭に思い浮かんでいきます。


「あら? 華陽と妲己じゃない。また悪さでもするのかしら?」


 すると、僕のお父さんに続いて、お母さんがそう言ってきました。華陽と妲己さんは、僕の両親と顔見知りだったんだ。


 それと、今気がついたけれど、華陽は幼い僕とも面識があるんじゃないですか。何で初対面みたいに接していたのかな? この過去の事を、会った直後に僕に言ってしまえば良かったのに。何でそれをしなかったのかな? 僕にかかっている記憶封印が、それだけ強力だったのかな?

 例えば、直接記憶の事を教えようとしたら、直ぐに記憶が消えちゃうとか……? いや、考えていてもしょうが無いですね。今はとにかく、この封印された記憶を思い出すんです。


「あら、そんな事は無いわよ~もう私達は、良い妖狐になろうとしているからね~」


 僕のお母さんの問いかけに、華陽はふざけた感じで返しています。

 でも、ちょっと待って下さい。この前思い出したのは、華陽と妲己さんが何かを企んでいる様な、そんな会話を幼い僕が聞いた所までです。この頃から、僕は耳が良かったんですね。


 あっ、ちょっと待って下さい。この頃の僕の性格からして……もしかして。


「おばさん達! 嘘は駄目! パパ、ママ! 私、さっき聞いたよ! このおばさん達が、何か悪い事を考えている様なお話しをしていたの!」


 やっぱり言っちゃいました! すると突然華陽が、鬼の様な形相で幼い僕を睨みます。


「まぁ、そんな所だろうな。白狐」


「分かっている」


 そして、僕のお父さんが白狐さんにそう言うと、白狐さんは華陽と妲己さんに近付き、手を狐の影絵の形にしてきます。まさか……。


「妖異顕現、光陰縛糸(こういんばくし)!」


 すると、辺りを照らす日の光や色んな光が、華陽と妲己さんに向かって行き、そして糸の様に細くなって、あっという間に2人を縛り付けました。殆ど光の速さと同じだったので、避ける間もなかったようです。


「くっ! しまった……! 妲己!」


「分かっているわよ……妖異顕現、妖気喰らいの(あぎと)。食え」


 すると、今度は妲己さんが、かろうじて動かせた右手を動かし、影絵の狐の形にして、妖術を発動してきました。

 それは何かの顎だけみたいで、白狐さんの出した光の糸を、そうめんか何かを食べるみたいにして、勢いよくすすっていきます。まさか、妖術を食べているの? 妲己さんもそんな力を使えるんですね。


「吐け」


 そう思っていたけれど、ちょっと違いましたね。

 食べた光の糸を吐き出して、白狐さんと僕の両親に返してきました。だけど……。


「やれやれ。大人しくしていないと、前回以上に痛い目に合うぞ」


 僕のお父さんがそう言った瞬間、返された光の糸が一瞬で消えました。そして次の瞬間、華陽と妲己さんが叫び声を上げます。


「きゃぁぁあ?! ちょっと……! いつの間に影に?! 妲己、何とか……!」


「くっ……! 流石は金狐銀狐。一筋縄ではーーって、ちょっと! 止めなさい!」


「うふふ、ごめんなさいね。私達は、本当の姿を隠してやって来たあなた達を、最初から疑っていたわ。それに、悪い事をしに来ているのなら、もうお仕置きしておかないとね」


 なんと僕のお母さんが、華陽と妲己さんの影の中から上半身だけを出していて、2人の足首を掴んでいました。

 ちょっと待って……僕のお母さんは3人もいませんよ。それぞれの影から1人ずつ出て来ているから、お母さんは2人になっていて、しかもお父さんの横にもいます。これって分身?! それにしては、妖気の質も一緒ですよ。何これ……? しかも、お母さんは更に何かをしようとしています。


幻身(まぼろみ)、解!」


「くそっ、しまった!」


「止めて! もうここから離れるから、それだけは!!」


 すると、僕のお母さんがそう言った瞬間、華陽と妲己さんの姿がグニャグニャに崩れていき、そして縮んでいきます。


 どういう事? あの姿は幻の姿だったのですか? 何でわざわざそんな事を?

 2人の本当の姿は、僕の両親に知られているみたいだし、それで隠す必要なんてーーと思っていたら、ブカブカになった服に包まれた2人を見て、納得しちゃいました。


「くっ……! やっぱり、この2人相手にはキツいわね……」


 さっきまでは20代くらいだった華陽が、今は10代くらいの姿……いや、高校生くらいの姿になっていました。


 でも、妲己さんは更に縮んでいるような……。


「妲己~もう観念しなさいよ~」


「うるさい! 良いから、あんたはサッサとしなさいよ!」


 妲己さんの方は、もっと小さな姿になっていて、服で体を隠すようにしています。小学生くらいですね。

 華陽に指示を出しているけれど、顔が半年前の僕と同じくらいに、幼い様な気がします。

 更に、華陽はロングヘアーのままだけど、妲己さんはツインテールになっています。


 そっか。それが、2人の本当の姿なのですね

 華陽は正直、今と同じです。でも妲己さんが、本当は半年前の僕と、ほぼ同じくらいの歳の姿だったなんて、驚きです。


「あのねぇ、この姿じゃ体格差で捕まるわよ。だから妖術で体を作ったのに、簡単に解除されるなんてね。妲己、出直すわよ」


「くっ、仕方ないわねぇ……」


 そう言うと2人は、僕の両親を見てから、急いでその場を去って行きました。あれ、捕まえなくても良いのでしょうか?


「ふふ。あの2人の呪いは、まだ解けていない様ね。それなら、しばらくは放っておいても大丈夫ね」


「当然だ。天狐様の呪術だぞ。そう簡単には解けない。それに確かに、あの姿のままではあなた達には勝てないでしょう。とにかく今は、天狐様の元に急いで下さい」


 あれって、呪いだったのですか?

 僕のお母さんの言葉に、白狐さんがそう返してくるけれど、それでも白狐さんは、まださっきの2人を睨みつけています。


 そうですよね。このままで終わるはずはないですよね。だってそうじゃないと、僕の中に妲己さんの精神が居た理由が、全く分かりません。


 そうなると……この後に、また2人はやって来て、何か仕掛けて来るのでしょう。

 そして、そこで何かが起こり、妲己さんはその精神だけ僕の中に入った……もしくは、封印をされた?


 とにかく、まだまだ封じられていた記憶は続くはずです。気を引き締め直さないと。

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