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僕、妖狐になっちゃいました  作者: yukke
第拾弐章 華麗奔放 ~戦いの火蓋は華麗に~
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第拾漆話 【2】 手も足も出ない

「止まって下さい。それ以上の接触は、私が止めます」


 先ずは目の前にいる、この負なる者を止めないといけません。

 ですが、この者。邪気も何も無く、ただ命令された人みたいに、淡々と物事をこなしているという感じがするのです。


「おやおや。やはり止めるか。しかもその状態では、その扇子の能力も効かないね」


 当然ですよ。神妖の妖気を全身に巡らせていますからね。

 あなたのその扇子は、神妖の妖気を持っている者には効きにくいんですよね。


「だからと言って、それで勝負が決まる訳ではない。扇子(これ)無しでも、私は戦えますよ」


 そう言うと負なる者は、私の横を通り過ぎました。待って下さい、速いです。すると、次の瞬間ーー


「ぐっ……!」


 私の近くで空を割く様な音がし、その次にはもう、私の体が切り裂かれる様な感覚に陥り、同時に体が軋み、そのまま裂かれていきました。

 ですが、そんな強力な力は存在しません。これはーーやはり今のこの状態は、幻覚です!


「つっ……! あんまり舐めないで下さい! はぁ!!」


 私は振り返ると同時に、通り過ぎた負なる者に向かって斬りつけます。だけど……。


「なっ……?!」


「幻覚も、そう長くは持たないと考えていたよ。私の神術では、君の足止めにもならないね。だけど、それによる行動の予測は、私の方が上だったようだね」


 御剱で振り払う事も出来ず、この負な者に易々と、しかも片手で受け止められた?

 ありえません。この私が……浄化の力を持つ、この私が……。


「この……! 金華爆矢(きんかばくし)!」


 今度は、尻尾の毛を硬くして飛ばし、当たった先から爆発させていきます。

 これにも浄化の力が付いていますが、負なる者は平然としています。


「くっ……! 何故」


「おやおや。誰が扇子は1枚だ、と言いましたか?」


 そう言うと負なる者は、反対の手にもう1枚の扇子を持ち、それを見せてきました。

 そんな……まさか。同じ能力を持った扇子を、2枚も用意していたのですか?!


「さぁ、新たな力を手に入れる為、その者を殺して下さい。天津甕星様。もう本当に、私には不要なので」


「はっ……! しまっ……!? あぅっ!!」


 すると、さっきまで私の視界に居た邪なる者が、急にその姿を消し、次の瞬間には私の後ろに現れ、同時に激しい衝撃も受け、勢い良く前に吹き飛んでしまいました。


「あぐっ!! ぐぁっ!!」


 そして、1度地面で大きく跳ね、受け身が取りにくくなった瞬間、壁に激突してしまいました。


 何でこうも、体が上手く動かないのですか。もしかして、この頭痛が関係しているのですか?


「君のその意識は、相当我慢が効くようだが、体はか弱いあの子のもの。そしてその頭痛は、その子の記憶が蘇ろうとした時に起こるものだよ。強力な封印が解かれる時の反動かな?」


「はぁ、はぁ……くっ。ですが、私には関係の無い事です」


「直接は関係が無くても、その子に君の意識が移った時の記憶だからね。そりゃ多少は、君にも影響が及ぶだろう」


 確かに……徐々に頭痛が酷くなり、体が上手く動かせなくなっている。

 これでは、こいつらを滅する事が出来ない。どうなっているんですか? 私の体は。私のこの意識は、どうなってしまうのですか?


「ふむ。しかし、それにしても長いですね……まさか、彼女の封じられた記憶が、今完全に蘇ろうとしているのですか? そうなると、相当頭が痛んでいるはずです。それなのに、まだ立ちますか」


 当然です。私の存在意義は、ただ1つ。


「負なる者を、滅すべき者を滅する事が、私の存在する理由なのですから!」


 それでも負なる者は、不敵な笑みを浮かべてきます。余裕ですね。


「屈しないその態度は、まさに天津甕星そのものですね。ですが、神は2人も要りません」


「それは、そっくりそのまま返して上げますよ」


 そして、御剱を突きつける私に対して、負なる者は扇子を広げ、それを私に向けてくる。邪なる者は、隙あらば私を殺すつもりでいる。


 一瞬の隙、一瞬の油断。

 それがあれば、どちらかの首が飛ぶ。そんな空気の中で、私は頭痛を堪えながら、負なる者を睨みます。


 そして、ほんの一瞬のまばたきの後、私の目の前に、邪なる者がーー


「偽りの神、殺す……」


「くっ……!! させません! 金華神威斬!」


 邪なる者が腕を振り下ろす瞬間に、私は浄化の炎を纏わせた御剱を振り抜きます。

 それは私の方が速く、邪なる者の体を切り裂いた。だが、邪なる者は浄化の炎では燃えず、切り裂いた体も瞬時に戻っています。


「いったいどんな体をーーって、これで動揺はしませんよ! 負なる者!」


「おや、気付いていたのかい」


 邪なる者を先に攻撃させて、私の油断を誘うつもりだったのでしょうけれど、ちゃんとあなたも居るという事を、失念はしていませんでしたからね。


 そして私は、振り抜いた腕をそのまま外側に振り払い、私の横から攻撃してくる、負なる者に斬りつけました。

 その負なる者は、驚きながらも私の攻撃に反応してきます。


「甘いよ」


「甘いのはーーそちらです! 金華浄槍!」


 それでも私は、負なる者の行動にしっかりと気付いていましたよ。

 この負なる者は、私の攻撃を防ごうとして、扇子を前に向けて広げているけれど、私はそれを読んでいて、槍にした尻尾を少し下げ、負なる者の腹部目がけて突き出します。


「だから、甘いって言っているんだよ」


「なっ?! くっ……!」


 だけど、それすら止められてしまいました。また片手で……。

 いったい、どんな反射神経と瞬発力を持っているんですか? これで扇子の力を使っていないなんて。


「ぐっ……つぅ!」


 とにかく、掴まれた自分の尻尾を何とかしようとしたのですが、遂に私でも我慢が出来ない程の激しい頭痛に襲われてしまい、その場に膝を突いてしまいました。


「ふむ。最早戦闘は出来ない様だね。しかし参ったね。このタイミングでか……あぁ、なる程。これは少し、この先の計画を変更しないとね。天津甕星様、悪いですけどーー天津甕星様?」


 負なる者が思案顔でそう言った後、邪なる者を見たのですが、恐らく予想外だったのでしょう。屈服させるのが難しいと言われる神が、その足を止め、私を見ているんですから。


「なる程、そう言う事か。此奴の本来の力。その神の力は、かなり強大だな。そっちを奪う方が、遙かに良い」


 こいつ……流ちょうに話してきている。さっきまでとは違う。徐々に意識がハッキリとしてきているのか?

 だけど私の方は、この激しい頭痛によって、徐々に意識が遠のいていく。駄目だ……今、ここで倒さないと。こいつらを、このまま逃がしては……駄目だ。


 この世界がーー人間界が、更に妖界まで……滅びて、しまう。


「うっ……! ぐぅぅ……!! に、逃がしは……」


 そんな思いで、私は必死に手を伸ばし、邪なる者を掴もうとする。あわよくばそのまま掴み、直ぐに浄化の炎でーー


「あぅっ!!」


 だけど、邪なる者が掌を下に向けた瞬間、私は上からの衝撃波を浴び、そのまま地面に押し付けられてしまった。


 駄目だ。今のと頭痛で……もう、意識が……腕が、上がらない。拳が、強く握れない。


「天津甕星様。覚醒しつつありますか。しかし、まだです。この子の記憶が蘇るのなら、このまま泳がせておきましょう。それよりも私達は……」


 薄れゆく意識の中で、私は確かに見た。負なる者が、邪なる者に耳打ちをする所。

 そしてその瞬間だけ、無いはずの口が現れ、眼球の無い目は細くなり、そいつは笑みを浮かべていた。


「おぉ。そうか。良かろう……」


 そして、負なる者が扇子を上に上げると、何かの衝撃が放たれ、天井が破れて穴が空き、そいつ等はそこから去って行こうとしていた。


「それじゃあ椿君。しっかりと、自身の記憶を辿りたまえ。その後で、再び会おう」


 ここから去って行く間際に、負なる者がそう言い放ち、邪なる者と飛び立ってしまった。


 その直後、私は意識を失った。


 でも意識を失う直前、辺りの景色が教室みたいな部屋になり、扉が開く音と同時に、誰かの叫び声が聞こえてきた。


 ーー ーー ーー


 ふと気が付くと、僕は真っ白な空間に立っていました。 

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